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特集記事Vol168
技術の要をこの国で
ベトナムR&Dセンター

韓国サムスン電子がハノイにR&Dセンターを開設するなど、ベトナムに研究開発拠点を作る外資系企業が出始めた。テック企業の生命線とも呼べる部門をなぜこの国に置くのか。優位性と研究内容を3社に語ってもらう。

 岩手県盛岡市が本社の株式会社サイバーコアは、岩手大学発のベンチャー企業だ。同大学で画像認識や画像処理を約40年研究した阿部英志氏が2007年に起業した。

 現在は日本に18人、ベトナム現地法人のCYBER CORE VIETNAMに14人の開発者がおり、ベトナムが研究開発拠点として画像系AIのアルゴリズムをゼロから開発し、日本はそれを元に製品開発をしている。博士や修士を持つ「院卒率」はベトナム人のほうが多い。

 実用化された技術では、カメラとAIで車内の混雑状況をリアルタイムで配信する、東京メトロの「列車混雑計測システム」が話題となった。また、盛岡市中心市街地のカメラが撮影した人物や車両の属性を分析してWebサイトに出力する、「AI人流・交通分析システム」は2023年3月から始まった。

「技術力を市場につなげてどれだけ早く実用化するかがカギです。そのため当社も、研究開発型の企業からソリューションプロバイダーへと変革をしています」(玉木氏)

 日本は労働力の減少から生産性の向上が必須であり、画像をAIで解析して省人化するニーズが高まっている。自動車関連などは実用化までの期間が長いが、製造、小売、物流、建設などは1ヶ月の実験で成果が出れば翌月からの導入もあり得るという。

 具体的には工場での不良品検査の自動化、小売なら商品の識別や在庫の確認、物流は検品作業の自動化、建設では作業者の配置を最適化して安全性や作業効率を向上させるなどで、画像とAIを使った用途は想像以上に広範だ。

「コア技術は全て公開できないので、製品の中に秘匿化して組み込んでいます。お客様は100%日本企業で、ターゲットの領域を変えたら受注が増えました」

 阿部氏が岩手大学を辞めて事業を本格化させたのは、世界的に自動運転が注目され、AIが脚光を浴びた2014年頃。ただ、当時の盛岡市に画像関連の企業は見当たらず、ベンチャー企業では研究開発職の採用が難しいと感じた。

「弟がベトナムで日系企業の代表をしていて何度か訪れる中、国策としてのITエンジニアの育成、数学教育への注力などに興味を持ちました。画像処理は数学力がないと深掘りできないのです」(阿部氏)

 勤勉な国民性も後押しして、2017年にホーチミン市に駐在員事務所から設立。事務職の日本語話者を初めに、次に修士卒のエンジニアを採用。現在彼は日本で開発部長をしており、日越のパイプ役ともなっている。

 次にインターンを含めて10人ほどを採用した。判断基準は英語で書かれた卒業論文や修士論文の内容で、論文のエッセンスは数式に現われ、読むとスキルがわかるという。

 ベトナム拠点のCTOは米国の州立大学で医療系の画像処理を研究した博士。阿部氏はこうした米国の州立大を訪ねており、卒業する難しさを知っていた。現在35歳のCTOはメンバーの指導が上手で、R&Dセンターの優秀さは半分が彼の寄与によるという。

「日本と給与テーブルは別ですが、ベトナムの給与額は非常に高くなってきました。AIエンジニアは獲得競争が凄くて、ベトナムだけでなく世界から引っ張られますから」(阿部氏)

 彼らの技術力は、画像認識分野での世界最大級の国際会議CVPRで2021年と2022年のAI国際コンペティションでの部門優勝、NIST(米国国立標準技術研究所)による顔認証技術のベンチマークテストで2022年にカテゴリで世界9位、日本企業中1位という実績でもわかる。

 今後は画像とAIに新たな要素を組み合わせた開発を考えている。例えばセンサーから取得した音声、振動、触覚、レーダーで測定した距離や対象物、AIを搭載した端末(エッジAI)などとの複合で、これらの情報を解析し、付加価値を付けて提供するのだ。

