企業や専門家たちは、酒類とビールに対する特別消費税を2030年までに100%に引き上げるというロードマップは、業界に困難をもたらすと指摘している。
特別消費税法改正案の中で財務省は、2026年から2030年にかけて酒類とビールの特別消費税を増税するロードマップを提案した。具体的には、ビールの特別消費税を2026年に80%とし、2030年以降は100%とする。酒類についてはアルコール度数が20%未満と20%以上に分けて50~100%の税率を適用する。このロードマップによれば、2026年に酒類とビールの小売価格は20%上昇し、その後毎年2~3%ずつ上昇する。
7月11日にベトナム商工会議所(VCCI)が主催した公聴会で、ハイネケンベトナムのグエン・タイン・フック渉外担当部長は、法案のロードマップに従って特別消費税の増税が実施された場合、国内のビール業界に、多大な悪影響が生じると述べた。
フック氏は、昨年のハイネケンベトナムの売上高は、何十年にもわたる経営活動において初めて2桁%の減収になったと述べた。同社では、事業活動を見直し、クアンナム省の工場を閉鎖することを決めたばかりだ。「特別消費税の増税は慎重かつ包括的に検討すべきです」とフック氏は述べ、政府は税収増加目標と企業経営の安定及び、国民の健康保護の間でバランスをとる必要があると付け加えた。
サイゴン・ビール・アルコール飲料公社(Sabeco)の代表者は、同社は、税収を増やし、アルコール飲料による国民への悪影響を抑制するための税制政策を支持すると述べた。しかし、同社は、増税はビールと酒類の需要と供給に対して大きな影響を与えるとも指摘している。そのため、同社は当局に対して、適切な業界支援策の必要性を訴えた。
現在、ビールはベトナム国内のアルコール飲料市場の98.6%を占めている。また、そのうち95%近くのシェアをSabeco、ハイネケンベトナム、Habeco、カールスバーグが占めている。ハイネケンベトナムだけでなくSabecoも2021年以降、製造量、売上、利益ともマイナス成長が続いている。同社は、現在20の省と市に26か所の製造工場を有しているが、殆ど全ての工場が原材料価格が20~40%値上がりしているにもかかわらず販売価格を上げられずに苦境に立たされている。Habecoの場合、2023年の販売量は2019年と比べて30%減少し、納税額も10%減少し、労働者の25%を削減しなければならなかった。
酒類では、Halicoが27四半期連続で赤字を記録しており、累計の損失額は4580億VND近くに達している。
中央経済管理研究所(CIEM)の経営環境・競争力調査室のグエン・ミン・タオ室長は、財務省の提案する増税のロードマップは、国内のビールと酒類製造企業の経営に重大な影響を及ぼすと予測している。タオ室長によれば、この政策は業界トップを含めビールと酒類の製造業界にとって大きな圧力になっている。さらに言うまでもなく、政策の変更は、投資家の心理にも影響を与える。
「投資家がベトナムに進出する際には、政府の規制内容を確認しており、政府の政策は安定していなければなりません。税制に関する政策は、企業が予測して対応できるように十分な期間を設け、柔軟に対応する必要があります」とタオ室長は話す。
ベトナムビール・アルコール・ソフトドリンク協会(VBA)によれば、増税は、国産製品の競争力を低下させ、密輸の増加を引き起こす可能性がある。現在、毎年2億~3億リットルの偽ブランドビールが出回っている。さらに、増税は企業の収益に影響を及ぼし、税収の減少につながるだけでなく、物流チェーン、観光サービス、農業などにも影響が広がる。
VBAのチュー・ティ・バン・アイン副会長は、財務省は法案の影響と根拠を十分に評価していないと指摘する。「WHOの一般的な勧告は様々な背景を持つ国を全て対象としているため、ベトナムに適用する場合は、ベトナムの実情に合わせて考える必要があります」とアイン副会長は話す。そのためVBAは、業界へのインパクトを押さえるために増税率を下げたり、期限を後ろ倒しにすることを政府当局に提案し続けている。
例えばハイネケンベトナムは、特別消費税法の改正案が施行されてから3年間は、ビールの税率を65%に据え置くことを提案している。その後、税率を3年に1度ずつ引き上げ、1回あたりの引き上げ幅は3~5%とする。同社ではまた、公平性を確保するために、アルコール度数に応じた税率の引き上げも提案している。例えば、アルコール度数5.5%未満のビールには65%を適用し、アルコール度数が5.5%~15%の場合は70%、アルコール度数が15%以上の場合は75%とする。
実際、ビールに対する特別消費税は、2010年から2015年まで45~50%に据え置かれていたが、2016年以降はロードマップに従って引き上げられてきた。現在、ビールには65%、酒類にはアルコール度数に応じて35~65%の特別消費税が課せられている。財務省によれば、税率が引き上げられても、国民の所得水準の上昇率の方が高いために、ビールと酒類の購買力は依然として増加している。財務省では、ベトナムのビールや酒類の小売価格に占める税金の割合が約30%で、世界の40~85%と比べて依然として低い水準にとどまっていると指摘している。
「特別消費税の引き上げに向けたロードマップは、消費を冷え込ませるほど強力ではない」と財務省は述べており、特別消費税の小売価格に占める割合を少なくとも40%まで引き上げる必要性を主張している。
一方で、ビールと酒類の消費量は依然として大きく、さらに増加傾向にある。税務の専門家であるグエン・バン・フン氏は、政府のデータを引用して、過去10年でアルコール飲料の消費量が2倍に増加していると指摘する。昨年、ベトナムのビールの消費量は45億リットルだった。総人口に占めるアルコール乱用率も2010年の1.4%から2016年には14.4%と10倍に増加している。一方で、アルコール類への特別消費税は2008年から2018年にかけて継続的に引き上げられてきた。
「これは特別消費税の引き上げが、消費行動に大きな影響を与えていないことを示しています」とフン氏は指摘する。一方で、フン氏によれば、アルコールの消費量を減少させるためには、増税よりも行政対策の方が望ましいとも述べている。例えば、飲酒運転の行政処分を定めた議定100号は、増税よりもビールやアルコールの消費行動に大きな影響を与えている。
別の観点から、ディン・チョン・ティン准教授は、ベトナムのビールや酒類に対する税率は、諸外国に比べて低いと指摘する。ティン准教授は、ビールと酒類に対する増税政策は、長期的にはアルコール類の消費量を低減する効果があると評価している。「企業は、社会の要求に応え、次世代の長期的な利益を見据えて再編成すべきです」とティン准教授は述べた。
別の専門家は、ビールと酒類への増税の最大の目的は、国民の健康、社会の安全、ベトナム人の将来の発展にあると述べている。「政府は、国民の意識を高め、消費量を減らすために、ビールと酒類へ高い税金を科すべきだ」とこの専門家は述べた。
出典:2024/07/11 VNEXPRESS提供
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