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ベトナムで活躍する日系企業|リーダーたちの構想 第85回|NPO法人Seed to Table

NPO法人Seed to Tableの伊能まゆ代表

1997年からベトナムの農村に携わり、現在はNPO法人の代表を務める伊能まゆ氏。貧困世帯の支援や有機農業の拡大など苦労の中でも笑顔は絶やさない。大切なのは地域に根付いた持続的な支援と語る。

ベンチェ省でのアヒル銀行

伊能 務めていたJVCベトナム事務所が2009年3月に活動を終了することになり、私はもう少し続けたかったので、動きやすい形を作りました。活動内容は主に農村の貧困世帯や小規模農家の生活の安定です。

 農村の支援のためにはまず自然が守られないといけない。そのうえで、いかにお金を得ていくかを地域で考えます。ただ、良い制度でも人が運用するものなので、長期での協力関係を作って維持・拡大させていきます。

 世界的な傾向ですが、ベトナムの生態系も壊れつつあります。農薬や化学肥料の使用が土壌や水質を汚染し、森林伐採や水産資源の枯渇も深刻化しています。農村では高齢化が進み、若手の後継者が減りつつあります。

 2010年以降は土地の開発が進んで、農地が減ってきました。特に北部は農家が持つ土地が小さいので、高く売れるならと売却する人が増えました。昔は日本の農家さんと同じで、「先祖から受け継いだ土地を粗末にできない」と考える人が多かったのですが。

 もちろん、ベトナムの農民は勤勉でまじめで、水管理や稲作に関する知識が深く、農業への誇りも持っています。ただ、コミュニティの減少や技術継承の途絶など課題も多く、私たちの支援の出番があると感じています。

マンゴーアイス

伊能 設立1年目から幸運にもある財団さんに支援していただき、JVC時代にご縁があったベンチェ省で、水田に合鴨を放して雑草や害虫を食べさせる合鴨農法を普及させようと思いました。ただ、水田を持つ農家さんが比較的裕福なので、土地を持たない40世帯の貧困層を対象に、一軒一軒2~3時間をかけて話を聞きました。

 そこで考えたのが「アヒル銀行」です。これは、現金の代わりにアヒルのひなを貸し出し、育てて販売し、得た収益の一部でひな代を返すという仕組みです。

 お金ではなく動物を活用して生計を向上させる方が参加しやすいと感じましたし、借金のある人は返済に当ててしまう危惧があり、借金自体に抵抗感を持つ人もいました。

 借り手は「村づくり委員会」を通じて申し込み、飼育環境や労力を確認した後、事前に研修を受けてもらいます。研修内容は飼育方法や帳簿の付け方などで、各集落の集落長やベンチェ省の農業普及センターなどと一緒にサポートしていきます。

 Seed to Tableを設立した2009~2010年に調査をして、同時に次の助成金申請の準備をしました。助成金を得るには1年前の申請が一般的だからです。2年目の助成金も運良く得られて、最初の取組み終わる頃に3年の実績ができました。

 NPOでは3年の活動が一つの実績になるので、その後に外務省の「日本NGO連携無償資金協力」に申請して助成金を得られました。

農村部の住民
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伊能 はい。珍しくないです(笑)。最初をパイロット事業とすれば203世帯が参加し、63%が貧困を脱しました。貸出しは1世帯25羽、育成から販売まで3~4ヶ月を1サイクルとし、これを年に3~4回繰り返します。

 販売の収益は1回1万円ほどですが確実な収入源にとなり、日雇い労働などで得た収入と組み合わせて生活を立て直せます。参加者にとって現実的なプランで、1年程度で貧困から脱出する人が多いです。

 そして先の外務省の助成金で活動を継続し、外務省の事業は一般的に3年なので、3年間で1000世帯以上にアヒル銀行を広げました。その後も民間の助成金で2018年まで続けました。

 この仕組みは地域に根付き、貧困問題を管轄するベンチェ省の旧労働・傷病・社会局がこのモデルを取り入れて、ベンチェ省全体で貧困世帯を支援することになりました。その後も農業普及センターと村づくり委員会が貧困世帯への支援を続けています。

学校菜園に集まった学生

ドンタップ省での有機栽培

伊能 ベンチェ省ではアヒル銀行と並行して、2013年から有機農業、2017年から学校菜園をサポートしていました。減りつつある農家を増やすために、子供たちに農業の楽しさを体験できる場を設け、将来は農業に関心を持ったり、学んだり、農家になる人を育てたいと思いました。

 最初はトレーナーの養成で、パートナーである農業普及センターを対象にベトナム人のコーチが教えます。センターの方々には基礎知識があり、農業大学などで学んだ専門知識もあって、研修期間は1週間程度です。

 学んだ彼らが農家や学生たちに有機農業を教えて、疑問があれば皆で調べたり、時には日本から農家さんを講師として招待し、知識や経験を増やしていきました。

 この内容を知ったドンタップ省から声がかかり、同地で有機農業と学校菜園の支援を2019年から始めました。ドンタップ省は酸性土壌のため土作りに苦労しましたが、ここでも農業普及センターと協力し、教育機関では3年間の専門学校である「コミュニティ高等専門学校」と連携できたことが推進力になりました。

 校長や教師の方から、学生と一緒に有機農業を始めて、販売までしたいとの相談がありました。同校は地域のための専門学校で、農業以外にも機械、食品加工、ビジネスなどを教えており、職業訓練校を兼ねているので高校卒業者と共に中学卒業者も学んでいます。

 現在は有機農家さんと一緒に学校菜園も続けて、収穫した野菜やフルーツ、マンゴーアイスやドライマンゴーなどの加工品を、ドンタップ省だけでなくホーチミン市の朝市でも販売しています。売り切れることもあって、とても評判なんですよ。

学校菜園で収穫した野菜の朝市

伊能 ドンタップ省での活動も日本NGO連携無償資金協力の支援を受けていまして、2019~2022年の3年間は主に有機農業のグループ作り、有機農業と加工の技術を教えました。2022~2025年の3年間は2回目で、有機農業や食品加工を担える人材の育成に注力しています。

 有機農家さんは育っていますし、起業したいという若い方もいます。将来は農業普及センターや高等専門学校の卒業生たちが、有機農業で農村を支えるのが一番良いと思います。農業生産や食品加工が活性化すれば、商品開発や日本への輸出を考える人もいるでしょう。そうなればまた私たちの出番もあると思います。

 私は2期目の3年間が終了したら、日本に帰るつもりでした。涙あり笑いありで苦労もありましたが、その都度やりたいことはやり切ってきたつもりなので、悔いはありません。ただ、今度はティエンザン省からの依頼が来ていまして……いつになったら、日本に戻れるのやら……。

NPO法人Seed to Table
伊能まゆ Mayu Inou
大学卒業後にベトナムに留学。帰国して大学院博士前期課程修了後、2003年4月に日本国際ボランティアセンター(JVC)ベトナム事務所に入所。2009年に任意団体Seed to Tableを設立、2010年に東京都からNPO法人の認証を得る。

執筆者紹介

取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。