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特集記事Vol167
日本人建築家が造る
ベトナムの景観

都市開発が続くベトナムでは近年、建築やランドスケープのデザインが注目され、海外の建築家やベトナム人若手建築家の活躍の場が広がる。注目したいのが日本人建築家の作品だ。彼らの熱意と工夫を広く読者に伝えたい。

建物の周囲を化粧する仕事
会長経由で大型案件を受注

「私が設計するランドスケープとは主に公園、街路、広場、緑地、サイン、モニュメントなどで、建築の設計者とキャッチボールしながらその建物が綺麗に見えるように、周りを化粧していくみたいな仕事です。どうしたら建築が美しく見えるかを考えています」

 西武造園時代は首都圏を中心にプリンスホテルなどのホテル、大江戸温泉物語などの温泉施設、池袋西口商店街などの街並、国立成育医療研究センターなどの医療機関と様々なランドスケープデザインを担当した。

 「当時も今も珍しい仕事」という設計営業職を経験し、現場監督、営業、企画運営、技術開発、マネジメント業務などにも携わった。西武グループの物件の他、民間元請けの仕事を主に手掛けた。

 独立を考えて、共に働く若手人材を海外に求めた。日本との距離、時差、東側に位置する大海、大河の恵み、東南アジアの中心、箸文化、アルファベット文字、親日を基準にベトナムを選び、2017年6月に初訪問。その後、退職前だったがホーチミン市に事務所を借りた。自ら退路を断つためだ。

 日越を往復する中でベトナム人の設計者を1人採用。彼の紹介で「ランドスケープ連盟」のような集まりに行くと、ランドスケープアーキテクト(LA)、建築設計者、建材業者などの集団がおり、交流が始まった。

「住宅開発大手のNam Longの会長を退職直前に紹介していただき、『我社に足りないのはランドスケープデザイン。ぜひ手伝ってほしい』と言われました」

 リップサービスと思っていたら2018年5月にダイレクターからメールが届く。出向くとロンアン省の大規模分譲住宅「Waterpoint」の相談だった。広さは何と355ha。東京ディズニーランドの敷地面積は51haなので約7倍で、最終的には5万人規模が住むという。

 6ヶ月間で全てのランドスケープを見直したいと依頼された。会社は33年勤務の後に退職して、日本で既に設計事務所を設立していた。

「全く採算は合いませんでした(笑)。ですが、ベトナムで第1歩を踏み出したかったし、社員1人で身軽な身分。自分で何百枚か何千枚かの図面を描けば何とかなるとスタートしました」

舟がモチーフのモニュメント
生垣が特徴のモデルハウス

 Waterpointは現在2~3割が完成しており、高橋氏は緑地の形状、樹木や植物の選択、街路樹や歩道の配置など全体的なランドスケープデザインを任され、個別の物件も設計している。例えば入口近くのモニュメントだ。場所がメコン川の支流に近く、生活が舟と密着した土地柄を考えて、巨大な舟をモチーフとして下部には何本もの櫂(かい)を配置した。

「実績ができると信用がアップしたようで、モデルハウス(展示用住宅)の設計を頼まれました。建物を除いたその周囲の設計ですね」

 会長からは建物の外観など色の相談を良く受けるそうで、ベトナムではあまりない茶色の屋根とベージュの壁を提案。元建築設計者の会長は「私もそう思っていた」と笑顔で語ったそうだ。表札、ポスト、ごみを出し入れする戸口などに加えて、強く説得したのがベトナムにない生け垣だ。

「ベトナムでは住宅が並んだ時に同じ壁が続きますが、これでは変化がない。高さ1m20㎝くらいの生垣があれば緑で高級感が高まり、街並みも美しくなる。部屋から生垣越しに見える風景にも風情が出ます」

 住宅展示場の裏側には池や橋のある緑地を作った。日本庭園の良さを取り入れたベトナム風庭園で、日本とは植物などが異なっている。生垣を巡らせるのはNam Longの住宅の一つの特徴になりつつあるという。

 このほかにも住民が集うスポーツ施設を含めたクラブハウス、川沿いの船着き場であるマリーナ施設、子供の遊び場など様々なランドスケープを設計。間もなく着工するのが日越友好会館で、両隣の日本庭園とベトナム庭園と共に建物の設計も受注した。

