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ベトナムビジネス特集Vol109|
環境を守れ! 日系企業の挑戦

経済発展と工業化が進むベトナムで、環境問題がクローズアップされている。ごみ処理、水質汚染、大気汚染、土壌汚染……どれも日本社会が通ってきた道だ。待ったなしの現状に日系企業が貢献している。


ごみを燃やして電気を作る ベトナム初の廃棄物焼却発電プラント

HITACHI ZOSEN VIETNAM

ハノイ支店長

鈴木嘉治氏

NEDOの委託でスタート ハノイ近郊でもうすぐ稼働

増え続けるベトナムのごみ。産業廃棄物もそれ以外の一般廃棄物も増加の一途だが、ごみ処理は埋立てが基本。その埋立処分場は不足しており、埋立処分による土壌汚染も懸念される。一方、先進国では高熱でごみを焼却する方法が一般的で、ごみの総量を減らし、残りを最終処分場で埋め立てる。

その焼却処理を行いながら、燃やした熱で電力を作るのが「廃棄物焼却発電プラント」だ。1965年に日本で初めて機械式ごみ焼却発電施設を建設した日立造船が、2017年にベトナムで初めての施設を完成させた。

日本政府の協力によるプロジェクトで、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託。同社はごみ焼却施設を世界に約900以上納入した実績を持ち、約半数に発電設備が備わっている。

「ごみ処理の問題は日本が経験してきたことですから、発展するベトナムでの事情もわかります。できる限り協力させてもらいました」

建設場所はハノイにあるナムソン処理場。ハノイ市では一般家庭ごみと産業廃棄物が合わせて1日約7000t発生し、ナムソン処理場で廃棄物処理事業を手掛けるハノイ都市環境公社(URENCO)が、5000t以上を埋立て処分している。

このURENCOが日立造船のパートナーとなって建設がスタート。2017年3月に試運転を終了して4月から実証運転を始め、11月に正式に引渡しが完了。現在はハノイ市人民委員会が所有している。このプラントは一般家庭からの生活廃棄物ではなく、主に工場から出る産業廃棄物を焼却する。

「産業廃棄物には一般産業廃棄物と危険産業廃棄物があり、危険産業廃棄物のほうが処理費用が高いです。そのため、処理量と運転コストを考えて両者のバランスを取るが望ましいです」

プラントの仕組みは、トラックで運ばれた産業廃棄物を焼却施設で受け入れて、ロータリーキルンストーカ式焼却炉で燃やす。この焼却方式は幅広い種類の廃棄物を安定的に処理でき、耐久性にも優れているという。そして、焼却した熱で蒸気を発生させて発電タービンを回し、発電網に電力を送る。1日のごみの処理量は75tで、発電容量は1930kWだ。

多少の石や金属の塊などを一緒に投入しても問題はなく、そのまま排出されるという。燃やした後は灰にして最終処分場へ運び、危険産業廃棄物が燃えた後は排ガス設備に送られて、クリーンな排気ガスとして大気中に排出される。この処理された排気ガスは測定・分析器にて検査される。適正な運転が保たれており、周辺環境に配慮しているのだ。

「実証事業としての施設の引渡しは終わっていますが、引き続き施設の安定した運転のためサポートしていくつもりです」

次は生活ごみの焼却プラント そのためハノイ支店を開設

NEDOの実証事業とは別に、ハノイ市では生活廃棄物の焼却発電プラントが計画されており、日立造船はハノイ市内で処理量1日1000t、発電容量15.5MWの事業を計画している。最初のものより桁違いの能力だ。日立造船はこのプロジェクトのために2018年3月、地場の複合企業と覚書を締結した。

「一般廃棄物の焼却発電プラントは先進国の他、タイ、マレーシア、インドなどでも増えており、経済発展に伴った建設が多いのです。1人当たりのGDPが5000USDを超えると建設が始まると言われていますから、ベトナムではかなり早い段階で作られることになります」

