親子の時間をデザインする仕事
キッズが弾けるプレイグラウンド
イオンのグループ企業で子ども向け遊戯施設を運営するイオンファンタジー。ベトナム現法のイオンファンタジーベトナムを率いるのは、マレーシア現法で10年を経験した山崎成智社長だ。その戦略を取材した。
12歳以下の子どもが顧客
―― イオンファンタジーさんの事業と海外展開を教えてください。
山崎 イオンファンタジーは子どもとファミリーが安全安心に遊べる、アミューズメント施設やプレイグラウンド(屋内テーマパーク)を運営するイオングループの企業です。
イオンの海外出店に伴って当初は各国のイオンの1事業部として機能し、その後に独立したイオンファンタジーの支社が設立されました。ベトナムも同様で、最初(2014年)はAEON Vietnamが運営母体、その後は2017年設立のAEON Fantasy Vietnamが事業を継承しています。

現在は9ヶ国に1274店舗あり、日本が773店舗と一番多く、海外はマレーシアが130、中国が120、インドネシアが88、フィリピンが71、タイが48、ベトナム39などです(2025年8月末日現在)。
基本的にイオンモール内に出店しますが、現地のショッピングセンターなどにも展開しており、ベトナムではイオンモールがおよそ7割、外部が3割です。逆にイオンモール内に競合他社の施設が出店することもあります。
施設や機械、サービスなどはある程度フォーマット化されていますが、国によって状況は異なります。例えば前任地だったマレーシアでは競合が少なく、ショッピングセンターから1番初めに出店を打診されるような環境でした。
ベトナムは我々の方からのアプローチが欠かせません。なぜなら、プレイグラウンドならtiNi Worldさんが代名詞になるなど、ローカル企業が非常に強いからです。また、VincomやCentral Groupなど出店先となる有力なモールは限られており、プレイグラウンドならホーチミン市に約50候補と、かなりの激戦区になっています。
それでも弊社の1店舗当たりの売上は他国より高い場合もあり、ベトナムの市場は大きいのだと感じます。

―― 施設は12歳以下のお子さん向けですね?
山崎 はい。ベトナムにはアミューズメント施設の「Mollyfantasy」、プレイグラウンドでは日本でも展開している「kidzooona」と「Fanpekka」、東南アジア向けの「Kid’s Box」、中国から輸入した「Dynalecx Paradise」があります。
売上の約8割はプレイグラウンドで、店舗数が1番多いkidzooonaと、Fanpekka、Kid’s Boxの3つが主力です。Kid’s Boxはkidzooonaの派生ブランドで、面積、投資額、スタッフの労力などが少なくてすむバージョンです。Kidzooonaより低価格ですので、遊んでもらいやすいことも特徴です。
業態(施設)は各モールの客層、客数、面積、周辺世帯の収入などを考慮して選んでいます。来年度には新規開店する2つのイオンモール内に、新しい業態を2つオープンします。東南アジア向けの「Kid’s Box JUMBO」と「Kidzooona Safari」で、どちらもベトナム初です。

―― ベトナムの特徴とは何でしょうか?
山崎 まず、平日と週末の来客数の差です。週末は座る場所がないくらい混んでいますが、平日はあまり人がいない(笑)。売上が一番多いハノイのイオンモールロンビエンは約1000㎡あり、土日の1日当たりの子どもの来客数は650人ほどです。
もうひとつは親御さん向け休憩スペースの充実です。どこのプレイグラウンドに行くかは、最終的に親が決定しますよね。その親が快適に過ごせる場所がないと選ばれにくいのです。地場の企業さんはそこを良くわかってますから、目立つところに休憩コーナーを作っています。
また、我々が「なりきり」と呼ぶ役割を体験するロールプレイは、他の国だと親子が一緒に遊ぶシーンが普通です。ベトナムの場合は全部ではなくても子どもが1人、あるいは兄弟で遊ぶことが多く、親御さんは壁際でスマホを操作していたりと、かなりユニークです(笑)。
2030年へ100店舗構想
―― スタッフについて教えてください。
山崎 安心安全の点検などは当然最優先業務ですが、メインの仕事は子どもと遊ぶことです。マニュアルはあってもその通りに動くだけでは平均点。子どもたちを本当に楽しませたいと結果を出す方には、社内評価制度でブロンズ、シルバー、ゴールドなどと認定し、報酬も提供しています。
また、来年からの新業態については、既に先行している国に連れて行って研修をしたり、日本のチームがサポートに入っての講習もあります。イベント向けなどはベトナム人のコーチを招いてのトレーニングもしています。
また、各国に好事例が数多く生まれていますので、海外拠点の社長が四半期に一度集まるミーティングで共有しています。他国の施策を自国で展開するなど常にブラッシュアップを心掛けており、今年7月にフィリピンであり、10月はマレーシアで開催予定です。
好事例の判断の基準は子どもたちの満足です。その満足が客数を増やし、客数が増えると売上が上がるという循環ですので、子どもにいかに楽しんでもらえるかの仕掛け作りを共有するのです。

―― 今後の目標や計画をどう考えていますか?
山崎 最初にマレーシアに着任した頃の売上規模、店舗数、従業員数が今のベトナムと似ていまして、本社で30~40人、各店舗のスタッフが合計約300人、約50店舗でした。
我々の目標は現在のマレーシアです。ここまで10年かかりましたが、コロナで3年のブランクがあり、ベトナムの経済成長はより速いので、5年で同レベルまで達したいと思ってます。2030年までに100店舗、売上の今の3倍に伸ばしたいです。
そのためにスタッフのモチベーションをしっかり上げる人事制度作り、多店舗展開できるシステム化を急いでいます。来年からイオンモールも増えますので、それに対応できる組織と体力を準備する意味もあります。
次が外部出店の強化で、そのために様々なフォーマットを用意します。現在のモデルは800㎡程度の面積がないと難しく、1000㎡以上も得意ですが、500㎡や300㎡の依頼にもご提案できるようにします。

Kid’s Boxは400㎡以下の面積に対応できますし、Mollyfantasyでは小型の無人店も考えられます。実際に小さなプレイグラウンドを持つローカルスーパーもあり、子どもの遊び場へのニーズは今後も高まると思うのです。
クオリティや安全性は当然維持しながら、その掘り起こしを進めていくことを考えています。




























取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。