あなたは知らないかもしれないけれど、ベトナム人スタッフに聞いてください。「ベトナムくんって、知ってるか?」。特に日本語話者なら「もちろんです!」。インフルエンサーでアーティスト、ベトナム人がバズってる好青年です。
ソン・トゥン・M-TPでハズる
―― 大学卒業後にアーティスト活動をしていたそうですね。
ベトナムくん はい。大阪を中心に最初はストリートライブを始めました。少しずつファンの方が増えて、ライブハウスやショッピングセンターに場が広がりましたが、なかなか売れなくて。そこで、2017年10月にベトナム人向けのYouTubeチャンネルを開設しました。
何を表現しようかと考えて思い出したのが、2016年に出演した宮城県のベトナムフェスティバルです。ベトナムの曲を調べてみると面白くて、曲調も好きで、日本語で歌いたいと感じました。ミュージックビデオを見るとドラマ仕立てが多く、Google翻訳を使いながら作詞をしました。
予想したよりかなり大変な作業でした。今は翻訳者がいて、単語の意味を一つずつ調べて、できるだけ元の歌詞に近づけています。
日本語でベトナムの曲を歌ったら、日本語を勉強しているベトナム人の間で、少しだけバズったんです。僕のオリジナル曲をアップしても再生回数は2000程度でしたが、それが何万再生となって、「カバーしてくれてありがとう」、「歌ってくれてありがとう」などのコメントが寄せられました。
嬉しくなって、10曲、20曲ととにかくカバーし続けました。

―― 選んだのはどんな曲ですか?
ベトナムくん 最初は皆で踊れる「Bong Bong Bang Bang」、2曲目がソン・トゥン・M-TPさんの「Noi nay co anh」です。僕が好きなのでその後も彼の歌が多いのですが、実はソン・トゥンさんはそのカバーを多く見てくれていて、2年ほど前にTikTokで僕の動画を使ってくれました。
TikTokで「デュエット」と言いますが、僕が歌っている動画を彼が見ながら、愛犬とアイスクリームを食べて「いいね」といった内容です。1200万再生くらい行って、そのためかソン・トゥンさんのファンには僕を知る人がかなり多いです。
数年カバーを続けてフォロワー数も伸びましたが、5万人くらいで止まりました。ファンを広げようと曲以外にも挑戦していきました。
一方、2018年3月に初海外で初めてベトナムに行きました。ベトナムでライブがしたくて、「日本語学校で歌いに行きますから呼んでください」と募集したら、2ヶ所で実現できました。
その時にベトナムの方々に本当にお世話になって、7月にもう一度、ベトナム全国でボランティアのライブツアーをしたのです。ハノイ、フエ、ダナン、ダラット、ホーチミン市、ブンタウ、カントーなどで、日本語学校を中心に21ヶ所を周りました。
真夏で体力的にもきつかったですが、どこも盛り上がって、素敵な出会いもたくさんありました。1人旅なので家に泊めてもらったり、様々なサポートしてくれたり、ダラットではボランティアの翻訳者が見つかりました。その方はベトナム語を教えてくれるようになり、何年もオンラインで習うことになります。

―― YouTubeの再生は伸びましたか?
ベトナムくん 「ソン・トゥン・M-TPのMVを日本人に見てもらう」で、2019年7月に初めて100万回再生を突破しました。ここからアイデアが出てきて、「ベトナム人100人に会うまで帰りません」、「日本人のベトナムバイクリアクション」、「ベトナム人と日本人をお見合いさせてみた」などを作りました。
そのうちにTikTokが流行り始めて、最初は気にしなかったのですが、時代が来ると思って2021年4月に開設しました。そうしたらびっくりです。作るのがとっても簡単なんです。
YouTubeは10~20分と動画の時間が長いから編集が大変で、1本アップするのに数日かかることもあります。TikTokの時間は1分程度なので編集が楽なのです。
そんな中で2023年初旬に大ブレイクしました。20万VNDのお金がなくなるまで安いローカルフードを食べまくる動画で、両方にアップしてYouTubeで3000万回再生、TikTokで2500万回再生になりました。
別の動画でもバインミー屋のおばちゃんとの会話が受けて、15円ほど多く払ったことがニュースにもなって、1ヶ月の間に再生回数が約2億回になり、フォロワーは50万人ほど増えました。
最終的に2023年のYouTube、TikTok、Facebookを合わせた年間総再生回数は約7億回になり、2024年はYouTubeとTikTokが共に1億回を超えています。

日本と違ったテレビ収録
―― 日越のイベント、テレビなどでも活躍されています。
ベトナムくん 元々はアーティストなので、イベントが1番楽しいです。YouTubeやTikTokが伸び出して、呼ばれることが多くなりました。
日本であるイベントに参加した時には、ベトナムの有名な歌手やインフルエンサーも出演していて、話すようになりました。ある方に「日本案内してよ」と頼まれて、東京や京都を一緒に訪れて、とても楽しく過ごしました。
けれど、やはり言葉の壁があって、仲良くなりきれないんです。もっと喋りたいし、一緒に動画を作りたいという思いが重なって、2023年9月に拠点をホーチミン市に移しました。その割には、ベトナム語学校を休んだりしていますが(笑)。
テレビは国営のVTVに呼ばれる機会が増えました。女の子などと料理番組に出てベトナム料理対決をしたり、2024年12月31日放送のVTV4の年間集大成番組では、日本語とベトナム語で歌を歌いました。
テレビは何時間も撮影しますし、リハーサルは当日だけで、ロケの段取りなども日本と違います。例えば市場で買い物するシーンでは、その前にお店の方に了解を取るのが普通です。しかし、何も伝わってなくて、ほぼキレられて、カメラマンは喧嘩しながら撮影していました(笑)。ベトナムで大切なのは臨機応変だと、いつも思ってます。
―― ベトナム人と良い関係を作る方法はありますか?
ベトナムくん 難しい質問です。ACCESSの読者の方の多くはビジネスマンですが、僕はビジネスの関係ではなく友達スタートだからです。ですので、最初はかなり丁寧に入りますし、テレビなどで会う人には絶対に自分から挨拶します。僕は特に日本語のわかるベトナム人に知られているので、仲良くなりやすい素地もあると思います。
ただ、認知はされていても、最近ではアーティストやミュージシャンとして見てもらえてないので、今後は本来の活動を増やしたいです。ベトナム人のプロフェッショナルと曲をコラボできるくらいの実力を付けたいですし、今ならアーティストやインフルエンサーと組みやすい環境ですので、曲をリリースできたら最高です。
夢物語になりますが、将来はきちんとベトナムに恩返しがしたいです。僕の活動がお金につながって、ある程度集まったら、貧しい地域に学校を作るなどです。この話をベトナム人にすると、皆が手を握ってきて「ありがとう」と感謝するんです。日本では考えられないですし、そう言われたら将来、将来、何とかしたいです。
