ホーチミン市7区のSECCにて7月2~5日、製造業の国際展示会である「MTA Vietnam 2024」が開催された。アジアを中心に15以上の国と地域から320社以上が出展し、記念すべき第20回目を迎えた。
「SOLD」連発の台湾メーカー
AとBの両ホール、約1万6000㎡に320を超える企業が出展した。国別では中国、台湾、韓国の恒例メンバーが存在感を出し、中国は特大ブースから1小間程度の小ブースまで様々、台湾と韓国のブースは中から大サイズが目立った。
出展社数も多く、人を集めていたのは台湾企業だ。Aホール中央付近に出展したのが、マシニングセンタやCNC旋盤用の装置メーカーであるHYDEX MACHINERY INDUSTRIALだ。ブース前方に数多く並べていたのは主力商品のCNCロータリーテーブルで、「SOLD」と貼られたマシンもあり、購入を決めた来場者も多いようだ。
バクニン省のSHINFU VIETNAMという代理店が、台湾から製品を輸入・販売すると共にメンテナンスも対応している。
「商品のご紹介とお客様を開拓する目的で出展しました。来場者の方は思ったより多いですね」
機能や性能の説明から始めて、購入後5年間のメンテナンスへと続ける。品質に自信はあるが価格もそれ相応なので、最初から値段の話はしない。ベトナムと台湾は互いに機械や設備を輸出入していることもあり、ベトナム製造業の発展を感じているという。
「昨年はハノイの展示会に出て、今年はホーチミン市のMTA、次はバクニン省を考えています」
大手中国メーカーも出展
中国企業では巨大なファイバーレーザー加工機のデモで注目を集め、広々とした商談スペースを用意していたのがBodorだ。近年急激に事業を拡大しており、毎年のように新製品をリリースしている。ベトナムではホーチミン市のADOBUSが代理店となっている。
同じく中国メーカーのHAITIAN PRECISIONが出展。HAITIANグループとしては射出成形機が主力のようだが、同社はマシニングセンタやCNC旋盤などの工作機械を製造する。会場ではマシニングセンタとともに金属加工したサンプルも展示した。
「このサンプルを見ると感心してくれて、製品やサービスについて説明しやすいです」
ベトナムにはHAITIAN PRECISION MACHINERY (VIETNAM)があってカスタマーサポートに対応しており、南北にそれぞれ工場とショールームを持つ。
自社製コースターをどうぞ
日系企業は小規模、中規模、大規模の各ブースで出展。広めのスペースを使って主力商品のワイヤ放電加工機を展示していたのがSodick Vietnamだ。立地の良さもあって興味深げに見て行く人が多かった。
6月に開催されたビンズン省での製造業展示会VIMF 2024にも参加。ビンズン省の製造業はVIMF、ホーチミン市7区周辺の製造業にはMTAと、ターゲットを分けて出展したそうだ。
新型コロナ期には展示会はオンライン開催となり、費用は安くなったが、展示会は来場者との対面に価値があるという。また、プロモーションは大切な目的だが、スタッフのモチベーションアップも狙いと語る。
「展示会は一種のカーニバル。チームワークが生まれますし、お客様からは良いことも悪いことも『宝の情報』がいただけます。そのため、総務や経理のスタッフも呼んでいます」
来場者に渡すノベルティグッズのコースターは、スタッフのアイデアから生まれた自社製だ。金型から起こして、射出成型機で完成させた。一般の人はマシンの性能までわからないだろうが、それでも納得のサービスだ。
関心を集める「焼きばめ」
金属加工で必須となる工具保持具のメーカー、MSTコーポレーションはMTA Vietnamの常連だ。ファッショナブルなブースは日本でデザインして、世界の展示会で統一展開している。
「どこかで使ったら日本に一度持って帰って、また別の国で使ってます(笑)」
キュートなファッションの女性がデモ機で実演して来場者を集める。コンパニオンにこうした作業は難しく、詳しい説明も覚えられないだろうと、担当するのは自社の社員だ。
テーブルの上にはいくつもの製品が並ぶ。目を引いたのが焼きばめ装置や焼きばめホルダー。焼きばめとは、常温では軸より小さい穴を加熱膨張して広げ、軸をはめ入れた後に冷却して固着させる方法だ。
「メカニカルな方法でないことが特徴。決して新しい技術ではありませんが、バリエーションを増やし、新商品を開発しています」
精密度を求める日系メーカーが主要顧客であり、現状のローカルメーカーに大きなニーズは期待できないようだ。
