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特集記事Vol.188|人材育成が事業の要|現地スタッフが企業を動かす

ACCESS Vol.188表紙

ベトナム人スタッフが考え、動き、成果を出す。この原動力となるのが人材育成や社内教育、そしてキャリアアップ制度だ。考え方や指導方法は各社各様だが、共通しているのは「熱意」。あなたの会社でも役に立つはず。

AEONベトナムのNguyen Thi Ngoc Hue氏

 2014年にホーチミン市に「イオンモール タンフーセラドン」を開業したAEON VIETNAM。ビンズン省、ハノイ、ハイフォン、フエ、タイニン省(旧ロンアン省)などと積極的に出店を続け、ベトナムを代表する日系GMSとなった。今後もダナン、ミトー、ハイズン省、クアンニン省、バクニン省への出店が予定されている。

 この躍進を支えるのが全国で6000人を超える従業員であり、「教育は最大の福利厚生」とする同社の教育制度だ。

 人材育成や組織開発にコーチング手法を取り入れており、個人やチームに合わせた育成プログラムを設計している。一方的な「指導」ではなく、例えば上司は部下からの質問に的確な提案やサポートができるように、関連知識やコーチングスキルを学ぶ。

「国内研修は新入社員向けのオンボーディングから、キャリアナビゲーター、専門的なオペレーション研修まで幅広くカバーしています。さらに、リテールトレイニープログラムで将来的な昇格候補となる即戦力人材を育成しています」

AEONベトナムのキャリアナビゲーター研修

 新入社員研修は約2ヶ月で、新店配属前の他店舗でのOJT、開店前の店舗実習、講師による講義、オンライン学習などで構成。その後の補助研修は、新しい知識やスキルを習得する年次研修と、毎年繰り返し受講する必須再研修の2種類がある。後者では火災や避難手順、労働法、職務上の権限や責任に関する事項を学ぶ。

 補助研修は講師による対面とオンライン学習が含まれる。学習時間は2025年の10ヶ月間で、全レベルを合わせて約3万4000時間に及ぶ。

 研修の運営はAEON VIETNAMのトレーナーと外部トレーナーが担当し、AEON Academyの講師が指導する。

「もう1つは社員の学習を支援する仕組みで、授業料を半額負担します。スキルも能力も皆さん違いますので、フレキシブルな対応も必要です」

 具体的にはMBA取得のために大学院、日本語学習のために日本語学校、資格取得のために専門学校に行くなどで、夜間や休日に通う経理などの短期コースが多いそうだ。

AEONベトナムのオンライン研修

 AEON VIETNAMの職位は、店舗スタッフであればゼネラルスタッフ、グループリーダー、ディビジョンリーダー、ラインマネジャー、ストアマネジャー(店舗の店長)などに分かれる。

 マネジャー職への円滑な移行のために、「新任マネジャー向けオンボーディングプログラム」を策定している。昇格者と新規採用の管理職の双方を対象に、初期9週間で12〜24時間の集中学習を行い、速やかな職務適応、効果的なリーダーシップ、企業の経営文化への適応などを支援する。

「求められるのは主にリーダーシップやコミュニケーション能力ですが、皆さんの一番の課題は人と接触して管理することへの苦手意識です」

AEONベトナムのリテールとレイニー研修

 対象がゼネラルスタッフならば面接官はラインマネジャーやストアマネジャーなど、最低でも2階級上の上司が務め、人事部のスタッフも参加する。残念ながら昇格できない場合には、不足している部分を指摘し、克服方法などもアドバイスして、再度のチャレンジを促す。

「不合格になるとどうしてもモチベーションが落ちます。そうならないよう、アカデミー部門やラインマネジャーはスキルギャップを埋めて、士気を維持するようにサポートします」

 ストアマネジャーへの面接には社長も入ることが多い。店舗運営の要であるし、「AEON VIETNAMのDNA」を継承していく人物だからだ。また、今は業績が拡大中で店舗も増加しているため、昇格の機会が多く、会社としても奨励している。

 ちなみにストアマネジャーの上は地域統括のリージョナルゼネラルマネジャー、その上がシニアゼネラルマネジャー、エグゼクティブゼネラルマネジャーとなっていく。

 Mrs HueはSenior General Managerで、人事、ブランド戦略、広報、サプライヤーの品質管理などを担当している。

 ラインマネージャー以上には海外研修の機会があり、毎年約20名が「イオン・ASEAN・マネジメントプログラム」に選抜される。約6ヶ月にわたって東南アジア諸国や日本などで実施される。

