米国、カタールに続いて2015年にベトナムに赴任した門脇恵一氏。2016年に現地法人化したベトナム三菱商事で幅広い事業を手掛ける一方、JCCH(ホーチミン日本商工会議所)の会頭としてビジネス型への意識改革を進める。
変化するベトナムで貿易と投資
―― 現在、注目している分野はどこですか?
門脇 貿易では石油、水産加工、コーヒーなどの農産品、繊維、化学品や機械などを扱ってきました。それは今でも変わらず、投資では最近はよりベトナムの消費市場に注目しています。具体的には都市開発、リテール、自動車などです。
都市開発は、北部の本店では地場大手デベロッパーと組んでプロジェクトを進めていますが、ホーチミン市にも4~5の案件があり、北部と同様の住宅開発と交通インフラを絡めたプロジェクトが主です。
―― 交通インフラを絡めたプロジェクトとは?
門脇 交通インフラ周辺に住宅施設、商業施設、駐車場などを作って地域を発展させるのは、日本ではよく見られる光景ですが、実は世界的にはあまり多くないんですね。私たちに求められているのはまさにそのノウハウで、地場の大手デベロッパーと組んでグランドデザインを描き、実際の開発を進める予定です。
リテールはあまり具体的なことが話せないのですが、三菱商事が出資している企業と組んだ展開を検討しているところです。自動車はグループ企業の三菱自動車で、ミツビシ・モーターズ・ベトナム(MMV)が今年から「アウトランダー」の現地生産を始めました。新工場を建設する計画もあり、弊社もサポートしています。
―― 投資は他にどのような分野にしていますか?
門脇 加工食品や水産養殖、樹脂やバッテリーの製造、衣料品、エレベーターなど幅広く、合計で15社程度の日系企業とベトナム企業に出資しています。原料を調達したり、販売を手伝ったり、あるいは経営面でご相談に乗るなど、様々な形でサポートをしています。
ベトナムでは貿易も投資もその対象が変化を続けており、輸出型だけでなく国内需要への対応が増加しています。
―― 門脇さんは石油に長く携わってきましたが、ベトナムの石油事業はいかがですか?
門脇 実はベトナムはアジアでも有数の産油国でして、しかも割合質の良い石油が出ています。そのおよそ3分の1を国内で消費し、残りは輸出しています。国内分は中部のズンクワット製油所に送られて精製されており、また北中部のニソン製油所ではクウェートから輸入した石油を精製しています。もう1ヶ所製油所ができれば、国内需要を十分に賄えるようになると思います。
ベトナムのエネルギー事業では、石炭やLNG(液化天然ガス)を使った火力発電を検討しています。LNGは将来有望ですので、輸入から火力発電所の建設までを一括して受注したいと考えています。
JCCH会頭として進めること
―― 4月から2期目のJCCH会頭となりました。
門脇 名称が4月にJBAHからJCCHになり、会員企業数も980社(7月27日現在)と1000社はもうすぐです。上海、バンコクに次ぐ世界3位の規模であり、会員の増加率や加入率、イベント数では、世界で一番活発な商工会議所ではないかと思います。
1期目に目指したのは事務局の強化と同時に、「実利ある商工会」にすることでした。そのため現在まで事務局に2人を採用して部会長などの負担を減らし、合同部会や「ふらっとJCCH(BAH)」というイベントを始めました。
合同部会とは同業種が集まる部会同士を掛け合わせた、いわば異業種交流会です。例えば、製造業のバリアブンタウ部会とサービス業のサービス部会が一緒になって話し合うなど、最大で4部会の合同がありました。ふらっとJCCHは会員同士のビジネスマッチングが目的の集まりで、本格的なスタートとなった3回目では部会の枠を超えて114人が参加しました。どちらも好評で、今後も続ける予定です。
―― 今期はどのようなことを考えていますか?
門脇 前期をソフト面の充実とすれば、今期はハードを充実させる端緒にしたいですね。事務局を今後10年を見据えた陣容に拡大し、自前の会議室や交流スペースを持てないかと考えています。事務局をJCCHの「拠点」とするためで、10年を考えればホテルの会議室を使い続けるよりもコストダウンが期待できます。
これまでは質素倹約を旨とする傾向が強かったのですが、もっとオープンで自立的に行動できる組織へと変えたい。会員名簿も台帳ベースで見直しており、ビジネスに役立てられるものに修正中です。
―― ベトナムとの関係はいかがですか?
門脇 スローガンの一つに、「成長するベトナムとの共生」を掲げています。ホーチミン市と周辺4省の人民委員会との対話集会やラウンドテーブルはJCCHの活動の要ですし、前期は初めて、ドンナイ省人民委員会とビジネスマッチングを共催しました。
今まではベトナムに対して改善を要求してきましたが、現在は解決策提案型に変えるようにしています。日本での経験や知見を紹介しながら、ベトナム側と共に解決の道を考えるということです。そのためでしょうか、昨年のラウンドテーブルでは、ホーチミン市人民委員会の対応が大変積極的でした。例えば、ある要望を伝えたところ、その内容を中央政府に伝えた内部文書を見せてくれました。口だけでなく実行した証拠を出してくれたのです。また、コナモノ(粉物)問題でも協力してくれました。
―― コナモノ問題とは?
門脇 国民に不足している栄養素を添加するため、小麦粉を原料とした製品に微量な鉄と亜鉛を加えることを義務付けた政令が、今年3月に施行されました。ただ、こうした添加を禁止している国もあるので、輸出をしている場合は国内向けと海外向けで生産ラインを分けるようになります。新たなラインを作るのは難しいので、国内向けを製造した後に設備を浄化して海外向け商品を作るわけですが、そうするとコストアップとなってしまう。加えて、通常の浄化では鉄や亜鉛がすべて取り除けないようなのです。
こうした事情から疑問の声が上がり、ホーチミン市人民委員会などと相談して中央政府に意向を伝えたところ、義務から努力義務(添加しなくともよい)に変わる方向となっています。解決策を提示する形になってから、一層真剣に対応してくれていると感謝しています。
―― 今年のラウンドテーブルはこれからですね。
門脇 ラウンドテーブルの最終会合自体は一種のセレモニーで、各分野での事前会合が大切なんです。ベトナムと日本の担当者同士が何度も話し合って詰めていく。その結果を発表するのが12月の最終会合になります。
今は会員の要望を整理しているところですが、要望の数が減りつつある気がします。これは必ずしも悪いことではなく、ベトナムでの事業環境や生活環境が向上しているとも考えられます。日越外交関係樹立45周年の節目の年を、会員の皆さんと一緒に乗り切りたいですね。