プラントの仕組みはNEDOのものとほぼ同じで、世界で広く、特に大型のごみ焼却発電施設で使われているストーカタイプの燃焼発電も同様だ。ただ、産業廃棄物と一般家庭ごみの焼却は異なる。

工場からの廃棄物はある程度決まった種類となるので処理しやすく、カロリーが高いのでよく燃える。つまり発電量も多くなる。ただ、化学品などは排ガスを考慮する必要や、炉に影響を与える可能性もある。一方の一般家庭ごみは生ごみなども出るため水分が多く、カロリーが低い。燃やす種類も多くなる。

「日立造船は家庭ごみの焼却発電のほうが得意です。また、経済成長で生活水準が上がるにつれてごみのカロリーが上がっていきます。以前の日本と同じですね」

プラント自体の建設に2年程度はかかり、ごみの提供や電力を販売する契約などもあるので、早くて数年先の完成となりそうだ。ホーチミン市からも導入計画の引合いがあり、ベトナムのごみ問題が徐々に解決されていくかもしれない。

そもそもNEDOのプロジェクトは、実際に使われることは当然ながら、モデルケースとして実機を紹介する意味もあったという。ベトナムには今までなかったものなのだ。

「高度な技術と安全性、環境に優しいことをベトナムに伝える役割もあると考えています。処理量1日75tと決して大きな施設ではないのは、まず知ってもらうことが大切だからです」

日立造船ベトナムの本社はホーチミン市だが、昨年10月にハノイに支店を開設し、鈴木氏が初代の支店長となった。プロジェクトのために現地の関係機関、ハノイ市、中央官庁などと密に連携していく必要があるからだ。


水処理技術で安全・安心を提供 上下水道と工業排水を改善

KOBELCO ECO-SOLUTIONS VIETNAM

General Director

立光伸行氏

ODAで上下水道の設備 変わるベトナムの状況

人口増と経済発展で上水のニーズおよび汚水処理のニーズが急増している。上下水道の整備に対しては日系企業の場合、日本のODA(政府開発援助)が中心となっている。

ベトナムで50件以上の水処理設備の実績を持つコベルコ・エコソリューションズ・ベトナム(KESV)も、親会社である神鋼環境ソリューションとタッグを組んで、JICA(国際協力機構)によるODAを進めた。ハイフォン市のアンズオン浄水場での前処理設備(建設中)と、ビンズン省の下水処理場  (稼働中)だ。

上水道ではアンズオン浄水場で、1日に20万㎡の処理能力を持つハイフォン最大の浄水場だ。原水である河川水の将来の水質悪化に備え、その半分の1日に10万㎡の処理能力を持つ前処理装置に、北九州市と共同開発したU-BCFと呼ばれる上向流式生物接触ろ過設備を供給している。

微生物の浄化作用で原水の汚濁物質を除去する装置で、建設や維持のコストが安価という特徴がある。2020年3月に完成予定だ。

下水道では1日に1.7万㎡の処理能力を持つ、ビンズン省のトゥアンアン下水処理場を建設した。同地域の下水道普及率向上とサイゴン川流域の水質改善が目的で、2017年9月に完成し、順調に稼働している。

「ベトナムの上下水道は変わりつつあります。各市や省には、上下水道を管轄する上下水道公社があり、徐々に株式売却による民営化が進んでいます。日本では公共事業のイメージが強いですが、今後は民間資本を活用したPPP(Public-Private Partnership)による上下水道の整備が進むとみています」

そうなれば上下水道分野で、ベトナムで実績を持つ同社単独での処理技術、処理設備を提供できるチャンスがあると期待している。

高い排水処理技術で対応 標準化でコストダウンも

工場や工業団地からの排水も当然ながら処理が必要だ。KESVではこうした産業排水案件のほうが実績多く、同社の主力メニューとして今後も伸ばしていきたい分野とのこと。顧客は日系企業が約9割、残りはベトナム、その他の外資系企業。実績が増えるに従って引き合いが多くなったという。

「2016年に起きた海洋汚染事故から、水環境に対する規制が厳しくなったと感じています。特に染色、メッキ、製紙など排水処理が難しい工場を新設する場合には、その市や省の人民委員会が開催する評価委員会にて厳しく評価されます。それに合格しないと工場建設が開始できない場合もあるようです」

