ベトナム最大の国際自動車展示会「Vietnam Motor Show 2024」が10月23~27日、ホーチミン市7区のSECCで開催された。前回までの欧米高級ブランドが撤退して二輪とサプライヤーが初参加、大変化の年となった。
高級ブランドはまだ早い?
今年のVietnam Motor Show(VMS)は大波乱となった。BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、ボルボ、ランドローバー、ジープやモーガンなど、これまで参加した欧米の自動車メーカーが軒並み参加を見送ったのだ。これら高級ブランドに加えて、ヒュンダイ、起亜、マツダ、フォード、ビンファストなど国内シェアを持つ企業も出展しなかった。
報道の内容から察するに「割に合わない」のだろう。モーターショーへの参加は人、モノ、金が莫大に必要で、それでも投資するのはその市場でのリターンが期待できるからだ。つまり、ベトナムの高級車市場は形成前であり、VMSへの出展は時期尚早という判断。実際、トヨタは参加してもレクサスは取り止めた。
もう一つの変化はバイクメーカーと関連サプライヤーが出展したことだ。従来のベトナム自動車工業会(VAMA)とベトナム自動車輸入業会(VIVA)に加えて、ベトナム二輪車製造業者協会(VAMM)が初めて共催している。
出展したのはホンダ(四輪と二輪)、いすゞ、三菱、スズキ、トヨタ、スバル、ヤマハの日本勢と、四輪ではMG(英国)、初出場となるBYD(中国)、GAC(中国)、SKODA(チェコ)、GAZ(ロシア)、二輪はSYM(台湾)、ハーレーダビッドソン(米国)、UMモーターサイクル(米国)、トライアンフ(英国)、KTM(オーストリア)、ハスクバーナ(スウェーデン)で19社となった。
三菱とスズキでツアー開始
初日の10月23日に開催されたメディア向けのプレスツアーに参加した。ツアーの順に紹介すると最初は三菱自動車。ベトナム進出30周年記念として、アトラージュやエクスパンダーMPVなどに加えて、人気の小型CUVモデルXFORCEとピックアップトラックTRITONをアピールした。
色々な衣装で踊るダンサーたちが、VMSの新たな門出を祝うように踊り、会場はいきなりヒートアップした。
次はスズキ。ベトナムで最近発売されたXL7ハイブリッドと、小型オフロード車のジムニーを主力として展示した。
三菱自動車やスズキを含めた日系自動車メーカーのトップは英語でスピーチ。誰もがベトナム市場の重要性を熱弁しており、これだけでも日本車の存在感がアップしたと感じた。
AI搭載の近未来バイク
ヤマハはすごい気合だった。展示した全てのバイクにシートをかけて皆をじらし、一斉にシートを外して自慢のバイクを披露。社長の力強いスピーチの後、ステージでは純白衣装のダンサーたちが電動バイクのMOTOROiD2を紹介した。
「深化させた画像認識AI」によりダンサーの動きに合わせてバイクが動き、曲がり、停止する。その先鋭的なデザインもあって記者たちはびっくりだ。
続いて自立アシスト機能を搭載した電動スクーターELOVEが登場。低速走行時に車両のバランスを自動制御する機能があり、ライダーが「手放し運転」で実証していた。
どちらもジャパンモビリティショー2023で紹介されたコンセプトモデルだ。数多く展示された大型バイクと横に立つファッショナブルなモデルとともに、ヤマハを改めて印象付けた。
普段使いの地味モデル
街で見かけることも多い台湾のSYM。日系バイクメーカーと違った小さめのブースで、普段使いの女性向けスクーターやレトロで無骨な男性向けバイクを展示した。
ベトナム市場の戦略として、ホンダやヤマハと重ならない領域を狙っているようだ。意識したのかモデルが皆セクシーで、これも差別化の戦略か。
チェコEVは発売前の披露
チェコのSKODAを知る日本人は少ないだろうが、チェコ国内の自動車生産でシェア1位とか。VMS初登場で、電動SUVのEnyaqは2025年発売前のお披露目となった。
加えてKaroqやKodiaqなどの最新モデルは色とりどり、環境を意識させるグリーンのダンサーたちも上手で、他社と遜色のない展示内容だった。
コンセプトEVはこの1台
「Beyond Zero」を掲げたトヨタ。モーターショーでのコンセプトカーは自社の将来像をアピールし、VMS 2024のテーマは「ACCELERATE TO GREEN」なのだが、実はEVのコンセプトカーはトヨタの「FT-3e」だけだった。
これはジャパンモビリティショー2023で初披露されたEVで、話題の新型カムリなどハイブリッド車も展示。プレスツアーは1社15分程度の開催で、撮影場所の確保には早く次の展示企業に行く必要があるのだが、トヨタはいつも記者の集まりが早い。