 この間、Nam Longから現地法人の設立を求められ、2019年10月にLASCAL Vietnamを立ち上げている。

支える若手は全員20代
これまで1000haを手掛ける

 Nam Longはホーチミン市の「Mizuki Park」も依頼。こちらも28haの大規模住宅開発で、阪急不動産と西日本鉄道も参加している。建物以外の公共の部分の全て、道路、歩道、、横断歩道、街路樹、バス停などのストリートスケープ、日本庭園の設計も担当した。

 ベトナムでは日本以上にLAの地位が高く、、積極的に発言することも、意見を聞かれることも多い。設計だけでなく樹木などの扱い、施工や工期、コスト管理までできることも、ベトナムで評価される要因だと考えている。

 そんな彼を支えるのが事務所のスタッフたち。社員10人中8人が設計を担当、全員が20代で、建築レンダリングソフトなどを使いこなす。大学の建築学科や都市計画学科を卒業した若者で、先入観がなく、乾いたスポンジのように吸収するので育てやすいと語る。

「平面図やポイントとなる立面図など1番最初のコンセプトデザインは私が全て描きます。ただ、色はだいぶ塗れるようになって任せているし、樹木もイメージを伝えるときちんと選んでくれる。この5年で何千枚と描いた図面も参考にしてくれています」

 Waterpointだけで10物件以上担当し、顧客はNam Longともう1社がメイン。受注する基準は企業トップとの人間関係で、この2社が物件の9割以上を占めている。完成前の案件を含めてこれまで1000ha以上を手掛けており、基本的に設計監理という業務で仕上がりまでをチェックする。

 高橋氏のLAとしての原点は「歩いてどこにでも行ける歩道」で、最初の段階でオーナーやクライアントに伝えている。子供だけで歩いて学校に行ける歩道、高齢者や妊婦が安心して歩ける道だ。

「これがなかなか難しい。常にせめぎ合というか戦いですよね。ベトナムにいる限りずっと続くんだろうと思います」

日本から中国、ベトナムへ
大工の知恵をデザインに応用

「ここは日が当たるから居間にしよう、風通しが良いから大きな窓をつくろう、自然と対話しながら家を建てる大工と共に働いた時期があります。環境シミュレーションでは、彼らが現場で使っていた知恵を数値化、ビジュアル化して、設計にフィードバックします」

 大学院修了後に地元静岡県の工務店に勤め、後に東京の建設関連企業のプロジェクトに参加。その会社の先輩と2003年にワークラウンジ03‐を共同設立した。中国に北京事務所を設立して、竹森氏は出張ベースで中国でのプロジェクトにも取り組んだ。

 工務店時代は木造住宅、東京ではオフィスビルなどで、独立後は店舗、住宅、商業施設などを幅広く設計し、アートギャラリーなど美術・文化系施設も手掛けた。この経験がベトナムで活かされる。

 2011年に知人にベトナムの仕事を手伝ってほしいと頼まれてハノイへ。その後に初めて得た案件は、入札で獲得した国際交流基金ベトナム日本文化交流センターの図書室のリニューアルだった。2012年にはWorklounge 03-Vietnamを設立する。

「住宅の仕事などが入り、お客様や知人の紹介で仕事が増えていきました。お客様は日系とローカルの両方です。最近はレストラン、ホテル、リゾートの案件が多いですね。また、入札で日越大学の仕事を獲得し、最初は仮校舎のミーディンキャンパス、今は移転先のホアラックキャンパスを設計しています」

 同社の特徴は建築設計と共に環境デザインの事業。日照の熱や風の方向などの影響を調べて、それらをコンピュータで解析し、サスティナブルな設計に改善していく。

 コンサルティングのみでも対応しており、オフィスビル、ショッピングモール、工場などが環境に配慮された建築物の国際的な認証である「LEED」や、そのベトナム版「Lotus」などを取得するためのコンサルティング、申請業務を行っている。

「始めた約10年前はお金がかかると嫌な顔をされましたが(笑)、SDGsの注目で近年は受注が増えました。施工中も建物をチェックして、施工後に結果を出して認証を取ります」

家族が集まる農村の住宅
環境配慮の25階建て庁舎

 竹森氏の作品をいくつか紹介する。最初はハノイ市郊外の農村で老夫婦が暮らす住宅のリノベーション。中庭を囲むL字型2階建てで、敷地面積は150~200㎡。同社のHPを見た息子からの依頼だった。夫婦と息子家族、地域と家との結びつきを強める設計となっている。

