日系メガネチェーン店の第1号
モール戦略で50店舗へ加速
北海道を中心にチェーン展開する「メガネのプリンス」の海外1号店が、2015年にハノイに出店した。日系メガネチェーン店のベトナム初上陸から10年、事業の変遷とメガネ市場について長浜社長が語る。
格安フランチャイズが台頭
―― ベトナム進出の経緯を教えてください。
長浜 日本では「メガネのプリンス」というチェーン店を北海道で56店舗、沖縄で2店舗、合計58店舗を運営しています(取材時:以下同)。ファッション系のフレームを得意とし、パーソナルカラー診断やAI診断で似合うフレームをご提案する専任スタッフが各店におります。
お客様は30代からシニア世代が中心で、低価格帯から高価格帯、ブランド商品も揃えていますし、レンズはHOYAやSEIKOなどの高品質が自慢です。
海外進出はオーナーである村田の「海外にチャレンジしたい」が一番の原動力です。ベトナムを選んだ理由は1億人の人口、経済発展、中国リスクなどありますが、お世話になっているイオン北海道さんのご紹介が決め手となりました。まずは出店してみるという気持ちが強く、実は事前調査もさほどしませんでした。
まずは採用した3人のベトナム人を日本で約3ヶ月研修しました。基本的な接客や感謝の気持ちなどから始めて、弊社の理念を教え、メガネの勉強をしてもらいました。その後、私ともう一人の日本人を併せた合計5人で2015年1月にハノイに行き、住居探しから始めて、現地法人を設立しました。
現地のスタッフを採用して、レンズ加工機などの装置を導入し、7月からトレーニングを続けました。そして10月25日、念願の「MEGANE PRINCE」1号店をハノイのAEON MALL Long Bienにオープンしました。
言葉にすると簡単ですが、ムラタにとって初の海外進出であり、皆でかなり苦労しました(笑)。

―― フレームやレンズはどこから仕入れていますか?
長浜 フレームもレンズも、日本の店舗で販売している商品を輸入しています。そのため原価は高くなりますが、利益率を下げて値段を据え置き、日本と同等の価格としています。
商品だけでなくサービスも日本品質です。視力測定、フィッティング(顔に合わせた調整)、アフターサービスなどですが、ベトナムではフィッティングが一般的でなく、メガネが下がったり、痛みが出ても我慢して使っている方が珍しくなかったです。
また、快適なメガネを掛けていただきたいものの、スタッフにフィッティングを教えるのも一苦労でした。その後、「メガネは調整して掛けやすくなる」が浸透した結果、多くのお客様から大変喜ばれております。
開店して驚いたのは価格への反応です。日本円で6000~7000円の商品が主流になるだろうとの予想に反して、売れたのは1万5000~6000円の商品でした。日系ショッピングモールの日系メガネ店なので、品物に間違いないと思っていただけたのでしょう。
開店1年後くらいからは、ベトナム人が好みそうな派手なデザインのサングラスやフチなしフレームなどを、当地で仕入れ始めました。ただ、ベトナム製ではなく、韓国やヨーロッパのブランドを代理店から購入しています。

―― ベトナムのメガネ店について教えてください。
長浜 進出当時は個人のメガネ店が多くて、チェーン店は数社程度。ただ、大手チェーン店でもハノイなど地域限定で運営は4~5店舗、個人店へも商品を卸すような業態でした。
最近は若者向けの低価格店がとても増えました。目立つのはフランチャイズ形式の3社で、この3年で合計100店舗以上になったでしょうか。大学の近くや若い人が集まる地域の路面店が多く、価格はおよそ10万~100万VNDと割安で、プロモーションやギフトなどで集客しています。
こうしたフランチャイズに個人店が続々と加盟しています。個人店は赤い看板が多いのですが、若者向けフランチャイズはどれも白い看板で、赤から白への変化がわかります。
レンズは一部で韓国製なども使っており、昔の個人店よりはグレードが上がっているようです。ただ、フレームはお洒落でも強度が弱いと感じました。それでも、高校生や大学生向けにはさほど問題ないのでしょう。
日系企業は弊社のようなメガネチェーン店が数社参入しており、非日系ではマレーシアのチェーン店が数年前までありました。5店舗くらいまで伸びましたが撤退したようです。韓国系は数ヶ所あるものの拡大していない印象で、他にはインド系やインドネシア系の話を聞きますが、進出はまだのようです。

ベトナムナンバーワンを目指す
―― 御社は主にショッピングモールに出店しています。
長浜 はい。外資100%のライセンスなので路面店が難しいのと、モールはお客様が見込めるからです。2016年7月にホーチミン市のAEON MALL Binh Tanに2号店、その後は都市部の著名なショッピングモールにほとんど出店し、現在は21店舗になりました。
出店計画は約2年先まで決めていまして、テナントの空き状況は各モールに定期的に確認しています。イオンモールさんは今後も全店に出店させていただきたいと考えています。
開店の一方で残念ながら閉店もあります。今まで5店舗程度でしょうか。日本では2~3年様子を見ますが、ベトナムは経験則から、「行ける」、「様子見」、「難しい」などと早めに判断しています。
日本も同じですが、ショッピングモールのテナントが食品中心かブランド中心かで客層も売上も異なりますし、どんなブランドが集まるかでも違ってきます。閉店後すぐ近くのモールで開店して人気店となるなども多く、まだまだ蓋を開けないとわからないことが多いです。
―― 今後の計画や目標について教えてください。
長浜 店舗数と売上で、ベトナムのナンバーワンメガネチェーン店になるのが目標です。当面は2030年までに50店舗に増やす計画で、今年はこれから3店舗、来年は4店舗の出店が既に決定しており、達成できると思います。
ベトナムのメガネ市場は、若者向け格安店は増えるでしょうし、日系を含めて競争はまだまだ激しくなると思われます。今後は視力矯正という本来の機能だけでなく、技術面や付加価値が問われてくると思いますし、最初にご紹介したパ-ソナルカラー診断やAI診断なども増えるでしょう。
弊社の課題は、特に新店舗でのスタッフの技術力と販売力の向上です。スタッフは約120人おり、彼らのレベルアップが売上増につながるため、日本のメガネ業界では3年のトレーニング期間を1年としています。
支えているのが定着率の高さです。10年程度の勤務者が20人ほどおり、経験3年以上のスタッフも増えています。これは日本人店長などが食事会などでスタッフと積極的に接し、仕事はきちんと対応するという、メリハリのあるコミュニケーションを心掛けているからだと思います。
児童養護施設に視力検査とメガネを無料で提供する活動を続けています。これまで100人以上の子どもにメガネを贈呈しており、スタッフがボランティアで協力してくれています。そんな仲間と一緒にMEGANE PRINCEを広げていきます。

取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。