「人口ボーナス期」から高齢化社会へ
ベトナムは現在、「人口ボーナス期(人口黄金期)」から、高いスピードで高齢化が進む社会への転換期に入っている。この状況下で、シルバー経済(高齢者向けの活動・製品・サービスを中心とする経済)がどのように発展していくのかが注目されている。
高まる需要、埋もれた潜在力
今年75歳を迎えた中部地方の元地方裁判所判事N.Đ.T氏は、民間による高齢者介護サービスの必要性を語る。「夫婦で一緒に安心して入れる民間の高齢者施設があれば、子や孫にも負担をかけずに済む」。
退職後も公証役場でコンサルタントとして働いていた同氏は、近年は夫婦ともに体調を崩しがちで、子ども世代も自身の家庭を持つようになったという。「医療ケアがあり、同世代と交流でき、創作活動もできる場所があれば」と切実な思いを明かした。
同様の認識を示すのが、大学医学部の講師である医師L.Y.N氏である。同氏は、高齢者医療、介護、適応型住宅といった分野のサービスがベトナムでは十分に整備されていないと指摘し、「多くの国が“シルバー経済”をうまく活用しているのに、ベトナムでは未開拓の分野が多い」と語る。
「シルバー経済」とは何か
こうした需要はすべて、シルバー経済に属する。これは一般に、60歳以上の高齢者を対象とした製品、サービス、経済活動を指す概念である。
日本はアジアにおける先行国であり、2024年時点で高齢者が人口の約30%を占める。同国は高齢化という課題を、AIやロボットなどの先端技術を基盤としたシルバー経済の成長機会へと転換してきた。民間企業、研究機関、スタートアップの参入を促す政策により、社会政策と経済成長の両立を実現している。
中国・シンガポールの取り組み
中国では2020年以降、高齢者福祉を国家計画に組み込み、シルバー経済の育成を加速させた。2025年から段階的に定年年齢を最大5年引き上げる方針を打ち出し、高齢者ケア分野への大規模投資を進めている。特に介護人材の育成に力を入れ、賃金上昇を通じて若年層の参入を促している。
シンガポールは、わずか19年で「高齢化社会」から「本格的高齢社会」へ移行し、2017年に高齢化社会に到達。2026年には「超高齢社会」となり、2030年には65歳以上が人口の4人に1人になると見込まれている。シルバー経済の市場規模は、同年に724億ドルに達すると予測されている。
高齢者は重要な消費・貢献主体
ベトナム高齢者協会によると、日本では65歳以上がGDPの約20%を生み出し、米国では50歳以上がGDPの46%を創出している。これは高齢者が単なる福祉の受益者ではなく、重要な消費者かつ経済貢献主体であることを示している。
一方、ベトナムでは高齢化が急速に進む中で、シルバー経済という概念は最近になってようやく議論され始めた。
2025年に高齢者1,600万人へ
11月中旬に開催されたオンライン学術会議「新時代におけるベトナムのシルバー経済」で、グエン・スアン・タン政治局員(ホーチミン国家政治学院院長)は、ベトナムがアジアで最も急速な高齢化に直面している国の一つであると指摘した。
推計では、2025年末までに60歳以上の高齢者は約1,600万人に達し、人口の16%超を占める。2030年には約1,800万人、人口の約20%に達する見通しである。
「負担」ではなく戦略的資源
タン氏は、高齢化は医療や社会保障への負担増という課題を伴う一方で、高齢者は「負担」ではなく戦略的資源であると強調した。シルバー経済を国家成長の原動力に転換するため、民間企業、スタートアップ、外国直接投資(FDI)の参加を促す制度整備が不可欠だと述べた。
医療・観光・文化分野に大きな余地
専門家のトー・バン・チューン博士は、ベトナムは「豊かになる前に老い始めた」国であり、シルバー経済は長期的発展戦略として捉える必要があると指摘する。
特に、
- 慢性疾患治療、リハビリ、在宅介護など医療分野
- 長期滞在型・医療連携型の高齢者向け観光
- 高齢者向け文化、学習、生涯教育、娯楽サービス
といった分野は潜在力が大きいが、現状では未整備で断片的だと分析した。
高齢者の知識と経験を生かす
シルバー経済の成功には、サービス提供だけでなく、高齢者の知識・経験・社会的資本を活用する視点が不可欠である。チューン博士は、福祉中心の発想から「社会投資」への転換を提唱し、高齢者が働き、教え、助言し、創造し続けられる環境整備の重要性を訴えた。
ベトナムにとって不可避の選択
極東短期大学のチャン・タイン・ハイ学長も、高齢者は消費者であり、創造的労働力でもあると指摘。税制や保険制度を通じて高齢者雇用を促進し、高齢者向け産業への政策的支援を行うことで、シルバー経済は「負担」ではなく高付加価値産業になり得ると述べた。
本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
ベトナム進出支援LAI VIEN



















