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特集記事Vol171
変化するITエンジニア
採用と求人の最前線

ベトナムでも日本でも人手不足と言われるITエンジニアだが、採用や求人、求められるスキルなどは速いスピードで変化していく。求人が減ったと言われるベトナム市場はどう変わったのか。各専門家がその最前線を語る。

 ベトナム最大級の求人サイトであるVietnamWorksを運営するNavigos Group Vietnam。2022年1月~2024年4月のVietnamWorksの求人数を見ていくと、季節要因とも呼べるテト後の退職を別にすれば、2022年から2023年にかけて徐々に減少しているとわかる(求人数推移グラフ参照)。

「2022年は好景気でしたが、2023年は欧米諸国の景気減退などから全体的に求人数が下降しました。今年は第1四半期が終わった段階でダウントレンドは落ち着いたものの、踊り場にいてまだ回復基調に向かっている状況ではない印象です」

 求人減は求職者側の動きからもわかる。一般的に求人が減ると離職率は下がる傾向にあるが、多くの会社にヒアリングすると、離職率が平年よりも下がっているという声が多く聞かれるそうだ。上記のグラフでも今年のテト明けの求人数の上昇幅が減っている。

「求人が多くないため転職にリスクを感じたり、新型コロナ期に職がなかった苦い思いを教訓としている人が多いのでしょう」

 IT系求人も似た状況だ(同グラフ参照)。大まかな動きは求人全体と似ているが、対前年同期比で見ると落込みがより激しいことがわかる。今年に入っても回復基調が見えていない点も同じだ。

 Navigos Group Vietnamは人材紹介業も事業の柱だ。数年前はプロジェクト単位での一括採用などの依頼もあったが、最近は落ち着いており、比較的コストがかかる人材紹介を使わず、自社での直接採用を始める企業も現れているそうだ。

 また、ここでのIT求人とはソフトウェア開発のプログラマー(デベロッパー)が中心となる。VietnamWorksの強みはシニア系の求人で、リーダークラスやマネジャークラスのITエンジニアが比較的多く掲載されている(IT求人の職種分類参照)。

「シニア系の求人も戻っていないです。日系企業からの求人もIT求人全体の傾向と似ています」

 ITエンジニアを募集する日系企業は一般的な事業会社とソフトウェア開発会社に大きく分かれ、後者はプロダクトの開発企業と、日本から仕事を受注するオフショア開発企業に分かれる。ベトナムの安価な人件費にメリットを求めるオフショア開発企業からの求人が特に減少している。

「景気減退に加えて円安の影響がかなり大きいです。1ドル100円の為替レートが150円になれば、単純にコストは1.5倍になるわけですから」

 ただ、この状況下でもITエンジニアを継続採用、あるいは積極採用している企業もある。ベトナム企業であれば金融系、特に銀行などがDX(デジタルトランスフォーメーション)で、モバイルバンキングなどのデジタル化を推進する求人などだ。

「大手銀行はある程度落ち着いてきたので、今後は準大手からの求人が増加すると期待しています」

 積極的に採用している外資系企業もある。金融系以外にもアプリ開発や車載用ソフトウェア開発など分野はいくつかあり、その国を代表するような大手企業から年間で数百人の採用計画もあるという。

「求人数が減っているため、相対的に応募者数は増えています。ただ、そこから希望する人材が採用できるかどうかは別の話です」

 採用を進める企業に共通しているのは、オフショアではなく自社のシステムやプロダクトを開発していること、ベトナムをそのための高度な開発センターと位置付けていることだ。

 日本企業もこうした開発拠点としてベトナムを選ぶケースが増加しつつあり、採用の目的は安価な人件費ではなく、日本国内で獲得が難しくなっている優秀な人材の確保だ。

「非日系の外資系企業も基本的に同じで、高度人材の獲得を目的にした企業は積極的に採用活動するケースが多いです」

 ちなみに、求人としては基幹系などのシステム開発よりWebサイトやアプリの開発の方が多く、後者の方が人気もあるという。最新の開発言語や技術が学べて、開発環境が整っていることが多いからだ。

