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ベトナムビジネス特集Vol131
元駐在員たち 各国から見たベトナム論

ベトナムから日本へ帰任、あるいは他国に赴任した元駐在員たちに、その国とベトナムとを比較してもらった。新型コロナ対策、仕事の仕方、暮らしやすさ……当地を知り、他国に住む彼らだからわかる「ベトナムの姿」を紹介する(情報は全て取材時)。

時事通信社
前ハノイ支局長 冨田共和氏

日越で違う新型コロナ対策
差を生んだのは何か?

 2015年から2019年までベトナムでハノイ支局長を務めた冨田氏。記者として主にベトナムの経済、政治、日系企業の動向を取材し、日本の読者に届けていた。ソウルにも駐在経験があるが、ベトナムのほうが忙しかったという。

「ベトナムでは韓国と違い、現地日本人向けニュースレターの『時事速報』に関する作業があったからです。本社から来ている日本人は私1人でしたから、いろいろ苦労しました」

グエン・スアン・フック首相との会見後の記念撮影(2018年)

 昨年2月に新型コロナ感染が確認された頃は、日本よりベトナムが心配だったそうだ。日本に比べて医療体制や治療水準に差があり、医療機関の数も多くはない。蔓延したら大事だと思ったのだ。

 一方、日本が感染拡大を阻止するのは難しくないはずだと考えていた。海外からの入国者を制限すれば、島国の利点を活かして感染者を抑えられるからだ。しかし、この水際対策で成功したのはベトナムだった。

「中国の春節の時期に入国制限をしなかったのは、インバウンドに支えられていた観光業に配慮したためでしょう。加えて、オリンピック開催前に不安を煽ることを避けたのかもしれません」

 ベトナムの出入国制限、感染者の隔離や追跡が徹底していた一方、日本ではこれらが後手後手に回って感染者が急増し、今年1月には2回目の緊急事態宣言が出された。日本にいる冨田氏は、1回目の緊急事態宣言後と比べて、日本人の緊張感がなくなったと感じている。

「歴史的な背景が大きな理由だと思いますが、日越の根本的な差は『国と国民を守る』という危機管理意識だと思います。感染が拡大すれば甚大な被害を受けると思うから、ベトナムは迅速に徹底的な対策を実行した。日本の政府も政治家も、意識を変えたほうが良いと思います」

現地メディアに掲載されたインタビュー記事(2016年)

先入観はやむを得ないが
現実との差は自分で埋める

 ベトナム時代を振り返って思うのは、外国人にできることには限りがあること。冨田氏の仕事で言えば、ニュースの対象は日本人に関心のある分野で、経済関係と日本企業の動き、現地の法制度では労働法や賃金関係などが多くなるという。

 そのため全てを知ることなどできないが、ベトナム時代は感じたのは、一般市民が明日の暮らしや国に対して希望を持っていたこと。2015年の着任なので、国全体で可処分所得が上がり、生活にゆとりが出始めた時期でもあった。

「帰任して感じるのは逆で、日本社会にある閉塞感です。日々の暮らしや未来を考えると、見通しが暗いと感じる人のほうが多いと個人的に思います」

 韓国時代も感じたが、ベトナム人は外国人に親切だそうだ。それは東アジアの人の考え方の特徴である「身内」と「他人」の意識に起因するという。家族や友人、同窓生や先輩・後輩などは身内、それ以外は他人であり、これが人間関係の元となっている。

 家族や一族の利益を最大限にするのが行動の基本で、他人とは利害関係や損得勘定が生まれる。しかし、異世界から来た外国人は自分たちと直接の損得関係がない存在であり、そうした相手に市井の人は優しい。

「外国人にとって、特にベトナムのような言葉の通じない国の人とどう付き合うか。私は相手の国を好きになることだと思います。思っていることは話さなくても伝わるもの。言葉ができない分だけ知ることは限られましたが、それを前提にベトナムを好きになろうとしました」

日越交流事業で日本へ留学する高校生の壮行会(2018年)

 そこで障害となるのが、日本人の「根拠のない先入観」だという。例えば、「ベトナム人は手先が器用で勤勉」と言われるが、そうでない人も当然いて、どこの国でも同じことだ。現実とそぐわない先入観に気づいたら、自分で頭を切り替えて、真実の姿を見る。

