戦略なしから世界展開へ
―― ベトナム進出の背景を教えてください。
平櫛 株式会社AABとして24歳で代表取締役に就任し、ずっと現場を駆け回ってきました。20年ほど前、日本での仕事に少し飽きていたんですね。そこでふらっとベトナムに遊びに来て、この国は面白いと思ったのがきっかけです。
2006年にホーチミン市に駐在員事務所を設立しました。けれど、何の戦略もなかったです(笑)。とりあえず事務所を借りて、留守番に当時学生だったベトナム人を1人雇い、手探りで市場開拓をしました。その留守番係の子が、今のAAB VIETNAMのベトナム人代表です。
旅行を兼ねてベトナムを北から南まで巡ると、各地でイベントの会場となる体育館などの社長と知り合いました。今思うと地方の役人だったのでしょうが、彼らが口々に「日系か。俺は何でもできるから、困ったことがあれば相談に乗るよ」などと笑顔で言うのです。
こうして色々な人から話を聞くようになって、ネットワークができてきました。イベント会社は会場、音響、照明、人材から警備、清掃、弁当に至るまで幅広く発注しますから、現地の人のつながりがとても重要なんです。
設立当初、お客様で赴任されたばかりの日本人担当者の方は、ローカル企業が企画したイベントに満足していませんでした。例えば、若者向けの商品だからと意味もなくダンスを入れる。一見正しそうですが、そのダンス(?)は本当に必要なのかと私なら考えます。
イベントには商品PRや企業の知名度アップなど1つ1つに目的があり、イベントとは「それら目的を実現するための行催事」ですから、目的を達成するための手法を考え尽くすことが大事です。千差万別のようで、実は答は少ないのです。
このようなスタンスを頑固に日系企業さんに伝え続け、仕事をいただけるようになりました。社員も1人、2人から数十人と増え、初期メンバーが今は40代となり、日本式の会社の中核に育っています。

AABグループ全体の活動とは?
―― AABグループ全体はどんな仕事をしていますか?
平櫛 ベトナム以外にフィリピン、マレーシア、インドネシア、EU(フランス)に海外拠点があり、主な仕事は現地での日本のプロモーションです。
日本の産品、文化、観光資源などを海外にアピールするイベント、展示会、Web、SNS、動画、メディア展開など、様々な案件を東京と大阪にあるAABが政府機関、自治体、業界団体などから受注して、各国に発注しています。
AABグループは各国に半分現地人化した日本人スタッフがおり、文化や商習慣も熟知しています。リアルな現地情報を日本に伝え、的確にその国に伝わる手法を立案し、現地価格で対応します。

ベトナム法人の特徴とこだわり
―― その中でベトナム法人の特徴とは何でしょうか?
平櫛 AAB VIETNAMは最初の海外進出拠点で、他国の拠点に比べて歴史や実績も違うことから、売上が大きいです。また、日本からの受注より当地の日系企業の仕事が圧倒的に多く、開所式、周年事業、新商品発表会、展示会出展、エンターテイメント企画など様々なプロモーション業務が中心です。
加えて、社内に営業セクションはなくて一切営業はしないのと、コンペにはほとんど参加しません。前述のように案件ごとに目的もコンセプトも考え方も異なるため、案件1つずつご相談しながら、一緒に創っていきたいのです。そのため、コンペの企画提案はせず、弊社の実績をご紹介してご納得いただき、コンペでない形での受注、企画計画から共同推進をお願いしています。
個社以外の仕事では、昨年は日越外交関係樹立50周年記念イベントでの「50周年ロゴ」、「イルミネーションパーク」、「日越友好ソング Tomodachi – Tinh ban」など、今年はベトナムで有名なイベント「Japan Vietnam Festival」(JVF)を担当しました。

日越交流のビッグフェス!
―― JVFは毎年取材に行っています。
平櫛 ここはベトナムですからあくまでもベトナム人を対象に、「彼らの好きな日本の魅力をしっかり伝える」に注力しています。
例えば今年のステージに登場した日本の方々に、日本人に超人気の有名タレントなどはいません。ベトナム人が盛り上がる演出、知名度の有無に関わらず観て楽しめるように、パリ五輪のブレイキン女子日本代表、ギネス記録になった小学生のDJ、海外を中心に人気のあるアイドルユニットに依頼しました。
一方、ベトナム人のアーティストは著名な歌手を呼んでいます。日本式に仕事を推進するAABのスタイルを好むアーティストも多く、彼らのコンサートやファンミーティングも日系企業ながらサポートしているので、このネットワークから特別に出演依頼できる場合があります。
JVFは2日間のお祭りだけでなく、出展企業さんなら開催までにテストマーケティングや事前説明会、開催前後にはB to Bの要素も多く含まれる商談会など関連イベントも多くあります。フードエリアの現地の飲食店さんには、お手頃価格で新メニューをアピールする場などとして使っていただくこともご提案しています。
また、今年第10回のJVFは特別テーマとして「子ども-地球-未来会議」を掲げました。「書道パフォーマンス甲子園」出場高校の生徒が来越してベトナムの高校生と書道交流をするなど、日越交流の機会を持ちました。
昨年11月には日本武道代表団が来越し、今回のJVFでも日本相撲連盟の選抜選手が相撲を披露するなどの結果、ベトナムは国際相撲連盟に加盟手続きを進めています。
各出展者、子どもたち、相撲連盟も、JVFが起点となって交流が始まりました。公園でのフェスティバルもそうですが、JVFは日越交流のきっかけとなる場を多く提供したいのです。「楽しかった」で終わりではなく、次のステップにつなげることが目的です。
日本での開催「JVF JAPAN 2025」
―― JVFは来年も開催されますね?
平櫛 2026年は3月7~8日に決定しました。会場は同じ9月23日公園です。10回目が終わったばかりですが既に来年の準備が始まっていて、やはり1年がかりのイベントになります。
今年は新しいことを始める予定でして、11月1~2日に東京で日本版JVFを開催します。「JVF JAPAN 2025」(JVF Ho Chi Minh City Festival in JAPAN 2025)というイベントです。
場所は有楽町の東京国際フォーラムで、来場者10万人を見込んでいます。イベント名にあるように主催はJVF JAPAN 実行委員会とホーチミン市人民委員会で、官民一体となって交流の強化を推進します。
日本ではベトナム関連のフェスティバルが増えてきましたが、来場するのは在日ベトナム人の方が多い印象です。我々の目的はJVFの逆で、日本の方々にベトナムの魅力、ホーチミン市の魅力を伝えることです。
食、文化、音楽を体験できるだけでなく、ホーチミン市を学ぶセミナーや日越企業の商談の場なども設ける予定です。お時間があれば、読者の皆さんもぜひご来場ください。

プロフィール
平櫛開三 Kaizo Hiragushi
フリーでイベント会社を設立後、1989年に株式会社AABの代表取締役に就任。2008年に現地法人AAB VIETNAMを設立。現在は日本を含めた世界拠点のグループCEOとAAB VIETNAMの代表を兼務する。
取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。
過去のリーダーたちの構想
リーダーたちの構想 第80回|AGRIEX
リーダーたちの構想 第79回|ベトナムくん
リーダーたちの構想 第78回|Consulate General of Japan in HCMC