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ベトナムビジネス特集Vol156
製造業5社に取材
工場ワーカー採用の今

新型コロナが収まり、生産規模が拡大する製造業で、工場従業員(ワーカー)の人手不足が深刻化している。
募集しても人が来ない、採用できない、給与は上げられない……その実際はどうなのか? 業種、地域、従業員数の異なる5社に取材した。

LOTTE VIETNAM

2021年初頭から採用難に
給与と残業が大きな理由

 今年3月から第2工場で新商品「ショコラ」の生産を始めるロッテベトナム(表紙裏の記事参照)。同じビンズン省にある第1工場では、主力商品のキシリトールガムなどを約250人が生産している。

 2016年2月に赴任した松岡氏は、2016~2018年はワーカーの採用は現在ほど難しくなく、2020年からの新型コロナでも退職者は少なかったという。

「家族型経営のためか従業員の平均勤続年数は長く、リーダーやマネジャークラスを中心に退職者はほぼいませんでした。潮目が変わったのは2021年初頭からです」

 新型コロナから回復して製造業各社が増産に向かい、揃ってワーカーの募集を再開した。給与を上げる企業が増えて、以前なら採用できた人材を取られていった。また、同社は1年に200時間の残業時間規制を順守しているが、稼ぎたいワーカーは残業が何時間でもできる企業に就職や転職をしていったようだ。

「1日8時間労働として4時間残業すれば1.5日分となり、残業手当も付く。基本給を多少高くしてもその金額はカバーできません」

 2019年までは必要に応じて募集していたが、現在はワーカー職は常時募集。それでも1回で集まる人数は減ってきた。また、同社のワーカーのおよその男女差は女性7割、男性3割だが、退職者は男性が多いそうだ。

「ガムをシロップでコーティングするような技能職の職場では仲間意識が高く、退職率は低い。一方、体力仕事の職場では退職率が高いですね」

工場での作業風景

安全な食事を無料で支給
第2工場のような機械化を

 募集の方法は工場前の看板、Facebook(SNS)、求人雑誌、社員の紹介など幅広いが、効果的なのは看板と社員による親族や友人の紹介だ。

 募集要項には給与、勤務時間、福利厚生などを載せるが、福利厚生には「安全な食事を無料で支給」もある。味ではなく安全であることを強調し、朝5時から始まる早番にも食堂で朝食を提供。食事は大切な要素と考えている。

 ビンズン省には工業団地が増え、住みやすいと人口も増加しており、ほかの地域に比べて採用は良いほうだという。また、同社のワーカーの85%は近隣の居住者で、いわゆる田舎からの出稼ぎは少ない。そのため、新型コロナで田舎に帰ったまま戻らないケースはほとんどなかった。

「それでも採用は厳しくなり、最も重視されるのは給与。他社の給与の上昇、残業規制の問題、豊かになった生活からも、採用難はしばらく続くと思います」

ワーカー募集用の看板

 今後は省人化のための機械化を段階的に進める。実際、最新の第2工場では半生菓子を生産することもあって機械による自動化を推進した。ワーカーも単純作業と技能職のほかに機械を操作するオペレーター職を増やし、1人当たりの生産性を高めていく。

「食品を扱うため、従業員の質は落とせません。人材の争奪戦で無理な採用はせず、本当に困ったらほかの部署が総出で対応すれば良い。そして、弊社を好きな社員を一人でも増やして、社員ひとり一人を大事にしたいですね」

Tri-Viet International

進出してから採用には困らず
生産性の高い社員から紹介も

 野球、アイスホッケー、ラクロスなどスポーツ用グラブのODMメーカー、トライベトインターナショナル。設立は2007年で従業員数は約1000人。2011年4月に赴任した中村氏は設立当初からワーカーの採用には困っていないと語る。

「十分な人口があり、大企業との競争を避けて選んだ地がカントーでした。確かに近年では外資系企業も増えて工業団地が埋まり、人材獲得は難しくなっていますが、弊社への影響はさほどありません」

