ホーチミン市1区のマーランエリアは、かつては危険地帯として知られ、ギャンググループが公然と活動し、親分や姉御と呼ばれるような人たちが暗躍していた。
マーランエリアは、グエンクーチン通り、グエンチャイ通り、コンクイン通り、チャンディンスー通りで囲まれたエリアで、バックパッカー街として有名なブイビエン通りに隣接している。
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しかし最近、このマーラン地区の路地を訪れてみたところ、賑やかな繁華街の近くでありながら、小さな家屋が密集し、宝くじ売り、バイクタクシードライバー、建設作業員、屋台従業員などが助け合って暮らしている穏やかなエリアに変貌していた。
この路地に住むミンさん(69歳)が、このエリアの歴史を教えてくれた。ミンさんは、1978年に政府の移住政策によってマーラン地区に住居を割り当てられた。かつてこの場所は、お墓の集まる墓地であったために人々がここに移住するようになってこのエリアはマーラン(墓地)エリアと呼ばれるようになった。
「住み始めて1~2年後には、周囲の環境が悪くなり喧嘩や刃傷沙汰が日常的に起こるようになりました。路地の中は麻薬や売春婦の市場の様でした。私はまだ若かったので、怖くて外では足音を忍ばせ小声で話したり笑ったりしていましたよ」とミンさんは教えてくれた。
マーラン地区の路地は迷路のように入り組んでおり、奥へ進むほど暗くなり、複雑な構造になっている。そのため、見知らぬ人が入ってくれば、すぐに住民に気づかれてしまう。以前は、スリや強盗が逃げ込んで隠れる場所にもなっていた。
約50年間この「ギャング路地」に住んできたミンさんは、現在では都市環境が整備され、人々も礼儀正しくなり、かつての恐怖はなくなったと語る。今、住民が抱える唯一の問題はスペースが狭いことだという。
ミンさんの家に入ると、蒸し暑く、ジメジメした空気が漂っていた。家の中は物で溢れ、空いたスペースがほとんどない。ミンさんには娘が2人と息子が3人いる。昔は、家族全員がこの家で暮らしており、ミンさんは大根の漬物を販売し、夫はバイクタクシーとして働いていた。
現在、3人の子供が結婚して家を出たので、この家に残っているのはミンさん夫妻と2人の子供と孫1人だ。ミンさんによれば、子供たち5人と一緒に生活していたころは、家族全員が寝るスペースが無く、交代で寝たり、家の外で寝たりしていた。
「夏場なんかは特に暑いです。扇風機を何台置いても暑くて耐えられないくらいです。でも、もしこの家を高値で買いたいという人が現れても売るつもりはありません。この家にはたくさんの家族の思い出が詰まっていますから」とミンさんは話す。
なぜこのエリアでは盗難が少ないのですか?と聞いてみるとミンさんは笑いながら「最近はどこの家も監視カメラを設置していますし、盗みに来てもこの路地から逃げ出すのは簡単じゃないですから」と教えてくれた。
幼いころからこのエリアで過ごしてきたミンさんの息子は、この路地の住民同士の結束は強く、助け合いの精神があると話す。路地の中で困っている家庭があれば隣人が支援し、誰かが美味しい料理を作れば、近所の皆で分け合うのが当たり前とされている。
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ミンさんの近所に住むホアさん(67歳)の部屋は約4㎡しかない。ホアサンは昔ハノイで露天商をしていたが、弟に誘われてホーチミン市に移住してきた。1972年に片足を失ったホアさんは、一人暮らしで子供もいない。毎日、ガソリンスタンドやブイビエン通りの歩行者天国で宝くじを売り、1日平均20万ドン(約1,200円)を稼いでいる。
「1枚の宝くじが売れると1,000ドン(約6円)の利益です。販売店は、売れ残りを買い取ってくれませんから、日中に仕入れた宝くじを全部売り切らないと、夜中まで売り歩く必要があります」とホアさんは話す。
ホアさんによれば、マーランエリアの住民は、盗難を恐れていない。「ここでは、家が狭いのでみんな路上にバイクを停めますが、盗まれることはありません。もし、泥棒が来てもこの中は道が入り組んでるので簡単には逃げられませんよ」とホアさんは話す。
このエリアでは、10㎡程度の住居に7~10人が暮らしていることも普通にあり、交代で寝たり、椅子の上で寝たり、バイクの上で寝たりするのが当たり前となっている。
「親が仕事に行けば、子供は家の中で寝ます。夜、子供が寝るときには父親が外のバイクの上で寝ます。生活は楽ではありませんが、中心部にいればより多くの収入が得られると思って皆ここで暮らしているんです」とホアさんは話す。
このエリアでは、10㎡未満の部屋なら家賃は月200万VNDで、もう少し広い部屋なら400~500万VND程度となっている。
※記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。