電子インボイス義務化で対応迫られる
ベトナム政府は、2025年6月1日より難関売上高が10億ドン(約600万円)以上の個人・家族経営事業者に対し、電子インボイスの発行を義務付ける制度を実施する。これは、税務当局と直接接続されたレジシステムを通じた発行が必須となるもので、2026年にはさらに「定額税制度」が廃止される予定だ。
この動きは、小規模事業者にも税務の透明性を求めるデジタル移行政策の一環だが、現場には不安と困惑が広がっている。
現場の戸惑い:電子化は「設備と知識」の壁
ホーチミン市のバーチェウ市場で花を販売するグエン・ティ・ゴック・チャウさんは、政府の方針に従い電子インボイスの導入準備を進めているが、「仕入先が小規模業者ばかりなので、インボイスが出せない」と懸念を語る。
実際、仕入れのインボイスがないまま売上データのみを税務署に報告すると、税務当局から不正申告を疑われるリスクがある。また、電子インボイスの導入に伴い、ソフトウェア、デジタル署名、会計士の手配などで2000万~3,000万ドン(約12~18万円)の追加コストが必要になる。
飲食店経営者の中からは「肉や野菜を自分で仕入れて、自部で調理して販売しているだけです。レジもパソコンもなく、すべて手作業でやってきたのに今更どうすればいいのか」と途方に暮れる声も聞かれ、導入コストと操作の複雑さが大きな障壁となっているのがわかる。
制度のギャップと支援不足
一部市場では既に電子化が進んでいる例もあるが、多くの伝統市場や高齢の商人、小規模店舗では制度の理解が進んでいないのが現状だ。
ベンタン市場で飲食店を営むリ・ダイ・ラム氏は、「電子化は時代の流れでやむを得ないが、小規模事業者に対する技術支援や制度の説明が不十分だ」とし、実務と制度のギャップを埋める専門的な支援の必要性を訴えた。
ファム・ヴァン・ハイ市場の管理責任者ブイ・ティ・アイン・グエット氏も、「400以上の店舗のうち、今回の税制改革をちゃんと理解できている人はごく僅かしかいません」と指摘し、税務当局による研修の不足も問題となっている。
税制度の転換とその意義
現在ベトナムでは約360万の個人・家族事業者が存在し、そのうち200万以上が「定額税制度」によって税金を納めている。しかし、この制度には大規模な事業者であっても小規模事業者と同じ水準で納税できるという不公平部分があった。
これを受けて2026年からは全ての個人事業者に対し、実際の売上に基づいた税の申告義務(収入申告型)が課される予定である。これにより、税務の透明性が向上し、税負担の公平性が担保されると専門家は期待している。
デジタル対応の不安と希望
ホーチミン市の小売店主グエン・ティ・ランさん(63歳)は「小さな店にも機械を導入する必要があるのか」と不安を漏らす。また、市場で果物を販売するミー・チャウさんは「行政からの支援がなければ、店をたたむ人が出るかもしれない」と危機感を語る。
一方で、税務コンサルタントのグエン・バン・ドゥオック氏は「申告は意外と簡単で、売上を入力すれば、決まった比率で税額が算出されるので、必要以上に恐れることはありません」と冷静な対応を呼びかけている。
税務当局も支援強化を指示
こうした混乱に対応し、財務省傘下の税務総局は全国の税務署に対し、週末も含めて電子インボイス導入支援を強化するよう通達を出した。これは中長期的には、事業者のデジタル対応能力を高め、企業並みに正確な売上データを税務当局が把握できる体制を整えるためでもある。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
ベトナム進出支援LAI VIEN
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