ホーチミン市8区に住むカイン・ヴィーさん(28歳)の弟が大学生になって、家族に起きた最も大きな変化は家での食事がなくなったことだ。
毎日午後6時から8時の間にヴィーさんの家族4人は、バラバラに外に食事に出かける。幼稚園に勤めるヴィーさんの母親は、同僚と食事に行く。銀細工の仕事をしている父親は、家で仕事をしているので夜になると何か食べに出かけて近所の人たちとおしゃべりをする。弟は20㎞ほど離れた大学に通っており、友達と食事してから帰宅する。ヴィーさんはイベント会社で働いており、外出することが多いので、外出先で食事することが多い。
「一緒に食事することが無くなっただけで、家族の関係は以前と変わらず良好です」とヴィーさんは話す。ヴィーさんの近所の家も似たようなもので、家で家族と食事するよりも外食の方が多いのは珍しいことではない。
南部よりもさらに家族での食事を重要視することが多い北部だが、ハノイに住むゴック・アインさん夫婦は、2歳の子供を連れて外食することを好む。朝食は、毎朝外で購入し、昼食と夕食は50~60%が外食だ。アインさんによれば5月1日から7日まで寿司、タイ料理、鶏料理、中部料理、中華料理など6回は家族で外食している。
「毎日3交代制で働いているので、疲れて家で料理を作る気力がありません」と皮膚科の医師であるアインさんは話す。
家族での食事の際は、子供を連れていきやすいショッピングモール内のレストランを選ぶことが多く、時にはSNSで人気のレストランに行くこともあり、1食あたり40~80万VNDで、月に800~1000万VNDを食費に費やす。
ヴィーさんやアインさんの家族のライフスタイルは、ベトナム人のライフスタイルの変化を反映している。レストランやカフェの管理ソリューションを提供しているiPOSが今年3月に公表したベトナムの外食産業レポートによれば、ベトナム人の外食傾向はより日常化しており17%以上の人が毎日外食すると回答し、週に3~4回外食する人も30%近くに達し、2022年の調査より大幅に増加している。経済不況もこの習慣にはあまり影響を与えておらず、2023年もベトナム人は外食に多くのお金を使っている。
2023年12月のGrabのレポートによれば、Grabのアプリを使って新しいレストランや料理を探すユーザーが増えており、50%以上のユーザーが何が食べたいかわからないときにGrabアプリを使用すると回答している。
Q&meの調査でも都市部の市民、特に高所得者層の外食が増加しており、36%の人がコロナ後に自宅で料理する頻度が減ったと回答している。
「一家団らんの食事が徐々に失われつつあります」と家族心理の専門家であるホン・フーン氏は話す。
ホン・フーン氏によれば、都市部では生活があわただしくなり、家族団らんでの食事の機会が失われつつある。仕事の忙しさ、プレッシャー、家族の生活時間が一致しないことなどが、家で家族で食事をとることを難しくしている。また、現代では、食事に対する考え方も変化しており、空腹を満たすために食事する人もいれば、健康的な食事を求める人やダイエットのために食事を抜く人もいたりする。
ハノイに住む料理研究家のブー・ティ・トゥエット・ニュン氏は、伝統的な市場に買い物に行って料理を作るのは”古い生活様式”だと指摘する。ニュン氏の子供や孫も外食が好きでよく外食に出かける。「簡単な料理ぐらい作ってみたら?」とニュン氏が子供達に尋ねると、「料理する時間がない」と子供達は答える。子供達が料理するときは、味付けされた食材を買ってきて、後は火を入れるだけということが多い。
国立栄養研究所のグエン・チョン・フン博士は、都市部の家庭にとって外食は当たり前の生活スタイルになりつつあるが、食品の安全生、衛生面でのリスクや食中毒の危険性なども高まっていると指摘する。
保険省傘下の食品安全局は、歩道などの屋台の食事の最大70~80%が下痢や腸疾患を引き起こす大腸菌などの細菌に汚染されていることが分かったと発表している。2023年には全国で125件の重大な食中毒事故が発生し、2100人以上が被害にあい、28人が死亡している。最近では、4月30日にドンナイ省のバインミー屋で発生した食中毒事故で568人が病院に搬送された。
外食と肥満、高血圧、糖尿病、癌などの発症には関連性があることが科学的にも証明されている。栄養研究所のデータによれば、ベトナムの子供の肥満率は10年後に2倍になると予測されている。
フン博士によれば、外食は塩分、油分、添加物の摂取が増え、体内のエネルギー摂取量をコントロールすることができなくなる。「外食もいいですが、自炊も心掛けてほしいです。自炊すれば体内に入る食品と摂取量を適切にコンとローすることができますから」とフン博士は推奨する。
外食する際には、店の食品安全衛生証明書を確認し、使用されている材料や調理環境、販売員が手袋をしているか、清潔な食器を使用しているかなどをよく確認するようにフン博士はアドバイスする。
「外食する場合は、揚げ物やミンチは何が入っているか判断しにくいので、素材をゆでたり蒸したりしている料理を選ぶのが無難です」と専門家はアドバイスする。
ゴック・アインさんの家族は、SNSの評判が良くて値段も安すぎない店を選んで外食しているが、それでも年に何回かは食あたりする。「外食が多すぎるのは良くないと分かっているんですが、仕事が忙しいので、外食はストレス発散になるんです」とアインさんは話す。
カイン・ヴィーさんの家族は、最近周囲で癌になった人が増えてきたことを不安に思っている。先月、ヴィーさんは癌キャンペーンの仕事でがん患者と接する機会があり、自分の食生活を見直すようになった。家族全員で自宅での食事を増やすという目標を設定し、まずは、週末の2日間自炊することにした。ヴィーさんは、料理教室にも通うつもりだ。
「私にとって料理は、少なくともコロナの頃のような状況を繰り返さないためにも必要なスキルです」とヴィーさんは話す。
出典:2024/05/13 VNEXPRESS提供
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