「キャリアの将来的な広がりを考えた時、特に若い人はこうした環境を好むのでしょう」

 日系企業に多いベトナムでのオフショア開発は、このようなトレンドを考えると減少傾向に入るだろうと柴田氏は語る。円安が強まる前から続いていたベトナム人の給与上昇が大きな理由であり、円安が重なって低コストの魅力が薄れつつある。

「安いからではなくて、優秀な人材確保を目的で進出する企業でないと、ベトナムのメリットはなくなりつつあります。自社プロダクトの開発拠点とする日系企業の増加もその現われでしょう」

 では、期待に応えられるほどベトナム人エンジニアにスキルはあるのか。様々なIT企業に話を聞く限りでは優秀な人材が多いそうだが、要件定義や仕様設計などの上流工程が先進国レベルでできる人材はまだ少数派とのことだ。

「それでも現場で手を動かすエンジニアは必要ですし、上流工程は日本本社がしばらく担当し、徐々に現地化していく方法もあります」

 以前は即戦力となる経験者採用が中心だったが、母数が少ないのでベトナム人の新卒を採用する企業が増えていった。ハイレベルの上位校と関係性を強めて学生を採用するケースもある。彼らのような若手を将来的に上流を担当するエンジニアに育てることもできる。

「IT系学部を卒業する大学生は年間でおよそ5万人程度と聞きますから、基本的にITエンジニアは不足しています。これから高度な人材が輩出されることに期待しています」

 ITソリューション、BPO、総合人材サービス事業を展開するPasona Tech Vietnam。新型コロナ前後は売り手市場だったITエンジニアの求人は、近年のベトナム経済の停滞を受けて、この1年ほどで3~4割減少しているという。

「2022年後半辺りから流れが変わり、各社は採用に慎重になっています。日系企業だけでなく、ベトナム企業を含む非日系企業においても同様の動きになっています」

 これらは主に以前からベトナムが受け皿となっているオフショア開発企業だ。数年前なら優秀な新卒未経験者に月給1000~1500USDを支払う外資系企業が出てくるほど売り手市場だったが、現在では新卒未経験者の採用は全体的に消極的となっている。

 相対的に求人数が増えているのがリーダーやマネジャー職という。案件が減る中でプロジェクトを効率良く、スピーディに動かし、質の高いアウトプットを出せるチームを構築する人材だ。

「ベトナム国内で15万人のエンジニア不足と言われていますが、その中心はベトナムに圧倒的に多い22~25歳のプログラマーでなく、30代の経験が豊富なミドル層なのです」

 その対極にあるとも言えるのが、近年流行のローコードツールを使った開発で、そのための求人も増えているという。同社も開発チームで業務系基幹システムの開発を受託している。

 ローコードとはプログラムの設計図であるソースコードの記述量を最小限に抑えて開発する手法で、ノーコードはソースコードを書かない開発手法。ITの基礎知識は必要になるが、どちらも初心者が入りやすい開発環境だ。

 ローコード開発は書類での管理をシステム化する、業務フローをデジタルで効率化するなどのDX推進に十分に活用できるそうだ。複雑な仕様になると対応できない場合もあるが、顧客にとっては開発コストが抑えられることもメリットの1つだ。

「ローコード関連の人材ニーズは徐々に増えており、IT人材が不足している日本でも、中高年層や文系職からのリスキリングで活躍できる場になりそうです」

 今後のIT業界のトピックとしてサイバーセキュリティ法の施行と厳格化を挙げる。例えばデータをクラウドでシンガポールなど海外のデータセンターに置いている企業は、ベトナム国内からのデータの移行が禁止されるようになる。

 するとデータをベトナム国内に戻し、多くはデータセンターに置くことになるが、ベトナムの大手企業や外資系企業は既にデータセンターの新設や増設を始めている。

 データセンターの設立や運営に必要なのがインフラエンジニアで、セキュリティ、ネットワーク、DBA(データベースアドミニストレーター)などだ。どの職種もベトナムには人材が少ないが、データセンター事業は拡大する見込みだ。

