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ベトナムで活躍する日系企業|
リーダーたちの構想第66回
Chidori Hospitality

ホーチミン市にZ世代の若者に人気のカフェがある。運営するのは当地で起業した日本人で、プライベートスペースの充実が大きな差別化を生んだ。事業をホテルやショッピングモールにも広げつつある齋藤壮社長が語る。

居場所を探す若者たち

―― ベトナム人の若者に、Chidoriはとても人気があると聞いています。

齋藤 カフェのみの利用はもちろん、半個室や個室が利用できることが大きな特徴です。半個室は室内に並んだ2段ベッド、個室は1人部屋で、プライベートスペースを確保しながら自分の時間を過ごせるようになっています。

 利用が一番多いのは半個室で、ドリンク2つのセットで2時間16万VNDのコースが人気です。2人で割れば1人8万VNDですから、スターバックスでコーヒー1杯買う値段で空間がタダでついてくるような価格設定です。次に利用が多いのが個室で、2ドリンクで4時間なら35万VNDです。

 スターバックスが世界中で第3の場所を提供していることは周知のことだと思います。しかし、Chidoriが証明したのは、新興都市の若者というセグメントにおいて、スターバックスでも満たせていなかった新たな「第3の場所」があったということです。先のようにChidoriでは1回2時間の利用が多く、1人当たりの単価もスターバックスと同等です。

 どのように過ごしているかを聞くと、仕事や勉強といった明確な目的はなく、「スマホ」という返事が最も多いです。2人で来店したとしても別のことをしている。友人の家のリビングでくつろいでいるイメージでしょうか。

 Chidoriは2018年12月に1号店をオープンして、現在はホーチミン市内に7店舗あります。

―― このビジネスを始めたきっかけを教えてください。

齋藤 ホーチミン市で仕事をしながらベトナム人と接するうち、若い人たちの居住環境の不十分さに驚かされました。同じベットを2人でシェアすることも珍しくなく、共同生活が当たり前の状況です。

 背景にあるのは、ホーチミン市における給与水準上昇を大きく上回るペースで高騰する不動産価格です。ホーチミン市のワンルームマンションの家賃が1人当たりGDPを上回っています。そのような社会課題ゆえ、ホーチミン市の若者には「第3の場所」へのニーズがあると感じました。

 カフェにしたのには理由があります。ベトナムではGDPに占める外食産業の割合が高かったり、毎週のように新しいカフェが開業して、そこら中で繁盛店が存在します。

 そのカフェに行く理由には「家に帰りたくない」が含まれていると推測しました。家にはプライベートスペースがないからです。居場所を求めている人がカフェ利用者の10%でもいるなら、その人たちへ解決策を提供しようと思いました。

―― 客層は圧倒的に若い方が多いようですね。

齋藤 高校生から社会人5年目くらいまでの方が中心で、まさに1人暮らしができない人たち、別の言い方をすれば1人暮らしの準備をしている人たちです。

 1年の利用者数は約40万人で、来店するほど特典が増える会員は約6万人です。後者をリピーターと考えていまして、多い人は毎週、ほぼ毎日来ている人もいます。ただ、そもそも家賃を節約している若者がターゲットですから、リーズナブルな価格は欠かせません。

 Chidoriでは、先進国水準のサービスをリーズナブル価格で提供するために、テクノロジーによる自動化に投資しています。例えば部屋割のシステムでして、顧客には事前に予約する方、来店して部屋を希望する方、時間を延長する方もいて、部屋の稼働はかなり流動的です。掃除をする時間も必要です。

 そこで、事情が変わるとそれに合わせた新しい部屋割をリアルタイムで更新し、空き時間を最適化するシステムを開発しました。当初は各店長が考えていたことが、アルゴリズムによって代替されました。

―― 御社では何人の方が働いているのですか?

齋藤 オフィスには約15人がおり、一番多いのはマーケティングの担当です。チャネルごとに対応を変えたSNSの配信、イベントの開催、店舗デコレーションの考案などをしており、新しい顧客への訴求や顧客を飽きさせない工夫をしています。

 店舗スタッフは1店舗当たり10人程度です。1日15時間営業の店舗を回すにはシフトを組むので、実際に働く人数は多くなりがちです。Chidoriではマルチタスク制をとっており、1人当たりの生産性を高めることが給与額を高めることにつながりますので、これを意識して経営しています。

次はホテルとショッピングモール

―― これからの計画を教えてください。

齋藤 DI(ドリームインキュベータ)さんが提唱されているフックと回収エンジンという考え方を参考にしております。つまり、価値提供重視の事業と収益重視の事業を別に作る手法です。

 Chidoriの圧倒的な強みは、将来お金持ちになるエネルギッシュなベトナム人若者層への他社にないリーチです。このような顧客層を、次の事業に送客し、集客面での強みを生み出すビジネスモデルを構築しようとしています。

 先のようにChidoriは「第3の場所」を提供するブランドであり、顧客にとってのその他の選択肢を増やしたいです。1つがホテルの運営です。一般的ホテルが「来る人」を対象としているのに対して、「いる人」が晴れ消費的に使う、Chidoriのスタイルを踏襲したホテルにします。

 もうひとつがショッピングモールの運営です。ホテルのオーナーを探して動く中で、ショッピングモールのオーナーと出会いました。Chidoriの経営者ではなく、「モダンジャパニーズのコンセプトを作れる人」として紹介されたためか話が進み、ショッピングモールの企画をゼロから依頼されました。

 日本ではあり得ない話です(笑)。ベトナムにはこうした余白のある市場がたくさんあり、埋めていけるのが何といっても醍醐味です。

―― ショッピングモールも第3の場所なのですね?

齋藤 この国には公園など公共の場所が少なく、大気汚染の問題も深刻で、ショッピングモールは室内環境を求めるベトナム人にとってなくてはならない第3の場所です。

 そのような文脈で、Chidoriは革新的な価値提供を行うコンセプト作りのプロとして期待され始めており、ユニークな成長機会への道筋が見えてきました。

 私たちは日系企業でありながら、ローカルの若者に関しては最も多くインサイトを持っており、それに、先進国でのリアルな生活体験があるからこそできるローカライズしたコンセプトを作っていきます。

 社会に対する責任が重くなってきているプレッシャーを感じる一方で、ワクワクが止まりません。これからもChidoriの成長を温かく見守っていただければ幸いです。

齋藤 壮 So Saito
大学卒業後、外資系大手金融会社のシンガポール支社に入社。その後現地のヘッジファンドに転職して企業調査に携わり、2017年にベトナムに赴任。2018年に退職して同年12月にChidori Hospitalityを設立し、「Chidori」を開業。