芥川龍之介の『藪の中』という小説があります。藪の中で起こった殺人事件に関して、尋問を受けた7人の証言を並べた話です。各人の証言が微妙に食い違い、真相が見えなくなるという内容ですが、仲間との仕事でも家庭生活でも認識の違いは良くあることです。そして、一旦思い込むと修正が難しいものです。
今回は私の家庭内のエラー案件です。8月28日から10月24日までワクチン接種を兼ねて、2ヶ月弱の一時帰国になりました。ベトナム勤務以降、これほど長い日本滞在はありません。
私は単身赴任、夫婦の会話はいつも同様成り立ちません。会話は妻の一方的な苦情表現から始まります。買い物から帰って、手を洗うよりも先に冷蔵庫に触ると、「汚いから触らないで!最初に手を洗って!」と小言がすかさず飛んできます。手を洗っていて水道の音が短いと、「ちゃんと洗ってない!」と決めつけます。私は10秒の手洗いで十分だと思いますが、妻は20秒以上石鹸と水を使わないと手洗いと認めていません。いわば定義の差だけですが、私には決定権がありません……。
私たち夫婦の「藪の中」は、私の使った「ベッドのシミ問題」です。妻は前回帰国した時に私が付けたシミだと主張しますが、私には前回既にあったものと確信しています。しかし、妻に主導権があるので反論には証拠を提示する必要があり、もはや冤罪を覆すことは不可能です。
通常2週間程度の一時帰国は口論で終わっていましたが、約2ヶ月の今回は、確定した冤罪はすべて水に流しました。何が正しいかより、どう解決するかが大事ですからね。