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特集記事Vol175
我社の戦略明かします
TikTokマーケティング

ベトナムのユーザー数は世界6位の約5000万人、特に10~20代を夢中にさせるTikTok。動画投稿だけでなくハッシュタグチャレンジやKOLレビュー、急拡大中なのがTikTok Shopだ。各社各様の戦略と工夫をご紹介します。

 スキンケア、目薬、日焼け止めなどの商品で高いシェアを持ち、近年は機能性食品、美容クリニック、薬膳レストランと事業を広げるロートメンソレータムベトナム(RMV)。

 同社の本格的なTikTokマーケティングはダンスのハッシュタグチャレンジに始まる。米Marvel社とのコラボでアイアンマンなどの人気キャラクターをデザインした男性用スキンケアの「OXY」。この限定版「OXY Marvel」のダンスクリップを作り、ハッシュタグチャレンジでユーザーのダンスを投稿してもらったのだ。

「TikTokは2019年から活用していましたが最初はCMを流すくらい。その後に急伸したことで、もっとうまく活用しないとターゲットにリーチできないと感じました。ただ、実施時期が2021年から2022年にかけてでした」

 新型コロナのロックダウン中であり、告知がユーザーに十分広がらなかったという。ただ、音楽を使ったTikTokのダンスクリップを通じて、ブランドを拡散できる可能性は実感した。

 いかに踊りやすく、キャッチーなイメージを作り、ほかのチャネルとの相乗効果を高めて、ブランディングができるか。その成功例となったのが昨年大きな話題となった人気女性歌手AMEEの可愛いネコダンスだ。

 2023年のベトナムは猫年。若い女性に人気の日焼け止め「Sunplay」の「Skin Aqua Tone Up」で、猫のイラストをデザインした限定商品を1月から発売。テト明けからはAMEEのテレビCMを放送した。

 3月からはコラボしたAMEEのダンスクリップ「Ung Qua Chung」をTikTokで流した。猫の動きを真似して踊る「キャットダンス」はたちまち支持を得て、TikTokのトレンドチャートですぐにナンバーワンを獲得。ミャオミャオ(Meow Meow)!というキャッチーなフレーズと、手真似がメインの踊りやすさから、ユーザーのダンス投稿が爆発的に増加した。

「若い女の子は猫のようにとても気まぐれで、太陽の下で遊ぶのが好き。そんなコンセプトで明るいCMを作りました」

 TikTokだけでなくSpotifyとApple Musicのチャートで2位、YouTubeトレンドで3位に。同社によれば、ターゲットとなる視聴者へのリーチは780万以上、視聴回数は約1300万、インプレッションは約1億700万、ECへは120万回クリックされた。

 TikTokの戦略はマーケティングチームが担当しており、TV、Facebook、YouTubeなどを含めた全体で約25人。白松氏はマーケティング部長も兼任している。

 RMVは商品数が多く、ブランドごとにターゲット層が異なるため、TikTokでは13のブランドアカウントを持つ。その合計フォロワー数は約26万7000人(取材時:以下同)で、1番の人気は上記のSunplayで約5万5000人。2番目はマスプレミアムのスキンケアブランド「Hada Labo」(肌ラボ)で、約4万6000万人。

 TikTokマーケティングでHada LaboはSunplayと全く異なり、KOLやKOCと呼ばれるインフルエンサーによる商品レビューを強化している。

「スキンケア商品ではブランドの声よりも、実際に使った彼らの声を届ける方が重要です。そのため、課題や目的に合った最適なKOLを選ぶことに注力しています」

 専門の代理店に依頼してKOLなどを推薦してもらい、RMVのブランド担当者が最終決定する。トップ級のKOLだけでなく、フォロワー数が何百人単位のマイクロインフルエンサー、コミュニティとも連携させて、定期的なプロモーションを実施する。

 最近のHada Laboのキャンペーンでは日本から輸入した「極潤プレミアム」をアピールしており、品質も価格もプレミアムだ。テレビCMは制作しておらず、TikTokマーケティングに力が入る。とはいえ、KOLには「肌のうるおいを強調し、肌のクローズアップを出すこと」といったガイドラインは伝えても、彼らのスタイルと客観的な視点は尊重している。

