毎年2月号恒例の「経済予測」シリーズ。ベトナム政府が2026年から掲げるGDP成長率目標10%は、果たして可能なのか。各界の専門家が2025年を振り返り、2026年のベトナム経済を予測する。
ベトナム経済、好調の先を読む
強さと脆さを併せ持つ成長市場
NNAベトナム
シニア・アナリスト
渡邉哲也氏

輸出とFDIが支えた2025年
民間を軸に成長モデルへ
ベトナムの日々の経済情報を主に日系企業に配信しているNNAベトナム。アナリストの渡邉氏は2025年を振り返って、まず輸出の好調を指摘する。
2025年1~11月のベトナムの輸出額は、前年同期比16.1%増の4301億7400万USDと絶好調。米国による高関税の影響が懸念されたが、米国への輸出は全体の約3割を占めて対米貿易黒字は1216億USDと過去最高を記録した。
「ただ、20%の相互関税が発動した8月前は駆け込み出荷で拡大する一方、その後は11月まで4ヶ月連続で前月割れが続きました。後述しますが2026年は安心できません」
FDI(海外直接投資)も伸びた。2025年1~11月のFDI実行額は前年同期比8.9%増の236億USDと、過去5年で最大だった。
海外や外国企業の需要に留まらず、ベトナム内需も活発だ。その大きな転換点となったのが、2025年5月に公布された政治局決議68号。「民間経済は国家経済の最重要原動力の一つ」と位置付けたのだ。
「以前からの目標だったGDPの2桁成長は、民間企業の躍進なしに達成は難しいとの判断だと思います」
例えば、ビングループはハノイでのオリンピック都市開発やハティン省での風力発電所開発などを計画。チュオンハイグループは韓国の鉄道車両大手と提携して、南北高速鉄道の車両生産を目指す。鉄鋼大手のホアファットはクアンガイ省で鉄道用レール工場の起工式を開催した。
「民間企業でもベトナム企業が優先のようです。今後は日本企業に限らず、外資が自社ブランドでベトナム企業を取り込むことが難しくなる気がします」
ただし、経験のない鉄道事業などは自社だけでは難しい。そのため、外資系企業は裏側から支えるのが賢いサポートになるのかもしれない。

進むEV化、揺れる日本勢
消費、観光、ECで内需拡大
ベトナム民間企業の代表とも呼べるのがビングループ。傘下の自動車メーカーであるビンファストのEVが売れている。

ベトナム自動車工業会(VAMA)によると1~11月の累計販売台数は、前年同期比7%増の32万8669台だった。加盟ブランド別ではトヨタが10%増の6万3625台でシェアトップだったが、VAMAに加盟していないビンファストの累計販売台数は14万7450台とトヨタの2倍以上だ。
「VAMAを詳細に見ると伸びているのは商用車などで、乗用車は前年同期比1%減。ビンファストが伸び分も取って1人勝ち状態です」
EV化の背景には、ベトナムのグリーンエネルギーへのシフトがある。2026年予定のハノイでの「ガソリンバイク制限区域」が顕著で、ホンダベトナムの11月の二輪販売台数は、前年同月比5.6%減の20万8521台だった。
「買い控えの影響だと思いますが、ホンダをはじめ日本勢は巻き返しを図るはずです。例えば下取りを含めたトータルでのサービスなどですね」
12月に外国人旅行者が2000万人を超えたことも、2025年の大きなトピックだ。コロナ前の約1800万人(2019年)を大きく上回った。ビザ免除の拡大や滞在期間の延長に加えて、外国人誘致に向けたプロモーションやマーケティングも強力な後押しとなった。
「ハノイやホーチミン市といった市省単位で独自の支援策を打ち出していますし、ダナンやフーコック島など観光地の整備が進んでいます」

ECでの取引も引き続き拡大。東南アジアのデジタル経済レポート「e-Conomy SEA 2025」は、2025年のASEAN主要6ヶ国のECの流通取引総額を発表。ベトナムは前年比17%増の250億USDで、インドネシア(710億USD)、タイ(330億USD)に次ぐ3位となり、2030年には610億USDに成長する見込みだ。
地場市場調査会社のメトリックでも、2025年第3四半期(7~9月)の主要なECプラットフォームの取引総額は前年同期比22.25%増の103兆6000億VND(約39億4000USD)で、特にTikTokショップのシェアは前年同期の30%から41%へと高まった。

