ホーチミン市7区のSECCにて4月9~12日、繊維、衣料、資材、縫製等の大展示会「SaigonTex & SaigonFabric 2025」が開催された。業界の景気が回復する中、約3万4000㎡の会場に1100以上の出展者が、25の国と地域から集まった。
1100社超のブースが出展
ベトナムの主要な輸出産業である繊維・アパレル産業。2024年の輸出額は前年比11%増の約440億USDで、バングラデシュを抜いて中国に次ぐ世界2位になったと発表された。最大の輸出先である米国の相互関税で先行きは不透明だが、それを吹き飛ばすような活気が会場にあった。
屋内のA、Bホールと屋外のCホールを合わせた会場に1100社以上が出展。中国企業が約700社と6割以上、次がベトナム企業で約150社、台湾企業約50社、韓国企業とインド企業が各約30社と続く。
出展者に聞くと前回より人出が増えたと答える人が多く、来場者はベトナム人以外では中華系や韓国人、欧米人、今回はインド人も目に付いた。
日本・日系企業は15社程度だったが、初出展から複数回出展、業種や経緯も異なるため、様々な話が聞けた。


お洒落なブースが人を呼ぶ
MORIRIN VIETNAMは繊維専門の商社。中国からベトナムに縫製工場が移管する中、ミシン糸を当地の縫製工場に販売したいと2011年に進出した。糸だけでなく自社ブランド生地のスポーツウェアなどアパレル商品も数多く展示し、黒を基調にしたセンスの良いブースを作った。
「初めてということもあり、できるだけ目を引くブースにしたいと思いました。写真を撮っていく来場者の方も多くて、嬉しいですね」
ミシン糸など定番商品を広く紹介する一方で、新しく開発した商品の反応を見て、来場者の意見を聞いて、売れるための仕掛けを探るのも目的だ。
まだベトナムで作れない商品もあって、展示品はストックしていた分や中国での生産品などを飾り、アパレルショップのようなブースに若者が集まっていた。
「ベトナムでの事業の可能性は十分に感じています」

オレンジとブラウンの差
KIYOHARA VIETNAMは2回目で、ハノイの同様の展示会にも2回出展しており、「1回で終わらずに出続けることに意味がある」と語る。
服飾資材やクラフト用品を製造販売しており、ブースではボタン、バックル、コード、ホックなどの小型パーツをそれぞれ数多く展示。共通しているのは高級感と種類の多さで、来場者はアパレルメーカーや縫製工場が中心だそうだ。
ユニークなのはボードの地色で商品の種類を分けたこと。地がオレンジなのはベトナム製の商品。自社で企画し、サプライヤーに生産委託して、当地のアパレル企業に販売している。一方、地がブラウンなのはトレンド商品で、ボタンやバックルなどの金属製品が多い。
「こちらは北米向けが多く、磨き上げる方法が特殊で光り方が違ったり、どう加工しているのか不思議がられる商品もあります」
1小間ブースながら集客が多かった理由は、この商品力にあったか。

AI搭載のX線検査機
出展常連組とも呼べるのが縫製関連設備のHASHIMA VIETNAM。主力商品である検針機をはじめ、延反機や自動裁断機などを並べた。主なターゲットはローカルの縫製工場だ。
最新機器も展示された。X線検査機ではアクセサリーが多いなどの場合は異物の判別が難しい。目視も必要となるが、見逃しのリスクがある。
「補助機能としてAIを搭載しました。AIが異物を検出するとオペレーターに注意喚起を促します」
昨年後半辺りから売上がぐっと上がって今年も好調。例年は下降時期となるテト前後も伸びた。理由と見るのは中国や台湾など中華系企業のベトナム進出増。カンボジアでも同様の傾向があり、他国からの生産移管はベトナム、インドネシア、カンボジアに集中しているそうだ。
ベトナムの縫製業界全体の需要の高まりもあり、新型コロナ明けの大量在庫の状況からの回復基調が今も続いているとのことだ。
ベトナムの代理店であるATF Automationにも話を聞いた。
「ハシマは売れてますよ。縫製工場ならハシマの検針機はまずありますし。展示会でのお客様の反応も良いですね」