「こちらの指示通りではなく、クリエイターのスタイルを活かして自然に動いてもらいます。彼らの本当の評価が何より大切です」

 彼らとは1回限りではなく長期的なパートナーシップを考えているため、KOLたちも真剣に取り組む。Hada Laboの今回のキャンペーンでは10人程度のKOLとコラボしており、最近では男性の美容系インフルエンサーも増えているそうだ。

 年間のキャンペーンを通じたHada LaboのKOLレビューは全体で合計1030万回の視聴と、36万4000のエンゲージメント(視聴者の反応)を達成した。

 一方、効果が見られないTikTokのコンテンツはその要因を探る。コンテンツの内容か、KOLの選択か、商品そのものか。そして新たなコンテンツを作る際に有難いのはTikTokマーケティングの費用対効果という。

「テレビCMと比較すると、さほどクオリティを追求しないで済みます。KOLなども普通にスマホで撮影していますから」

 2023年から始めたのがTikTok Shop。3月にはスキンケア用のRohto Skincare、10月にビューティ系のRohto Health & Beautyを開設。ご存知のようにTikTokを閲覧しながらユーザーがその場で商品を購入できるシステムだ。

 RMVのTikTok Shopは同社のディレクションに基づいて代理店が担当し、配送や現金回収を含めた委託販売になる。Skincareでは毎月約50回、Health & Beautyは毎月約10回のLivestreamを開催し、こちらもKOLなどのインフルエンサーマーケティングだ。

「今年の1~8月の売上は前年同期比で約6倍です。ただ、去年の3月に始めたばかりですから(笑)」

 同社のECでの売上の割合は化粧品売上全体の約15%。Shopeeが一番大きいが、一番伸びているのがTikTok Shop。フォロワーはSkincareが約5万5000、Health & Beautyが8500で、どちらも増加中だ。

 総じてTikTokはマーケティングツールとして有用だが、流行に乗るだけでなく目的や目標をしっかりと定めて、ほかの活動とのシナジー効果を考えるべきと白松氏は語る。

「トレンドチャートの廃止や著作権の管理など厳しくなるガイドラインや、一方で増える新機能にも目を配る必要があります」

 今年9月に中部初出店となる「イオンモール フエ」をオープンしたAEON Vietnam。TikTokをスタートしたのは2021年の初旬だった。10代や20代のZ世代を新たに取り込む手段として、また、新型コロナ期の顧客への情報伝達ツールとして、マーケティングチームがTikTokに注目した。

 マーケティングチームは約25人おり、Ms. Nguyen Tra Myはマネジャーであると同時に、3人いるTikTokチームのリーダーでもある。

「それまではWebサイトやアプリ、チラシなどが中心でしたが、うちのチームがTikTokの広がりを早い段階から注目して、潜在顧客の新たな集客に使えると考えました」(Ms. My)

 TikTokではAEON Vietnamのオフィシャルページがあり、フォロワー数は約17万4000人、いいねが約55万。週に2~3回、月単位で10~12回程度コンテンツを投稿しており、新商品、流行の商品、季節の商品、イベントやセールの紹介が主な内容だ。

 ユニークなのがこれらの多くがスタッフの制作で、コンペで選ばれていること。マーケティングのマネジャー、組合員、他部署のリーダーなどの3人が「3日間で1万回の視聴」などの目標を設定し、いくつかの基準やテーマを決めて公開する。これに沿ったコンテンツ(動画)をスタッフが作って送る仕組みだ。

「出演も撮影もスタッフなので、店内で撮影している様子をたまに見かけます(笑)」(大泉氏)。

 毎週何十もの作品が集まる中で上記の3人が評価し、優勝者1人、準優勝者2人が決まる。こうしたコンテンツを投稿しているので、アップデートの回数が週2~3回となっている。

 そのための社員教育も充実させている。ベトナムのAEON Vietnam AcademyではITにおけるAIの活用やマーケティングなどと同様に、専門家を招いてTikTok動画の制作方法を教えている。このアカデミーのGeneral Managerを兼任するのがMs. Nguyen Thi Ngoc Hueだ。

「動画の制作や編集は今の若者が大好きな趣味でもあり、無料で学べるとあって評判が良いです。セミナー形式で3時間ほど開催します」(Ms. Hue)

 社内にポスターなどを貼ってセミナーを告知し、1回で30人程度が集まるそうだ。上司に申請して受講のためにシフトを変えてもらうこともある。

「新商品などを毎週投稿しているとその単品で売上の数字が跳ね上がるなど、TikTokの影響の大きさを感じます」(大泉氏)