小さく、薄く、高精度な部品
小さなブースながら樹脂と金属の精密小型部品をいくつも並べ、その高精密をアピールしていたのがYUMOTO ELECTRICだ。
親会社は1940年創業の湯本電機。YUMOTO VIETNAMは当地で生産した部品を日本に輸出しており、展示したのはその部品の数々。今後はベトナムでの顧客を開拓すべく、知名度を上げるために初めてMTA Vietnamに出展した。
「小さく、薄く、精度が高い、が得意です。必要があれば日本から材料を送ってもらっています」
今は日本への輸出が100%に近いが、受注が減少するリスクもある。ベトナム国内に販路を広げて、目標は日越で半々の割合にすること。来年、再来年の展示会出展も今から考えている。
ロンハウ工業団地のブース
ロンアン省のロンハウ工業団地が共同ブースを出展。TAKEISHI ALLOYTOOL VIETNAM、Chubu Rika Long Hau Vietnam、INOAC POLYMER VIETNAM、Watari Welding Industry、VIETTECH、TENWEI VIETNAM TECHNOLOGYの6社が集まった。
TAKEISHIはベトナム法人化に伴い、業務拡大のため2023年に同工業団地に移転。金型部品など精密加工部品を展示しており、出展は急遽決まったとか。MTA Vietnamは火曜日開始で、連絡があったのは前週の木曜日だった。
「金曜日に悩んで、土曜日に決めて、日曜日に備品の買出し、月曜日が準備で、火曜日に出展でした(笑)」
お話を伺った日本人女性は土曜日に帰国予定だったが、延期して参加した。
「せっかくなのでチャンスだと思いました」
半導体機器、医療機器、産業機械などの精密部品を生産するVIET NHAT PRECISION。輸出がメインで、顧客のおよそ70%が日本、20%が欧米、10%がローカル企業だ。同社の子会社が今回出展したVIETTECHであり、今年8月末の設立予定だ。
「まだ設立前なのですが、アピールしたくて出展しました。VIET NHATに依頼することもありますが、自社での加工が中心です。すぐに見積り対応できます」
ショートターム思考の壁
商社のYAMAZEN VIET NAMは2つの共同ブースを出展し、日系企業を中心に数多くのメーカーが集合した。
「弊社の範囲はこの幅だけです」と笑うのは、2022年設立のSAITAMA ECO TECH VIETNAM。日本濾過工業のMIRACLE BOYという製品の正規代理店であり、MTA Vietnamに初出展した。
MIRACLE BOYは工業用オイルの高精度ろ過装置で、NASA、航空機メーカー、自動車メーカーなどに採用され、長期間での大幅なコストダウンが可能。ベトナムではまず金属加工や樹脂成形などの業界を開拓しているが、商習慣が壁になっている。
「シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、タイなどで結構売れていますが、この国はショートタームの思考が強くて難しいです」
購入価格は高くても、1年、2年、5年後にはこれだけのコストダウンになる。こう伝えても、今は問題がないから採用しないという判断が多いそうだ。ただ、今後も続くことはなく、変化が始まればそのスピードも早いと見ている。
「変化の時期を早くできるのは私たちでしょうし、市場があるからではなく、市場を作るつもりで出てきました」
高価格商品は円安が朗報
工作機械や産業機械の専門商社である兼松KGKのベトナム法人KANEMATSU KGK VIETNAMも常連組だ。今回も黒田精工の精密平面研削盤を展示した。
日本からの輸入品でかつ高額だが、会場で購入を決める人もいるという。かなりの円安となった為替の影響で、お買い得になっていることが大きな理由だ。
取材当日は開催3日目だったが、初日は100人強、2日目は約130人の訪問客があり、この日がピークになるだろうと予想していた。
「来場者は当然ベトナム人が主流ですが、韓国人や中国人の方も多いですね」
同社のブースの一角を間借りして出展したのがC&G SYSTEMS。金型専用のCAD/CAMソフトを開発するC&G SYSTEMSのベトナム駐在員事務所だ。金型の様子をモニターで表示し、出来上がった複雑な形状の金型も展示していた。
「お客様は日本の金型メーカーさんが中心ですが、近年ではベトナム製金型の水準が上がっています。ローカルメーカーさんにもアピールしたいですね」