「個人的な見解ですが、企業だけでなく国や行政、大学などと連携を取りながら、インフラエンジニアの育成を強化していく流れになるかと思います」

 一方、新しいことを学びたいというZ世代等の若者は多く、ITエンジニアは大学のIT学部だけでなく機械系や電気・電子系の理工学部、経済や経営などの文系学部の出身も多いそうだ。先のローコードツールから始めて本格的にプログラミング言語を習得し、プログラマー、SE、マネジャーとなる道も開ける。

「今はインフラエンジニアやミドル層が少なくても、10年後を考えれば若い世代が育つということ。ベトナムのIT業界のポテンシャルは十分にあると思います」

 オフショア開発をする際の日本からの委託先として、ベトナムは1番人気と言える。近年も1ヶ月に1~2社の日系オフショア開発企業がベトナムに設立されていると古谷氏は語る。

 それはSIer(システムインテグレーター)の開発拠点、独立系のオフショア開発拠点、事業会社の一部門や子会社が社内・グループ企業の開発を請け負う進出など、主に3つがあるという。

 このように見ていくとベトナム経済が回復して円高に振れれば、オフショア市場も活況を取り戻しそうだが……。

「日系企業の進出が増えているのは、それでもまだコストメリットがあるから。毎年10%前後で昇給が続けば、安さではなくクオリティなどの競争力が重視されます」

 ベトナムの人件費が上がれば、日本の地方に開発拠点を置く「ニアショア」とコストが変わらなくなる。日本と同等かそれ以上の品質が出せたり、下請けではなく独自プロダクトを開発できるような組織でないと生き残れない。

「課題は要件定義や仕様設計などの上流工程ができるエンジニアが少ないこと。下流工程のみできたとしてもキャリアップにつながりません」

 ベトナム企業からのITエンジニア求人は増えそうだ。電子ウォレット、ライドシェア、ECなどテック系のアプリやプラットフォームは今後も市場の拡大が見込まれ、IT系のスタートアップも増えている。相応のスキルを持ったITエンジニアが一定数いないと、現在のクオリティは保てないはずと語る。

 また、同社は親会社のパソナと連携しながら日本の官公庁や自治体から事業を受託して、ベトナム国内でジョブフェアを開催。国内外を問わず日本企業とベトナム人とのマッチングを行い、活躍の場を創出している。

「多い職種がITやCADのエンジニアなど理系職です。日本国内のエンジニア不足の課題を解決するためには、ベトナム人エンジニアの活用がますます活況になってくると思います」

 Web、モバイル、ウェアラブルデバイスなどのソフト開発を得意とするVitalify Asia。顧客の約9割は日本企業で、現在はベトナムを含めた海外比率を上げようとしている。全社的な開発を統括するマネジャーが加藤氏だ。
 ベトナムで大学IT学部を卒業後、日本のSIerでSEとして勤務。2017年に日本で大学院修士課程修了後、プロジェクトマネジャー(PM)や営業などを経験。2018年の帰国後は理系大学での講師、システム開発、進出支援などに携わるMr. Thang。
 ベトナムのIT業界、日系企業、ITエンジニアを知る二人に本音で語ってもらった。

Thang 最近は日本の事業会社がグループ内のIT開発を目的に、ベトナムに子会社を設立するケースが増えています。優先かつ安定的に受注できるので、ベトナムでの採用が増えたりもします。オフショアに外注していた開発を内製化したわけですね。

加藤 ここ数年で加速しているのは感じますし、受注する側として以前に比べて案件が減った印象があります。

 企業が相応の規模になれば社内に情報技術部門ができて、以前はここが外部に開発を依頼していたのが、エンジニアやPMを雇用するようになっています。

 Web、システム、アプリともはやITと関係しない業界はありません。現在必要ならアウトソースしても、3年後を見据えるなら、安くて人も品質も管理しやすい内製のほうが正しいです。

