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【社会】ベトナム社会とカミングアウト

(C) VNEXPRESS

自分が同性愛者であることを両親に打ち明けるべきかどうか長年悩んだ末、フンさん(31歳)は、深刻なうつ病になり、常に死ぬことを考えるようになってしまった。

2年前フンさんの父親は、近所の人から「息子のことをもっと気にした方が良いよ。彼は男が好きなのかもしれないぞ」と言われて愕然とした。その日の夕食後に父親はフンさんの部屋に来てその話をし、「どういうつもりだと思う?」と訊いた。本当のことを言いたいと10年近く悩んできたフンさんは、父親に自分が同性愛者であることを告白した。告白を聞いた父親は、失望した顔で黙って部屋を出て行った。

フンさんの母親は泣きながらフンさんに早く普通の状態に戻れるように”治療”に行き、結婚して子供を作って落ち着くように求めた。どうにもならないと感じた母親は、占い師を訪ね、数千万VNDを支払って不運を解消し、息子が”普通”の状態に戻ることを願った。これを知ったフンさんは、人生に行き詰まりを感じ、気持ちを落ち着かせるために薬に頼り、常にストレスを感じて不眠症になった。その後、フンさんは次第に死にたいという気持ちが抑えられなくなっていった。

フンさんは、子供の頃から自分が同性を好きになる傾向があることに気付いていたと話す。10年前にフンさんは、友達や同僚には自分が同性愛者であることをカミングアウトしていたが、自分が一人息子であり、このことを知れば両親が苦しむだろうと考えると両親に打ち明けることはできずにいた。フンさんの両親は、フンさんにお見合いを勧め、生活を落ち着かせるために早く結婚した方が良いとよく話していた。両親からのプレッシャーでフンさんはストレスや孤独感、断絶感を感じるようになり、子供として義務を果たせていない自分を責めるようになった。

「両親がショックを受け、勘当されたり結婚を強要されるのではないかと考えると、どこから話せばいいのかわからなくなりました」とフンさんは話し、自分の人生が行き詰まり、出口が無いように感じると付け加えた。

家族から拒絶されたというトラウマを抱えるランさん(38歳)は、現在も日常生活を送るために抗うつ薬と精神安定剤を服用している。ランさんは一人娘で、伝統的な習慣に非常に厳しい母親によって母子家庭で育てられた。

25歳になり安定した仕事に就いたとき、ランさんは自分が同性愛者であることを母親にカミングアウトし、恋人と一緒に住みたいと打ち明けた。この告白の後、ランさんの母親は、面と向かってや電話で繰り返し娘を非難し、ついには警察に対してランさんのパートナーがランさんを騙して操っていると訴えた。

母親の言動が原因でランさんは心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患い、入院しなければならなくなった。今に至っても母親は現実を認めず、ランさんと絶縁し、親戚づきあいも禁じている。

フンさんやランさんのケースは、世界中に何百万人といる深刻なメンタルヘルスの危機に瀕しているLGBTQIA+(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, Queer, Intersex, Asexualとその他)の中の2人に過ぎない。専門家によればLGBTQIA+の人々は一般の人に比べて精神的苦痛を受けるリスクが高い。

2021年にベトナムで実施された全国のLGBTQIA+コミュニティの若者3万5000人を対象とした調査によれば、42%が自殺を考えたことがあると回答している。2010年のアメリカの自殺防止基金の調査研究によれば、LGBTコミュニティの人々は、異性愛者に比べて精神健康上の被害を受けたり自殺するリスクが高いとされている。LGBTQIA+コミュニティの少なくない人々がメンタルヘルス支援を十分に受けられておらず、問題をさらに悪化させている。

Touching Soul Centerの共同設立者兼CEOであり、LGBTコミュニティと共に長年にわたって活動してきた経験を持つダン・カイン・アン氏は、同性愛者にとって特に家族に対して”カミングアウト”するということは非常に困難な精神的闘いであると述べた。

このようなストレスはメンタルヘルス問題の引き金となりやすく、両親をはじめとした周囲の人たち理解してもらえず、時には激しい対立が生じるために人間関係に追い詰められ、自殺を考えるようになる人もいる。このようなとき、両親の理解と支援は若い同性愛者にとって非常に重要な役割を果たす。

一方で、同性愛者が自分のアイデンティティを隠さなければならず、自分本来の姿のままに生きたいという願望を満たすことができない場合、精神的に不安定になりうつ病などを発症しやすくなるリスクがある。

専門家のマイ・ビエット・ドゥック氏は、自身が勤務する心療内科センターで第3の性別に属する500件以上の症例について調査した。その結果、カミングアウトした後で、家族との諍いが発生したケースが約90%あり、薬物に手を出したケースが55%、公共の秩序を乱す行為をしたケースが5%あった。ドゥック氏は、カミングアウトは同性愛者にとって人生の転換点であり、あらゆる面で大きな影響があると述べた。

「LGBTコミュニティだけでなく、私たち誰もが本来の自分として生きたいと感じています」とドゥック氏は述べ、”カミングアウト”という心理的負担が取り除かれて初めて、彼らは完全に自分らしくなれると付け加えた。

同様の考えでランさんは、LGBTの人々がカミングアウトする過程において家族の存在が非常に重要だと指摘する。性自認と性的指向をオープンにすることで、人々はより幸せで充実した人生を歩むことができるようになり、メンタルヘルスが向上する。逆に本当の自分を隠さなければならない人は、ストレスにさらされ孤立し、自傷行為や薬物濫用などのリスクが高まる。

家族への”カミングアウト”のプロセスをスムーズにするために、専門家はLGBTの人たちに対して、親族が真実を知ったときに大きなショックを受けるというシナリオも含めた計画を立てておくようにアドバイスする。

「まずは両親がこの問題についてどのような反応をするか試す質問を準備し、どんな状況にも対応できるように想定しておくべきです。」とランさんはアドバイスし、両親にLGBTについてより深く理解してもらうために、LGBTコミュニティに関する資料を集めておくことが望ましいと述べた。さらに、本当の自分を明らかにすることが良くない結果をもたらす場合についても想定しておいた方が良い。例えば、家から出ていくように言われた場合には、仕事、お金、住居の準備をしておくことも必要だ。親のショックが収まるのを辛抱強く待ち、徐々に説得する方法を見つけなければならない。

親たちに向けてドゥック氏は、子供の本当の性自認を受け入れるのは困難な道のりであり、誰もが自分自身に対して忍耐強くなる必要があるとアドバイスする。ドゥック氏は、両親は落ち着いてオープンな態度で子供と対話し、学ぶ姿勢を持つ必要があるともアドバイスする。また、家族は子供の変化に注目し、望まない性別での生活を強要せず、子供たちが傷つかないように寄り添うことが必要だ。

「どのような状況であっても家族からの愛情と尊敬はLGBTの人たちの精神的な支えとなり、彼らを死を求める状況に追い詰めることから救い出します」とドゥック氏は話す。

出典:05/07/2023 VNEXPRESS
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