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ベトナムビジネス特集Vol124|
知られざる成長と課題 ベトナム損保市場

ベトナムの保険市場が急拡大を続けている。生命保険と損害保険を合わせて年率約20%という成長で、浸透率の低さからさらなる伸びにも期待大だ。ただし、制度の課題や保険会社の収益など不安材料も少なくない。経済とより連動する損保市場を取材した。

ベトナムの損害保険業界 成長分野と今後の課題

United Insurance Company of Vietnam

Branch Director of HCMC Branch

水野善之氏

医療保険と火災保険 成長を続ける損害保険

ベトナム保険管理局(ISA)によれば、2019年の保険会社66社の保険料収入は前年比20.5%増加して、約160兆1800億VND(約7400億円)となった。金額で見ると生命保険が全体の67.3%、損害保険が32.7%。2020年においても保険業界全体で前年比20%弱の増加が見込めるという(今年1月時点)。

なぜ市場拡大が続いているのか。損害保険ジャパンの現地法人であるUnited Insurance Company of Vietnam(UIC)の水野氏は、この10年の損保市場は自動車保険と医療保険がけん引し、直近では個人向けの傷害・医療保険と法人向けの火災保険が大きく増収しているという。

「個人分野では銀行等を通じた保険窓口販売チャネルが好調なこと、法人分野では当局主導で2018年から強制火災保険制度が施行されたことが大きな要因でしょう」

後者は全事業者が対象。ビル、工場、倉庫などで火災事故が増加し、特にベトナムの企業やオーナーに火災保険未加入が多かったために、政府主導で保険加入を促進させた。

損害保険は英語で「Non-life insurance」と呼ばれ、生命保険以外の火災保険、自動車保険、傷害・医療保険、工事に関する保険、取引信用保険(未回収売掛金の補償)、貨物保険など多様で、法人向けと個人向けがある。

2018年の調査でその内訳は、自動車保険が32%、傷害・医療保険が30%、火災保険が23%、海上・航空・輸送保険が12% (グラフ参照)。前2者は個人、後2者は法人が顧客の中心だ。一方、日本では自動車保険が約50%を占め、火災保険と傷害・医療保険が15~20%という。

「新型コロナの影響もあり一時的に自動車販売は低迷していますが、中間所得者層の増加で購入者は今後も増え、自動車保険もまだまだ成長していくでしょう。また、社会保険の保障内容に満足していない人や高品質な医療を求める人の増加で、傷害・医療保険もまだまだ伸びると思います」

日越での意識の差が興味深い。自動車保険なら日本では対人・対物の賠償責任保険など、他人に与えた損害に備える保険が主流だ。一方のベトナムは賠償責任への意識が低く、自分の身体や財産を守るための保険加入意識が強いという。

また、日本では個人世帯で火災保険に入る人が多いが、ベトナムではきわめて少ない。これは木造とレンガ製という住宅素材の差による火事に対する意識の違い、地震などの天災の頻度による加入意識の差によるものが大きいだろう。

損保会社のシェア争い 売上ほど伸びない利益

ベトナムには30社の損害保険会社があり、地場企業5社で約6割のシェアを占める。1位のバオベトと4位のバオミン保険は政府系、2位のPVI(ペトロ・ベトナム保険)と5位のPJICO(ペトロリメックス保険)は石油系大手企業と、国営色の強い企業が並ぶ。

他の25社で残りの市場を奪い合っており、UICは損保ジャパンとバオミン保険、韓国系保険会社の3社によるジョイントベンチャーだ。シェアは約2.5%で、法人顧客を中心に日系顧客が50%、ベトナム系顧客が30%、韓国系顧客が20%ほどという。

「損害保険は他社との差別化が難しいため、保険料の競争が恒常化しており、業界全体の収益性が課題となっています」

日本では契約や事故のデータが保険会社間で共有され、適正な保険料を設定する仕組みが作られている。交通事故に保険を使えば、他の保険会社に変えても翌年の保険料は上がる仕組み。しかし、契約・事故データを業界全体で共有する仕組みのないベトナムでは、保険会社を変えると過去の事故情報が共有されないケースもあり、変更前の保険会社は保険料を引き上げる機会を逸してしまう。

また、自動車やバイクの1年分のキズや凹みをまとめて保険で修理しようとする人もおり、保険会社としても不正に保険請求されない仕組み作りが求められている。

このように保険金の支払いが増えても、その支払いを価格(保険料)に適正に転嫁できないケースも多いため、損保会社は売上が伸びても利益がついてこないケースもあるようだ。

