ホーチミン市の労働市場は、工場の受注減少によって失業者が増えている一方で、多くの企業が事業拡大に向けた採用に苦労しているというパラドックスに直面している。
1か月前に縫製関連企業のトゥアンフーン社は、ホーチミン市6区の本社と12区とビンチャン県、およびロンアン省の支店で働く従業員200名の求人を出した。給与額はスキルによって700万~1300万VNDとされている。この会社では、自社の社員による紹介、SNS、6区職業紹介センターなど様々なチャンネルを通じて募集をかけているが、応募者は思ったほど来ていない。
トゥアンフーン社の採用担当者であるブイ・バン・ズイ氏によると労働市場は、今年の初めほど競争は激しくないが、労働者の採用は依然として困難な状況だ。若い労働者は季節労働、オンラインビジネス、配車アプリサービスなどの仕事に就いて日給や週給を受け取る習慣に慣れており、月給制の仕事は好まず、決められた時間通りに働いたり残業させられることを避けるようになっている。
また、歩合給の場合、新しく就職した未熟練労働者の月給は700万~800万VNDほどで、以前の仕事よりも収入が低くなるため、数ヶ月もするとすぐに転職してしまう。
ズイ氏によると労働者側の理由に加えて、工場の立地も採用を難しくしている原因になっている。ホーチミン市の生活費はますます高くなっている。もし、労働者が現在働いているのであれば頑張って働き続けようとするが、一旦失業すると彼らはホーチミン市の近隣工場で新しい仕事を探す代わりに、生活費の安い故郷に帰るか別の地域に移って、仕事を探すようになっている。
ホーチミン市ビンチェウ工業団地に所在するトアンタン社の労働組合代表であるディン・バン・ザイ氏は、労働者不足が長い間続いたことで、労働者は仕事の選り好みをするようになり、需給バランスが崩れたと話す。
トアンタン社は、輸出向けの魚の缶詰製造を専門に行っており、150人の労働者を採用したいと考えているが、今年の初めから現在まで十分な人数を集められずにいる。新規採用の初任給は1000万~1100万VNDとなっているがそれでも労働者にとってはそれほど魅力的ではないようだ。ザイ氏によると、この仕事は低温環境での作業となり、魚の臭いもきついので労働者から避けられやすい。
Manpower Group Vietnamが8月に公表した今年下半期の採用需要に関する調査では、回答した100社以上の企業のうち 88% が採用を増やすか、現在の従業員数を維持する意向であり、その多くが製造業、加工業、金融業、貿易業となっている。調査に回答した企業の24%が一般労働者の採用を希望しており、57%の企業は採用活動に困難を抱えており、45%の企業が今後3~6か月以内に季節労働者またはパート労働者を採用したいと考えている。
ホーチミン市の労働市場と求人情報予測センターのデータによると、今年の下半期に向けてホーチミン市には13万6000~15万人の労働力が必要とされている。このうちサービス業が65%以上を占めており、製造業と建設業が34%弱となっている。
Manpower Group Vietnamの請負事業部を担当するグエン・スアン・ソン部長は、地方では労働力が余剰状態だと評価する。ホーチミン市のようなベトナム南東部では、労働力が不足しており採用は難しくなっているが、地方では昨年のコロナによる規制の余波で労働者が余っている。
木材加工などの一部の業種では受注が激減し、人員削減を余儀なくされている。そのためこの業界では労働者が余っている。しかし、木材加工分野の労働者は殆どが男性で、人手が足りない食品加工や電子部品分野では、女性労働者を採用したいと考えている。「労働市場では今後性別による需給バランスに偏りがでるでしょう。」とソン部長は話す。
労働者の採用が難しくなっているもう一つの理由は、長期にわたるコロナとの戦いによって労働者の貯蓄が使い果たされたことにある。そのため、労働者はより高い収入を得るために残業の多い仕事を探している。一方で、海外へ輸出している企業の多くは、法定労働時間の順守を余儀なくされており、過度の残業をさせることが出来ない。
人材サービスの分野で10年以上の経験を持つソン部長は、労働力の需給バランスの不均衡の根本的な原因は、労働市場が感染症や景気後退などの問題に直面した際に全国の労働者を管理、調整するセンターが不足していることにあると指摘する。
ソン部長は全国の職業サービスセンターが連携し、失業者情報、年齢別、スキル別の労働者データ、希望就職先、地方への移動の可否などのデータベースを構築する必要があると提案する。
一方で、これらの職業サービスセンターでは、審査済みの企業からの求人情報データベースも構築する。求職者と求人企業は、このデータベースにアクセスして就職活動をおこなったり、サービスセンターの仲介で面談できるようにする。現在、各地方の職業紹介センターでは、企業の求人をサポートしているが、管轄する地域内に範囲が限られている。
同様にザイ氏も国家管理機関による労働資源の調整能力が不足していると指摘する。ザイ氏によると、例えばトアンタン社の工場はビンズン省に隣接しており、この地域では過去数ヶ月に330社以上の企業が経営難に陥り4万1000人以上の労働者が無給休暇を余儀なくされている。しかし、トアンタン社には、これらの労働者にアプローチする術がないのが現状だ。
実際、条件が厳しくても仕事を探している労働者はまだ存在しているが、求人情報が彼らのところには届いていない。木材加工業の労働者は一般的に真面目で、適切な労働環境と給与水準であれば、苦労を厭わずに金を稼ぐために頑張って働く人が多い。もし、この業界の失業者の情報が労働管理機関を通じて広く公開されれば、人手不足に悩む企業は積極的に採用を進めるだろう。
出典:18/09/2022 VNEXPRESS
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