不安要因の中で光る底力
投資先としての再評価へ
「冒頭に伝えましたが、相互関税の影響で米国輸出が2025年後半から減っています」
スマートフォンが中心の電話・電話部品と繊維・衣類は8月以降4ヶ月連続減。履物は11月に前年同月比1%増だったが、直近のピークである7月と比べて19%減少した。
ただ、当初の46%から引き下げた関税20%は最終合意ではなく枠組合意であり、交渉の余地は残っているはず。好転する可能性はあるし、中国への対応が厳しくなれば、第1次トランプ政権時代のようにベトナムへの生産移管が進むかもしれない。
「今はまだ不透明。これが晴れて安心して投資できる環境になれば、朗報ですよね」
FDIは地方への工業団地の拡張、不動産価格の上昇などからも、増えていくと見る。周辺国と比較しても、東南アジアと南アジアでの有望な投資先はベトナムとインドが光っている
ベトナムの国家観光局は2026年に2500万人の外国人旅行者の誘致を目標としており、渡邉氏も「客足が下がる要因がない」と語る。2027年のAPEC開催に向けてフーコック島での整備で進むなど、各地の差別化も図られている。
EV化が顕著な自動車はハイブリッド車に注目する。ホンダベトナムは2026年からハイブリッド車の現地生産を開始予定で、トヨタも2027年にも現地生産の開始を目指す。燃費の良さに加えて2026年1月からの特別消費税減免も後押しする。
「充電インフラが十分にない現状なら、ハイブリッドがもっと優遇されても良いのですが」
ECで注目するのは地場ブランドの成長だ。上記メトリックの調査でブランド別の売上高は、1位が米国のアップル、2位は韓国のサムスンで、3位には地場の家庭用品「トップ・ザー」、7位は地場の自然派コスメ「コクーン」が入った。

「2026年は2025年から続く改革期。その中である程度の成果が問われる年になると思います」
GDP成長率10%は実現できる
次のフェーズに走り出す2026年
EYベトナム
日系企業担当インドシナ統括パートナー
小野瀬貴久氏

「10%成長」を分解する
計算式から見た可能性
EYベトナムで長くベトナム事業に携わり、JCCHの税務・通関委員長としてベトナムを良く知る小野瀬氏は、「GDP成長率10%」の現実性を考えた。
GDP(国内総生産)を測るには、生産(付加価値)法、支出(需要)法、分配(所得)法の3つがあり、どれを使っても同じ値になるはずだ。多用されている支出法では、GDPとは国内で生産された財とサービスに対する最終需要の合計で算出される(図参照)。
各項目をまず「X:輸出」から考える。2025年1~11月のベトナムの輸出額は、前年同期比16.1%増の4301億7400万USD。一方、そこから引かれる「M:輸入」。同時期の輸入額は前年同期比18.4%増の4096億1000万USDで、輸出額以上に増えている。
「ベトナムは現地調達率が低いので、輸出が増えればその分輸入も増加します。GDPへの影響としてはさほど大きくありません」
主に中国や韓国からは原材料や部品、日本からは機械設備や化学品などを輸入。最大の輸入国は中国で、2025年1~11月の輸入額は約1680億USDと前年同期比で約30%増加している。
「I:民間投資」とは主にベトナム企業の投資とFDIを意味する。2025年1~11月のFDI実行額は前年同期比8.9%増の236億USD。ただ、日本からの投資は減少傾向で国別順位で4番目。一時期のような工場建設や新規投資はあまり見込めず、工場の拡張や増設のような投資が続くと見る。
「ただ、中国の新規投資の伸びは間違いなく、今後もFDI自体は拡大していくでしょう」