 進出が早かったアドバンテージがあり、現在は地元に根付いたマネジメントが評判となって人気度が上がり、自治体や政府との関係も強固となっている。ただ、年々コンプライアンスは厳しくなっており、工場監査などもあるため、上限を超える残業はできない。

 対策として、各工程にターゲットを設けてインセンティブでの報酬を採用し、残業分を生産性の向上でカバーできるよう工夫している。残業計画も生産性の高い作業者のみに限定しているため、皆が向上心を持って作業してくれている。優秀な従業員から親族や友人を紹介してもらって雇用するのも一つの手法だと言う。

 募集の方法は社員の紹介と看板が多い。従業員が募集要項を載せた看板の写真をSNSなどのコミュニティに上げることも多く、紹介と口コミが中心だ。

「従業員に出稼ぎはいなくて地元の人がほとんど。それがカントーの強みです」

工場での作業風景

優秀な頭脳が作り出す魅力
課題は新人工員の早期戦力化

 ワーカーの男女比は約6割が女性で、退職率は男女で差がない。また、同社の離職率は約2%と低い。ただ、試用期間である最初の1ヶ月内の退職は含めず、正規契約となった後の比率だ。本雇となった社員を大切にしている。

 テト前の式典では従業員ベスト10を表彰して現金などを渡し、テレビやスマホが当たるラッキードローも開催。ほかにも誕生会、遠足、スポーツフェスティバル、実家への家庭訪問、スタジアムでの野球など多くのアクティビティがあり、これらは主に地元のカントー大学を卒業したいわゆる地頭の良いマネジメント層が考えている。同じ地元の住民が喜ぶ内容を熟知しているからだ。

「募集要項には給与などの基本情報に加えて、福利厚生やアクティビティの内容を細かく書いています。お金が目的なら転職も仕方ありませんが、給与以外の要素でも引き付けたいです」

 外資系企業が増加し、給与を上げる企業が増えれば、全体の給与相場が上がってしまう。しかし、人件費を抑えるためにカントーを選んだ企業が多いので、現時点での心配はないようだ。現在の課題は採用後の早期戦力化とのこと。

ワーカー募集用の看板

「コロナからの回復と増産で新人の割合が30%超となり、計画通りにアウトプットが上がりません。特殊な工程が多く熟練の技術が必要になるので、採用後半年から1年でやっと通常の生産性になるからです。課題は採用後ですね」

 同社は通年採用をしている。離職率2%の補充と増産のための増員だ。新型コロナの落込みから回復して来期はさらに増産を見込む。人手がますます必要になりそうだ。

MARUBENI LUMBER VIETNAM

日本滞在中に状況が急変
新たな手段のバス送迎策

 日本から輸入したヒノキを材料に、木製の家具や玩具を約100人で生産している丸紅木材ベトナム。2018年にクイニョンで工場を竣工し、ワーカーの採用を開始した。最初に機械の試運転で15人を募集すると集まったのは約70人。給与は高くしたわけでもなく、今でも働く人がいる。

「今の工業団地に最初に入って、周囲に工場が数件ある程度でした。日系企業への期待もあったと思います」

 2018年末には約50人に増え、2019年も従業員を順調に増やした。変わったのは2021の初めからだ。新型コロナが収まって増産を始めた企業が増え、近隣だけでなくほかの地域に転職したワーカーも多かったようだ。

 また、新型コロナの影響で瀧本氏は2020年8月~2022年4月に日本に滞在しており、リモートで工場を見ていた。その間に周囲に工場が増え、国内の観光地としてクイニョンが注目されてホテルやレストランが続々と開業していた。戻って驚いたという。

「木工業界は電子部品、食品加工、縫製などと比べてキツイ仕事だと言われ、サービス業は給与は高くなくても、木工業と比べて仕事が楽だと思われがちです」

 2021年4月には募集時の給与を上げたが効果は薄く、2022年の3~6月は環境が悪化。1週間で20人の履歴書が届き、約半分が入社後の1~2日で辞めて、1週間で残るのは3人ほどだったという。そこで工場から車で1時間半ほどの地域の人たちをスカウトし、レンタルしたバスで送迎することにした。

