第18回目となるベトナム最大級の国際旅行博「ITE HCMC 2024」が9月5~7日、ホーチミン市7区のSECCで開催された。約40の国と地域から約480社が出展し、3日間で約2万6000人が来場した。
台湾と韓国の集客方法
ITE HCMC(International Travel Expo Ho Chi Minh City) 2024は観光業界のマッチングイベントだ。出展者は旅行会社、ホテル、航空会社、ベトナム各省、国際パビリオンなどで、来場者は主に各業界のバイヤーだ。
消費者はベトナム人観光客で、各省なら国内旅行者、海外勢は自国への海外旅行者を呼びたい。その海外とはタイ、ラオス、マレーシア、韓国、台湾、インド、日本などの近場の国が多く、国際パビリオンで人を集めていたのは日本、台湾、韓国だ。
台湾はブース内部に旅行会社などの受付デスクを並べる一方、外側では若いスタッフによる白い仮面への着色教室、QRコードを使ったギフトなどで集客。スタッフが自らの顔にペインティングを施すなど、奇抜さも来場者に受けていた。
韓国は若い女子向けに振り切った展示。ブースはピンクを基調にしたパステルカラーで、内部ではプリクラやチマチョゴリを着た撮影会などを開催。おっさんなど決して入館できない雰囲気で、ここまで来場者を選ぶ手法はユニークだ。
残念だったのはタイと都市で出展したバンコク。ブースのデザインや色彩がタイを表して興味は引かせるが、内部では受付が並ぶだけ。マレーシアも同様で活況の日本と台湾のパビリオンに挟まれながらも人の気配がない。インドに至ってはブース内にデスクのみが詰め込まれて、座るスタッフはおじさんばかり。
明るい笑顔、積極的な声かけ、足が向くブースデザイン、お国柄が出るイベントなどがないと、バイヤーも立ち寄らないのでは?
特色が出た各省の展示
ベトナム省市の出展では旅行博名にもなったホーチミン市が目立った。大きなブースの中にホテル、旅行会社、サイゴン川遊覧船ツアー、バイクショップなどの小ブースが並び、商談スペースも広く取って存在感を見せた。
意外にサイズが大きく、グリーンを基調にしたスタイリッシュなブースがダラット。スタッフの明るさも特徴で、多くの人を集めていた。海のイメージのブルーで統一していたのがバリアブンタウ省、そしてクアンニン省。比べてニャチャンは単なる受付デスクのみで来場者はほぼおらず、国内有数のビーチリゾートがもったいない。
観光名所をピンポイントでアピールしていたのがクチトンネル。ガイド服を着たスタッフが配るパンフレットには日本語版も。メコンデルタは横長のブースに名産品を並べてアピール。食料品などを購入する人もいて差別化につながった。
ブースの広さや飾付けで人目を引いたのが地場大手旅行会社のベトラベルとサイゴンツーリストだ。特にベトラベルは巨大な紅葉の造花を中央に置き、日本旅行をイメージさせていたのがうれしかった。
日本から様々な誘致
日本のブースが結集したパビリオンは2つあり、1つはJNTO(国際観光振興機構)の日本パビリオンだ。
福井県はインバウンドを推進中。観光客は台湾や香港からが多くて次に東南アジア諸国、ベトナム人はこれからだという。アピールするのは曹洞宗の大本山として知られる永平寺と、世界三大恐竜博物館の一つである福井県立恐竜博物館。越前ガニなど豊富な魚介類も魅力だ。
「ベトナムの旅行会社さんにこれらを説明しています。恐竜博物館はご存知の方が時々いらっしゃいます」
東京観光財団は東京の観光をプロモーション。日本の中でも来場者の認知度は抜群で、伝統的な文化と最新の施設をアピールしている。後者はチームラボのデジタルアートミュージアムや、渋谷から東京を見渡す展望台のSHIBUYA SKYなどだ。
「もっと日本に送客したいと語る方もおり、個人の方はもちろん、こうしたエージェントさんと知り合えて手ごたえを感じます」
東日本国際旅行社は東南アジアの観光客がメインの旅行会社。多くのベトナム人来場者から観光ビザに関する質問を受けており、訪日旅行の際のビザ取得やサポート体制を気にしていたそうだ。
株式会社GSはメディカルツーリズムを販売。検診や人間ドックを含めたツアーで、医療のみで2泊3日間、観光を含めて5泊6日が多いそうだ。検診で約2時間、人間ドックは半日で、東京や大阪の病院と提携している。
「最近流行ってますね。皆さんは日本の医療を信用しているし、日本にはどこでも人間ドックがあります。ベトナム人にこの習慣を根付かせたいです」
北海道の魅力はこれ!