 また、技術の製品化は顧客に合わせたオーダーメイドが基本だが、納品して終わりではなく、継続的なビジネスモデルにする。新たな機能を付けたり、カスタマイズするなどで拡大させる。一方で、汎用的なものはプロダクト化し、低価格化と使いやすさも考慮して、AIを普及させるのが使命であると語る。

「研究開発が生み出すシーズありきでは、事業は失敗するものです。顧客のニーズを汲み取ってどのシーズを当てはめるかを考えます。ボトルネックを解消すると2つがつながってビジネスになる」(玉木氏)

 エンジニアたちも技術が市場に出るのを喜んでおり、モチベーションアップにつながっている。日越スタッフの交流も盛んで、エンジニア同士の公用語は英語。トップダウンではなく、中期計画なども皆で考えるフラットな社風にしている。

 今後はR&Dのメンバーを増やす予定だ。IPOを目指しており、ベトナムでは馴染みが薄いストックオプションなども計画。営業面は他社とネットワークを構築してパートナーから紹介してもらうことが多い。こうして引合いが増え、リピーターも増加している。

 ベトナムにもパートナー企業が数社あるので、当地での顧客開拓も予定している。まずは製造や小売の日系企業を対象として、その先は世界へ。

「人々の暮らしを豊かにできる技術だと思います。そのビジョンを作りたく、3年後の中期計画を作っています。技術は激変していますから、都度これに合わせて変化させていきます」(玉木氏)

 株式会社ベリサーブは日本のソフトウェアテスト業界のパイオニアであり、様々な業界のソフトウェアの検証を主な業務としている。高い信頼性が求められる自動車業界をはじめ、家電、モバイル、医療、業務系システム、Webサービスなど顧客の業種は多彩で、累計で1100社以上になる。

 日本の従業員は約1600人で約7割がエンジニア。3~100人単位でチームを組み、顧客のソフトウェア開発プロジェクトに入って、製品に組み込まれるソフトウェアのテストや検証を行う。顧客企業もこうした作業はするが、第三者検証として外注しているわけだ。

 この日本のテストチームがより良い仕事をできるように、社内用や外販用のツール開発、AI関連などの技術開発といった研究開発を担当しているのがハノイのVeriserve Vietnamだ。

 ベリサーブグループとしては社内向けではテスト関連の自社用ツール、社外向けでは「GIHOZ(ギホーズ)」などの独自商品を開発している。後者は各種テスト技法を手軽に利用できるクラウド型ツールで、直感的な操作でテストのプロセスの中でのテスト設計や、テスト内容の決定を効率化する。

「6つのテスト技法をサポートしており、人で異なる作業を均一化できます。主な購買層はソフト開発会社のテスト担当者です」

 GIHOZはモデルベースドテスト(MBT)を簡略化するツールでもあり、GIHOZで可能なのはテスト全体の30%ほどで、残り70%はより複雑なMBTになるという。これはテストの品質を落とさず自動化する試みで、開発者が作成したモデルからテストケースの生成やその後のテストの実装を自動化する。ベトナムで注力しているのがこのMBTだ。

「起点となるテスト技法を研究開発したり、具体的なテストのロジックを考案するなど、無限の中で優先順位を付けながら、最も使われるものを追加していく作業です」

 ソフトウェアテストの国際規格ではテスト技法として12種類が定義されているが、GIHOZには中心的な6種類のテスト技法が実装されている。

 もう一つの主な対象はAIの品質保証だ。大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる自然言語処理のAIは、時に不正確や不具合のある返答をする。そうならない保証をするテストで、AIが組み込まれた製品のテストと、AIをテストに使う場合がある。

「LLMのできることが広がりすぎて、信頼性が低いうちから世の中への組込みが始まり、市場ができてしまいました。まだ品質保証技術は確立していません」

 AIの開発企業、AIを製品に組み込む企業、AIを自社のためにカスタマイズして使う企業などを顧客と想定してAIテストの研究開発を続ける一方、AIを使ってテストを楽にする手法も考案している。日本での使用が広がりつつあるMBTと共に、AIのテストへの応用は顧客の拡大にもつながるからだ。

