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ベトナムで活躍する日系企業|
リーダーたちの構想第60回
SHARP MANUFACTURING VIETNAM

2020年4月に設立されたシャープマニュファクチャリングベトナム。空気清浄機などの白物家電、主に車載用の液晶モジュール、電子部品を生産する複合工場だ。多くの国で工場を立ち上げた永田勝則社長がその真意を語る。

異なる3分野を各階で生産

―― ベトナムへの進出理由を教えてください。

永田 中国の人件費上昇で東南アジアに注目し、中でもベトナムを選びました。また、米中貿易摩擦で中国1拠点での生産をリスクと考えたお客様が多く、安定供給を考えた結果でもあります。

 中国から生産を移管したのは主に車載用の液晶モジュール(液晶パネル、駆動回路、電源回路、光源などの部品を集積した製品)で、ベトナムで新たに始めた事業もあり、現在ではEPE企業として大きく3分野を生産しています。

 工場地階では空気清浄機や掃除機(スティックタイプ)などの白物家電を生産しており、空気清浄機は約8割が日本向けで、欧米やアジアにも輸出しています。1階では液晶モジュールを生産し、主にインパネ用など車載向けを欧米やアジアに輸出しています。2階はカメラモジュールなどの電子部品で、ベトナムのグループ会社に納入しています。

―― かなり違った製品ですね。

永田 その通りです。一般的に工場は垂直統合型が多く、各工場では特定の製品を生産しています。このような全く異なる複数の製品を作る複合工場はシャープでも珍しく、一つの工場で同じ製品を作り続けるリスクを考えて、ベトナムで新しい可能性を探るトライアルをしています。将来は工場を拡張し、第2工場、第3工場と広げて、他国にも展開したいと思っています。

 ただ、新型コロナが始まった2020年4月の設立ですので、1年~1年半ほど遅れて実質的な生産が始まりました。白物家電や電子部品もそうですが、特に液晶モジュールは装置産業なので、設備を入れても立上げメンバーが日本や中国などから来られず、2022年に始まったばかりです。その分、液晶モジュールの生産量は当初の約3倍に増えています。

 新しい工場ですので、多くのラインで自動化が進められました。空気清浄機などはコンベアで運んで組み立てる作業なので人手が必要ですが、液晶モジュールや電子部品はフル工程で自動生産ができています。

 ただ、機種の切替えや部材の投入、機能検査や感応検査などの検査にはスタッフが必要です。ベトナムは若い人が多いので、検査では皆の目が良さが役立っています。

―― 今まで数多くの工場を設立してきました。ベトナムはいかがでしょうか?

永田 ベトナム人は手先が器用で、かつ優秀です。日本で働いた経験者も多く、想像以上に日本語が堪能です。管理職となるマネジャーやスーパーバイザーには英語か日本語の語学力が必要になるので、その意味でも心強いですね。

 また、海外工場を作るとき、通常は日本でマニュアルなどを現地語に翻訳しています。ベトナムでは当地で翻訳できることが多いため、迅速ですし安くもなります。

 米国での工場立上げで実感したのですが、新工場ではマニュアルが全てと言ってよいほど重要です。話すだけでは伝わらないことが多く、あらゆる作業をマニュアル化してエンジニアやスタッフに教えます。ベトナムも同様で、しかも3つの生産体制があるため、それぞれの作業に合わせてマニュアルを作りました。

海外工場を立ち上げるまで

―― 海外工場の立上げではどんなことがポイントになるのでしょうか?

永田 本当にたくさんあります(笑)。政府との交渉に始まって従業員の雇用、給与形態の作成、従業員の住居などもありますが、生産で大切なのは電力や水などのユーティリティーと部材の調達です。

 ユーティリティーはいわばインフラで、メキシコでは水が少なく水質も悪いので、工場まで水を引いて、濾過して使用しました。調査したところベトナムの水道水はきれいで、弊社では生産工程で純水が必要になるのですが、それに使用できる水質でした。

 電力は現在北部での電力不足が問題になっているように、若干不安な面があります。南部でも課題となるでしょうから、今後は太陽光発電などからも電力を確保したいと考えています。

 現地調達率もベトナムは弱いですが、多くの日系企業の存在が強みでしょう。私は中国でも工場を立ち上げましたが、中国に負けない価格にできるのか、地場のサプライヤーさんがどこまで対応できるのかなどを調査中です。ベトナム企業とも大いにコラボしたいと思っています。

―― 組織や人材の面ではいかがでしょうか?

永田 海外では工場完成までが1年~1年半で、そこから遅くとも半年で稼働させるのが一般的です。装置や設備を入れながらスタッフを指導して、ラインを少しずつ増やしていきます。

 設立当初は現場の管理職はいませんから、ベトナム人のマネジャーなどを採用して、日本人が指導しました。この3年で辞める人も出て、徐々に人事のピラミッドが出来上がり、これからは下を育てる時期だと思っています。

 管理職の役職にはマネジャー、アシスタントマネジャー、スーパーバイザーなどがあり、マネジャーで30代、スーパーバイザーで20代が中心と若い人ばかりです。経験不足は日本人がマネジメントしていて、これまでに大きなトラブルはありません。

 現在のスタッフは派遣社員を含めて約1400人で、採用には苦労はないです。中国の南京工場に駐在したとき、南京は江蘇省の省都で人口約800万人の都市であっても、人が集まらずに地方からの出稼ぎ者も少なくなかったです。ベトナムではビンズン省の工場周辺から採用できています。

 それと、ベトナムは安心して工場を稼働させられます。電子部品は365日24時間生産するので、土日であっても税関局が対応してくれるのは大変うれしいです。中国では考えられないことですから(笑)。

―― 今後の計画や予定を教えてください。

永田 シャープの海外生産拠点は欧米、中国、アジアなど世界各地にいくつもありますが、2022年4月に新CEOに就任した呉柏勲(Robert Wu)の海外初出張先はこのベトナムでした。新しい生産拠点として育てる方針です。

 今後は工場を大きくします。例えば液晶モジュールです。1ヶ月に約12万台を生産できるラインが3つ稼働しており、工場には5ラインまで入ります。今後2年で最大の5ラインまで増やして、生産量を1.5倍以上にしたいと思っています。また、掃除機は日本向けの商品なので日本での売行き次第ですが、この生産量も増やしたいですね。

 スタッフにおいては元々3000人規模を想定していましたので、2~3年でその規模、つまり現在の2倍にしたいと思っています。

 様々な苦労はあるものの、海外で工場を立ち上げるのも、その工場を軌道に乗せるのも、どちらも楽しく感じています。これから本格稼働です。

永田勝則 Katsunori Nagata
大学卒業後にシャープに入社。生産技術部門に携わり1999年に米国で液晶モジュールの新工場を設立。その後も三重県亀山市、ポーランド、メキシコ、中国、マレーシアで工場を立ち上げ、2010~2016年は中国南京に駐在。2020年4月より現職。