前々回のコラムでは、相続が発生した場合の第一法定相続人や手続きを解説しましたが、今回は具体的な実務に焦点を当てます。
まず、日本や他国で作成された遺産分割協議書や財産放棄の覚書を元にしたご相談がよくあります。結論から申し上げますと、これらの書類はベトナムにおいて「基本的に利用できない」とお考えください。
ベトナムの不動産では外国人に権利証(ピンクブック)が発行されるケースは依然として少数です。そのため相続手続きでは、主にデベロッパーや公証役場との協議が必要となります。仮にピンクブックが発行されていても、管轄の土地資源環境局を訪れ、ベトナムの法律に準拠した内容(法定相続人や不動産情報の明記)を盛り込んだ書類の作成が必要です。この要件を満たし、承認が得られた場合に初めて認証手続きが行われ、ベトナム国内での利用が可能となります。
また、売買契約書に記載されたデベロッパー(プロジェクト会社)の名称に変更があれば、その変更情報を文書に反映させる必要があります。加えて、パスポートが更新されていれば旧・新パスポートの両方の情報を記載しなければなりません。
「ベトナムは書類の扱いが緩やかで寛容では?」などは誤解で、実際には細部にわたる厳密な確認が求められます。役所の対応も必ずしもスムーズではなく、特に外国人が絡んだ相続での不動産の名義変更は前例が少ないため、時間とコストが予想以上にかかるでしょう。
従って、相続が発生する前に、可能な限り手続きを進めておくことを強くお勧めいたします。