最近、アオザイは、テトや結婚式に女性だけが着用する衣装とは考えられておらず、ベトナムの若者たちの日常生活のあらゆる場面で登場するようになっている。
ハイズン省の高校で歴史を教えているニャット・ズイさんは、毎週月曜日にアオザイを着て登校している。
この23歳の男性教師は、これまでに何度も人々から「舞台に出る人みたいね」、「演歌歌手みたい」などと冷やかされたが、彼はいつも黙って通り過ぎるか、立ち止まってこの衣装にどのような意義があるかを説明したりする。半年以上経つとニャット・ズイさんは、普段着とするためにアオザイを何十着も購入することになった。
「私は歴史の教師なのでアオザイを着て授業をするととても誇らしい気持ちになりますし、生徒たちの学習意欲を刺激できていると感じます」とニャット・ズイさんは話す。
人前でアオザイを着ることに抵抗はなくなったが、アオザイを着るときは状況に合わせたスタイルを慎重に選ぶようにしている。例えば、授業のときには厳粛さと礼儀正しさを表すため、伝統的なアオザイやグエン朝時代の正装であるアオタックを着るようにしている。散歩やパーティーに行くとき、遺跡を巡ったりするときには、チャン王朝時代のアオニャットビンを着たりする。
「アオザイを着ると民族的アイデンティティが広がるので、旅行がより有意義になります」とズイさんは話す。
週に3日はアオザイを着て仕事に行くというテレビMCのタオ・ヒエンさん(24歳)は、アオザイを着ることで自分により自信をもってるようになり、美しくなれたと感じている。ハノイ出身のタオ・ヒエンさんは、ロケに行くときは基本的にシックなアオザイを着ることを優先しており、事務所などに行くときは小さな花の刺繍がポイントなっている革新的なデザインのアオザイを選ぶことが多いと話す。
「何を着ていいかわからない日はアオザイを選びます。最近では夫と出歩くときには、婚約パーティーで着ていたアオザイを着ています」とヒエンさんは話す。
ヒエンさんは、以前は祝日やテトしかアオザイを着ることはなかったが、ここ2年ほどで以前のように体に密着したスタイルとは異なる着やすい新しいスタイルのアオザイが増え、色調もパステルオレンジ、ミントグリーン、ピンクなど多種多様になり、アオザイを着ると若々しくてアクティブな気分になれると語る。
10年近くアオザイ販売を手掛けてきたレ・ミンさんは、革新的なデザインのアオザイは2016年ごろから登場してきたが、爆発的に人気が出てきたのはこの2年ほどだと話す。2023年だけで見てもベトナム人のアオザイ需要は前年の2~3倍に増加している。新しいデザインのアオザイは、ゆったりとしたストレートで幅広い形状で小さな花柄の入った1950年代のアオザイをリメイクしたデザインになっている。
「この新しいデザインによって、お客様はオリジナリティのあるアオザイを着ていることを感じられるのです」とミンさんは話す。
この1年ほどでアオザイを着ることに抵抗を感じない男性が増え、女性用のアオザイよりも需要が高まっている。ホーチミン市でアオザイ販売を営むレ・コン・トゥアンさんによれば、2021年から男性用のアオザイの販売を開始し、顧客の70%以上を19~27歳の男性が占めているという。2023年には顧客数が前年の6~7倍に増え、毎月平均2000着のアオザイが売れており、テト前にはさらに販売数が増加する。
トゥアンさんの店では120kgまでの人向けのビッグサイズのアオザイも販売している。「5つのパーツを組み合わせたアオザイグータン(áo dài ngũ thân)は、男性のお客さんにとても人気がありますよ」とトゥアンさんは話す。
若者たちはアオザイを購入するだけでなく、様々なデザインを体験するためにアオザイのレンタルショップもよく利用する。2024年1月19日にハノイ市のバーディン区、コーザイ区、ドンダー区にあるアオザイレンタルショップを調査してみたところ、店はアオザイを試着する客で混みあっており、新しいデザインのアオザイは客同士の争奪戦にまでなり、オンライン受付は一時停止にまで追い込まれた。
バーディン区でアオザイのレンタルショップを経営するチン・トゥイさんによれば、今年の初めごろからアオザイのレンタルをしたいという客の数が2~3倍に増えた。以前、この店では1日あたり15万~30万VND(900~1800円)で毎日400~500着をレンタルしていたが、1月以降は毎日約1000着に急増している。
「お客様の求めるトレンドに追いつくために有名ブランドの新しいデザインのアオザイを常に仕入れて、お客様に新しい体験の機会を提供しています」とトゥイさんは話す。
1月末のハノイは10℃を下回るほどの寒さだったのにも関わらず、ハノイに住むホアン・ズンさん(26歳)は、ハーザン省のルンクー旗竿で記念撮影するためアオザイを持参した。ズンさんは1年以上前から旅行先にアオザイを持ち歩く習慣をつけている。その目的の一つはベトナムの民族衣装の美しさを広めるためで、もう一つはアオザイを着ることが大好きだからだ。
「衣装が天候にあってないと言われることも多いですが、自分が満足すればそれでいいと思います。寒ければ上着を羽織りますし」とズンさんは話す。
最近の若者の間で日常生活でアオザイを着るのが流行っていることについてメディア研究所のグエン・タイン・ガー博士は、これは良い傾向だと指摘する。アオザイはもはや伝統的な衣装と言うだけでなく、ファッションの一部になっている。革新的なデザインのアオザイは、結婚式、職場、同窓会、散歩など様々なシチュエーションで着られるようになっており、価格が学生向けなのも人気の理由の一つになっているとガー博士は分析する。
「伝統的なアオザイが体に密着したデザインで動きにくく、モデル体型の人にしか適さないとすれば、革新的なデザインのアオザイは、伝統的な特徴と現代的な特徴の両方を活かしながら、体の欠点を隠すスタイルになっています。」とガー博士は話す。
しかし、専門家はアオザイを着て仏社や史跡を訪問する場合には、適切なデザインを選び、露出度の高い服を避けるべきだと注意喚起する。「革新的なデザインは退廃的という意味ではありません。若者たちは自分のファッションを公共の場所で披露することはできますが、そのような厳粛な場所では露出の高い衣装は控えるべきでしょう」とガー博士は指摘する。
ここ1年ほどでアオザイが大好きになったと話すハノイ在住のミン・ヒウさん(22歳)は、最近のアオザイは革新的で現代的なデザインだが、いつでも何処でも着ていいわけではないと話す。ヒウさんにとってアオザイはフォーマルな衣装であり、厳粛な場所や特別な行事でのみ着るべき衣装だ。また、男性のアオザイについてもデザインが限定されており、女性向けのアオザイほど機能性が高くないので日常生活で着るのは適さないと話す。
「以前、グエン朝時代のアオザイの歴史と特徴を学ぶために古都フエを訪れたことがありますが、別に自分のアオザイを見せびらかしたかったわけではありません」とヒウさんは話す。ヒウさんは、多くの人がアオザイの意味も考えずにあちこちでアオザイを着た写真を獲っていることに不満を感じている。
出典:30/01/2024 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載