1996年、邦銀の第1号としてベトナムに設立されたみずほ銀行。当地の日系企業を支えながら、積極的にベトコムバンクやMサービスと提携して業務を拡大させてきた。ホーチミン支店の和田正明支店長がこれまでと今後を語る。
現地企業と提携した理由
―― ベトナム進出が1996年とかなり早いです。
和田 1996年にハノイ市、2006年にホーチミン市に支店を設立しました。海外に支店を作る場合、日本の企業が潜在的に多く進出する国を選びますが、当時のお客様へのヒアリングから、ベトナムへ投資をする強い流れが見えたそうです。邦銀では最初のベトナム進出になりました。
弊行の業務は主に、日本本国でお取引のある日本企業の現地法人設立や現地商取引のサポートです。ベトナム固有の規制や制度への対応、資本金払込や事業運営や拡大をサポートする融資、預金の預入れ、国内外への送金と為替取引などです。
そのため、お客様は日系企業が中心で約90%、残りは主にローカル企業と多国籍企業で、ベトナム全体で2000社超になります。弊行のベトナム進出当時のお客様は製造業が多く、その後はサービス業等も増えましたが、引続き最も多いのは製造業です。
銀行としてのサービス内容は年々少しずつ変化しており、これは企業の成長ステージごとに求められるニーズにマッチさせるためです。現地法人を設立して、取引先が増えたり売上が増えると、従業員の増加や工場増設等で事業規模が拡大します。ある程度の規模になると、成長スピードを速めるため同業者のM&Aを考えたり、地場のパートナー企業を探し始めます。企業として新しいステージに入るわけです。近年は、このようなお客様が増えてきました。
―― 2011年には大手商業銀行のベトコムバンクと資本業務提携をしています。
和田 ベトナムでは、日系以外にも欧米系、韓国系、台湾系などの外資系銀行がありますが、どの銀行も進出後しばらくは自国企業との法人取引が中心となります。そのため、ベトナム経済の成長とともに市場が拡大する中小企業や個人向けサービスを提供することは乏しく、こうしたお客様はベトナムの地場銀行が取引銀行となっています。
ベトコムバンクとの資本業務提携の目的の一つは、リテール(中小企業・個人等)向けサービスの補完です。外資系銀行ができない取引、例えば日本企業の従業員個人の銀行口座開設やクレジットカードの発行なども、地場銀行がパートナーとなることでサービスがカバーできます。
みずほ銀行にはベトナム全体で約330人の従業員がおり、6人がベトコムバンクに出向しています。また、弊行とベトコムバンクとはトップ同士が頻繁に連絡を取り、ベトナム市場でのプレゼンス向上やベトナム経済を金融面で支え発展させる手法などを戦略的に議論する、非常に親密な関係となっています。
―― 2021年にはMサービスの株式を取得しました。
和田 ベトコムバンクとは同じ商業銀行としてのパートナー関係でありますが、Mサービスは金融分野とは異なる異業種との提携と言えるでしょう。ご存知のように、Mサービスはスマートフォン向け電子決済アプリの「MoMo」を運営しており、ベトナム国内の個人非接触決済市場で50%以上のシェアを持つトップ企業です。
日本では、全国に銀行や郵便局があり全国民が等しく金融サービスを享受できますが、これは世界的には珍しいことです。ベトナムには、銀行のない町や村がたくさん存在します。しかし、このような地域でも、モバイル決済アプリが銀行のサービスを代替するようになりました。
そうなると、評価されるのは店舗の数や立地の利便性ではなく、決済アプリの使い勝手などの利便性にニーズが変わっていくわけです。
MoMoのような金融プラットフォームによるマネタイズは今後も有望な事業ですが、残念ながら、私たちにはこうしたビジネスのノウハウや知見が必ずしも多くないため、単独で社会の大きな変化を吸収して魅力的なサービスを提供し続けることは難しいと考えています。プラットフォーマーとしてのMサービスから多くのことを学んでいる最中です。
Mサービスからは、日本のみならずグローバルに培った金融のノウハウを駆使し、企業の成長を一層加速させることを期待されています。スタートアップ企業は、商品やITシステム等の金融面でのノウハウ不足であることが多く、こうした経験値の多い外資系銀行がパートナーになることを望んだと考えています。
先んじて進めるESG対応
―― ベトナムの銀行業界の将来をどう感じますか?
和田 良い点と感じるのは、以前の日本のような護送船団方式であることです。官民が一体となって金融市場を統制・管理・運営しており、それがうまく機能しています。地場通貨の金利も他国比高い水準にあり、経済成長を背景に一定のインフレが持続的に保たれています。銀行は特に、ある意味で規制業界であり、一定の秩序が保たれ、銀行固有の業務を安心して進めることができます。
一方、経済が成長している故に、変革へのチャレンジが時折物足りないと感じることもあります。私はバンコクにも駐在していましたが、タイと比較すると、積極的な外国企業の誘致や投資の呼び込み、規制緩和に対する警戒心が少し強い印象を受けます。
―― これから取り組みたいことは何でしょうか?
和田 これまで続けてきた日本の企業向けビジネスサポートを、ベトナムやお客様の成長と共により高度化させていきます。また、日本の企業以外のお客様、非日系企業の投資意欲やビジネス拡大もベトナムの経済成長を支えており、今後さらに取引接点を広げていく考えです。
また、みずほ銀行には、日本だけでなく世界各国での知見や経験があり、培った知識やノウハウをベトナムで広め、ベトナムの金融業界を成長させるリーダーシップの発揮を目指しています。
その一つが、SDGs(持続可能な開発目標)を達成する手段の1つである、ESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governanceの頭文字による言葉)への対応です。
一例を挙げれば、資金調達の際に、ESGローンやグリーンボンドという債券の発行を提案するなどです。この債券は、その資金自体が環境改善効果のあるプロジェクトに使われることが特徴で、ESGを行う企業への投資もさらに盛んになっています。
世界の先進的な企業は本格的に環境活動を始めています。ベトナムは世界のOEM工場という大きな役割があり、発注元企業が地球温暖化対策や再生可能エネルギーなどの環境基準対応に力を入れると、在ベトナム企業はESG対応を検討せざるを得なくなります。
ならば、まだ黎明期である今の時期から、金融機関として先んじてESGのテーマに取り組んでいくつもりです。ベトナムは森林や水源など自然も豊かで、ESGはベトナム社会のためにもなると考えています。