ベトナムビジネス特集Vol129
業界トップが語る 2021年ベトナムビジネス

新型コロナに揺れた2020年が終わり、ベトナムの2021年が始まる。この国のビジネスはどのように変わっていくのか。5つの業界の代表的な人たちに、2020年の動きと現在、そして2021年の予測を語ってもらった。2021年が良い年でありますように。

AEON VIETNAM
 General Director 西峠泰男氏

月単位で売上が大きく変動
テト正月まで影響は続くか

 2020年、AEON VIETNAMの売上は新型コロナに左右された。1~2月は前年同期比を大きく上回ったものの、感染が拡大した3月は同水準に戻る。そして、15日間の社会的隔離があった4月はスーパーの客数は約半分になり、売上は6割ほどに落ちた。
「社会的隔離の間に通常営業したのはスーパーだけで、デリカやレストランはデリバリーのみ。買いだめ需要で客単価は上がりましたが、4月は前年比較で最大の落込みでした」
 5、6、7月と徐々に回復し7月は前年比100%になるが、7月末からの第2派で8月は再びダウン。9月は立ち直って、10月に再度前年比100%に届いた。11月も回復傾向が続いたが、年末年始の予測は立てにくい状況が続くと語る。
 商品の売れ方にも新型コロナが大きく影響している。売れ筋は生鮮食料品、乳製品や冷凍食品などのデイリー商品、マスクや消毒液などの衛生用品など。自炊用のキッチン用品、自宅で運動するためのスポーツグッズ、ホームウェアなども良く売れた。
 逆に、高額な大型家電製品、日焼け止め、アウターウェア、スーツケースなど外出需要での商品群の売行きが落ちており、テナントでは映画館の回復が遅い。
「映画館というより人が集まる場所を避けているのだと思います。子どもが遊ぶプレイランドやフードコートも以前のような賑わいはまだ戻っていません」

変化する生活・消費スタイル
小売の出店は増加する

 新型コロナ禍でスーパー部門が健闘したように、食品中心の店舗はまだ良いが、コンビニやアパレル中心のショッピングモールは依然として厳しい状況が続く。コンビニは人が消えた街中中心地の店舗や、リモートワークとなったオフィス店舗で客数が激減し、海外渡航客が落ち込んだ影響で百貨店需要も減ったという。イオンモールでも社会的隔離の期間は多数の専門店が閉店した。
 新型コロナ禍では、日本でもスーパーやドラッグストアは伸びるが、コンビニや百貨店は厳しい状況になるそうだ。
「お客様の生活や消費のマインドが変化しており、2021年は伸びているECとデリバリーを強化します。デジタル化やキャッシュレス化も進めていて、セミセルフのキャッシュレスレジを導入し始めました」
 2020年はハノイにミニスーパーのMaxvalu Expressを2店出店し、今後はドラッグストアのWellness、自転車専門店Aeon Bicycle Shop、ペットショップPETEMOのような単独店も増やしていく予定だ。
「ベトナム小売市場は、外資系を含めた新規参入企業も増えて競争が激しくなってきており、2021年もこの勢いは止まらないでしょう。新型コロナ禍の厳しい状況下で、今後は企業の優勝劣敗が分かれ、生残りを掛けた厳しい戦いになると予想しています」

SG Sagawa Vietnam
Sagawa Express Vietnam
General Director 島崎順二氏

国際物流でダメージ受けるも
売上を支えた国内事業

 SG Sagawa VietnamとSagawa Express Vietnamには、大きく3つの事業がある。航空輸送や海上輸送など国際物流の「フォワーディング事業」、倉庫での取扱いを行う「ロジスティクス事業」、チャータートラックと国内宅配の「デリバリー事業」だ。
 その中で、新型コロナの影響が最も大きいのがフォワーディング事業の航空輸送だ。航空会社の減便や欠航が相次ぎ、運賃は新型コロナ流行前の2~3倍に上昇し、荷物の量が激減した。海上輸送も世界の多くの港で貨物が滞留してコンテナが不足、船舶も遅延が多発し、運賃も上昇している。
「海上輸送は来春までこの仕入運賃の高止まり、貨物の滞留、船舶の遅延等の状態が続くと予想しています」
 一方、国内事業であるロジスティクスは、あまり前述のような影響を受けなかった。また、デリバリー事業は全体で大きなマイナスはなく、中でも国内宅配は新型コロナ前と比べてほとんど変わらなかったが、足元で競争が激化してきているという。
「当社はサービス品質で競合他社との差別化を図るべく現在、対応力を強化しています。ハノイやホーチミン市の支店に昨年カスタマーセンターを新設。今まではお客様からベトナム全国の各サービスセンターにお問い合わせをいただいても迅速に対応できませんでしたが、これをホーチミン市およびハノイ支店のカスタマーセンターへ集約し、迅速に各種のお問合せに対応できるスキームを開始しています」
 カスタマーセンターの新設のためにベトナム人スタッフを日本の佐川急便へ派遣し、迅速な対応ができるよう教育を実施した。結果的に「SAGAWAクオリティ」が他社との差別化につながっていると考えている。