同社ではこうした顧客企業のために、環境アセスメントを手伝うこともある。顧客の業態はいくつかに分かれ、まずは冷却循環水の処理設備を設置する鉄鋼業界。次は食品・飲料業界で、生物分解による排水処理など。工業団地向けの総合排水処理設備は、入居企業の排水をまとめて処理するもの。最後は上記の染色、メッキ、製紙など水処理に高度な技術が必要となる業界だ。

このような企業の排水には高い有機物や窒素、塩素、色素などが含まれており、塩素や色には日本にはない独自の基準もある。ベトナム企業を含めて競合他社は多いが、これらに対応できない企業もあり、同社はこの分野に注力している。

「膜を使って塩素をろ過したり、薬品で色を分解したり、固形物を沈殿させたり、活性炭で吸着させたりと、状況によって処理の方法は様々です。色々な業種で培ってきた実績やノウハウで、処理が難しい排水でも対応できる技術力が弊社の強みとなります」

排水処理が終わった後の残滓は汚泥と呼ばれ、最終処分場に廃棄することが一般的であるが、この処理についてもアイデアがある。汚泥には水分が多いのでまずは脱水機で水分を減らし、さらに乾燥機でより水分を減らすことで減量、減容ができる。これにより処分量が減らせて、処分費用のコストダウンにも貢献できる。

「そのための技術は持っているので、ベトナムでも展開していきたいです」

ベトナムは公的債務をGDPの65%までと設定しており、ODAの新規案件は現在難しい状況だ。そのため上下水道は、官と民でパートナーを組んで事業を行うPPP方式になり、ベトナム企業との協業になるのではと立光氏。一方の工業用水処理では、今後は顧客層を広げていくため、ベトナム競合企業との価格競争が避けられないという。ただ、現実は厳しそうだ。

「品質と価格の両方を見てくれる企業もありますが、ベトナム企業より1~2割高いのがネックとなっています。ビジネスもありますが、我々もベトナム国全体の環境改善に貢献したいので、方策を考えているところです」

それはコストを安くするための標準化モデルだ。水処理設備は顧客に合わせたオーダーメイドなので、プラント全体の標準化は難しい。しかし、内部に設置する装置の種類や配置をいくつかのパターンにすることで、手間やミスも減ってコストダウンができるという。ある程度の基準を作って提案したいそうだ。

「これまで南部の案件が多かったですが、今後は北部で工業団地が増えると思います。こちらも増やしていきたいですね」


大気汚染改善の足掛かりに 排気ガスの測定分析で貢献

CHUGAI TECHNOS VIETNAM

 

General Director

森本一義氏

大型プラントの排ガス調査 環境基準測定やプラント性能試験

大都市を中心に広がる大気汚染。原因の一つであるバイクの排気ガス(排ガス)に対しては、中心部への乗入れ制限や電動バイクの普及など改善策が出されている。もうひとつの原因は発電所など大型プラントからの排ガスで、天然資源環境省の環境規制がある。この排ガスの測定分析を行っているのが中外テクノスベトナムだ。

同社は建設現場の土壌や工場排水の水質なども分析しているが、主業務は排ガスであり、日本ではほぼすべての火力発電プラントの排ガスを測定分析しているという。日本のプラントメーカーの海外進出に伴い、主にASEANの企業を対象にベトナムに進出した。

「水関係は多いのですが、排ガスの環境調査会社は日系では弊社だけだと思います。ベトナムは数年前に排ガスの環境基準を厳しくしており、新しい流れが始まっています」

同社が対象とするのは大型の発電プラントが多く、ベトナム企業ではEVN(ベトナム電力総公社)やPVパワー(ペトロベトナムの電力子会社)、台湾系のフォルモサ、日系では排ガス排出設備を設置している事業会社もあり、ボイラーの環境基準などを調べている。また、フィリピン、タイ、マレーシア、チリ、サウジアラビアなどの海外事業も展開している。

