ベトナム不動産
市場拡大を続けるベトナム不動産。新規開発が進む一方でバブルを懸念する声は根強く、中価格帯物件の増加や都市部でのオフィス不足など状況は常に変化している。不動産投資を含めた最新事情を専門家に聞いた。
購入者の意識が変化
2014年に赴任して以降、ベトナムの不動産を見続けてきたCreed Holdings Pte. Ltd.ベトナム駐在員事務所の山口真一氏。同事務所は主に地場デベロッパーのアンギア社と提携し、開発中の物件を含めて約1万2000戸のコンドミニアムを供給してきた。売行きは計画以上で、業績は非常に順調だという。
山口氏によればアンギア社の税後利益は2015年の約20万USDから2018年には約1500万USDに激増しており、不動産業界の中小企業では珍しい成功例という。その理由をクリードが仕掛けた「ソフトの日本品質」と見る。
「以前のベトナム人購入者には細かいこだわりがなく、ピンクブック(建物の権利書)が出ない、工期が遅れる、デザインが違う、施工がうまくないなどをあまり気にしませんでした。それが変化しているのです」
コンドミニアムは大きく、Aクラス(LuxuryやHigh-end)、Bクラス(Mid-end)、Cクラス(Affordable)に分かれ、クリードはベトナム人向けに主にBクラスを開発している。だからこそ事情がわかるのだが、注力してきたのはハード面は無理でも、ソフト面での日本品質の徹底。工期を守る、部屋の内装や共用部分のデザイン力を高める、細かな施工に対応するなどで、それがベトナム人に評価されて業績を伸ばしている。
「不動産の購入者が賢くなったとも言えます。工期が遅れればクレームを言い、床のタイルやキッチンのボード、水道の蛇口などまでチェックして、デザインの違いや施工の甘さを指摘します。厳しすぎるくらいです(笑)」
新中間層が住居用に購入
その理由は特にB~Cクラスの不動産が、投資用から居住用に変わりつつあるからだ。5~10年前はコンドミニアムは投資物件であり、だから当初の説明と内装が違っても、工期が遅れても気にされなかったが、今では居住者の視点でチェックされている。山口氏はAクラスでは投資用が7割で住宅用は3割、B~Cクラスでは逆転して投資用3割、住宅用7割と言う。
ちなみにクラス別の差はまずロケーション。Aクラスは一等地にあるが、それ以外は郊外に外れていく。内装や外装、共用部などの建材やグレードも異なる。Bクラスの価格をクリードの主力商品で見ると、場所はホーチミン市7区で、平米当たりの価格は約1500USD。70㎡の部屋では10万USD程度になる。
これらの多くを新中間層や新富裕層と呼ばれる若いファミリーが購入しているという。共働き夫婦で子どもが1~2人、世帯年収は2万USD程度で、月収は夫が1200USD、妻が800USDなどだ。所得増で購入しやすくなったのと、住宅としてコンドミニアムが流行り始めているのも理由だ。
「売れるのはリバービューと呼ばれる川の見える物件、あるいは街が見えるシティービュー。西日が当たる西向きの部屋は人気がないですね。日本は高層階ほど値段が高いですが、ベトナムはその少し下、35階建てなら20~30階が売れ筋です」
購入資金は家族や親戚などから借りて一括で払う人もいるが、最近は10~15年などの住宅ローンで購入する人が増えているという。人ではなく社会に頼る先進国化が見られるそうだ。
今後もB~Cクラスは堅調
では、市場拡大は続くのか、バブルの懸念はないのか。山口氏は2019年は供給数から見て価格が下がることはなく、今後3年は好調を維持すると見ている。それは圧倒的に供給数が足りないからで、大雑把な数字でハノイとホーチミン市でそれぞれ年間4万戸が供給されているが、需要は各都市で10万戸という。加えて両都市共に1000万人近い人口で、現在も増加中だ。
また、1戸建てに3世帯が住むような形が多いベトナムでは、今後家族が独立するだけ住宅の需要が増える。経済成長の上がり幅よりも資産の上がり幅のほうが高くなるのが一般的なことからも、今後の旺盛な需要を確信している。