生地の在庫は逆転の発想
「日本の生地屋です」と語るのは宇仁繊維。海外拠点は持たず、日本の自社工場で生地を生産して世界中に輸出している。販売先は主にアパレルメーカーで、女性ファッション向けが多い。
海外で売上が高いのはフランスなどのヨーロッパで、大手のハイブランドにも卸している。欧米以外のアジアではシンガポール、フィリピン、タイなどに実績があるが、ベトナムはまだ弱くて顧客開拓のために出展した。
「うちは在庫があるのが強みです。生地をストックしている会社は、日本にもうほとんどないんです」
日本製の生地は高価なこともあって大量には売れず、保管するとかなりの経費が掛かる。新型コロナの不況期に在庫を止める同業が増えたが、あえてストックサービスを維持したところ「すぐに買える」と顧客の引きが多くなった。
小さなブース内で多彩なデザインと色の生地が人目を引く。ローカルのアパレル企業などが来場しており、日本製とあって評判は良いが、価格面でハードルが高い。ここをクリアできれば取引が拡大すると感じている。

糸を作る2つのマシン
15社程度の共同ブースに出展していたのが村田機械。ブースを作ったのはベトナムの販売代理店で、同社のベトナム現法はベトナム人だけで運営している。
「ベトナムでは自動ワインダーとVORTEXという2つの機械を販売しています。どちらも糸を作るマシンで、お客様は糸を作る紡績工場です」
自動ワインダーは織機や編機など後工程で利用される、結び目なしに糸をつなぐ装置。同社はこの開発の先駆者であり、世界トップシェアとのこと。一方のVORTEXとは同社が開発した新しい糸。この装置で作れば毛羽が少なくて毛玉になりにくい独特の糸が完成する。
マシンは日本で生産して世界に輸出。ベトナムへの納入数は他国に比べて少ないが、展示会への出展は数えきれないほどだという。訪れるユーザーや来場者とは相談や悩み事などを共有し、マシンを知らない人には説明とアピールの場となっている。
「世界各地で出展していますが、独自のブースを出したり、このように間借りをしたりと様々です」

「ベトナム製」に自信あり
MARUSHIN(VIETNAM)は3回目の出展。前2回に比べて今回は来場者が多く、彼らに書いてもらう訪問シートが昨年より早いペースで積み上がっている。
親会社は服飾資材の商社だが。ベトナムでは自社工場でアパレルやシューズ用の紐を生産している。新しいラインナップを追加しつつ、この「ベトナム製」をメインに展示した。
「お客様は興味は色々です。ベトナム生産にこだわる人もいますし、輸入でも構わないからと特定の商品を探す人もいます」
出展の目的は新規顧客の獲得が中心だが、ベトナム日系企業への知名度アップもある。社名や事業は知られていても、ベトナムに生産工場があることをアピールしきれてないそうだ。

ユーチューバーもターゲット
親会社のヤギは老舗の繊維商社として知られるが、ベトナムでの認知度はまだまだというYAGI VIETNAM。
提案したいのは「Fably」というアパレル・衣料向け生地のECサイトで、専用アプリを登録すれば、スマホやパソコンで最小1mから生地を購入できる。クレジットカードで決済できれば場所を選ばずオーダー可能だ。
「販売先はアパレルメーカーだけでなく、ユーチューバーやインフルエンサーも考えています。オリジナルグッズを作る方もいるので、1mからの購入は便利です」
生産は委託するだろうから、こだわりの商品が量産化される可能性もある。ベトナムのファッション業界はレベルも品質も向上する余地が大きく、その意味でも「良いもの」が注目されていくと見る。
「ベトナムに工場はありませんが、素材開発は進めています。国内で生地を作って製品にして販売、というスキームができたらいいですね」

「ベトナムで調達」に応えて
ボタンなど留め具を中心に多品種の服飾資材を扱うモリトアパレルは初出展。スタイリッシュな広いブースに数多い商品を展示した。縫製工場などが中国からベトナムに移動する中で「ベトナムでの調達」を要望する声が増加し、その対応と自社の知名度を高めるために出展した。
「中国工場からの輸入品や国内の協力工場さんと商品開発をした商品を、ベトナムの縫製工場さんに納入しています」
ベトナムの展示会に出たことはあったかもしれないが、おそらくは「大昔」という。日本や米国の展示会なら大手ブランドやデザイナーが多くいるが、ベトナムは基本的には縫製工場が対象になると感じていた。
「商談、あるいはその取っかかりは取れそうです」


取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。
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