国内物流量は増加の一途
B to Cの宅配事業を計画

 2021年のベトナム物流業界を島崎氏は、「国内の出荷量が増えるのは間違いない」と語る。2020年の経済もプラス成長が見込め、2021年も貿易や消費の増加が期待されるからだ。
「ただ、フォワーディングは厳しい。新型コロナ前までの稼働状況へ戻るには、2021年末まで掛かるのではないかと考えています」
 同社主力のフォワーディング事業の下落を国内事業がカバーした2020年に続き、2021年も確実性の高いデリバリー事業、ロジスティクス事業に注力する。現在はB to Bが中心だが、土台を固めてB to Cに入っていく。
 そのため現在は、より細かい顧客ニーズに対応できるようサービスをリニューアルする予定。日本のノウハウを使って配送の効率化を図れば、顧客に対してさらなる価値が提供できるという。
 また、2020年はロジスティクスとデリバリーを組み合わせた「ロジ・デリ・サービス」を始めた。倉庫での物流加工から配送までを請け負うサービスで、さらに浸透を図っていく。
「お客様は高度な物流品質を求めるようになります。我々はその物流ニーズにお応えできるよう取り組んでいきたいです」

JAPAN SECURITIES INCORPORATED
 Deputy CEO       CEO
  土屋智徳氏      今井 毅氏

株価を上げた個人投資家
1年振りの1000ポイントに

 ベトナム株式市場の指標となるホーチミン証券取引所のVNインデックス。2020年11月下旬、約1年ぶりに1000ポイントの大台に乗った。Japan Securities Incorporated(ジャパン証券)の今井氏はこの背景について、「ベトナム人の個人投資家による旺盛な購入」と語る。
 先進各国が新型コロナ対策で市場に資金を投入していることで、いわゆる金余りから株価が上昇。グローバルな機関投資家は新興国ではなく先進国に投資しており、加えてベトナムでは個別銘柄に外国人投資枠の上限があり、枠がいっぱいで外国人投資家が購入できない銘柄もあるという。
「元々ベトナムでは個人投資家の比率が高いのですが、新型コロナ禍で新規に証券口座を開設して株式投資を始めた個人が急増し、新規の資金が市場に入ってきているようです」

 新型コロナで失業者が増加すれば投資家は減るはずだが、ベトナムは逆に増えているそうだ。個人投資家の中には、家賃が払えずに株に投資して儲けようとするなど、株価が上がるとすぐに売却して利益を得ようとする短期的な売買も多いという。
 2020年を振り返ると、新型コロナの第1波が襲った3月は相場が急落。しかし、ここで口座を開く人が急増したそうだ。新型コロナが収束を見せると4月頃から株価は上がり始めたが、7月末の第2波でまた急落した。しかし、その後は上昇を続けて1000ポイント台を回復した。
「リモートワークでIT企業や家電量販店関連の銘柄が上がった一方、航空会社、小売、ホテル、旅行関係などが大きく下がりました。ベトナム人投資家の心理はシンプルで、時勢から上昇した銘柄を買い、その銘柄がさらに買われて上がっていったようです」(土屋氏)

証券法改正で世界標準へ
淘汰が始まる証券業界

 2021年の株式市場は安定成長が見込まれるという。理由の一つは2021年1月に施行される改正証券法で、「より公平になり、洗練され、グローバルスタンダードに近づく内容」とのこと。外国人投資家の持株上限の上昇や、ホーチミン市とハノイの証券取引所のシステムの統一などが始まり、利便性も高まるようだ。
「ベトナムは新型コロナの抑込みに成功し、経済成長を続ける数少ない国。消去法で考えても世界から資金が集まるでしょう。2021年のベトナム株式市場を心配している人は、この業界にはいないと思います」(今井氏)
「ベトナムは今後、資産運用会社などの機関投資家が増えてくると思います。こうした投資家は個人投資家よりも洗練された投資手法を取るので、ベトナム市場にもプラスの影響を与えると思います」(土屋氏)
 一方、2021年からは金融機関の淘汰が始まりそうだ。証券会社は外資系を含めて国内に74ほどあるが、政府はそれを30~40社にしたい意向という。
「いわゆる総合証券会社として生き残るには、資本金の増額が必要になる証券会社もあります。体力のない会社は淘汰され、証券業界も変わっていくと思います」(今井氏)