 海外進出の理由は明確で、高度な研究開発人材の採用が日本では難しいから。ベトナムとなったのはベトナム人エンジニアと仕事したことがきっかけだ。2020年初めにベトナムの日系企業にオフショア開発を委託し、1年ほど一緒に仕事をした。2回ほどはベトナムを訪れて現地のエンジニアとコミュニケーションを取った。

 日本では研究開発部のマネジャーをしている須原氏は、研究開発者はプログラミングができるのは当たり前で、どのようなコードを求められ、何が大事かを判断する分析力などが必要だと語る。

「ベトナム人エンジニアが優れている点はリサーチがうまいことと、既存の技術の理解に長けていて、手を動かすのが早いこと。深く考察するのはちょっと弱いですが(笑)」

 国全体が成長段階にあって成熟を見せており、コスト競争力や勤勉な国民性も肌で感じた。フィリピン、中国、バングラディシュも考えたがベトナムに決め、2022年1月にVeriserve Vietnamを設立する。

 高度人材がポイントなので、平均給与は上がってもトップ大学出身者を採用すると決め、日系企業向けのローカル人材紹介会社に依頼した。約100人に増えたスタッフは全員が大学卒以上で、ハノイ工科大学やベトナム国家大学ハノイ校などの名門校出身者がメインだ。

「最初の30~40人はエージェント経由でしたが、今は社員の紹介などで入社するケースも増えました」

 スタッフを増員し、オフィスを増床したのは、必要に迫られてだった。研究開発もそうだがソフトウェア開発のニーズが増えていたからだ。

 日本ではテストや検証のためのエンジニアが中心なので、プログラミングができない者もいる。そのため、ソフトウェアを自動的に取り込んでテストするコードを書くといった作業がなかなか進まず、グループ全体として改善する必要があった。

「このサポートにもベトナムが取り組んできたのですが、ある程度うまくいきました。人は増やす予定ですが、150人にまでするかは状況を見て決めます」

 設立から2年が過ぎた。ベトナムでの作業内容は随時発信しており、東京、大阪、愛知の3拠点にも浸透している。社内的なプレゼンスも向上し、当初の計画よりできることが多くなった。現在は日本から仕事を発注するスタイルだが、仕事を増やして、将来はベトナム市場開拓や他社からの受注獲得も目指す。

 テストにおいて「絶対」はなく、「より良くなった」までしか言えない。リスクがどれだけ残っているかを示すのがゴールであり、この奥深さが魅力だと須原氏は語る。

「R&Dセンターベトナムはいいスキームだと思います。他社には真似されたくないですね(笑)」

 2012年にベトナムで設立されたSun Asterisk(当時はFramgia)。オフショア開発が主事業だったが、スタートアップ企業を中心とした技術支援などで成長し、現在はスタートアップからエンタープライズまで幅広い企業の事業開発支援、プロダクト開発、IT教育も事業の柱としている。

 社員はおよそハノイに1000人、ダナンに280人、ホーチミン市に110人、日本で400人と、グループ子会社を含め全体で2000人がおり、約8割がエンジニアだ。

 ハノイに研究開発部門のR&Dユニットができたのは2017年。当初は3~4人と小さな所帯だったが2019年に別チームと合流し、現在は60人体制となっている。以前は他国のメンバーもいたが現在は全員がベトナム人だ。

 メンバーはハノイ工科大学やベトナム国家大学ハノイ校などベトナムのトップ大学出身者が多く、こうした大学や大学院からの新卒入社や中途採用も多い。

「大学院に通いながらSun Asteriskで働く人もいますし、最近ではイギリスの大学に留学しながらリモートで参加するメンバーもいます」(Mr. Thang)

 こう語るThang氏はハノイ工科大学を卒業後に慶應義塾大学環境情報学部に留学し、2013年の新卒時にベトナムのSun Asteriskに入社。当時の同社のスタッフは30人ほどだったそうだ。

 R&Dユニットの研究対象はAI、サイバーセキュリティ、DevOpsの3つ。一番大きな組織が「AI&データサイエンス」部門で約25名が所属。3チームがあり、「AI基礎研究チーム」はAIに関する論文の執筆や発表を行う。これまで国内外で約50の論文を国際的な学術会議で発表している。

