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特集記事Vol177
越企業と「提携」した理由
新しいサービスが始まる

現法設立やM&Aではなく、ベトナム企業との「業務提携」で新たなサービスをスタートさせる場合がある。両社の独自性やノウハウを掛け合わせて事業を拡大させる手法だ。その様々な好例を紹介しよう。

 企業向けの映像コンテンツ制作とマーケティングを主事業とする、映像制作プロダクションのVRメディア。企業のCSR活動、ブランディング用、ステークホルダー向けなどの映像を得意とし、制作期間は短くて3ヶ月、長ければ7~8ヶ月にも及ぶ。

「お客様は総合商社、自動車関連、食品メーカー、IT企業など様々で、ドローンを使った案件も増えています」

 2024年1月、同社はベトナムでトップ級のシェアを持つVFX制作会社、Synapse Studio VN(以下SYNAPSE)との業務提携を発表した。

 VFXとは「Visual Effects」の略で、CGなどの技術で実際の映像を加工する視覚効果を意味する。実写であるワイヤーアクションの背景に映像を合成するなどで、素材の存在が前提となる。

 SYNAPSEは2021年設立と若い会社だが120人以上のVFXアーティストがホーチミン市のスタジオに在籍しており、NetflixやDisney+など世界的な動画配信サービスの映画やドラマで実績を持つ。この技術力が提携の決め手となった。

「創業期には米国、カナダ、オーストラリアなどのVFX制作会社から、帰国するタイミングでベトナム人スタッフを引き抜いたそうです」

 ハリウッド作品を手掛けるようなVFXスーパーバイザーやVFXコンポジターなどの人材で、彼らがSYNAPSEの土台を作ったようだ。CEOはMin Jin Ki氏で、澤野氏と共通の知人である韓国人が両社をつなげた。

 それが2023年8月のこと。同じ業界なので互いの資料を読めば事業内容はすぐにわかる。オンラインでミーティングをして、現場が見たいとホーチミン市に飛んだ。コンタクトを重ねて、提携内容と今後のフローを作っていった。

 VRメディアは現在、VFX制作などの発注先を探す日本の広告代理店や映像制作会社にSYNAPSEを紹介している。日本企業のサポートも行っているが、代理店として日本企業から紹介料などは得ていない。

 それでもSYNAPSEの広報資料を作るなどして積極的にアピールしているのは、日本の映像文化にVFX技術を広めたいからだ。

「日本国内のロケは許認可の問題などで撮影が難しく、それもあって日本はアニメーションが発展しました。逆に実写領域はアメリカに比べて弱く、VFXも同様です」

 日本にも優秀なVFX制作会社はあるが、予算が潤沢でない中小企業などはコスト面で発注できない。VFXの制作費は一般的に1人1日単位のプロジェクト単価となるが、ベトナムのSYNAPSEであれば日本の半額程度で済むという。

 澤野氏の目で見て、SYNAPSEのVFXアーティストはスキルに上下の差はあるものの、全体として統率が取れており、十分なクオリティが担保できる。

「VFX先進国の米国は需給バランスでは既にレッドオーシャンですが、近年の日本はVFXの需要が高まる一方、実写領域の人材が少ないこともあってリソースが不足しています」

 この背景にはNetflix、Amazon Prime Video、Disney+などの台頭があり、各社は海外に傘下の映像制作会社を持ったり、海外企業に発注するようにもなった。日本の映像制作会社にもチャンスなのだが、供給能力が足りずに肩を並べられない。

「しかし、VFXでSYNAPSEのような安価で高品質なリソースを使えれば可能になります。日本の映像制作能力が底上げされれば、将来的に弊社も潤います」

 それ以外にもメリットはある。CGやVFXのノウハウが少ない同社にとって、SYNAPSEのプロジェクトリーダーやアーティストにゼロベースから案件を相談できることだ。事業の一部としてVFX制作も依頼しており、親密な関係が伺える。

 ただし、ベトナムがVFX制作で優位性を持つわけではなく、急成長中のSYNAPSEが「変わり種」だそうだ。澤野氏はこの取材を機会にインド、タイ、フィリピン、インドネシアなどで競合を探したが、良い会社は見つからなかったそうだ。

