オフショア拠点として最新技術を使ったソフト開発を続けるバイタリフィアジア。数多くのIT企業が進出と撤退を繰り返す中で業績を伸ばし、社員数は約220人に増加した。設立から参加した櫻井岳幸社長がこれまでと今後を語る。
活用するXRやメタバース
―― ベトナム進出の経緯を教えてください。
櫻井 バイタリフィは2005年設立のベンチャー企業で、私が入社した頃には画像やFlash動画をサーバー上で合成して携帯電話(ガラケー)に表示させる技術を開発していました。
エンタメや広告用の仕事が中心で、その頃の携帯電話は画面に表示できる容量に制限があったので合成技術が注目され、仕事は忙しかったです。ただ、当時まだすごく小さい会社だったため、ITエンジニア採用に苦戦していました。
そんな時に当時の社長の知人からベトナムのIT企業を売却したいという連絡があり、その会社を買収して、2009年にVitalify Asiaを設立したのです。海外拠点やベトナム進出を考えていたわけではないのですが、結果的にオンリーワンの選択だったと思います。
ベンチャー企業の進出は異例でしたが、iPhone3Gの発売でモバイルアプリの開発ブームが起こり、日本でのアプリ開発ニーズが急上昇し、その波もあってベトナムで日系企業のオフショア進出ブームが起きました。
弊社はガラケー時代から始めたモバイルアプリの開発が得意であり、現在は最新の技術や手法を使ったWeb、モバイル、ウェアラブルデバイス向けのソフトウェア開発が事業の中心です。
日本の日本企業向け案件がほとんどですのでオフショア開発なのですが、数年前からこの言葉はあまり使っていません。なぜなら、「安い賃金の海外に発注」という意味もありますから(笑)。
―― 最新の技術や手法とはどんな意味でしょうか?
櫻井 最近話題のAI関連技術の活用や、ビジネス状況に応じて実装を変えていくアジャイル開発などです。これらを積極的に活用することで柔軟でスピード感のある開発をしています。また、ウェアラブルデバイスとはゴーグル、メガネ、電子血圧計など身に付ける装置のことです。
開発実績としては、ヘルスケア用の健康管理アプリ、脚の筋肉が弱っている人向けのリハビリアプリなどがあります。前者は血圧など様々な数値から健康状態を把握します。後者は脚に加速度センサーを付けて、ゴーグルにVRを表示し、仮想の公園を歩くように脚を動かします。
どちらもスマートフォン用のアプリで、お客様のユーザーやコンシューマーが使うサービスです。ほかにも金融証券取引アプリや教育用アプリなど幅広い業界で実績があり、最近はリハビリアプリのようなXR(VR、AR、MRの総称)や3Dメタバースの開発が増えてきました。
メタバースは自分の分身(アバター)を3D空間で動かして活動したり、ほかのユーザーとコミュニケーションを取ります。ユーザーの表情や体の動きをスマホで撮影してAIが認識し、アバターに反映させることもできます。
自社アプリの「Joggle Fitness」はその場でのジョギング用のモバイルアプリで、走るスピードや顔の向きで3D空間を走るキャラクターを操作します。手軽に自宅でエクスサイズできますが、30分で汗だくになります(笑)。無料ですのでぜひご体験ください。
このように弊社はユーザーインタフェースの開発に強みがあり、その裏側で動くインフラや管理システムなども構築しています。案件はWebとモバイルで半々程度です。
エンジニアの努力は必須
―― IT業界はエンジニア不足でしたが、最近の不況で採用が減っていると聞きます。
櫻井 一時的に需要が減っていると思います。弊社は大学3校と提携して学生をインターンとして受け入れています。見込みのある人材が卒業後に入社するケースもあり、多くの企業がこの制度を使っていましたが、今年は大学から受入れ先企業が減っているとの連絡がありました。
また、業界全体でエンジニアの転職が減少しているようです。以前は売り手市場だったので、退職してもすぐに転職先が見つかっていたのが、今ではそうではないと実感しているのでしょう。その結果、弊社もそうですが、全体的に離職率が下がっています。
私が来た15年前とはエンジニアの考え方も変っています。当時のベトナムの大学進学率は2割程度で、裕福な家庭の子どもが入学していました。卒業後に「高給が取れる仕事が限られている」などの理由でエンジニアになった人が多く、ITに興味のない人もたくさんいました。
それが今は嬉しいことに、IT、ゲーム、パソコンが好きな人、新しいサービスを作りたいなどの人が圧倒的に増えました。一方で、内向的(オタク的?)な人が多くなってきました。ぜひ新しい技術や知識に飛びついて活用してほしいです。
―― どのような技術や知識でしょう?
櫻井 ChatGPTなどの生成AIがもの凄いスピードで成長しており、今後は業務や開発の効率が爆速で上がっていくと思います。社員が使えるように社内用ChatGPTを構築していますが、アップデートごとの能力の向上に驚かされます。
これまでのソフト開発は「多くのエンジニアを集めて力量で回す」でしたが、オフショア開発という業態を含めてそれが大きく変わる。大規模システム開発なども同様で、10人でやる仕事が1人で済むようになる。エンジニアが方針だけを考えて、AIが実装する時代すら来る。
そうなるとエンジニアに求められるスキルが変化します。生成AI等を活用して生産性を引き上げる人、PM(プロジェクトマネジャー)として開発やチームを管理して牽引する人、業界やビジネスに高い理解力を持つ人などが注目されます。
それを支えるのが最新の技術と知識で、課題解決力やコンサルティング力なども必要になるでしょう。指示に従って単純に実装するだけのエンジニアは、一部のハイクラス層を除いて生き残りが難しくなると予想します。
―― 御社でもそれに備えた取り組みをしているのでしょうか?
櫻井 始まったばかりです。現在の社員は約220人で、平均年齢は30歳前後。本社とは連携していますが、自分たちで仕事を受注することが多く、お客様とは直接やり取りをしています。各部署を管理するマネジャークラスはほとんどベトナム人です。
また、PMやBPM(ビジネスプロセスマネジャー)として活躍する層はビジネス、マーケティング、言語(英語や日本語)を専門で学んだ人材が多く、ビジネスの理解や人心の掌握力がとても高くて、将来有望と実感しています。
残念なのは弊社に限らず、昔も今もエンジニアになるのがほとんど大学のIT学科出身者であること。せっかくIT向きの成り手が増えているので、多種多様なバックグラウンドがあって良いと思います。
弊社はまだ小さく柔軟性を保っていますので、新しい技術やプラットフォームにはいち早く飛び込んで実績を作り、それらの領域での開発をリードしていきたいと考えています。そして将来は、世界をリードするような流行りの技術やプラットフォームをベトナムから生み出したいです。