「ベトナムの悪口を言う人もいますが、それは当人にも、組織にも、ベトナム人にも、日越関係にも不幸なことです。先入観はやむを得ませんが、修正はできます」

1人1人が日の丸の代表
快適な暮らしができるはず

 現在の日本とベトナムの関係は良好と言える。加えて冨田氏は、「日本や日本人に対して、甘く対応してくれるところがある」と語る。本来は厳格に適用されるルールの枠を、友好関係にある日本人にはある面では緩めてくれるような対応だ。ただし、ベトナム側の厚意に甘えたり意図を誤解して、社会通念や道徳的に褒められない行為をするのは問題外だ。

「ベトナムに日本人は増えましたが、1人1人が日の丸を背負った代表です。自分が規律ある行動をしていれば、ベトナム側の対日感情もさらに良くなるのではないでしょうか。ベトナムを好きになり、現地の人との信頼関係ができれば、本社の締付けが厳しくない環境で快適な生活ができます(笑)」

 これからも日本で、ベトナムの情勢や日越関係に注目していきたいという。冨田氏は昨年の年明け、新型コロナ禍前にハノイを訪れた。再度の旅行を考えていたが感染が拡大し、難しくなってしまった。会いたい人も聞きたい話もあり、非常に残念に感じている。

ハノイ中心部の様子(2015年)

「日本ではベトナムからの技能実習生や留学生が大変苦労しています。働く場や生活の場を失い、犯罪に走る人もいる。ベトナム人から日本がひどい国と思われないか心配です。私にできることは少ないですが、何らかの努力をしたいと思っています」

エスコンサルティングベトナム
代表取締役社長 樋崎康彰氏

限られた環境で業務推進
しっかり聞いてじっくり判断

 日本では上場企業に常駐してCFO補佐や経理責任者を務め、事業再生やM&Aの支援業務にも携わっていた。その後、2013年にエスネットワークスベトナムにGeneral Managerとして赴任し、2016年にはDirectorとなった。

「私の目標は海外に住んで働くことと、経営者になることでした。ベトナムのホーチミン市にだけに子会社があり、両方ができる環境がありました」

ベトナムオフィスの様子

 ベトナムで当初は個別案件を担当していたが、マネジメント、営業、組織の仕組み作りなど幅広い業務に関わっていく。そんな中で感じたのは、日越でのわかることやできることの差だ。

 日本ならば知識の吸収も現場での実務も可能だが、環境や言葉が違うベトナムでは限られる。例えば税務調査の対応やライセンス取得などが直接できず、スタッフからの報告を照らし合わせると、不具合が見つかることもある。

「会計はどの国でも基本的な理論的背景は同じなのですが、ルールは国ごとに多少の違いがあります。ここを理解しないと仕事を進められないので、辛かったですね」

 しかし、比較的うまく順応できたと振り返る。例えば、スタッフ同士で意見が分かれた場合は、一方が100%正しいなどまずなく、双方に理由があるものだ。だから、理論的に結論を出すよりも、我慢強く話を聞きながら、ゆっくりと判断を考える。この繰り返しの中で、ベトナム人は理解できればきちんと動いてくれ、それはマネジメント次第、経営者次第であると知る。

 この手法もあってか、スタッフは赴任時の約20人から約70人に増え、売上は約4倍になった。

ベトナムオフィスで打合せ

3年前からバンコクに駐在
対策はタイよりベトナムが上

 2018年4月からは2017年設立のタイ支社に駐在。以前から出張ベースで訪れており、本格的なサポートが目的だが、ベトナム代表の立場は変わってない(現在はエスコンサルティングベトナムの代表)。2015年にシンガポール、2019年にはフィリピンに拠点を設立し、海外拠点の総スタッフは100人強に増えた。マレーシア、インドネシア、ミャンマーも進出の候補先だ。

 樋崎氏はホーチミン市、ハノイを担当し、バンコクへ。東南アジア全体を見るようにもなり、今後は各国の拠点長を育てていく方針。バンコクに住んでほぼ3年、ベトナムと同様に日本人にとって住みやすい場所と感じている。