「絵を描く3DCGに対して映像のVFXは時間芸術であり、静止画よりスキルが必要です。インドなど日本以上の市場規模がある国で人材が育つと思います」

 ちなみに、SYNAPSEは3次請けとなることが多い。2次請けの制作会社や自社で全て対応できないVFX制作会社からの発注が多く、これは同業他社も同様だそうだ。

 ベトナムの経済成長や賃金の上昇で、SYNAPSEのコスト安も今後10年続くとは思っていない。だから中長期の計画は無理でも、短期的には作品の質を上げられる。それは日本の一般的なドラマなども同じで、高額というイメージからVFXはあまり使われないのだそうだ。

「例えば、昭和後半から平成前半の時代設定であれば、街並みは現在を撮影することが多いです。ただ、違和感が出るのです」

 電柱のデザインが洗練されすぎたり、家の壁の質感に今のトレンドが見えたりする。VFXで電柱を消し、壁の色合いを加工すれば、30年前の街並みが甦る。一方のアメリカはジョージ・ルーカスが1975年に設立したIndustrial Light & Magic社からVFX制作が広がり、中小企業も参入して文化として成熟していった。

「今後は作品の規模を問わずに、VFXを選択肢として入れてほしい。そうすればVFX編集を前提とした撮影なども広がり、日本にも根付いていくと思います」

 民間企業として様々な形で障害者の就業を支援しているスタートライン。元々企業で障害者雇用を担当していた長谷川氏ら3人で2009年に起業した。

「当時は東京の都市部で大手企業が障害者を採り合う一方、郊外や地方の方は地元に仕事がない状態でした。マッチングができれば双方にメリットがあると考えました」

 現在、民間企業の障害者の法定雇用率は2.5%。従業員が40人以上なら障害者を1人以上雇用する義務がある。そのため、地域によって需給の差が生まれていたのだ。

 そこで東京都八王子市や神奈川県相模原市など都心から1時間程度のエリアに、顧客企業向けの障害者雇用支援サービスサポート付きサテライトオフィス「INCLU(インクル)」を作った。東京の本社でなくこれらオフィスで働くことで、地元の障害者は通勤の負担が激減し、同社のサポートスタッフが常駐するので安心して働ける。

 主な仕事は事務作業だが、生成AIなどの発展もあって近年は仕事が減ってきた。障害者の雇用率が上昇する中で新たなステップとして考えたのが、コーヒーの生豆から焙煎まで行う、ロースタリー型障害者雇用支援サービス「BYSN(バイセン)」だ。

「弊社には屋内農園型障害者雇用支援サービス『IBUKI(イブキ)』もあり、オリジナルハーブティーも作っています。ハーブティーがあるならコーヒーも、という要望もありました」

 ハーブティー同様に顧客企業は自社ブランドのコーヒーをサテライトの拠点で作る。本社に送り社員が楽しみ、来客に提供し、ドリップバックすればギフトにもなる。大手珈琲会社が卸した生豆を、障害者が手作業で選別(ピッキング)して、プロ仕様の電気式焙煎機で焙煎し、パッケージ加工まで行う。

 1ヶ月の標準的な生豆の購入量は約20㎏。焙煎で量が減るため、コーヒー1杯10gとして月に1600~1800杯の生産となる。

 酸味や苦味、味の濃さなど「求めるコーヒー」は同社スタッフ、珈琲会社、顧客で考える。ただ、「酸味が強くてすっきりした味が好み」などとわかれば、作り方を調整したり、企業本社から社員が来ての試飲会もある。

 障害者は拠点近隣の社会福祉施設や特別支援学校と連携して募集しており、コーヒーの仕事は人気だそうだ。

 BYSN1拠点には複数の企業が集まり、1企業でおよそ3~10人を雇用。1日6時間で週5日勤務する障害者がおよそ75人、サポートスタッフが5~6人。障害の種類は大きく、身体障害、知的障害、うつ病などの精神障害があり、BYSNでは知的・精神障害の方が中心となる。