 屋内と屋外が直接つながる半屋外の空間がなかったので、建物と庭の間に板張りの縁側を作り、縁側に面する中庭もタイル敷きから庭作りを楽しめるように変更。縁側に新しく設置した外部階段からは、息子家族が滞在中に使う2階の部屋に行ける。家族間でも自立した関係を保てるよう、両親の生活圏内を通らない作りとした。

 3階には家族が週末に集まる広いファミリーリビングを増設。北部の農村の中心にはDinhと呼ばれる集会場があり、端部が反り上がった木造屋根が特徴。建替えで不要になった屋根の古材を息子が所有しており、これを再加工して新しい屋根を架けた。

「風の流れと気温のシミュレーションをし、快適に過ごせるようにしました」

 ランソン省の庁舎はコンペで勝利。建築はこれからだが、地上25階+地下1階、敷地面積は1万1676㎡、建築面積は4850㎡となる予定だ。パートナー経営者であるTim Middleton氏との共同設計で、コンペの最高評価を得た。

 東西からの強い日差しを避けるように建物の向きを変え、川の水を水源として利用し、風力エネルギーも使った工夫が随所にある。

 結果的にエネルギー消費量を45%削減、水を効果的に45%節約して、川の水をヒートシンクとすることで冷却による消費量を20~30%削減する。日よけ、遮蔽、ファサードの緑化で太陽からの放射を50~60%軽減し、自然光が建物に差し込むようにもした。

「庁舎の中で働く人の快適さを考えて、利用するガラスの性能もシミュレーションしました。ただ、シミュレーションの結果通りでは建築が成立しないことも多々あり、その調整にも頭を使います」

オーナーにプロとして提案
地域に愛される建物の価値

 ベトナムで苦労することは材料という。木材であれば日本では木材店の保証やJISなどの品質基準もあるが、ベトナムでは自分の目で見て選ぶようにしている。また、日本と流通が違うので手に入りにくい材料もあり、入荷の時期がわからないこともある。

 もうひとつはベトナム独特の気候だ。北部であれば夏は暑くて冬は寒く、一年中湿気に悩まされる。だからこそ環境シミュレーションは大切で、ソフトが安価に利用できるようになった10年ほど前から試行錯誤を繰り返している。

 事務所の設計チームは11人。建築デザインチームが7人、環境デザインチームが4で、後者には建築家だけでなくエンジニアもいる。

 クライアントの希望は当然重要だが、街に必要な景観、地域に愛される建物としても貢献できる設計を目指している。その点を含めてオーナーに提案し、社会貢献には興味がなくても特別な費用が必要なければ喜んで賛同するようなクライアントの仕事なら、積極的に請けたいとも思っている。

 上記の農村の住宅もそうだし、温泉が出るニンビンで日本温泉を作りたいとの要望があった時も、ニンビンにふさわしいリゾートにしたいと提案し、その方針で設計を進めている。

「すぐに壊されるような建築物はつくりたくないです。コンセンサスを取りながらプロとして意図を伝えて納得してもらう。設計から完成まで道のりは長いですから」

 今後は美術館などの文化施設とともに、地域のプロジェクトにも参加したいと語る。皆が集まる大切な公共施設であるDinhのような場所だ。

※人物写真以外は大木宏之氏による撮影

途上国での設計でベトナム
腕を磨いて4年後に独立

「専門用語の飛び交う日本の建築業界ではなく、日常的な建物が必要とされる途上国で建築の意味を問いただしたいと思いました。そのような時にベトナムで就職する先輩がいて、同じ事務所に来ないかと声をかけられました」

 大学院時代からインターンで働いていた建築事務所を退社し、2011年末にベトナムのVo Trong Nghia Architectsに入社。Vo Trong Nghia氏は東京大学大学院で学んだ著名な建築家で、帰国後ホーチミン市に建築事務所を設立した。多くの日本人建築家がここで働き、腕を磨いて独立していった。

「入社当時は20人ほどの社員がいて、私も色々な仕事に携わりました。そのひとつが責任者として担当した『House for Trees』というホーチミン市の住宅です」

 5つの独立したコンクリートの部屋が中庭を囲むように並び、各屋上には大きな樹木が植えられている。一度外に出ないと互いの部屋を行き来できない設計になっており、庭にも緑が多い。国際的な住宅建築賞を数多く受賞し、事務所を代表する作品の一つとなった。