もう1つは北海道観光機構の北海道パビリオン。グリーンの半被を着たベトナム人スタッフがミニゲームで来場者を集め、各ブースに人が流れて行く。
旭川市は認知度アップが目的。近郊に美瑛や富良野の花畑があり、旭山動物園も人気スポットで、旭川は観光の拠点となっているそうだ。ただ、ベトナム人はまだ少なく、観光客は韓国が多くて、台湾、タイ、香港、シンガポールと続いてオーストラリアや米国、その下にベトナムが来る。
旭川の自慢は豊富な自然。旭岳や十勝岳連峰など山岳リゾートへのアクセスが良く、スキー場で有名なニセコよりも北緯が上なのでドライでパウダーな雪が降るという。
「山が多いので豊富な水があり、日本酒が美味しいんです。豚トロ発祥の地が旭川って、知ってました?」
函館市は料理や名所旧跡のほか、五稜郭タワー展望台からの五稜郭の全景、函館山ロープウェイからの夜景をアピール。観光客は年間約500万人で日本人が約8割、少子化もあって外国人を増やしたいと張り切る。一番多い外国人観光客は直行便がある台湾人で、ベトナムでの知名度は低いと感じていた。
「新作映画『名探偵コナン』は函館が舞台で日本人観光客が激増しました。コナンファンは世界中にいるので、函館を知っていただく機会になってほしいです」
ポルトムインターナショナル北海道は新千歳空港直結のラグジュアリーホテル。館内にはアイヌの肖像画、浮世絵、工芸品などが陳列され、フレンチレストラン、バー、温泉もあって、客室はスタンダードでも43㎡。
新型コロナ期にオープンしたため海外向けプロモーションができておらず、昨年から動き始めた。この旅行博ではベトナムだけでなくフィリピン、インドネシア、シンガポールなど東南アジア、フランスのエージェントとも知り合ったそうだ。
「ラグジュアリーの価値を直接訴えることで、理解してもらえるエージェントさんを探しています」
ホテルも焼肉も同じ目的
パビリオン形式でなく単独で出展した日本企業もある。初出展した京王プラザホテルは数あるホテルの中で知名度を高めたい。
同ホテルはベトナムの団体ツアー向けには単価が高く、むしろインセンティブ旅行での利用が多い。また、最近は外国人観光客の団体ツアーが減りつつあり、宿泊予約サイトを使った個人旅行が増えているという。京王プラザホテルグループの外国人宿泊客は多く、主に都市部にあるためか約85%を占めるそうだ。
「ただ、将来はどうなるかわかりません。現状を継続させる意味で出展したいと思いました」
焼肉力丸は大阪に10店舗ほどある焼肉チェーン。「OSAKA WAGYU」を強調しながらベトナム人スタッフが和服や浴衣姿で来場者を誘う。外国人顧客はタイ、中国、韓国などは多いがベトナムは2割に届かないそうで、「大阪での食事」にフォーカスする。
「お兄さん、出身はどこ? 日本に帰ったら大阪に行く? 力丸は美味しいよ!」
旅行市場の規模は拡大中
ダナンのホテル三日月(Da Nang Mikazuki Japanese Resorts & Spa)は巨大な鳥居で人を集めて、浴衣姿での記念撮影を提供。浴衣は異なるデザインが何枚も用意され、若い女の子が殺到していた。懸命なアピールというより緩い感じの対応で、目的が果たせるなら新しい方法だと感じた。
今回は初めて、ホール脇のスペースで国際ギフト・土産物展示会が開催された。展示物は茶、ドライフルーツ、生菓子などからバッグ、靴、アクセサリー、玩具、金製品、壷など本当に多彩。ただ、全体的に人が少なく、もう一押し、人を呼び込む工夫がほしかった。
来場者は国内外のバイヤーが中心とのことだが、確かに欧米人、東南アジア人、南アジア人など、数は多くなくても幅広い人種が見られた。2日目の取材だったが人出は多く、会場全体が明るく楽しいイメージなのは旅行博だからか。
報道によれば開催3日間で、約220人の国際バイヤーと450以上の出展者との間で、1万1460件を超えるB to Bの商談が生まれたそうだ。昨年のITE HCMC 2023では同バイヤー数は約200人、商談数は9025以上であり、市場規模は確実に拡大している。