「日本では以前、ベトナム同様に多くの損保会社がありましたが、現在では3メガグループでシェア9割程度を占めています。ベトナムの損害保険業界はまだまだ激しい競争が続いていくと思います」

有り余るベトナムの伸びしろ コンプライアンスも課題に

それでも損保市場は2009~2019年の10年間で年率約17%と成長し、2019年単年でも対前年比で約12%と伸びた(グラフ参照)。この数字は元受正味保険料をベースとしているが、2019年の元受正味保険料の合計は52兆8420億VND(約2400億円)だ。

大きな金額に感じるが、日本の市場規模は約8兆円なので、実は日本の3%程度しかない。市場浸透率でもベトナムの損害保険は0.8%程度で、日本や他のアジア諸国と比べてもかなり低い。始まったばかりの市場とわかる。

また、損害保険の場合はオフィスや工場、売上高や従業員数、物流などの増加で保険料収入も上昇していくため、経済成長との相関性が高く、この点でもベトナムへの期待度は高い。

「日系だけでなく欧米系、韓国系、台湾系などの保険会社が、現地法人の設立や地場損保に資本参加する傾向が強くなっています。最近では韓国系企業の投資が目立っています」

ただ、消費者保護などから保険の営業行為に厳しい規制がある日本に比べて、この分野もまだ始まったばかり。代理店の資格制度や保険販売員の教育など、改善すべき点もあるという。今後は保険購入者側のニーズが多様化するだろうから、商品の加入や事故の支払いなどでより丁寧な説明が求められてくる。業界全体でのコンプライアンスが問われそうだ。

「弊社も良質な保険サービスの提供を通じて弊社商品・サービスの浸透を図り、顧客企業の事業拡大、また個人の皆様の生活基盤の向上に保険ビジネス面で貢献しながら、ベトナムの損害保険事業の発展に貢献していきたいです」

国際保険ブローカーの視点 新しい保険と企業収益

Aon Vietnam Limited

Director, Japanese Desk

野村みゆき氏

傷害・医療保険が2桁成長 保険料増加でジレンマも

昨年、進出25周年を迎えたエーオンベトナム。世界約120ヶ国に拠点を持つ国際保険ブローカーだ。顧客の指名状から保険のプロとして、保険のアドバイスから契約締結までを顧客の立場で保険会社と交渉する。日本では保険仲立人と呼ばれる存在であり、ベトナムでの収益は顧客企業ではなく保険会社から手数料として得る。

ジャパンデスクの野村氏によれば、ベトナムの保険事業の歴史は1950年代まで遡り、市場開放を始めた1993年~1994年に活況となったという。まだ若い業界ではあるが、上述のように2019年の市場は前年比20.5%の増加で、その成長が著しい。

「生保ほどではなくても損保市場は伸びています。ベトナムの損害保険会社の特徴は地場企業が強いことで、上位5社は国有か元国有企業で占められています」

それらはバオベト、PVI、郵便保険(PTI)、バオミン保険、PJICOと並ぶが、2019年の成長率を見ると下位の企業ほど上昇しているとわかる(グラフ参照)。外資系を含めて30社ある損保会社がしのぎを削っており、今後は順位の入れ替えも起こりそうだ。

そんな損保市場で野村氏が注目するのが、昨年2桁成長となった傷害・医療保険。生保会社も損保会社も販売する第3分野と呼ばれる商品で、日本を含めたアジア14ヶ国中でベトナムの伸びがトップだったという。

「最低賃金の上昇、インフレ率のアップ、そして医療費インフレが主な要因です」

ベトナムには政府の社会保険があるが、人材獲得などの理由で企業が福利厚生を手厚くし、従業員への企業保険が増えてきた。社会保険の指定病院以外の外資系病院、民間クリニックなどで使えるうえに、キャッシュレス支払いが普及して便利になった。その結果、ベトナム人が気軽に良い病院を利用するようになって医療コストがアップし、医師や看護師など人件費の上昇もあり、保険会社への請求額がかなり高額になっている。

このように保険の利用者と保険料が増えて市場は拡大したが、保険会社の支払額も予想以上に増えてしまった。その対策は保険料の一層の増額や自己負担率の増加だが、総務部門などベトナム人の担当者は納得しないという。

