世界19の国と地域に拠点を持つモンスターラボ。2拠点が統合されたモンスターラボ ベトナムは、スタッフ約520人中約480人がITエンジニアだ。AIによるプログラム生成を進める松永正彦CEOが、業界の将来像を含めて語る。
各国の拠点に得意分野
―― IT企業のモンスターラボさんは、世界19の国と地域に拠点があります。ベトナム拠点の経緯を聞かせてください。
松永 主に業務系システムを開発する、2005年設立のLifetime TechnologiesというIT企業がハノイにあり、北部の日系IT企業としては先駈けのような会社です。私は知人を介して、2012年から経営に参加しました。
同社にモンスターラボが資本提携して、グループ子会社となったのが2016年です。その後、ダナン拠点と統合し、2020年に1社化してMonstarlab Vietnamが設立されました。
モンスターラボは海外拠点を自社で立ち上げる場合とM&Aで進出する場合があり、アジアでは、ダナン、タイ、中国、シンガポールが自社立ち上げです。
海外進出の大きな理由は、アジアでは少子高齢化による日本のエンジニア不足で、人材の獲得とアジアのマーケットを視野に入れたファクトリーを築くのが目的です。日本との時差、チャイナリスクなどから、プログラミングをする実装部隊をベトナムに作りました。
ベトナムの2拠点の仕事の内容はほぼ同じですが、ハノイは設立20年目、ダナンは10年目で、歴史が2倍違い、ハノイには勤続10年以上のスタッフが約30%、5年以上では約50%となり、ダナンも5年以上が40%おり、豊富な業務スキルを蓄積しています。
それにより、約210人のハノイは設計などの上流工程、約300人のダナンでは実装の下流工程を担当することが多いです。
―― 事業は日本本社からのオフショア開発ですか。
松永 モンスターラボからの仕事が約6割で、米国、ヨーロッパ、中東、日本などからの直接の案件が約4割です。Lifetime Technologies時代からのお客様も多く、我々は「直ラボ」と呼んでいます。どの時点で見るかで異なりますが、案件数は2拠点で1ヶ月に約50プロジェクトです。
お客様の業種は幅広く、開発の対象も業務システム、スマホアプリ、Webサイトなど全般です。航空券の発券システム、カード会社のポイントシステム、飲食店のオーダーシステム、製造業の生産管理システム、ゲームアプリや介護施設の検索アプリなどもあります。
システム設計やデザインは日本とフィリピンが担当し、開発とテストはベトナムといった、拠点間での協業も珍しくありません。
残念ながらベトナムはデザインなどのクリエイティブが弱く、フィリピンや日本が得意としています。直ラボのお客様でも、市場にインパクトを与えたいなどデザイン重視の案件は、日本やフィリピンとの共同開発を勧めており、ベトナムでは実装を請け負っています。
このように各拠点には得意な技術分野があり、画像処理や画像解析は中国が強いです。モンスターラボの中国と言う意味ではなく国としてで、VRの技術などは中国が進んでおり、監視カメラが多く、その解析に精度とスピードが求められて発展したせいでしょう。国ごとで得意分野が分かれます。
頭数より少数精鋭の時代へ
―― 最近注力している技術はありますか。
松永 やはりAIです。AIによるコード生成を開発プロセスに入れる取組みをしています。そのためにはAIへの適切な指示ができる人材が必要で、そのエンジニアを育てています。
大切なのは、「AIによって生成したコードがいかに手直しせずに済むか」です。修正が多ければAIを使う意味はないわけです。正確なコードの生成後はテスト手法の指示です。実装後のテストの領域にもAIが入ってきています。
指示者はITやプログラミング言語の知識よりも、その業務やプロセスへの精通が求められます。ケーキ作りが熟練の職人から、美味しそうなケーキの画像を解析したロボットに変わっていくイメージです。
AIが進化を続けると、極端な話、プログラミング言語の習得が必要なくなっていくと思います。WebではJavaやPHPなどのプログラミング言語、スマホアプリではiOSやAndroidの知識が必要でしたが、プログラミング言語のスキルだけに特化した人は衰退して、AIを効果的に使いながらバリバリ開発できる人が中心になるでしょう。
弊社よりAIの活用に積極的な企業、ローコードやノーコードを専門とする企業も増えています。専門職を集めなくて済むので、人手不足の解消にもなります。
―― ベトナム人エンジニアの特徴とは何ですか。
松永 地頭が優秀で、記憶力が良い。言語を覚えるのは日本人より2倍以上速いと感じます。これは日本語や英語などの自然言語だけでなく、プログラミング言語も同様です。
ただ、昔の日本と同じで、頭の良さとは記憶力の良さという考え方が根強く、応用力に弱いところがあります。
先程のクリエイティブの弱さにも通じる話ですが、まだあまり想像力やイマジネーション力が豊かでないので、何手先まで読めるかが今後の教育ポイントだと思っています。ですから、それを育てるのが外資系企業の役目だとも思っています。
好ましいのはチャレンジが好きなこと。持論ですが、だから失敗させないと成長しない。例えば、マネジャーに手を上げる人にはチャンスを与えます。失敗したら叱って、再度チャレンジさせて、うまくいったら誉めることを繰り返して、成長を促しながら「急がば、回れ」の精神で育てます。
ロジックをいくら伝えても、経験がないので、理解できないのを体感でわかってもらうしかないのです。そして、部下を育てる喜びやプロジェクトが上手く行くことを体感すれば、社員は育ちます。
弊社には日本人が4人いますが、全ての業務をベトナム人の手で始めから終わりまで完遂するのが完全なオフショアだと思いますし、それがこの国の技術力の成長にもつながります。
―― 今後の予定や計画を教えてください。
松永 エンジニアの数で勝負する時代は終わるので、少数精鋭の部隊を作ろうと思います。将来的には現在の500人が300人の精鋭になっても、多種多様な高度なニーズに応えられる集団にしたいです。
事業では海外の案件を増やしたいです。米国やヨーロッパの仕事をするのは、ドルやユーロの支払いで、為替のリスクヘッジをしたいからです。日本の案件は円安で実質的な価格が下がり、その価格が中々上がらないことも理由です。
ただ、文化や商習慣が違うのでビジネスが難しい。国によっては支払いのサイクルが遅くて、納品して200日後などもあります。また、長い夏休みや宗教的行事があり、長期に渡って事業や業務がストップするなどリスクも多くあります。それを克服していくのが課題です。
AIはプログラミング言語だけでなく、日本語や英語などの言語も生成してくれますから、どこの国の仕事も受けられ、国ごとのリスクも解消できると思います。
これからのIT業界は、ITエンジニアを含め生き残りの時代に入って来るので、弊社も生き残れるように必死で取り組んで行きたいと思います。