かつて庶民的な飲み物として親しまれてきたココナッツが、飲料から食品、医薬品、さらには化粧品まで幅広い分野に応用され、今やベトナムの「10億ドル産業」へと発展している。
身近な果実から高収入作物へ
ホーチミン市では暑い季節になるとココナッツの価格が急騰し、路上販売では1個2万ドンに達することもある。かつては1万ドン以下で買えた果物が、今では「高級品」になりつつある。
ベトナム最大のココナッツ産地ビンロン省(旧ベンチェ省)では、生産者の収入も大きく変わった。ココナッツ農家のグエン・バン・バイさんは5ヘクタールのココナッツ農園から毎月6,000個を収穫し、月収は約1億ドン(約60万円)に達すると話す。かつては不安定だった価格も近年は高騰を続け、生産者の生活を安定させている。
加工産業の発展が転機に
旧ベンチェ省の加工業者BEINCOのチャン・バン・ドゥック会長は「10年前まではココナッツは副業的作物で、収穫しても原料として中国やタイに安く売るだけでした」と振り返る。
しかし一部の企業が付加価値の高い加工品に投資し始めたことで状況は一変した。現在では国内原料が不足し、インドネシアなどから輸入してまで生産を続けるほど需要が拡大している。2024年、ベンチェ省のココナッツ関連輸出額は5億1,600万USDに達し、地域全体の輸出総額17.5億USDの3割近くを占めている。
世界第4位のココナッツ加工国に
ベトナムのココナッツ製品はすでに150カ国以上に輸出されており、特にココナッツミルクや缶入り飲料、オイル製品が成長をけん引している。
BEINCOは有機認証を受けた原料を農家と連携して確保し、EUや米国、中東など40カ国へ輸出している。ドゥック会長は「この勢いで行けばベンチェ省だけでも将来的に年間6〜7億USD、さらには10億USD規模に達する潜在力があります」と強調する。
同じく大手のBetrimexのダン・フイン・ウック・ミー社長は「2010年に2億8,000万USDだった輸出額は2023年には16億USDに拡大し、ベトナムは世界で第4位のココナッツ輸出国になりました」と語る。
農業と気候変動への強み
メコンデルタ産のココナッツは、豊富な栄養分と独特の風味で世界的に高い評価を受けている。加えて乾燥や塩害に強い特性を持つため、気候変動リスクの高い農業分野で有望視されている。
さらに、1ヘクタールあたり年間1万1,000〜1万2,000個を実らせる高い収量率は、インド(約8,000個)、タイ(約7,000個)、インドネシアやフィリピン(約4,500個)を大きく上回り、世界一とされる。
加工産業の拡大と課題
2015年にわずか8カ所だった近代的な加工工場は現在45カ所以上に増加し、輸出先も125市場へ拡大。加工品も40種類から数百種類に多様化した。
一方で、季節ごとの需要変動や原料供給の不安定さは依然として課題となっている。専門家は「農家と企業、政府が連携して持続可能なサプライチェーンを構築する必要がある」と指摘する。
世界市場は拡大の一途
世界のココナッツ産業は2023年時点で総額140億USD超、毎年2桁成長を続けている。中でもココナッツウォーターが57億USD、ココナッツ果肉が52億USDを占める。食品のみならず、医薬品や化粧品への応用拡大も期待され、今後数十億USD規模の成長余地があるとみられている。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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