Thang ベトナム人の給与アップと円安で開発の単価が上がるわけですから、それも受注減の理由なのでしょうね。

加藤 アプリやシステムが動かないと事業の維持や拡大ができませんから、ニーズ自体はあります。ただ、効率的に対応できるような人材や体制が求められていて、エンジニアの選別が始まっています。

 例えば生成AIが使えるなどは当たり前。新しいこと覚えるのが面倒くさいというエンジニアはすぐに淘汰されるでしょう。

Thang 私なら開発以外のスキルを見ます。趣味レベルでもコンテンツが書ける、センスはないけどデザインができる。これって「多機能」です。日本人に良くいるのは要件定義も詳細設計も、テストもリリースも、お客さんとの打合せもできる人。どういう状況でも価値を作ってくれるなら、私はその人に投資します。

 それと英語力。開発の不明点をネットで調べる時、英語で書かれたものが多いです。つまり、英語ができると最新の技術が吸収できる。もちろんコミュニケーション言語としても魅力的です。

加藤 これからは自動化が進む中で、言語を超えたコミュニケーションスキルも重要になると思います。同じ日本人同士でも、何をしたいかが明確に言える人、受け取って理解できる人はなかなかいない。お互い暗黙知として前提条件がわかってるつもりで会話をするからで、ベトナム人も同様だと感じます。

 相手の意図を汲み取って分解して理解できる人。才能もある程度は必要なのでしょうが、IT業界にはコミュニケーション能力が低くても活躍できると入ってくる人が非常に多いです。残念ながらその時代は終わっています。

Thang 課題解決能力やミッション完遂能力。例えばログイン画面を作らせて、IDとパスワードを入力したらシステムエラーが出た。想定外のケースが考えてないので、ミッションにコミットできてない。「私に責任はありません」という人もいるけど、そういう人は求めません。

 ベトナム人でも残業や休日出勤をする人はいます。その部分は認めますけど、責任を感じる範囲やゴールの設定などから訓練すると良い結果が出ると思います。

加藤 現実問題、ベトナムでボリュームとして一番多いのはデベロッパーで、マネジャーのレイヤーが育っていないのを明確に感じます。ベトナムの強い会社は多くがトップダウンですし、若い人はマネジャーになりたがらない。弊社にも頑張って育てた優秀なマネジャーがいますけど、やっぱり足りていない。

 2週間程度勉強すればちょっとしたプログラムは書けるし、生成AIによる自動プログラミングも一部は実現していて、多くの効率化ツールもあります。デベロッパーの需要はどこかで頭打ちするでしょう。

Thang ITエンジニア出身で会計ができそうな人を育てて、今では会計部門の部長をしています。開発職のスキルや経験を会計職で活かせたわけですが、エンジニアがほかの部署や業界で活用されることで、企業のIT化を促進すると感じました。

加藤 面白いですね。ITエンジニアが会計の知識を身に付ければ、便利なExcelなどを作ってくれそうです。私たちはすぐに「システムにしよう!」となりますが、その方が速くて効率的ですね。

 自分がITに向いてないと思う人はいるはずで、別のポジションにチャレンジしてみるのは当人にとって有意義かもしれないですね。

加藤 日本の事業会社の内製化や人口減で、業界により差はあっても、オフショアの発注は減ると見ています。受注側も日本向けだけのビジネスでは成り立たなくなる。今後は世界に打って出なくてはいけないですし、弊社もシンガポールやベトナムローカルの仕事を増やしています。

Thang 日本の消費税が上がるなどで、全業界的で大規模なシステム改修などなければ難しいでしょうね。今後期待できるとすれば、利用者が増える医療システムなどでしょうか。

加藤 色々な状況はありますが、私は引き続きベトナムに期待しています。外国人が来やすく、生活しやすく、ビジネスを始めやすい。1億人規模の市場があるので、開発拠点だけではなくマーケットとしてなどの可能性があります。

Thang ベトナムはまだ発展途上で、やるべきことや改善すべきことが本当にたくさんあります。頑張りたいという成長意欲も強くて、収入を上げて美味しいものを食べたり、クルマも家も買いたいと思っています。

 ベトナム人と一緒にビジネスを伸ばすことは十分にできますよ。