「鉄道網が拡大し、駅中心の街作りも始まっています。既に車社会ですし、ベトナムの20~30年先と感じます。ただ、物価が高いのと、ベトナム人のほうが真面目に働くイメージがありますね(笑)」

 新型コロナ感染では、バンコクでは昨年3月下旬から行われたロックダウンにより市中感染者が減り、生活は落ち着いたそうだ。しかし、昨年12月から感染者が増え始めると、以前ほど厳しくはないがスポーツジムやマッサージ店は営業停止、飲食店は時短営業となった。ビル入室時にはスマホでQRコードを読み取り、行動履歴を残す仕組みもある。感染が確認されたら行動ルートを辿って、訪問場所の消毒や接触者の追跡をするためだ。

「タイ政府の対策はしっかりしており、市中感染者が出なかった時期でもタイ人はマスクをしていました。しかし、順位を付ければ一番がベトナムで、タイ、日本となるでしょう。日本はようやく法整備に動きましたが、民意への期待だけで1億人以上を抑制するのは理想論でしょう」

 ベトナムとタイの都市部で暮らして思うのは、東京は巨大都市だがバンコクも十分に大きく、人間関係が希薄になりがちなこと。一方、ホーチミン市はまだ住む人の顔が見えて、良い意味で村社会であり、日本では味わえない日常があるという。

「バンコクはショッピングモールがとても多いですが、外観は違っても中のテナントは同じチェーン店ばかり。ホーチミン市はもう少し発展途上で楽しく、私の思い入れがダントツに強い街です」

タイオフィスの様子

成長させてもらったベトナム
日本人ビジネスマンは幸運

 樋崎氏は当初はベトナム赴任を躊躇し、香港かシンガポールを希望していた。ベトナムではその先のキャリアが見えないと感じたからだ。しかし今は、「120%行って良かった」と断言する。今後も20年は伸びていく国であり、それは1人当たりGDPからも推察できるそうだ。

 ベトナムの約3500USDに対してタイは7000USDを超え、バンコクでは1万USD以上とされる。このレベルまでの経済成長は約束されており、人口、労働市場、国内市場、優秀な人材、海外からの投資がそれを裏打ちする。

「他に選択肢がなかったことも来越の理由でしたが、ベトナムの5年弱で本当に成長できたと感じます。香港やシンガポールだったら無理でした」

 樋崎氏との取材はベトナム滞在(隔離期間)中にリモートで行われた。この後でバンコクに戻って2週間の隔離、3月には海外赴任を終えて日本に帰任し、再び2週間の自主隔離となる。

「スタッフともお客様とも仕事の9割以上がオンラインで、いわば隔離中と変わりません。メールとビデオ会議、たまに資料作り。アフターコロナの仕事スタイルを自然に身に付けました(笑)」

社員旅行でフーコック島へ(2019年)

 ベトナムは企業も駐在員も活躍できる国で、事業を丁寧に運営すれば結果は出るはず。現在のホットなベトナムにいる日本人はラッキーだと最後に語った。

日鉄エンジニアリング ベトナム支店
元支店長  千葉秀造氏

多様性の中の統一が国是
国民共通の価値観に差

 2012年4月、開設されたばかりのベトナム支店(駐在員事務所)に赴任。製鉄関係のプラント、環境系の廃棄物発電プラント、エネルギー系では石油・ガスプラントなどの市場調査をしていた。現地での課題を情報収集し、現場に出向き、関係者と面談。プロジェクトになれば本社を動かす。

「誰でもそうだと思いますが、海外初赴任の地は印象深く、ベトナムには多くの思い出があります」

来越したサンフレッチェ広島監督(当時)の森保一氏と(2014年)

 2015年6月に日本に帰任し、新規事業や海外事業を担当。事業子会社で新しいビジネスの立案や海外進出の支援をした。そして2018年4月、第2の赴任先としてインドネシアのジャカルタに渡る。

 仕事はベトナムと同分野の市場調査だが、インドネシアには1960年代に進出しており歴史が長い。スタッフの人数も増えたが、今はプロジェクトの動きがあまりないという。昨年の4~5月から新型コロナの影響が大きくなり、内需が停滞してきたからだ。

 インドネシアは新型コロナの感染者数が累計100万人を超え、死者数は累計約3万人、どちらも東南アジアで最多だ(取材当時)。現在でも経済への影響は大きく、出社制限なども行われている。