「保険料を上げるなら別の保険会社に変えるなどの対応もあり、この数年は雪だるま式に支払額が増え続けています。保険会社の収益を揺さぶる問題です」

増える取引信用保険 新型コロナが不安材料

先進国と比べるとベトナムの保険市場はまだまだ小さく、グローバルでの調査対象には入らない規模だという。ただ、伸び率は世界でも際立っており、傷害・医療保険とは別に取引信用保険に入る企業が続伸している。

これは取引先の不払いや倒産で支払いが受けられない時の、貸倒れを補償する保険だ。世界やアジアでも10年ほど前から注目されてきたが、ベトナムでは近年話題となっている。

直近では新型コロナの影響でキャッシュフローが悪くなり、売掛金の支払いを遅延せざるを得ない企業も増えた。まさに遅延が長期化して回収できない場合の保険なのだが、新しいリスクも懸念される。

「保険会社が見極めを始めたことで、取引信用保険が掛けにくくなっています。企業の信用調査と共に考慮するのが国単位のカントリーリスクで、現在のベトナムの評価はあまり良くありません」

新型コロナの影響でインフラ開発の予定が遅れたり、入国制限で外資系の大型プロジェクトが止まるなどが理由。取引信用保険は今後も増えるだろうが、保険料も上がってしまうと野村氏は危惧する。

「新型コロナの影響でまず考えたのは、医療費請求の大幅な増加です。しかし、自宅待機で重篤な症状以外は病院に行かない、治療があっても請求を先送りにするなどで、そうはなりませんでした。経済的な事由から取引信用保険に悪影響が出たのは残念です」

D&Oやメンタルヘルスケア ベトナムにも新保険が登場

日本と比べてベトナムには強制保険が多いそうだ。日本では自動車の自賠責保険くらいだが、ベトナムは自動車保険の他に2017年に建設・組立工事保険、2018年から火災爆発保険(火災保険)が強制となった。大型プロジェクトが増えて工事現場での事故が大型化したこと、火災事故が増えてきたことなどが背景にある。

「ベトナムの特徴に事故の多さが挙げられます。工事や火災以外にも荷崩れ、落雷、海上貨物の水濡れ、排水の不具合など様々で、工場なら古い機械のショートや発火もあります。思ったほど保険金が支払われない場合もあり、これらをサポートするのも保険ブローカーの仕事です」

2019年7月からは環境賠償責任保険も強制となった。水質、大気、土壌など環境汚染に対する賠償責任保険だが、対象となる企業など具体的な細目は発表されていない。保険市場としての動きはまだ少ないようだ。

他にも新しい保険が出始めている。そのひとつがD&O保険(役員賠償責任保険)で、D&OはDirectors & Officersの略。取締役や監査役など会社執行役員が主な対象で、経営や事業の判断を誤ったとして損害賠償を求められた場合などに、裁判の費用や賠償金を補償する。

「ベトナムは世界でもサイバー攻撃が多い国ですから、サイバー保険も注目されるでしょう。データの復旧や事業に損害が出た場合の危機管理の補償ですね。モバイルアプリを活用したメンタルヘルスケアサービスも徐々に始まりそうです」

近年ではEAP(従業員支援プログラム)と呼ばれる遠隔医療(テレヘルス)とカウンセリングの福利厚生が注目され、特に従業員のメンタルヘルスケアを重視している。これを生命保険や医療保険の付加価値サービスとして組み込み、テレヘルス機能付きアプリを介して医師への相談を行うという。

「弊社で開発したこのアプリをエーオンベトナムでも取り入れたばかりで、スタッフが日々のデータ計測を行ったり、経済不安や生活環境不安等の日常サポートを体感するトライアルを始めています。個人的にもベトナムで伸びてほしい分野だと思っています」

保険代理店のアイデア カスタマイズ商品と店内販売

ACS Trading Vietnam

Director

鈴木力英氏

General manager

五十嵐祐介氏

割賦販売から保険事業へ 会員に合わせた商品開発

イオンクレジットサービスの現地法人として2008年に設立されたACS Trading Vietnam。自社割賦(分割払い)の販売会社として携帯電話の割賦事業をスタートし、エアコン、洗濯機、テレビなどの家電分野へと拡大させた。

大手家電販売店の中に専用カウンターを設けて、購入者の割賦の契約手続きを行う。ベトナム人の生活が豊かになるにつれて家電販売店も購入者も増加し、現在では約5000店舗で営業を行っている。

