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リーダーたちの構想第71回
MUJI RETAIL (VIETNAM)

世界32の国と地域で1200店舗以上を展開する良品計画。ベトナムでは無印良品(MUJI)の1号店を2020年11月にオープンした。現法設立に尽力し、オリジナル商品をヒットさせた、初代社長の永岩徹也氏が語る。

他人に見られる商品が人気

永岩 ハノイに4店舗、ホーチミン市に3店舗、ビンズン省に1店舗あり、昨年12月で8店舗になりました。良品計画の海外事業の中でもハイペースの出店です。

 ベトナム進出は2014年頃から検討しており、市場調査と物件の選定に時間を掛けていました。ベトナムのショッピングモールはタイやマレーシアなどの東南アジア諸国と比べて小型なのですが、良いタイミングでホーチミン市中心部にあるParksonに出店できました。

 ここの売場面積はMUJIで東南アジア最大規模となる約2000㎡あり、この場所を確保できたのは非常に大きいです。その後も大型店舗で出店を続け、売場面積の平均は2000㎡弱と、MUJIの世界平均と比較して約2倍の広さになります。

 これは海外事業の戦略を大きく変えたことが理由です。以前は進出時には2等地や3等地に小型店舗で出して、事業が安定してから拡大していました。それをベトナムの進出では、誰もが知るその国の一丁目1番地に大型店舗で出店して、MUJIが提供できる商品やサービスのフルラインナップを知っていただくようにしたのです。

 海外事業では第一印象がとても大切になるので、この戦略は成功したと思っています。

永岩 主力はMUJIの顔となるような商品で、各国の規制にもよりますが、日常生活の必需品が中心です。海外で支持を得ているのは「ステーショナリー」(文房具)のペンや、「ヘルス&ビューティー」の化粧水などで、ベトナムも同様に売上が大きいです。

 日本で多いお客様は30代前半から後半が中心の女性の方ですが、ベトナムでは年齢層が少し低くて、20代前半から後半の女性です。特徴的なのは学生のお客様が多いことで、文房具を購入されることが多いです。

 ベトナムに来てからずっと感じているのですが、日本のように家の中の環境を整えるよりも、日頃身に付けるものや着るもの、他人に見られるものに対してしっかりとお金を掛ける意識が強い。そこに価値を感じているように思います。

 一方でベトナムの方は、流行品や新しいものが大好きです。すると、弊社の商品はシンプルで、日本の高品質でも、価格が高いというイメージを持たれがちです。商品の素材の選定、包装の簡略化や工程の見直しによるコストダウンなどがまだまだ伝わっていないのです。

 初来店のお客様に再度来ていただくためにも、MUJIのコンセプトや取組みを伝える努力がもっと必要だと思います。

永岩 お客様はまだアッパーミドル層以上の方がメインと考えます。そのためか、単価の比較的高い商品が上位に来ることが多いです。我々がファブリックスと呼ぶベッドカバーや枕、あるいは収納ケースなどで、売上が他国よりも良い傾向があります。

 それはうれしいのですが、お客様をもっと広げたい。ベトナムの方々が自由に使える費用は、1ヶ月の所得の約20%という統計を見たことがあります。月収5万円とすれば1万円で、ベトナムなら200万VND程度になります。そこで100万~200万VNDの中で選ばれる価格設定を意識しています。

 生活必需品や良く買い替える消耗品は、なるべくリーズナブルと感じていただける価格でご提供して、まずMUJIを知って、お客様になっていただく。その後押しとなるのがベトナムの主力産業でもある縫製です。MUJIの商品は世界各国でOEM委託をしていまして、ベトナムはシャツ、カットソー、ボトムスといった衣料品の多くを生産しています。

 これは当初からベトナムの強みと考えており、ベトナム製の商品は価格をリーズナブルにしたいと思っています。そのため、開業前に当地のパートナー探しから始めて、何十社もの工場とやり取りをして、ミニマムオーダーなどを含めて交渉してきました。

屋内空間を快適にする

永岩 はい。2022年4月発売のベトナム市場に特化した商品です。ベトナム人スタッフの家や許可を得たお客様の部屋を見せていただくと、長い枕を持つ方が多かったのです。ならば開発すべきと始めました。

 縫製工場が国内にありましたので、ベッドのシーツを作る際の端材をリサイクルして素材として使い、価格を29万9000VNDに抑えました。品質とこの価格が大きな話題となって完売が続き、再発売当日は100人ほどの列ができて、開店15分で売り切れるなどもありました。

 今でもベストセラー商品でして、他国でも販売しています。MUJIには日本の規格をベースにグローバル展開する商品、熱帯気候を考えたASEAN各国向けの商品、現地に必要な国単体の商品と、3つの軸での商品開発を進めています。長まくらはベトナムでのヒットを受けて、ASEAN各国でも販売を始めました。

 ベトナム単体でのヒット商品は、やはりバイク関連が強いです。バイク生活をもっと豊かにしたいと、完全にベトナム仕様で開発したヘルメットとレインコートもベストセラーです。安全性を確保しつつ無駄な機能を省いて価格をリーズナブルにしたヘルメット、何度も使える品質で作ったレインコートです。

 2030年の長期的なスパンにはなると思いますが、ベトナムで販売したい商品はいくつもあります。先ほど身に付けるものに高い需要があると言いましたが、「生活を良くしたい」が我々の大きなビジョンであり、家の中や部屋の空間を快適にする商品をご提案したいです。

 ベトナムの方の家を見ていくと不便だろうなと感じることが多々あります。例えば、洗面台周りにラックがなくて無数のボトルが置いてあったり、靴箱がないので玄関に靴が並んでいたりなどです。以前から一般的なので不便と感じないわけです。

 靴箱については狭い空間にも置ける商品を開発してご好調いただいておりますので、屋内で便利な商品をもっと作りたいですね。

永岩 目指すのはベトナムの方の生活に本当に必要な商品を、ベトナムの方がリーズナブルと感じる価格で提供することです。特に今後の郊外への出店を想定すると、ローカル向けとASEAN向けの商品開発が中心になるでしょう。

 一方で出店場所は椅子取りゲームの様相もあり、機会を逃さないようにデベロッパーと密にコミュニケーションを取り、アンテナを張るようにしています。物件の種まきをしながら商品開発を並行させる必要があると考えています。

 出店する地域は人口100万人以上の都市が1つの選定基準になり、人口密度や所得などの要素が加わります。仮に100万人ならその何%がMUJIのお客様になり得て、何人の方が、どのくらいの頻度でご来店いただけるのか。

 商品開発やローカライズをしながらこの比率を上げていくことが、今後の店舗展開で重要な点と考えています。

永岩徹也 Tetsuya Nagaiwa
大学卒業後に良品計画に入社。店舗社員後に4店舗の店長を務め、2017年から2年間MUJI Malaysiaに赴任して営業や店長育成を担当。2019年2月からベトナム現地法人の設立に携わり、2019年8月より現職。