AEONベトナムの海外研修

 現地の市場調査が中心で、タイ、インドネシア、カンボジアであれば食料品関連、イタリアならマーチャンダイジング関連など、現地のショッピングセンターや店舗を訪ねることが多い。

 社員以外の研修もあり、例えばフードコーナーなどで働くパートスタッフや、商品を宣伝するPG(プロモーションガール)が対象だ。10日間、1ヶ月、2ヶ月だけ働く人もいる。

「イオンでの働き方、ルール、接客などを約3時間で教えています。イオンの品質基準を維持するための大切な仕事です」

 Mrs Hueは2013年入社の第1期生。当初は2ヶ月の新入社員研修だけで、まずは店舗開業が優先された。しかし、体系的な研修制度を作らないと最悪の場合、従業員が退職してしまう。会社を発展させるためには現在の従業員を活かし、新しい人材を採用できる仕組みが必要だった。

「色々な部署やチームにすごく応援していただきました。お金も時間もかかるので、費用など全体のバランスが大切です。離職率はかなり低くなりました」

AEONベトナムのチームビルディング研修

 今後考えたいのは従業員の家族への支援。例えば福利厚生の対象を従業員の家族に広げる。あるいは、妻が出産前後の男性従業員をサポートする。家族の生活を安定させることで、従業員もより仕事に取り組んでくれるはずだ。

 もうひとつは生産性の向上。自動化、方法やフローの変更、従業員のスキルアップで、スキルアップではスキルコンテストの開催、改善などベストプラクティスの開発、資格取得の支援などを実施している。

「お客様がどこのイオンを訪れても同じ品質、同じサービスを受けられるようにしたいです。そのための仕組み作りです」

Earth Corporation Vietnam(ECV)の山内氏

 アース製薬のベトナム法人であるEarth Corporation Vietnam(ECV)は、地場のA My Gia(AMG)社を2017年に子会社化して設立。その後は、殺虫剤の「ARS」、芳香剤の「OASIS」、口腔ケア用品「MONDAMIN」など自社ブランドを拡充させながら、従来からの人気洗剤ブランド「Gift」には衣料用洗剤や柔軟剤などを追加してきた。

「ホーチミン市(旧ビンズン省)の自社工場で生産しています。特に注力しているのは主力商品の殺虫剤です」

ECVの商品

 商品の流通は伝統流通(GT)の個人商店と、近代流通(MT)のショッピングセンター等に分かれるが、ベトナムはGTが約7割を占め、ECVの顧客は全国で約8万店に上る。販売を担当するのが合計約600人になる営業部隊だ。

 2022年10月に赴任した山内氏は当初、社員の態度に驚いた。挨拶はせず、遅刻は多く、店を回らずに卸業者に商品を丸投げする営業もいた。しかも、売りやすい従来商品のGiftに頼り、新ブランドの殺虫剤には消極的だった。

「殺虫剤でシェア1位を取ろうと思って来た身としては、彼らのマインドから変えることを考えました」

 一番こだわったのは礼儀と礼節。ベトナム向けに5つのスローガンを作った。

 ①挨拶する、②遅刻しない、③コミュニケーション(情報共有)、④陰で社員の悪口を言わない、⑤会社の利益を出す(自分のことだけを考えない)。

 これを壁に掲げると同時に、掲載したカードを作って全員に配布。徹底して全員に理解させて、できなかったら本人でなく上司に注意をした。

 採用でも苦労が続いた。「面接では優秀かそうでないか全然わからない」からだ。例えば、営業職の支店長は全国に7人おり、そのうちの3人が新規採用になった。この3人が確定するまで26人が変わったそうだ。

 結果的に営業職やオフィススタッフの約半数が退職し、新しい社員が入社した。1年半かかったが、ようやく組織が整って、皆が笑顔で働くようになったそうだ。

山内氏が作った5つのスローガン

 組織が大きく変革する中、今年1月から始めたのが毎週月曜日の支店長会議だ。戦略部門やマーケティング部門が入ることもある。

 山内氏自らが個人商店などを訪ねて店主と話し、その姿を写真に収める。実践的な店の回り方や注文の取り方などを写真と一緒に資料にして、各拠点にオンラインでプレゼンする。アース製薬に入社してから一貫して営業畑を歩いた社長の、いわば生身の教科書だ。