 年末にはスタッフの優秀者を選んで表彰し、1~3位は賞金も渡される。評価の対象はいいねの数、視聴者からののコメント、商品の説明内容、画像や音声の奇麗さなどで総合的に判断している。

 自社ではなく外注でコンテンツを作る場合もある。例えばイベントの告知で、モデルを使って外部スタッフが撮影するなどだ。

 これまでにヒットしたコンテンツで言えば、ベトナムの「先生の日」に向けた動画。11月20日の先生の日の前に、イオンの各店舗を巡って教師へのギフト候補を次々と紹介していくもので、視聴者は約20万人に上った。

 寿司バッフェのコンテンツは約82万回の視聴。イオンでは年に一度様々なバッフェを開催しており、デザートなどもあるが寿司は人気の定番だ。数えきれないほどの寿司の種類を紹介して、どんなものが食べられるのかを紹介している。

「お寿司はとても人気で、昨年は14万9000VNDで食べ放題でした。こうしたイベントの告知はヒットしますね」(Ms. Hue)

 ベーカリーで販売するCROMBOLONIというペストリーの大ヒットもTikTokの効果が大きい。サクサクのクロワッサン生地の中にコクのあるバニラや抹茶などのクリームが詰まっており、発売当初から評判が高かった。それに拍車をかけたのがマーケティングチームだ。

「お客さんがCROMBOLONIに集まっていると知り、2時間でコンテンツを作ってTikTokにアップしました。45万視聴くらいになりましたが、トレンドにはすぐに対応しないと間に合いません」(Ms. My)

「動画発信後は、売行きがすごくて製造が追いつかない状態でした。それくらい話題になりました」(大泉氏)

 地味な動画が意外に注目される場合もある。駐車場の案内では、バイクが無料で駐車できることが注目された。トイレの紹介では、5つ星ホテルより清潔というフレーズに驚かれた。利用者にとっては既知の情報でもイオンを知らない潜在顧客はまだまだいると、TikTokは語っている。

 イオンはフエ店を含めてベトナムに7店舗あり、各店舗からTikTokのオフィシャルページに動画を上げている。Livestreamも定期的に開催しており、新商品や季節商品を中心に菓子、インスタント食品、飲料などを販売。また、TikTokの視聴者はおよそ南部が60%、北部が40%で、南部からのアクセスが多いそうだ

 配信者として気を付けているのは商用目的ではなく、顧客の生活を豊かにする、楽しくするという視点でTikTokを使うこと。売上あきりではなくて、顧客視点でのコンテンツ制作を使命としている。

 現在のフォロワーは約17万4000人で、今年中に20万人、来年は25万人程度を目指す。新規フォロワーの獲得には現在の反応を分析して戦略を考えるのが一つ。もう一つはTikTokで流行っているコンテンツ、音楽、映像などを毎日把握し、コメントを読んで、アイデアを得る。

「私も毎日チェックしています。情報をつかんだらすぐアップするスピード感もTikTokには必要です」(Ms. My)

「どんな商品が関心を持たれるのか、Z世代に何が向いているのかなどを調べて、次世代のイオンにつなげていきます」(大泉氏)

 カラムーチョ、コイムーチョ、GOKOCHIなどのスナック菓子を製造・販売するKoikeya Vietnam。売れ筋を聞くとカラムーチョは定番のチリ味がダントツ人気、コイムーチョはコーンミルク味、厚切りのGOKOCHIはオリジナルソルト味だそうだ。

 TikTokマーケティングは今年5月末からスタートした。TikTokのユーザーは若者がメインで、スナック菓子を好む消費者と年齢層が一致する。実際、カラムーチョは15 ~19歳がコアターゲットで20代をサブターゲットとしており、彼らに届けるコミュニケーションツールとしてTikTokを考えた。

「FacebookやYouTube、オフラインも使っていますが、Facebookなら年齢の高い方もユーザーです。TikTokはZ世代の利用が多いのでセグメントができます」(井上氏)

 オフラインとはショップやスーパーでの店頭イベントや試食イベント、ジャパンフェアなどの展示会や学生が集まるスクールフェスへの出店などだ。スナック菓子はEC販売より店頭販売が主流で、スーパーやコンビニなどのモダントレードと、パパママストアなど個人商店が中心のトラディショナルトレードに大別される。