「Nghiaさんは日本で丸10年を過ごしてベトナムに帰国し、その間に緑地が大きく減っていることに嘆いたそうです。一般的に建物が増えると緑地面積は減少しますが、Nghiaさんのプロジェクトはその多くが、逆に増やすことを念頭に置いた設計です」

 当初は3年程度で帰国するつもりが4年の勤務。転職を考えていると知人からカフェとレストランの設計を頼まれた。そこで2016年に独立してInrestudioを設立。ベトナム独自の「建築」を定義し、世界に発信すべく活動を続ける。

ノンラー屋根のオフィスビル
「和」に捕われない鮨店別館

 西島氏の作品を紹介する。ひとつは中部クアンビン省にあるオフィス兼住居。工場敷地内の管理棟的な建物で、「普通のオフィスビルにしたくない」と望むオーナーと議論を繰り返して作り上げた。

 ノンラーに似た屋根はコンクリートの打放しで、二重構造で遮熱性能を高めるとともに、屋上に木を植えて直射日光の断熱材とした。壁はレンガの上から左官仕上げの吹付けを施し、広い間口や穴開き換気ブロックを利用して開放的な空間を作った。

「自然環境を利用してエアコンなどを使わず快適に過ごせる建物にしました。約9mの天井高は暖かい空気を上方に逃すと同時に、大らかな空間性を作り出しています」

 大屋根を支える7つの三角柱状の壁によって、建物全体は公的な空間と私的な空間に分けられる。それぞれオフィスや応接室などの大空間と、寝室やプライベートオフィスなど閉鎖的な場所を持つ。

 元来ベトナムの「建築家」は設計図面を渡したら仕事は終了で、現場管理はほとんどしなかったという。遠方の現場ということもあり施主も当初はそう考えていたが……。

「仕上げの段階になると、こちらの意図がなかなか伝わらない。最終的にスタッフ1人を4ヶ月常駐させました」

 もう一つはホーチミン市の高級鮨店で、店舗の隣の建物を使って個室用の別館を設計した。物件は古いレンガ造りの貴重な建物で、元の良さを活かしたいと思った。そこで過去に施された内装を全て剥がして、むき出しのレンガを見せた。

 元の建物は2階ほどの高さの倉庫なので天井が高く、個室としては落ち着かない。新たに付加される天井という一つの要素のみで、個室としての空間性と和のメッセージを両立しようと考えた。約50㎡の1階に個室が3部屋、2階に1部屋あり、2階は手で触れるくらい天井が近い。

「通路を進むほどに折り紙状の天井が表情を変えていく様子をお楽しみください。2階では天井に触れるという少し新鮮な体験もできます」

 真っ暗な空間に朱の天井のみが浮かび上がる別館が完成。「ヒノキのカウンター、障子の仕切り、掘りごたつなど、和食店の定型と違ったところで和を感じてもらいたい」という思いは成功したのではないか。

大らかなメッセージを心掛ける
ルーズさが強みとなる場合も

 建築家は建物を通じてメッセージを伝えるが、その作法は日越で違ってくるという。日本は細やかなメッセージを組み合わせて全体の調和を取る。ベトナムでは大らかなメッセージを大切にする。細かいところでエラーが起こってもぶれないくらいの力強さが必要。

「例えば住人が後に窓枠や家具などを変えてしまっても、住宅全体の空気感は変わらない、というくらいが理想です」

 文化の違いでもう一つ大事にしていることは、設計のわかりやすさ。経験の浅い現場や若い所員とのやりとりを考えると、「日本版」の複雑な設計は伝わりにくい。「全てを日常会話で説明できるくらい」のわかりやすさを心掛けている。

 現在事務所では9人のベトナム人設計士が働く。彼らを3チームに分け、1チーム3人がおよそ2案件を掛け持ちしている。設計はコンセプト設計、基本設計、詳細設計の3フェーズとすることが多い。

「コンセプトは新たなバリューを作る、いわば皆の思い描く「設計」です。一方で詳細設計を突き詰めることでコンセプトが磨かれることもある、ということを若い所員には学んでほしい」

 ベトナムは良くも悪くも全体的にルーズな部分が多く、建築の魅力の一つもそこにある。何にでも「OK」という進取の気質がベトナム建築の可能性を広げている。

「極端な話、暖かい地域なら住宅を全部半屋外空間にもできる。文化的な価値観がリラックスしているのは、すごい強みなのです」

※人物写真以外は大木宏之氏による撮影