「労働局のハローワークのような部署に声をかけるとかなりの人数が集まりました。募集で効果が高いのはFacebook、労働局、社員の紹介の順で、定着率は社員紹介が一番良いですね」

工場での作業風景

日系保険の周知を徹底
掲示板で評判をアピール

 同社の給与は特別高くないが、ノルマなし、食事付き、残業時の軽食、飲物の提供などのほか、日系保険会社による24時間対応の傷害保険を付けている。特に日系の保険はローカルや外資系企業にもないメリットだろうが、ワーカーが使い方を知らなかったため、総務部を通じて周知を徹底させた。

「保険は怪我や病気になった人でないと有難味がわからない。だから余計に給与額に魅かれるのです。弊社には地元の人が多いので残業を嫌う傾向があり、給与と残業時間を気にします」

 ワーカーの男女比は女性が6~7割。木材を切断するなど力仕事は男性で、小さくなった材料を磨き、組み立てるのは主に女性だ。離職率は10%ほどで、退職する率は男性が少し多いようだ。

 国際港を持つ工業都市かつ観光地としても発展するクイニョンで、今後の人材獲得は激化が予想される。また、経済成長が続くベトナムで「第3次産業への流入は確実」と瀧本氏は考える。

「給与だけでは戦えないので福利厚生を充実させ、少しでも自社を好きになってもらうようにする。生産した商品が海外でニュースなどになれば、少しでも仕事にやりがいや誇りに思っていただきたいという思いから、それを翻訳して社内掲示板に載せてもいます」

社内掲示板に掲載した海外でのニュース

 一方では機械化を進める。現状の人数で生産量を倍以上とするのが目標で、そのため新たにゼロベースで各作業を見直していく。

Nissin Electric Vietnam

業界内では大手企業
社員主導の福利厚生も

 2005年にバクニン省に設立された日新電機ベトナム。分野を問わない装置部品の板金、溶接、切削、塗装、組立てまでを広く受注し、2020年からはPVDコーティング事業もスタートした。現在は4つの工場で500人強のワーカーが働く。

 男性従業員が全体の約75%を占めて主に板金、溶接、切削などを担当し、女性は後工程の検査や組立てが多い。

「2011年に赴任し、この年は約100人で事業を始めました。これまでワーカーの採用に困ったことはほぼなく、募集するとすぐに集まります」

 ベトナムの工場では女性ワーカーの比率が一般的に高く、ニーズもそれだけ上がる。一方、同社では板金や溶接など力仕事となる作業が多いため、募集の対象は主に男性となる。男性ワーカーとの需給が合致しているようだ。

 この業界は比較的規模の小さい企業が多い中、同社には500人を超えるワーカーがおり、そのうち溶接ワーカーは約150人。設備面でも切断加工機約20台、機械加工機約15台を所有するなど、大規模なビジネスを行っている。また、福利厚生も充実しており、応募する側からは安定や信頼を感じるだろう。

「量産品のライン生産ではなく多品種のオーダーメイド生産なので、職人を育てる必要があります。そのため、社員を大切にするというのが弊社の基本方針です」

 例えば、社員旅行は従業員の希望から内容を決め、社員自らが食事を作る食堂では皆の意見を聞いてメニューを考える。年1回のパーティでは、社員の家族も招待して子どもたちの工場見学会も開催、父親や母親がどんな仕事をしているのかを見せている。定期的な労使懇談会で組合と話しても大きな不満は出ないという。

工場の作業風景

会社と仕事を写真でアピール
大切なのは社員教育と研修

 Facebookやローカル求人サイトでも募集するが、効果的なのは工場前に貼る大きなポスター。大量採用の場合は3m×1.5mほどのサイズになる。

 ここに給与など基本情報のほかに作業風景、社内パーティ、社員旅行などの写真を載せて、会社を広く紹介している。他社はA3やA4サイズで簡単な内容というから、かなりの差別化ができているようだ。

