日頃お馴染みのサッポロビール。その2代目社長に与えられたミッションは「利益」だった。試行錯誤の末に広告手法を変え、人事や組織を作り直し、輸出も拡大させた。正脇幹生社長がその実際を語る。
利益を出す戦略へと変更
―― 2018年は初の黒字化を達成したとか。おめでとうございます。
正脇 ありがとうございます。黒字といってもほんの少し出たくらいですが、やっぱりうれしいですね。
2012年にベトナムで販売を開始して、当初は誰も知らないサッポロビールを認知させることが目標でした。しかし、弊社の意識調査では認知度は2014年からほぼ100%でして、その半面、売上が伸びても利益がなかなか出せなかった。そこで私のミッションは「利益を出す」になったのです。いえ、「利益を出せ!」ですね(笑)。
―― どのような方法を取られたのですか?
正脇 まず、PRの対象をサッポロが好きな人に絞りました。グループミーティングや調査会社の分析などから、サッポロを好むベトナム人は、仲間と一緒にくつろぎたい時や、何か良いことがあった時に飲みたい人。また、新しい店に進んでいくような人でした。昔からよく見かける路上店で、酔うために大量のビールを飲むタイプの人たちではありません。25歳から35歳くらいまでの中間層で、多少お金を払ってもいい時間を過ごしたい人たちです。
そこで、和食店以外のベトナム料理や西洋料理の店で、彼らが行きそうな品のあるおしゃれな店を「モダンアウトレット」と名付けて、そこに営業をかけました。営業部員が街を回訪したり、友人などの口コミや、様々な情報を通して店をピックアップし、私などの日本人社員も確認に行く。客層、料理、雰囲気、スタッフの対応などを吟味してから、我々のお客様に人気な店だと説明して、サッポロを置いてもらうようにしたのです。
店に看板などを付けるには支払いが必要なのですが、そうした支出は一切なく、ビールを置いてもらうだけです。こうしたお店自体がベトナムで増えており、ホーチミン市だけで数十件と取引をしています。
―― ビールはビンや缶ですか?
正脇 ビン、缶、生ビール用の樽生にこだわらず、好きなものを選んでいただいています。ただ、樽生は洗浄などビールサーバーの管理が必要ですし、ある程度出ないと鮮度が落ちるので、条件が揃う店にはなります。樽生の出荷は和食店の増加に伴って増えていますね。
最近はクラフトビールの店も増えましたが、こちらも営業先になります。クラフトではなくピルスナーを飲みたいお客様もいるので、決して競合はしないのです。
もうひとつの取組みはサッポロのイメージチェンジです。2014年まではプロモーションガールが売っているイメージが強く、品質の良さや日本ブランドはさほど浸透していなかったと感じます。それを変えたくて、2018年からは「ちょっといいときに飲みませんか?」というコピーで広告を出しています。プロモーションガールは最盛期で1000人ほどいましたが、今では全国に20人程度です。
―― 社内的なことではいかがですか?
正脇 2017年に人事制度を一新しました。例えば、それまで営業部門は月給プラス売上のインセンティブがありましたが、インセンティブを廃止して、年次ボーナスに変えました。しっかりした人事評価を行い、1年分の評価をボーナスとして支給する形です。目先のお金ではなく、サッポロが売りたいから働く組織にしたかったのです。個人差はあっても年収は前と変わらないか上がるケースもあるのですが、合計で約半数が辞めました。仕方のない痛みだと思っています。
一方で社内研修制度を充実させました。マネジャークラスには年間を通して事業戦略、営業マニュアル、組織作り、経理などのカリキュラムを、営業部門には考え方や方策を改めて教えています。今年のテト明けから、新しい組織でようやく動き出したところです。
現在は、毎朝の朝礼もしています。一人ひとりが5分間のスピーチをして、経営理念、行動理念、目標などを唱和しています。自分の話した内容を社内にメールする仕組みにしていまして、私もGoogle翻訳で内容を読みながら、彼らに返信しています(笑)。
ファンを増やすPremium Bar
―― 随分と色々なことに着手したのですね。
正脇 正直、大変でした。この結果として国内の売上は少し下がったのですが、利益は出て赤字は削減できました。別の大きな理由は輸出の拡大です。以前はアセアン諸国だけでしたが、2016年にオーストラリア、2017年にアメリカ、カナダ、メキシコ、2018年からは中国とヨーロッパに輸出しています。
特にアメリカ向けが伸びていまして、アメリカ市場のアジアのビールの中では、サッポロが一番売れているのです。このようなことから、2018年は進出7年目で初めての黒字となりました。
―― 今後はどんな戦略を考えていますか?
正脇 ベトナムの食文化に貢献しながら、売上を伸ばしたいと思っています。アメリカ駐在時代に見たのがCalifornia Cuisine(カリフォルニア料理)です。アメリカの料理に各国の料理を融合させたスタイルで、当時も人気だった和食を合わせることも多かったんですね。すると和食に合うアルコールが求められて、サッポロを飲んでいただきました。
ベトナムでもベトナム料理と他国の料理との融合がこれから起こる可能性が大きく、和食もその有力な候補のひとつです。ここにチャンスがあると感じています。
もうひとつはブランドを大切にしながらファンを増やすこと。昨年12月のクリスマスシーズンに、ホーチミン市のLandmark81で「Sapporo Premium Bar」を開きました(写真)。いわゆるポップアップバーでして、フロアにバーを作って、生ビールとスナックのセットで5万VND。また、美味しいビールの注ぎ方の「3度注ぎ」も伝えています。今年は4月~5月にイオンモールタンフーセラドンとロッテマートで開催しました。あえて有料にしているのはお金を払っても飲みたい人がターゲットだからで、評判が良いので今後も続けたいと思います。
―― 今年は2年連続の黒字化ですね。
正脇 いえ、全く気が抜けません。ベトナムのビール市場は国営のサベコとハベコが強く、外資系ではハイネケンのシェアがトップです。ハイネケンの国別売上では、ベトナムが海外で2位のようでして、この国にかなり注力しています。特にホーチミン市ではサベコとハイネケンでシェアが約8割、残りを弊社やバドワイザー、サンミゲルなどで競っています。
2017年には工場を増設して、従来の1.5倍となる年間6万klの生産能力になりました。国内市場にも今まで以上に力を入れていきます。