「飲食店は時短営業、商業施設は収容人数の25%など人数制限があります。私はサッカーが趣味で、ベトナムでも日本駐在員チームに入っていましたが、現在では屋外であってもスポーツ施設が利用できません」

 しかし、対策の規律を順守するベトナムとは異なり、ジャカルタでは多くの人が普段と変わらない生活だという。マスクをしないで出歩き、パーティを開く人もいて、「違う意味での『多様性の中の統一』を実感させられる」と語る。

 「多様性の中の統一」とは、地域によって文化、宗教、言語が異なり、これらが混在した国であるインドネシアの国是だ。約2億7000万人と世界4位の人口を持つ国であり、国土は1万8000もの島々で構成されている。

「仕方のない面もありますが、政府の方針が二転三転するケースがあり、皆が好き勝手に行動しているイメージを受けます。多民族国家でもあり、国民に共通した価値観があまりない。逆にベトナムは政治体制も含めて価値観が近いので、団結できるのではないでしょうか」

インドネシアでの社員家族旅行(2019年)

製造業はベトナム人向き?
組織の継続にも国民性

 とはいえ、インドネシア人は性格が非常に明るく、フレンドリーな人が多いという。宗教ではイスラム教が約80%を占めており、その互助精神のためなのか、外国人に対しても親切だそうだ。

「ベトナム人との共通点は家族を大切にすること、SNSやインスタが好きなことですね。オーナー企業がスピーディに物事を決めていくのも似ています。ただ、こちらは儲かると思うと事業のシナジーを考えず、自社と関係ない仕事でも始めます(笑)」

 インドネシアはタイと並んで、自動車産業など東南アジアの一大生産拠点。しかし、製造業の現場においては「圧倒的にベトナム人のほうが向いている」と考えたそうだ。真面目で、器用で、根を詰めて作業できる忍耐力もあるからだ。

「ベトナムの祝日は少ないですが、インドネシアでは公認された宗教別の祝日もあり、年間の休日が多いんですね。イスラム教特有のお祈りやラマダン、ラマダン明け大祭休暇、政府指定の有給取得奨励日等もあり、生産現場でのご苦労は多いと思います」

 別のエピソードも話してくれた。ジャカルタにはインドネシア最大の日本人コミュニティ「ジャカルタ・ジャパン・クラブ」があり、日本商工会議所と日本人会の役割を担っている。千葉氏もかつて役職に就いており、ここでの活動でベトナムとインドネシアとの差を感じたそうだ。

「それは、ベトナムではポストで動くが、インドネシアでは人で動くということです」

 千葉氏はベトナム時代のJCCH(ホーチミン日本商工会議所)を思い出す。各国の日本商工会には定例会合があり、JCCHで代表的なのはホーチミン市人民委員会とのラウンドテーブルだ。こうしたイベントは定期的かつ継続的に行われるが、ポストではなく人が重視されると、担当者が変わった場合に継続が難しくなる。

「駐在員は概ね2~3年で赴任地が変わります。周囲に過去を知る人がいれば様子はわかりますが、そうでないとやったりやらなかったりなどを繰り返す可能性もあります。そのため、事務局を軸にして他所との関係性を保てる、定期的な場を作るよう努力しました」

インドネシア国税総局長との面談(2020年)

ベトナム駐在経験者は
今でもベトナムが好き

 インドネシアにはベトナム駐在の経験者による「ベトナム・インドネシア会」があり、メンバーは40~50人と多い。千葉氏は幹事をしている。

「住めば都でどちらの国も楽しいですが、どちらかを選べと言われたらベトナムを選ぶ人が多いと思います。私もそうです」

 新型コロナ感染が広がり始めたころ、皆で笑い話をしたそうだ。ジャカルタからベトナムへの直行便が運休し、「泳いでも行きたいなあ」と誰かが言うと、「それだとハノイ好きはちょっと遠くなるぞ」と返された。

「お互いに大変な時期ですので、共に体に気を付けて、現地で頑張りましょう。ビジネスでは最近、中国や韓国などの競合が増えているのは同じだと思いますので、ぜひ日本のパワーを出したい。大好きなベトナムを満喫してください」

ベトナム支店開設式の記念写真(2012年)