「G:政府支出」はベトナム政府に依存する項目だ。例えばインフラの整備で、実際にベトナム政府は大型プロジェクトを100単位で発表し、この数年で実現しそうな案件も多い。
また、財政健全化のため公的債務の上限はGDP比60%だが、2024年で約35%とまだ余裕があり、GDPを引き上げる牽引力になる。
「しかも現在のベトナムの場合、インフラ投資が本当に求められており、国を富ませるインフラなのです」
小野瀬氏は「必要なインフラ」と「あったら良いインフラ」があると説明し、例えば日本のインフラは既に充実しており、修理や保全は必要でも一から作る大型施設は多くない。一方のベトナムは鉄道、空港、高速道路、都市開発と、多少無理に政府支出を増やしても無駄にならないインフラばかりだ。
「しかも、かなり急ピッチで進めていくようで、GDPに十分に寄与できます」
消費は本当に伸びているか
中間層と低所得層の明暗
残っているのは「C:個人消費」だ。成長率10%のカギは、個人消費の影響が大きいと見ている。
「個人消費は北、中、南などの地域と、富裕層、中間層、低所得層を掛け合わせた9マスで考える必要がありますが、ここでは所得層別の動向を考えます」
まずは不動産。高級なハイクラスや中間層向けミドルクラスは販売が好調だ。国が発展して人々の投資が始まると、不動産や株式に向かう。ベトナム人は株式より土地への信頼度が高いので、不動産投資が多くなり、価格も上昇していく。ただ、住居用の低所得者物件はあまり良くない印象だという。
要因の一つと見るのが、2025年6月よりVATインボイスに税コードまたは個人認証番号の記載が義務化された結果だ。個人で経営するような小規模な小売店等は対応しきれず、お金の流れが停滞したのではないか。

小野瀬氏がヒアリングしたところ、食品でも中級向けや高級路線のブランドは売れているが、低価格帯は売上が落ちているそうだ。
小売りにしても、中流層をターゲットとしている店舗は好調で、伸び盛りの中間層はやはり購買意欲が高い。
「何年もこの特集記事に参加して注意するようになったのは、11月や12月の動向です。その動きがそのまま翌年へと続くことが多いからです」
2025年12月は特に中間層の動きが活発。一方、低所得者層は読み切れないという。多くの在越日本人と同様にウォッチするのはハノイとホーチミン市、その周辺省くらい。2都市で2000万人とすれば、それ以外の8000万人の動きは見えにくい。
「はっきり言うと、地方のベトナムやベトナム人を知るのは難しいです」

中所得国の罠を越えるか
新たな国家戦略が始まる
中間層以上が旺盛な消費を続けるとすれば、2025年末の勢いのまま2026年も個人消費は拡大する。
不動産は2026年も購入者が増え、価格は上昇するだろうが、その先のバブルの可能性は相対的に低いと考える。なぜなら、ベトナム政府は近年の中国の不動産バブル崩壊、古くは日本の失敗を勉強しているからだ。
2026年1月の党大会以降の5年間を成長期と位置付けているため、政府支出が減ることは考えにくい。むしろ高度成長期の日本のような重点的なインフラ整備期に入るかもしれない。
輸出は輸入と相殺される形となるので影響は大きくないだろうが、輸出が増えることは基本的に歓迎される。
「現在の様々な動きには、『中所得国の罠』に落ちないというベトナムの政府の意思表示を感じます。
新興国の経済発展が鈍化するタイ、マレーシア、インドネシアなどではなく、中所得国の罠から抜け出した日本、韓国、シンガポールなどを目指し始めた。だから政府支出を増やし、消費を盛り立て、不動産も上手に管理する。そして今後の10年、20年先を見据えて、輸出やFDIといった外資依存からの脱却も目指す。
「民間企業が最重要原動⼒と打ち出した政治局決議68号などは、スタートラインの宣言ではないでしょうか。GDP成長率10%は達成できると思います」


供給増と価格上昇の懸念はあるが
本格成長期が続くベトナム不動産
Koterasu Partners
Founder and CEO
山口真一氏

2026年に向けた回復の始まり
供給再開とミドル層の購買力
地場企業と提携してベトナムで不動産開発を進める、不動産投資会社のKoterasu Partners。ベトナムの不動産市場を10年以上見てきたCEOの山口氏は、2025年が回復期に入るとの前回予測を的中させた。改めて、その詳細を見ていこう。
以前に指摘されていた新規プロジェクトの許認可の遅延は、ベトナム政府が問題意識を持って推し進めたことで、コンドミニアムなどの供給が次第に増えていった。これによりデベロッパーも消費者もマインドが改善し、積極的に市場に入っていった。

前回と同様にハノイと旧ビンズン省での不動産開発が多かったが、ホーチミン市での案件も少しずつ動いており、2026年以降の供給増に期待がかかる。
クラス別で1番供給が多いのはハイクラスの中のローレベルで、いわば上の下だそうだ。
「価格は1㎡で2000~2500USDくらい。旧ビンズン省のイオンモール近辺では新規の建設が増えています」
ここにKoterasu Partnersが手掛けたミドルクラスのコンドミニアム「TT AVIO」もあり、昨年11月から1年で全2000戸を完売した。ここを例にしてベトナム人の購入層を見てみたい。
典型的な購入者は若い夫婦2人と子供1人などで、一般的なホワイトカラーが多く、工場勤務の管理職なども含まれる。
1戸の価格は20億~30億VND。仮に25億VNDで考えると、世帯年収の5~6倍を購入の許容範囲として世帯年収は5億VND。月収で4000万VNDとすれば、夫と妻で各2000万VNDの収入となる。彼らは中流層だが金持ちではない。
「3~5割が自己資金で、残りはローンが多いですね。ローンは長くなってきて、20年や25年などです」
世帯月収が4000万VNDで、住宅関係に回せる費用を3割程度と考えると、返済にさほど無理はない。