 一方のオンラインはSNSを主体に展開しており、マーケティングチームが季節に合わせた年間計画などを決めながら、マッチした商品や伝えたいキーメッセージなどを準備する。クリスマス、テト、夏休み、バックトゥースクールの時期などに分けてコンテンツも考える。

 Marketing SupervisorのMs.Thao Duongは3人いるマーケティングチームのリーダーで、TikTokは3人で企画やプランを考えて、動画の編集まで担当している。

「今月はカラムーチョ、来月はGOKOCHIのように主に月単位で商品やテーマを決めて、撮影カメラマンやモデルを手配することが多いです」(Ms. Thao)

 同社のTikTokは6月に10本、7月は10本、8月は11本と、月に10本ペースでアップしている。視聴回数が多かったコンテンツの共通点は、楽しみながら美味しそうに商品を食べている動画で、TikTok自体でもこうした動画が好評だそうだ。

「今は認知を広めることが目的なので、可愛らしくて親しみやすいコンテンツを展開したいですね」(井上氏)

 視聴回数が多いコンテンツを紹介する。まず、事務作業に追われる若い女性がGOKOCHIを渡され、食べて幸せそうな表情になる動画。視聴回数は約220万、コメント欄には「これは美味しいです」、「ハマってます」、「ぜひ食べて」などの短いフレーズが並ぶ。

 もうひとつ、似たシチュエーションで若い男性。ノートPCが壊れて頭を抱えるが、別のフレーバーのGOKOCHIを食べて幸せになる。視聴回数は約150万で、コメント欄にはやはり「超美味しい」、「新しい味」、「日本的ですね」などの短いフレーズが多い。

 共通するのは動画の時間で、どちらもわずか6秒だ。これもTikTokの特徴で、クオリティが高くて多くの情報が入るのがYouTubeなら、TikTokは短く、わかりやすく、シンプルな点がメリットだという。

「素早く情報を届けるのが目的で、わかりやすければわかりやすいほど、若い人はシェアしてくれます」(Ms. Thao)

 ちょっと長めのコンテンツも紹介する。カラムーチョが食べたい少年に、いくつもの商品が入ったパッケージギフトが届く。喜んで商品を皿に開けて美味しそうに食べるが、同時に「何個のフレーバーがあったでしょうか?」、「近々ライブ配信があります」などのフレーズが浮かび上がる。51秒のビデオだ。

 このようにある程度の尺とストーリー性がある場合は、当初から詳細にプランを考える。短いビデオクリップでも何カットかに分けて撮影し、要望を細かくモデルに伝えて演じてもらう。その表情や動作、商品の見せ方、配置、背景、ライティング、音声などをチェックしながら何度か撮り直す。そのため、撮影は丸1日かかることもある。

 撮影終了後はオフィスに戻って編集作業になる。同社ではTikTokでよく使われる動画編集ツールのCap Cutを使っている。YouTubeはある程度のクオリティが要求される場合もあってプロの編集は珍しくないが、TikTokの編集は簡単ではないものの、素人でもフレキシブルにできるそうだ。

「コンテンツの内容や視聴時間によっても違いますが、編集時間は1~2時間です」(Ms. Thao)

 動画の中に文字やフレーズを入れる場合、文言自体は事前に決めていても、文字のフォント、サイズ、色、エフェクトなどを選ぶのに時間がかかる。また、屋外撮影の場合はうまく録音できなかったり、ノイズが入る場合もある。そんな時は撮影後に音声だけを再録音して挿入するケースもある。

 現在は商品にフォーカスして、フレンドリーな作品を求めているため、特別なモデルやインフルエンサーなどには依頼していない。ただ、将来はKOLやインフルエンサーとのコラボも考えている。

「彼らのTikTokチャンネルの中で商品を紹介してもらい、それを見た人が弊社のオフィシャルに来るようなサイクルを作りたい」(井上氏)

 マーケティングチームはTikTokだけでなくFacebookやInstagram、YouTubeなども担当している。ほかのSNSとの連携も視野に入る。

「フードブロガーにカラムーチョで新しいレシピを作ってもらえば、TikTokだけでなくFacebookやInstagramでも拡散できます」(Ms. Thao)

 スーパーなどでのオフラインイベントをLivestreamで配信し、プロモーションやオンラインでのミニゲームで集客することも可能だろう。「ベトナム人は保守的で新しい商品がなかなか売れない」(井上氏)という逆風を負かせるかもしれない。