「2019年6月から保険代理店として保険事業に参入しました。複数の保険会社と提携した乗合代理店で、現在は日系の損害保険会社のみの商品を扱っています」(五十嵐氏)

その会社は東京海上日動火災保険系のBAO VIET TOKIO MARINE INSURANCE、損害保険ジャパン系のUIC、三井住友海上系のMSIG Insurance (Vietnam)の3社。保険代理店事業は保険会社の方針に左右されるものだが、ベトナムも同様だ。そのため、イオングループの理念であるお客様第一主義に深く賛同している、日系の保険会社と連携している。

損保の代理店は法人向けが多いが、同社は個人向け商品を販売する。

「日本でもそうですが、小売りグループが保険代理店を始めるのは珍しいことではありません。多くの顧客を持つ流通業と金融業の相性は良く、日本でのノウハウも生かせます」(鈴木氏)

主な対象は家電販売店で割賦を利用する同社の個人会員。医療保険、自動車保険、バイク保険などを扱うが、主力は傷害保険だ。保険の認知度が低いベトナムでの集客は難しいため、これまで増やしてきた家電販売店のカウンターと会員を活かしている。

また、同社は規格商品ではない会員向け商品を、保険会社と共に開発している。その特徴は保険料や補償の金額。割賦利用者には高額所得者が少ないこと、保険に詳しくないことから、少額の保険料で一定の補償とする、シンプルな内容を意識した商品を開発中だ。

「現状も契約者数は着実に伸びていますが、開発中の商品で件数は飛躍的に伸びる予定です」(五十嵐氏)

現在、生活の質の底上げが続くベトナムでは、自分や家族の病気や怪我などを心配する人が増えてきている。勤務先が医療保険に加入していても、本人以外の家族は使えない。また、フリーランスで働く人には自分のための保険もない。実際、同社の会員にはフリーランスの人も多いという。

自賠責保険で勘違い? 保険の認識を広げる活動

自動車もバイクも自賠責保険が強制となっているが、自動車に比べてバイクの加入比率は低い。バイクの購入時に加入しても、2年目以降に更新をしないので保険が切れてしまい、普及が進まなかったようだ。

しかし、この数ヶ月で警察の取締りが厳しくなり、自賠責保険の有無をチェックされるようになった。そのために保険に入る人が増えており、新型コロナが流行した今年4月以降が顕著だそうだ。取締りに慌てて路上で売っている安い保険を購入する人もいるが、これは強制保険ではない場合もあるそうだ。

「強制の自賠責保険はタイプが決まっており、排気量で価格が異なります。路上販売の保険は本来なら追加で購入する任意保険の場合もありますので、注意が必要ですね」(鈴木氏)

強制の自賠責保険であっても、相手が死亡した場合の補償金額は上限が50万円程度。日本とはけた違いに低く、交通事故には十分に注意したい。

ベトナムの特徴として、多くの人は保険の知識に乏しく、仕組みを理解している人も少ない。保険そのものがまだ浸透していないので、同社はそれに対応する活動を続けている。

「イオンモール内で保険案内のイベントを開くなど、保険会社と一緒に保険の認識を広げる活動もしています。とはいえ、第1ステップが始まったばかりと感じています」(五十嵐氏)

「別のサービスを始めるには新しいライセンスが必要など、すぐに対応できない場合もあります。それでもサービスの幅を広げたいと思っています」(鈴木氏)

イオングループを活用 「団信」を利用した商品も

同社の個人向け保険事業には2つの柱がある。1つ目はこれまで見てきた、既存の会員顧客への保険販売。もうひとつはイオングループ、特にイオンモールの来店客への販売だ。ホーチミン市にあるタンフーセラドン店内には同社のカウンターがあり、店頭で保険を販売している。

今後、タンフーセラドン店以外の北部を含めたイオンモール内への出店や、同じくグループ企業であるコンビニのミニストップでも始められたら面白くなるという。

それ以外では新しい商品の開発。日本では住宅ローンを組む際に団信(団体信用生命保険)に入るのが一般的だ。ローンの契約者が死亡や高度障害状態になった場合、家族の負担とならないように、残りの支払いを肩代わりする保険だ。この仕組みを利用した商品を目下開発中だ。

「住宅までいかなくても、高額の商品を利用されているお客様に万が一のことがあった場合には、ご家族が商品代金を支払い切れない場合も考えられます。割賦の利用者に合わせた団信のような商品を作りたいですね」(五十嵐氏)