「月曜と金曜に内勤を集中させて、火~木曜は店回りや出張の時間にしています。火、水、木で回った中身を次の月曜日にスライドにして発表しています」

 GTは店のランク別に3店舗、MTは1店舗を訪ねて、通訳を介して会話する。GTでは「こんな売場ならこう攻める」などの説明から、「ECVさんは全然来ないのよ」といった商店の声を紹介することも。MTは企業担当者との商談、進捗管理、マーケティング戦略などになる。訪ねるエリアは誰にも言わずに毎週変える。先回りされて気を遣われても困るからだ。

 「ASM」と呼ばれる支店長は、その下の課長クラスの「SS」に内容を伝え、SSは現場で注文を取りに行く「SM」に伝達する。SMは1人約50店舗を担当している。

営業職のSMの人たち

 翌週には売場改善報告書を提出させる。指示通りにSSやSMが動いたかどうかを各ASMが報告するのだ。そのため会議で山内氏は、新規の店回りと前週の売場改善報告書の2つを発表している。

「手を抜いてもバレると思ってますから、報告書はきっちり仕上がります。社長自らが徹底して店を回ってるって、やっぱり強いんですよ」

 1月から始めて約40回(取材時)、「ネタ」はまだまだ尽きないという。店や売場が違えば、ASM、SS、SMへの指示も異なる。それを「全部理解している」からこそ社員はまだ勝てない。ベトナムの商習慣や国民性はあるにせよ、根本の考え方はさほど変わらないそうだ。

ショッピングセンターの棚に並ぶ商品

 殺虫剤ARSのシェアはベトナムで3位、トップのシェアは50%以上という。シェアを高める有効な手段はGTでは「フェイシング」であり、自社商品が陳列される場所をできるだけ広く取ってもらうことと語る。

 競合もあるので簡単ではないが、8月から「SS50」というプロジェクトを始めた。スペースシェア50の意味で、陳列棚の50%を自社製品で獲得するのが目標だ。忙しいSMが正確に個数を数える必要はなく、見た目半分であればOKだ。

「現状を把握したくてまず売場の写真を撮らせたら、思ったよりうちの商品が並んでない(笑)。参りました」

 他にもGTではARSの売場を持つ店に特化した「キングショッププロジェクト」、MTでは陳列する商品を魅力的に見せる「棚割りプロジェクト」と、販売力のある売場に注力する「クイーンショッププロジェクト」を始めている。

 これらのプロジェクトは評価にも結び付けて、優秀なSMを育成する意向だ。いわば末端であるSMには上のポジションを目指す人は少なく、SMの採用や評価はSSが担当していた。今後はSSの売上への評価だけでなく、人事部による各種プロジェクトへの評価を加えた、総合評価とすることを全社会議で発表する予定だ。

 山内氏は年間のスローガンも作り、毎年発表している。そこに1年間の目標を込めており、2024年が「Change for Better」、良くするために組織を変える。2025年はその組織で「Move on Innovate」、改革に動く。

スローガンをバックにした忘年会

「社内向けにこの2年間を費やしてきたので、来年は実行の年です。今度は日本語で、『天下布武』にします」
 ECVは2026年、ベトナム市場の天下を取りに行く。

transcosmos Vietnamの澤田氏

 コンタクトセンター、BPO、デジタルマーケティングなど数多くのサービスを提供するトランスコスモスは世界36の国と地域に184拠点がある(取材時)。ベトナムでは2014年にtranscosmos Vietnamを設立。現在はハノイに1つ、ホーチミン市に4つの5拠点で合計約2400人が働く。

 主事業と呼べるのがコンタクトセンター(コールセンター)サービスだ。日本向けのオフショアとローカル向け(ベトナム語)があり、後者が約8割を占める。前者は日本の日本企業向け日本語サービスだが、ノンボイスと言われる電話や音声がないチャットやメールでの対応になる。

コンタクトセンター事業

 業種に偏りはないが、直近ではベトナム企業のECプラットフォームの業務が増えた。ユーザーからの問合せや販売側のセラーのサポートで、電話、チャット、メールなどで対応する。社員約2400人中1800~1900人を割くというから規模の大きさがわかる。