ベトナムではプラントの新設、環境負荷低減装置のリプレース、法令で定められた定期測定の際に、排ガス規制の基準を満たした旨の資料を天然資源環境省に提出する。そのためにはVIMCERTSのライセンス取得が必要なのだが、同社はJIS規格による排ガス測定のVIMCERTS 086認証を取得。日系企業では同社だけだそうで、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、O2(酸素)、CO2(二酸化炭素)、CO(一酸化炭素)、NH3(アンモニア)、HCL(塩化水素)などが調査できる。

「プラントの煙突には一般的に測定のためのフランジがあり、そこにパイプを挿入して、吸引装置でガスを引っ張ります。そして捕集器で採取したダスト(煤)、NOx、SOx、O2、CO2、COやダストの未燃分などを分析して濃度を算出します」

これは日本のJIS法に沿ったものだが、ベトナムでは簡易モニターのTESTOという機器で調べるのが一般的だそうだ。

ただ、環境基準の測定分析よりも案件が多いのが、プラントの環境負荷低減装置の性能試験だ。ダストを捕集する集じん装置、NOx低減のための脱硝装置、Sox低減のための脱硫装置が発電プラントなどにはあり、装置の各種有害物質の除去率を測定する。

経年劣化等でプラントの性能は落ちるため、正確なデータが得られないと各種装置の状況が確認できない。放っておくと気づかないうちに非効率的な運転となっていることもある。新設プラントの場合は、設計値との合致などが目的になる。

「集じん装置、脱硝装置、脱硫装置のうち、ベトナムでは集じん装置は100%設置されていますが、脱硝装置と脱硫装置は一部未設置です。ただ、EVNは今後全てのプラントに設置していく方針であり、環境負荷は低減されると期待しています」

燃焼方法や燃料の提案 経験が生むアドバイス

同社では測定分析結果の数値を提出するだけでなく、環境基準を満たしていない場合や、性能試験で良い結果が出ない場合はもちろん、測定の側面から改善の余地がある事項は環境コンサルティングを行っている。報告会でのアドバイスやレポートへの記載などで、燃焼改善のためのソフト面やハード面の対策について提案を行う。ダスト中の未燃カーボン、微粉炭粒度、燃料成分、排ガス中のCO、NOx、O2濃度や分布を調べることで、対応が推察できるそうだ。

例えば不完全燃焼に対しては、燃料の供給方法、送り込む空気の量やその方向などを提案して、燃え方を変えるようにする。ハードウェアのリプレースを勧めることもある。

「日本も昔は火力発電で重油を使っていましたが、環境対策と価格の不安定さから石炭やクリーンなLNG(液化天然ガス)などに変わりました。ベトナムでも数年は石炭依存となりますが、徐々に変わっていくでしょう」

環境測定にマニュアルはあるが、その通りには進まないもので、特に排ガスは技術者として一人前になるのに最低でも5年程度かかるという。測定位置によって排ガスの温度、ガスの中の水分量、煙道の圧力などが違うので、状況に合わせた測定器具や測定方法の選択、数値の妥当性評価、改善提案をしている。経験の積み重ねが何より大切なのだ。

「測定方法ではお客さんの仕様書がありますが、こう変えたほうが良い、この項目も必要などと提案しています。また、怖いのは測定値が真値から外れることで、ここでも経験が欠かせません」

一般的に、真値より測定値が高く出ることより、低く出るほうが要因として圧倒的に多いからだ。例えば、吸引装置のバルブに小さな亀裂があり、そこから外の空気を吸って濃度が落ちるなどがあるという。

環境負荷低減装置の新設やリプレース、環境法令に伴う対策にはかなりの資金が必要となる。その負担を「利益を生まない投資」と考える企業もあるだろうと森本氏は語る。また、環境法令を厳しくすると、企業に負荷がかかって経済停滞を招く危険性も出てくる。

「しかし、これは日本も通過してきたことです。時間はかかると思いますが、多くのベトナム人の環境意識が変わり、環境対策が根付いていくよう我々も協力したいと思います」