四輪と二輪の両存在感
ホンダは極めて広いブースに四輪と二輪を展示。ステージで披露したのはハイブリッド車のシビック e:HEV、電動バイクのICON e:とCUV e:を初公開し、レーサータイプのバイクCBR1000RR-R Firebladeが異彩を放つ。
スピーチには日本本社の二輪事業統括部長の加藤稔氏も登壇。2014~2017年にHonda Vietnamの社長を務めており、ホンダのベトナム市場の重要性を語った。
ベトナムで発売されるシビックの概要や価格などが説明される間、二輪のブースを回って驚いた。とにかく広くて、小型スクーターからレーシングマシン、長距離用の大型バイク、初期のスーパーカブまで展示内容が半端ない。王者の貫禄だ。
世界展開する中国EV
いすゞは新型のピックアップトラックD-MAX、スバルはハイブリッド車の新型クロストレック SUVを前面に打ち出す。ベトナム市場に参入したばかりの中国GACは、中型MPVであるM6 Proやその上位クラスのM8等を展示。モデルの動きやショーの進行がスマートで、世界市場に近年展開ばかりとは思えない。やはり中国企業はEVだ。
ここまでがAホールの展示で、場所はBホールへと移る。
買いたい!EVスポーツカー
MGはEVのコンバーチブルCybersterをメインに展示。真っ赤なボディにロングノーズ、ドアが上方に開くガルウィングで、100台限定販売。スポーツカー好きのお金持ちなら即買いしそうなカッコ良さだ。
ベトナム初登場の新型モデルを含めて10台程度を展示しており、このくらいの台数は他社もあるが、ブースが広いせいで「勢揃い」というイメージだ。ダンスパフォーマンスも子どもが前面に出て踊るなど工夫が好ましかった。
巨体がその場で360度回転
中国の大手EVメーカーのBYDがVMSに初登場。MPVのM6やセダンのHanなど代表的な車種に加えて、話題のミニバンDenza N9とジャパンモビリティショー2023でも騒がれた電動SUVのYangWang U8をお披露目した。
YangWang U8はサイズが大きく、4つのタイヤそれぞれに組み込まれたモーターで1輪ずつを制御して車体を360度回転させる、「タンクターン」が圧巻だった。
中国製EVは欧米で締め付けられる一方、ベトナムはEVへの親和性が高い。中国自動車メーカーはベトナムに続々と進出しており、市場を食い始めるのは来年からか?
米国の若いバイクメーカー
バイクマニアの憧れハーレーダビッドソンは米国から直輸入した大型ツーリングモデルのCVO Road Glide STを展示。ホンダやヤマハと比較できないほどブースは小さく、ステージもダンスもないが、日系以外のバイクメーカーは同等の規模だ。
その中で唯一ステージでショーアップしてプレスを沸かせたのが米国のUMモーターサイクル。1999年にマイアミで設立された若いバイクメーカーで、125~300ccの中級クラスのバイクを開発している。サックスの演奏から始まるダンスと革ジャン姿で旗を振る様子は、まさにUSA!
多彩なサプライヤーも出展
バイクメーカーは電動バイクのNUEN MOTO(ベトナム)やWEDISON(インドネシア)、カスタマイズ可能なCleveland Cyclewerks(米国)なども出展。
Bホールには関連サプライヤーも多数出展しており、FIREBALL(カーコーティング)、GIVI(二輪アクセサリー)、HEVIK(ライダースーツ)、KMC VIETNAM(バイク部品)、Asia International Group(ヘルメット)、VIETMAP(デジタル地図機器)、AREON(カーフレグランス)など多彩な業種が揃っていた。
ゴーリキー自動車工場
プレスツアーの最後はロシアのGAZ。GAZとは「ゴーリキー自動車工場」の頭文字で、同国の老舗自動車メーカーだ。
商用車を生産しており、最新のディーゼルエンジンを搭載したNNシリーズのコンパクトバンGAZelle NNや小型商用車Sobol NNなどを展示。説明が長くてモーターショーに慣れていないようだったが、商用車メインはここだけなので穴場かも。
かつては世界5大モーターショーの一角を占めた東京モーターショーは来場者が減り続け、2023年にジャパンモビリティショーと改称、新しいコンセプトの下で再スタートを切った。同時に隔年開催から毎年開催へとサイクルを早める強気の姿勢で、今年は10月15~18日に開催した。
VMS 2024から高級車は抜けたが、二輪を加えたのは身の丈に合った戦略とも言える。次回は各社がどう動くのか、VMSの舵取りも楽しみだ。