 障害者は入社後1ヶ月の初期研修でビジネスマナー、コーヒーの知識や作業内容、心の状態と向き合うセルフマネジメントも受講する。

「独自の支援技術に長けている点が弊社の一番の強みです。サポートスタッフも最初の1ヶ月は座学の研修があり、その後は現場で先輩サポートスタッフから学びます」

 BYSNは2022年9月にスタートして、現在は新潟県三条市、大阪府門真市、埼玉県さいたま市に拠点があり、12月に東京都立川市、2025年3月までに兵庫県神戸市に開設する予定。開設予定の拠点は既に利用企業の成約済みで、それを含めて顧客は合計約100社。今後も年間で3~4件は増やしたいそうだ。

「コーヒー豆の取扱量が増えてきたこともあり、新たに高品質なコーヒー豆を探していたところ、珈琲会社から紹介されたのがベトナムのダラットにあるTHIN COFFEE FARMでした」

 農園主のThinさんはバイクの事故で片足に障害があり、家族で農園を経営していた。2024年8月に農園を訪ねてThinさんと話し、一つ一つ丁寧に作業する姿を見て、年間で1.2tの輸入が決まった。農園には今、スタートラインの看板が立っている。

 コーヒー豆には大きくアラビカ種とロブスター種があり、低価格で味が劣ると言われる後者の割合がベトナムでは多い。しかし、標高の高いダラットなどではアラビカ種が栽培されるようになり、THIN COFFEE FARMも同様だ。

「ベトナムのアラビカ種のコーヒーが美味しかったので、Thinさんに会いに行ったのです。2023年12月に収穫した生豆の第1段が、2024年9月に到着しました」

 現在(取材時)は珈琲会社の倉庫に保管されており、もうすぐ手元へ。2024年末の収穫分は2025年に届く予定だ。

 BYSNの顧客企業にベトナム産コーヒー豆を勧めると、アラビカ種とあって前評判は高い。今後の取引量増加も期待できそうだが、もうひとつの後押しがある。

 2024年4月から始めたのが、障害者とその他の社員が同じ空間(オフィス内)で働く「TASKI COFFEE(タスキコーヒー)」。焙煎機がないため焙煎は請け負うが、生豆のピッキングからコーヒー提供までを障害者が担当する。作ったコーヒーをサーブするため、顧客の社員とのコミュニケーション活性化が従来との違いだ。

 今は6社で2024年度中に十数社まで増える予定。BYSNと合わせてTHIN COFFEE FARMからの購入拡大が見込まれ、今後も良質な豆の生産を期待している。

「一方で、障害がある身体での農園の仕事は大変で、危険も伴います。今は家族経営ですが、収穫の時期だけでも人を雇えるようになればと思います」

 少しでも協力したいと、手作業で雑草を取っていた彼らのために、日本製の自動草刈り機をTHIN COFFEE FARMに贈った。両社の良いサイクルが生まれそうで、今回の経緯を経て今、他国でも実践したいと考えている。

「例えば、ブラジル、ペルー、コロンビアなど南米にも、障害がある方の農園があると思います。そんなところからコーヒー豆を仕入れて、支援したいですね」

 眼科用の医療機器や診断機器、眼鏡店向け眼鏡機器、コーティング分野まで多彩な事業を展開する株式会社ニデック。製品の開発、製造、販売、アフターサービスまで一貫対応しており、輸出先は約100ヶ国に上る。

 同社はアイケア全体への社会貢献活動を以前から考えており、2021年8月のSDGs宣言では「眼の検査を普及するためのパートナーシップ構築」も掲げて、提携先の相手を探していた。

 一方、発展途上国を中心に200以上の国と地域で失明予防や失明の原因となる疾患治療を推進する国際NPOのOrbis International(Orbis)は、世界で唯一、航空機に搭載された認定眼科病院の「Flying Eye Hospital」で各国を巡っている。

「Flying Eye Hospitalが2023年4月に関西国際空港に来ました。その折にOrbisから打診があったのです」(岩瀬氏)

 これまでも社会貢献に関連した協力依頼はあったが、単純な寄付金ではその使途が明確でないため、あまり積極的ではなかった。しかし、Orbisからの提案は、自社の製品を通じて眼科医療の向上と普及が図れ、それが確認できる協業だった。

 候補となる地域やプロジェクトの内容を相談すると、ベトナム拠点としてOrbis Vietnamを持つ彼らが推薦したのは、「ベトナムで3年間にわたり、7万2000人の糖尿病患者の眼をスクリーニング検査する」プロジェクトだった。