バブルについてはクラス別に見方が分かれる。山口氏によれば、Cクラスの2015年のおよその平米単価は2000万VNDで、2018年は2800万VNDになった。40%の上昇だが、4年の複利で割ると年間の上昇率は10%以下。GDPの成長率が7%程度なので、急騰とは呼べない。同様にBクラスは2015年の2500万VNDが2018年には4000万VNDとなり、60%の上昇。年間で10%少しの上がり方なので、こちらも許容範囲という。
「しかし、Aクラスは2015年が3500万VNDで2018年は1億2000万VNDと3.5倍です。1年で20~30%の上昇は上がりすぎで、B~Cクラスは底堅くても、Aクラスは供給過剰で少々リスクを感じます」
クリードグループはフィリピン以外の東南アジアに拠点があり、フィリピンは山口氏が設立に動いている。各国との比較でも、ベトナムの不動産市場が一番好調だそうだ。理由は経済成長以外に、他国に比べて少ない貧富の差、中間層の厚さと強さ、勤勉な国民性と働けば収入を得られる環境などが挙げられる。
「Cクラス物件の下限が5万USD程度なのも、他国の中間層に比べて購買力の強さを示しています。他国ではワーカー向けに2万USDの物件もありますから。ただ、Aクラスはマニラやジャカルタの物件と同程度の価格になり、ベトナムの割安感は薄れています」
現在の課題は土地の値段が上昇していること。デベロッパーはその分を価格に乗せざるを得ないので、住居を求める一般の人が買いにくくなってしまうという。
オフィス不足は解消できるか
オフィス用物件はどうだろう。ベトナムの特徴として、バンコク、ジャカルタ、マニラなどに比べると大都市にはS~Aクラスのオフィスタワーが少なく、供給が足りていないという。そのため家賃が割高になっている。
「ざっくり言うとホーチミン市で平米当たり50~60USDですが、マニラでは30~40USDです。今後の供給増のためには、大手デベロッパーや政府のリーダーシップが求められます」
なぜなら、オフィスを開発するには資金が潤沢で、中心部の土地をリーズナブルに購入するなどのノウハウが必要だからだ。また、土地の権利者が複数人いて、ある人が売りたくても別の人は値上がりを待って売らないなどがある。するとその土地は取得できないので、こうした場合の権利調整には政府の主導が期待される。
国内の企業は増加し、成長している。海外からの進出も増えるので、オフィスのニーズは今後も高まるはずだ。
不動産購入のアドバイス
ベトナムの不動産を購入する日本人は増えてきたが、割安とはいえ高額なので迷っている人もいるだろう。そこで山口氏にアドバイスを聞いた。前提となるのは不動産投資は流動性が低いこと。つまり、売りたいときに売れるとは限らない。
「ベトナムに骨を埋める覚悟があり、購入資金の5倍程度のキャッシュポジションがあれば、買ったほうが良いと思います。しばらく価格は下がらないでしょうが、3年後に2倍で売るなど甘い夢は見ないほうがいいですよ」
5倍のキャッシュポジションとは、コンドミニアムの購入費が500万円ならば2500万円の資産があること。ホームページなどから物件を探せば、およその値段はわかる。実物を見て、購入を決めたら、物件の営業マンに会って相談する。自社でセールスチームを持つ場合と外部への委託があるが、価格に差はないはずだ。
そこで情報や条件を聞いていくわけだが、譲れないものを残して、それ以外の条件は消していくのが望ましい。例えば価格は700万円まで、地域はホーチミン市の1区か3区、高層階を希望といった具合だ。
「私が18年間不動産投資をしてきて感じるのは、大切なのはデベロッパーを選ぶなどより投資のスタンス。儲かるだろうから買っておくという人が多いのですが、いつから始めていつ売っていくらの利益を出すなどのキャッシュフローを考えた投資をしましょう」
ベトナムでは中国、香港、台湾、韓国、シンガポールなどから不動産投資が多く、日本人と彼らでは考え方に差があるそうだ。日本人は不動産から賃料を得るインカムゲインを、彼らは値上がりを待って物件を売るキャピタルゲインを考えるそうだ。
そのため、仮に不動産賃貸の利回りが3%とすれば、日本で投資しても同じだと思ってしまう。しかし外国人は、年利が3%で価格が3年で30%上がるなら、年間で13%の利益になると考える。
「不動産投資で成功した日本人は60~70代以上が多く、50代以下は下がるところしか見ていないからでしょう。一方の外国人投資家は上がることを知っており、今後も外国人による不動産投資は進むでしょう」