賃金と価格の乖離が示す兆し
供給増×価格上昇のジレンマ
2016~2017年はバブル期と言われたが、その後のコロナ禍を経て現在まで、価格はさほど落ち込んでいない。供給が増えた2025年は安心感が出てきたためか、価格が上がり始めた。
賃金上昇分のプラスアルファ程度の上昇であれば健全だが、賃金と資産価格の乖離が大きくなっているという。案件にもよるが賃金が10%上昇するとして、不動産価格は10~50%増などだ。

「全世界的に言えることなのですが、格差の広がりを感じます。低所得層だけでなく中間層も取り残される危機感はあります」
不動産は居住目的以外に投資家の金融商品という側面があり、ここが過熱すると価格はどんどん上がっていく。ハイクラスは価格の上下動が大きく、ミドルクラスの住居用物件は激しくないはずだが、上昇の角度が上がっているそうだ。低所得者層の住宅は都市部では増えてきたが地方はまだ不十分で、価格も若干上がってきたそうだ。
2026年以降もベトナム経済は発展を続けそうで、不動産業界には追い風となる。加えて、消費者もデベロッパーも上昇気流を実感できている。ただ、楽観視できない理由もある。
ひとつは本格的な供給局面に入ること、もうひとつは上記の価格の上昇だ。供給が増えて価格が下がらない、あるいは上がり続けると在庫がだぶつく。
「中国のような不動産不況や不良債権などが原因で、皆が『早く売らなきゃ』にならないと、価格は下がらないものです」
不動産の在庫がはけないとデベロッパーの資金繰りが徐々に苦しくなり、供給が減っていく可能性もなくはない。
一般的に不動産が順調に販売されれば、銀行もしっかりとデベロッパーに融資でき、新規の案件が始まるという好循環が生まれる。逆に供給が増えすぎて、価格が上がり続けると、購入者が減っていく。デベロッパーのキャッシュフローが厳しくなり、銀行は融資を渋るようになる。
「2026年ではないと思いますが、こうした負の循環は残念ながら数年に一度起きています」

東南アジアで際立つ成長期待
2025年の100点から120点へ
2025年は業界全体が総じて好調、伴って不動産の質も向上しているという。同社はTT AVIOと並行してホーチミン市で500戸、旧ビンズン省で3000戸のコンドミニアムを開発している。
「需要に応える商品をきちんと作ること。立地、企画、デベロッパーの能力、法的手続きなどまでの総合力が評価されています」
また、以前はコンプライアンスに問題がある会社もあったが、最近は消費者側の意識が高くなり、デベロッパー側も襟を正すようになった。改善の余地があるとはいえ、品質の良い物件を、適正価格で、遅延なく販売するといった基本も重視されている。
「毎年言っているかもしれないですが、先進国でも新興国でも、『不動産は値上がりする』という前提で皆が購入しています」
長年のデフレ経済だった日本でも2023~2024年くらいからインフレ経済に変わり、現金を長く持つ習慣が非主流になりつつある。一方、住宅を購入するベトナム人は、不動産は資産形成の1つという認識が日本人より強い。
不動産を投資と考えるか、住宅とするか。住居なら自分のライフスタイルや子供の成長などに合わせて将来像を考慮し、多少無理をして購入することもある。投資なら人が多く住むエリアや質の高いデベロッパーを選んで、次の購入希望者が多くなりそうな商品として買う。
「その意味では地方というより中心部。不動産は人の多さで成り立つ商品でもありますし、地方まで波及するのは時間がかかるものです」
山口氏はフィリピンでも不動産開発をしており、近隣諸国の不動産事情に詳しい。東南アジアの中でもGDP成長率10%を目指すベトナム経済は、他国と比べても2026年の不動産市況を押し上げる。
「2025年を仮に100点とすれば、2026年は120点になればと期待しています」





















取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。