 「AI応用研究チーム」は、AI基礎研究チームが考案した内容をプロダクトに応用できるか検討する。顧客から相談があればプロジェクトに入ってAI関連の開発に参加することもある。

「コンピュータビジョン(画像認識)、自然言語処理、音声認識、データ分析などお客様のリクエストにより内容は幅広く、最近は生成AIが多くなっています」(Mr. Thang)

 「AIオペレーション研究チーム」は、AI応用研究チームが作成したAIモデルをクラウドに乗せ、その運用を考えていくなどのチームだ。

 2つめのサイバーセキュリティはメンバーが10人弱とまだ小さなチームで、ホワイトハッカー的な活動をする。良く使われるオープンソースやソフトウェアの脆弱性(サイバー攻撃への耐性)をチェックし、検出したらコミュニティや開発ベンダーに伝えて修正を促す。

 顧客のプロジェクトの脆弱性診断もしており、顧客がアプリやサービスをリリースする前に脆弱性を確認する。メンバーがサイバー攻撃などをして、問題が見つかれば開発チームと連携してアドバイスしている。

 3つめのDevOpsとは、サービスの運用設計と開発を同チームで密に連携して行う手法であり、そのために「Sun*CI」というプラットフォームを開発した。ソースコードレビュー、バグテスト、セキュリティチェックなどで作業の自動化を進めて、顧客の開発チームが事業成長に集中できる環境を提供している。

 ベトナムのITコミュニティ向けのナレッジ共有プラットフォーム「Viblo」の構築と運用もしている。月間約350万PVというIT学習サービスで、エンジニアリング関連の記事やインタビュー、セキュリティやプログラミングを学ぶための問題集など多くのコンテンツを公開し、ホワイトハッカーのようにコミュニティへの貢献という意向が強い。

「研究結果をサービスとして試したい、効果を確認したいなどの場合に、CIやVibloに乗せる場合もあります」(Mr. Thang)

 グローバル横断で技術部門を見ている金子氏はこう語る。

「今後はDevOpsに注力しながらAIの研究開発を進めることで、より一層の自動化が進みます。また、サイバー攻撃にAIを使われる危険もあるため、サイバーセキュリティチームは脆弱性を改めて考える必要があるでしょう」

 R&DユニットはCEO直轄で作られ、自由に動ける環境にある。言われているのは「新しい技術を調べて、やってみよう」。ただ、年間で公開した論文の本数、オープンソースなどから見つけた脆弱性の数、自社のプロジェクトで使われた技術の数といった目標値はあり、これまで毎年達成してきた。

「2年前からは数よりも質を重視しています。論文を提出する国際会議のランクを上げる、緊急度や難易度の高い脆弱性を見つけるなどで、ほぼ目標を達成しています」(Mr. Thang)

 重視しているテーマはAIの中でも生成AI。基礎や応用のチームではコンピュータビジョン、自然言語処理、音声認識など専門性が分かれているが、これらに生成AIを加えた研究開発に変えた。自然言語が得意なメンバーはであれば、マイクロソフトのAzure OpenAI Serviceを使ってテキストを生成するなどだ。

「研究テーマは変化します。以前はブロックチェーンのチームがありましたが昨年に1部署として独立し、今後はサイバーセキュリティチームの独立もあり得ます。今年と来年でメンバーを増やそうと考えています」(Mr. Thang)

 日本のエンジニア数は増えており、論文を執筆できるメンバーもいるが、R&Dセンターを日本に作る予定はない。金子氏などが日越のハブになってベトナムの情報を日本側と共有したり、日本からの要望を伝えている。

 要望はやはりAI関連が多く、日本側のAIチームとは最新知見などで交流が多く、共同研究の形を取ることもある。金子氏も難易度が高い案件の実装方法、データの扱い、計算手法などをR&Dユニットに尋ねており、絶対的な信頼を置いている。

「R&Dユニットとの連携は日本側の優秀な人材を集めて好影響を与えています。これを全社に広げるようベトナムからの発信を大きくしたいですね」(金子氏)