「ご要望の事業内容によって小規模なら1社で5人程度、多いと数百人が対応します」

 トランスコスモスはオフショアとして1995年に中国に進出したが、2000年くらいから現地向けサービスを始め、CX(カスタマーエクスペリエンス)が重視されるようになると海外でもローカル向けが主流になった。

 コンタクトセンターで社員はオペレーター、チームリーダー、スーパーバイザー、マネジャーの階層に分かれており、およそチームリーダーが10人、スーパーバイザーは50人、マネジャーは100人のオペレーターを担当している。

 階層ごとに研修が用意され、例えばチームリーダーになるためには「リーダーシップ」、「コーチング」、「収支管理」、「顧客とのコミュニケーション」などをテーマに週に何度か受講し、数ヶ月単位で完了させる。集合研修に参加できなければオンラインのeラーニングもある。

「研修のための部署があり、トレーナーも社員です。各国の状況に応じてコンテンツは細かく変えています」

入社時の研修風景

 同社の研修を入社時から見ていくと、最初は事業の仕組みやBPOの内容などの基本を1日かけて教える。また、入社時には機密情報の重要度を教えるコンプライアンス研修もあり、セキュリティマインドを醸成するためにその後も1年に1回受講させる。

セキュリティ研修の様子

 その後は配属先に特化した研修として、例えば電話の受答え、メールでの対応、コミュニケーションの取り方、クレーム対応などのソフトスキルを2~3日で教えるが、業務によっては1週間から10日、数週間に及ぶこともある。

「技術的なテクニカルサポートであれば、製品や使用方法について相当の知識が必要です。どうしても長くなります」

 これらとは別に上記の昇格研修がある。昇格は1年に一度あり、本人の意向に加えて管理職の推薦という形で人材が選ばれる。各役割に求められるプログラムが用意されており、その内容を学習して、数ヶ月後のテストで理解度が判断される。

 事業の成長や拡大がないとポジションが生まれない。そのため定期的な人数が昇格しているわけではないが、将来を見据えて候補者を育成しており、常に研修にアサインできるようにしている。

 また、定期的に「昇格式」を開催しており、ポジションが上がった社員たちはステージで表彰される。認定の盾と記念品がプレゼントされるのだが、誰もが満面の笑みを浮かべている。

「日本人よりベトナム人の方が、ステップアップを望む上昇志向が強い気がします。ただ、弊社の約6割が20代前半ですから、年齢も関係しているでしょう(笑)」

昇格研修の様子

 澤田氏は同社の立上げに参加し、事業と社員を10年以上見てきた。感じるのはベトナム人は自己評価は高いが、同列の相手は低く評価する人が多い。そのため、当初は評価制度を不当と感じての苦情が出たり、不満を貯め込んだ末の退職もあった。

 そこで誰もが納得できるように評価基準を数値化した。1年に2回、半年間の成果目標を決める際にも数値で表すようにした。ただ、数字が全てにならないよう達成するためのプロセスも設定した。

 例えばコンタクトセンターには、「顧客の満足度評価を何%以上に」といった数値目標がある。しかし、調査アンケートを依頼する際に「私に『大変満足』と付けてください」などと誘導もできてしまう。これはプロセス度外視なので、オペレーターの品質を高める取組みや正しいプロセスを教える。一方、オペレーターの行為を客観的にチェックする仕組みも作った。

 5年前からは、管理職に求められる要素として「人材育成へのケア」の割合を大きくした。KPIなど事業のための数値達成と同等と周知させ、メンバーとの定期的な面談や自分の後任の育成などの行動基準を定めた。

 その結果、退職率は落ち着いて、今は約2400人で安定運用ができているという。

「サービス業こそ人材が大事。自分の能力をアピールするより、ピープルケアに注力すべきです」

 フィリピンなどの他国と違ってコンタクトセンターやBPOはベトナムにまだ浸透しておらず、競合は日系企業や欧米のグローバルカンパニーという。一方、今後は経理関連のBPOサービスを始める計画もあり、新たな人材を確保する必要も出てきた。ベトナムにおけるtranscosmosの認知度は徐々に高まっている。

「お客様から必要とされる、社員に働きたいと思われる企業になりたいです。日本のノウハウやAIを活用するなどして、そのために必要なトレーニングを考えています」

表彰される社員
執筆者紹介

取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。