ワーカー募集用のポスター

 工場内には常に500~600種の製品が流れており、2~3ヶ月の短納期なので、生産管理とそれに伴う社員教育が重要になる。また、毎回違う図面による作業なので、ワーカーは単純作業から少しずつ覚えていく。そのための研修や現場でのOJTを実施しており、3年が過ぎたワーカーは定着するという。

「新型コロナで初めて不況になりましたが、これまで事業は順調に伸びてきて、生産と採用の調整はできていると思います」

 ワーカーの約7割が工場周辺のアパートで共同生活をしている。こうした従業員と自宅から通う従業員に離職率の差は感じず、男女差による離職率も同じだそうだ。

「バクニン省には大手製造業もあり、女性ワーカーの採用が難しいという話は良く耳にします。ただ、弊社の場合は今後も問題ないと思います」

Nomura Fotranco

製造業にサービス業も増加
近隣の人たちを中心に採用

 日本向けの作業服、ドレスシャツ、スクールシャツなどの縫製工場で、1997年に設立された野村フォトランコ。ワーカー数は下請け工場を含めて約1400人で、自社工場の約1000人を直接採用している。

 2020年1月に赴任した横山氏は、新型コロナ期は特別かもしれないが、採用が難しくなり、特に応募数が減っていると語る。その理由として工業都市のハイフォンには電子機器や輸送機器など多くの業種の工場があることと、イオンモールが開業するなど商業化によるサービス業の増加を挙げる。

「電子機器などは多少給与が高い企業があり、店舗の店員などへの就職や転職も増えているようです。縫製業は多くなくても小さい工場はまだまだあり、こちらも競合になります」

 創業当初はハイフォンでも給与が高かったようだが、多くの産業が進出する中で相対的に同等となり、無理な引き上げもできない。残業については納期の厳しい時期には頼むが、逆の場合は現状で対応してもらう。以前からこのスタイルなのでワーカーは納得しているそうだ。

「ミシンかけなどが仕事なので女性が9割以上で、25年が経ちますから平均年齢は30代後半です」

 進出して四半世紀が経つためか離職率は低く、その理由には地元住民に絞った採用がありそうだ。昼休みに自宅に帰れるほど工場近くに住む人が多く、しかも工業団地内ではなく中心部から少し離れた場所にあるため、地域と企業が一体となっているようだ。

工場での作業風景

状況に合わせた生産体制
熟練工に頼らない機械化

 募集の方法は社員からの紹介がメイン。看板やFacebookも使っているが効果が薄いという。紹介されるのは家族や親族が多く、面接で不採用となることはほとんどないそうだ。給料以外ではテト、メーデー、中秋月の手当て、年2回の健康診断、社員旅行など福利厚生も伝えている。

 それでも給与額が一番重視されるようで、こんな例もある。同社の通勤圏内に給与が高く、残業も多くできる香港系企業があり、ワーカーが転職した。しかし、時々の受注量によって採用とリストラの波があり、同社に出戻りした事例もあったそうだ。

「今後も大きくは変わらないと思いますから、状況に合わせた生産体制を作るしかありません。コストをかけても新しい設備をトライアルで入れて、徐々に台数を増やして省人化を進めたい」

 例えば、生地を切る高度な裁断機を導入して、熟練工に頼らずそれ以上の精度を出し、かつワーカーが減っても生産に影響しない体制を整える。現在でも技術者のアドバイスを集めて生産性を上げ、不良を少なくし、場合によっては外注を使うなども進めている。

 タインホア省には2008年に設立した兄弟会社の野村タンホアがある。同じ縫製業で、自社工場で約500人が働く。こちらの採用はさらに厳しく、工業団地内にあって、同業種の工場が近くに数社あり、転職されやすい環境だそうだ。

「設立当初は知りませんが、ベトナムは確実に豊かになっています。無理な仕事をしなくてもある程度の生活水準が保てる中、条件は難しくなってきています」

パソコンでの作業内容確認