 ベトナムには糖尿病患者が約700万人おり、2030年までに5倍にまで増加する見込みだ。全ての糖尿病患者は失明の危機となる糖尿病網膜症を患う可能性があり、ベトナムでは失明と視力障害の主な原因の1つとなっている。

 重要な予防策は早期発見であり、ニデックにはそのために高画質で網膜を撮影する眼底カメラの寄付と、ベトナム代理店のサポートが求められた。

「目的もプロセスもはっきりしていて、弊社の考え方とも合致していました。提携を決めて2023年12月に契約を締結しました」(柴本氏)

 寄付する台数は6台と決まった。Orbisがトライアルとして6施設から始めたいと希望したからだ。

2024年6月に眼底カメラを出荷し、ナムディン省、ゲアン省、カントーそれぞれ2つの大規模検査医療センターに送られた。

 眼底カメラはオート無散瞳眼底カメラ「AFC-330」で、Orbisが開発したAIソフト「Cyber​​sight AI」を一緒に使用する。

 このプロジェクトは糖尿病患者を対象に眼の疾患の可能性を調べるので、装置を扱うのは内科医などになる。彼らは眼科の専門医ではないので、AIが眼底画像から自動でスクリーニングする仕組みが有効となる。

 Orbisのニュースリリースによれば、撮影した画像はCybersight AIのプラットフォームにアップロードされ、糖尿病網膜症の可能性を数秒で検出できる。そのため数時間や数日という検査の長い待ち時間がなくなり、タイムリーなフォローアップが可能になるという。

 ベトナムで装置の設置やトレーニングを担当したのが、ニデックのベトナム代理店であるVietcan Service & Trading(Vietcan)だ。ニデックとは約20年の協業関係にあって、現地での機器販売やメンテナンスを行っており、安心して依頼できた。

「弊社の海外販売比率は60%強です。日本市場は現状維持が精一杯で、国際的な市場拡大を推進しています」(岩瀬氏)

 海外展開には現地代理店の存在が不可欠と考え、基本的には1ヶ国に最低1社、眼科向けと眼鏡店向けに複数社の場合もある。日本の製品全般を輸出しており、自動的に眼の屈折度を測るオートレフケラトメータなど、眼科診断および眼鏡作成の基本となる装置の台数が多い。

「ベトナム市場は決して大きくありませんが、政府が国民のアイケアに熱心なこともあり、今後のポテンシャルが高いと感じます」(柴本氏)

 Vietcanのトレーニングとは主に眼底カメラの操作方法。日本で一般的な眼科医の診断や人間ドックの検診で使われるAFC-330は、操作がシンプルで、Orbisからもすぐに習得できたと連絡があったそうだ。

 2024年8月にはプロジェクトがスタート。上記のように3年間で7万2000人もの糖尿病患者の眼をスクリーニング検査する。最初はこの規模で実施して、ベトナム全土へと活動を広げるのが目標だ。

 ニデックにとって特定の国際機関や国に製品を寄付し、無償でサポートするような提携はほぼ初めてだった。社内のコンセンサスをまとめる難しさがあり、Orbis Vietnamが関税で苦労することもあったが、Vietcanとの連携は順調だった。

「プロジェクトの主体はOrbisですが、ベトナムと日本での3社のスムーズな協力が成功の理由だと思っています」(柴本氏)

 検査人数は合計4000人を突破(取材時)し、早期発見により眼科の治療を受けた例がいくつも上がっている。スクリーニング検査のために大規模な施設が選ばれたのは、対象人数のボリュームが大きいので、成功すればこの取組みに弾みが付くという期待からだ。

「当社の眼底カメラの品質の良さ、扱いやすさを知って、他の施設でも使いたいという声もいただいています」(柴本氏)

 3年間のプロジェクトなので、今後も引き続き支援をしていく。また、ベトナム以外の国についてもOrbisと検討している。このような取組みは営利を超えて、同社の存在意義を生み出すと実感したからだ。

「弊社のSDGs宣言は2030年までのアクションプランを設けており、国際協業は1つのテーマです。予算も確保しながら、今後も内容を吟味しながら進めていきます」(岩瀬氏)