2022年にベトナムでの第2拠点として、ハナム省にガスの充填工場を完成させたエア・ウォーターベトナム。自動化された南北の工場を稼働させながら、将来は食品や医療分野への事業の多角化を視野に入れる。ハナム工場立上げに参加した藤本和之社長が語る。
容器から導管での供給も
―― ベトナム進出の経緯を教えてください。
藤本 エア・ウォーターは酸素、窒素、アルゴンや炭酸ガス、ヘリウムなどの産業ガスを様々な業種のお客様へ供給しています。今日ではガスを主軸として医療、食品、エネルギーなど多くの分野で事業を展開しています。
エア・ウォーターが海外に進出している理由は、日本国内と比べた市場の成長が見込まれるからで、米国やインドなどに拠点があります。ベトナムは東南アジアの中で人口増加、GDP成長も続けており、鉄鋼や電子など様々な業種や企業が進出しているのが特徴です。エア・ウォーターは日本の鉄鋼業界にガスを供給してきた実績があり、ベトナムは魅力的な市場なのです。
進出は2010年で、2014年4月にはエア・ウォーターグループにおける初の海外でのガス製造拠点として、バリアブンタウ省のフーミー工業団地に工場を竣工しました。
このフーミー工場で空気から酸素や窒素、アルゴンガスを製造する空気分離プラントを稼働させて、パイプライン並びにタンクローリーでの液化ガスの製造・販売を開始しました。翌年5月には容器へのガスの充填所を完成させて充填ガスの販売を始めました。
―― どのようにしてガスを供給しているのでしょう?
藤本 ガスの供給形態には、供給量に応じていくつか種類があります。まず、弊社の工場敷地やお客様の工場敷地内に設置した空気分離プラントで製造したガスを、導管を通じてお客様の工場などにパイピングするオンサイト供給です。
また、タンクローリーでお客様の敷地内に設置したタンクにガスを届けるタンクトラック供給、ガスや液化ガスを容器に充填して届ける容器供給もあります。容器はガスを充填するガスシリンダーや、より多くのガスを運搬できるポータブル液化ガス容器などがあり、溶接や切断の加工など様々なお客様にお使いいただいています。
ガスの種類は酸素、窒素、アルゴンなどで、多数のお客様に販売させていただいています。当初は日系企業が供給先の中心でしたが、次第に販路を拡大させて、ベトナムローカル企業のお客様が多くなってきています。
―― 競合他社との差別化はどう図っていますか?
藤本 ベトナムでは欧米系の産業ガスメーカーのシェアが高いです。弊社のシェアは5%程度と見ています。
エア・ウォーターはこれまで多様な業界にガスを供給してきており、効率改善などのノウハウを蓄積しています。ガスシリンダーを大量に消費されるお客様には、シリンダーよりも多くのガスが充填できるポータブル液化ガス容器への交換を提案します。
さらに大量に使用されるお客様には、お客様の工場敷地内でのタンク建設をお勧めし、そこに弊社からタンクローリーでガスを輸送します。タンクからの供給にすると容器を入れ替える必要がなく、工場全体での効率化も進められます。
弊社は工場でのガス設備の配管のサイズやレイアウトを含めた設計や建設などのエンジニアリング事業、またアフターサービスも含めた一連の業務を手掛けており、お客様のご要望に対し最適なご提案を行うことで、競合他社との差別化を図っています。
これまで、50社程度のお客様の敷地にタンクを設置させていただきました。設計からタンクを設置してガスを供給するまでおよそ3ヶ月ほどとなっています。
北部でもガス製造工場を
―― 2022年には北部にも工場を作っています。
藤本 2022年10月に、ハナム省でガス充填工場となるハナム工場を竣工しました。南部ではフーミー工場で製造したガスをホーチミン市周辺エリアに販売してきましたが、北部では、現地の協力会社からガスが充填された容器を仕入れて販売していました。その場合、サプライヤーの都合によって供給が制約されます。
そこで、サプライヤーへの依存を下げるため、まずガスの充填工場を作ろうと計画しました。私はこのハナム工場の立上げに参加していまして、設計にも携わり、赴任前も日本からリモートで建設に参画してきました。
ベトナムに来て最初の頃は現場でのコミュニケーションなどに苦労しましたが、予定通り10月に稼働を開始し、11月からはヘリウムの充填もできるようになりました。
北部ではチャイナプラスワンの動きもあり、日本以外にも中国、台湾、韓国など多数の企業が進出を加速させています。従来の酸素、窒素、アルゴンや炭酸ガスの供給先に加え、半導体などのエレクトロニクス産業や自動車産業もターゲットにしており、ヘリウムも充填できる最新鋭の設備を導入しています。
ヘリウムは生産できる地域が限られており、ベトナムでは全量が輸入です。エア・ウォーターグループは日本でも同様の業界にヘリウムガスを供給しており、調達ルートを確立していますので、その調達力を活かしてベトナムでのヘリウムガス供給を行っています。
―― 新工場に特徴はあるのでしょうか?
藤本 日本やフーミー工場で培ってきた日本の自動運転のノウハウを活用し、設備を監視する人数を最小限に抑えられるプラントにしています。また、充填作業では容器の移動など力仕事が多く、従来は男性メインの職場でしたが、可能な限り容器はフォークリフトで移動できるように設計するなど省力化を図り、ハナム工場では弊社で初めて女性の充填作業員を採用しました。
その結果、従来の充填工場の半分以下の人数で工場を操業できるようになりました。現在、ハナム、フーミー両工場にホーチミン市とハノイの営業所を合わせて、弊社の従業員は70人ほどです。
自動化のメリットは上昇する人件費を抑えるだけでなく、人手の介入が少なくなって作業が確実になり、安全・安定に操業できることも大きいです。
北部でも南部と同様にベトナム企業のお客様が多くなっています。外資系企業も大手や中小を問わず進出が続くと思いますし、製造業であれば多かれ少なかれガスを使う企業が多いので、ベトナムのガス市場は今後も伸びると確信しています
―― 今後の事業をどう考えていますか?
藤本 今後、北部での販売量を増やしていき、空気分離プラントを建設することで、ベトナム南北でのガスの製造体制を作り、ベトナムでのガスの安定供給を図りたいと考えています。
また、親会社のように事業の多角化を図り、食品や医療の分野にも進出していきたいと考えています。食品関連では生鮮食品、冷凍食品、冷菓などの保存用として使うドライアイスの発生装置があります。
ベトナムでは大型ショッピングセンターが次々と開店しており、自動車を使う買物客も増えてきました。従来のように食品を氷で保存しては座席が濡れてしまいます。そこで自宅までの保存用にドライアイスを使ってもらうのです。昨年スーパーマーケットに提案しまして、納入していただけました。
医療関連では画像診断装置のMRIです。MRIの超伝導体コイルを冷却するために液体ヘリウムが必要なのですが、ハナム工場で充填できます。現在のニーズは少なくても将来は有望な分野です。
今後も様々な方法で事業拡大に努めたいと思っています。