KOTERASU PARTNERS
 Founder / CEO 山口真一氏

供給の少なさが価格に反映
他国と比べてかなりの健闘

 活況を続けてきたベトナムの不動産市場は、2020年にどう動いたか。クリード社で地場デベロッパーと提携して多くの不動産を開発し、コーテラスパートナーズを起業した山口真一氏は、「住宅売買の動きはスローになったが、価格は基本的に右肩上がり」と語る。
 以前は大勢の購入希望者を集めた即売会や「マンション500戸が即日完売」など勢いがあったが、集会は禁止され、100戸単位で販売するなどペースが落ちた。消費者のマインドも3~4月は下がり、5月には持ち直すが、第2派の8月は多少ダウン。しかし、価格は下がらず、緩やかに上がり続けているという。
「2~3年前から不動産開発の許認可が厳しくなり、ニーズに合った供給ができなかったことが大きな理由でしょう」
 失業などで不動産購入を控える人は出ただろうが、その分を富裕層などが購入しているのではと読む。また、ベトナム人は自国通貨をあまり信用しないので、貯蓄より現物投資を選ぶ傾向が強く、不動産価格は当然上がると信じている。
 一方、外国人の観光客や出張者が消えたホテル関連は厳しい状態。ショッピングモールなどの商業施設もECの普及や新型コロナの影響で状況は厳しいが、他国と比較すると在庫(物件数)が少ないので、影響は限定的だったという。
「オフィスビルも供給が少なかったため、価格は劇的に下がりませんでした。商業施設もオフィスビルも他国と比べるとかなり健闘しています」

住宅市場は引続き拡大
東南アジアの「勝ち組」

 現在、住宅価格は引き続き上昇しており、2021年もインフレ分の5~7%程度は最低で上がるだろうと語る。指導部の新体制が始まって許認可数が増えれば期待は一層高まる。ただし、新たな淘汰も始まりそうだ。
 数年前から、室内の仕上がり、照明や水回りの設備、共用部分などにこだわる消費者が増えてきた。2021年以降もこの傾向が強くなり、消費者目線で開発できないデベロッパーは最終的に消えていくという。
 商業施設やオフィスビルは基本的に現状が続くと予想するが、ホテル等の宿泊施設は2021年いっぱい、あるいは2022年まで回復が遅れるという。
「他の物件では工場と物流のポテンシャルが高いです。工場はベトナム新規進出と中国などからの移転のニーズ、物流はECの普及などによる倉庫のニーズです」
 これらの価格は上昇中であり、倉庫が欲しいために小規模物流会社の買収なども起きているそうだ。購入価格だけでなく賃貸料も上がっており、日本から山口氏への相談件数も増えている。
「ベトナムは東南アジアの勝ち組であり、ポテンシャルも高い。不動産物件は全体的に在庫が足りず、富の偏りが少ないことも市場拡大の一因です」

SUFEX TRADING
 General Director 宮本 昌氏

新型コロナでも価格が上昇
北部に豊富な候補と割安感

 中国からの工場移転やFTAの発効などで、活発な投資が続く工業団地。ベトナム工業団地の情報誌『Invest Asia』を発行するSufex Tradingの宮本氏は、日本だけでなく台湾、香港、韓国、中国の企業も、入国制限明けを「待っている状態」という。
「2020年は新型コロナでも土地の値段は下がらず、むしろ上がった工業団地もあった。特に中華系と韓国系から強いニーズがあります」
 同社の調査によればベトナムの工業団地は北部に約100ヶ所あり、そのうち67ヶ所が土地用地を販売中。ハノイ中心部から車で1時間圏内には22ヶ所がある。一方の南部には約110ヶ所あり、6ヶ所が販売中。ホーチミン市中心部から1時間圏内には5ヶ所。
 新型コロナ前の2019年には南部工業団地の土地が20~30%上昇したが、北部はさほど上がらなかった。そのため、都市中心部から1時間圏内の工業団地で南部は150~200USD/㎡、北部は100USD/㎡が相場だという。
「北部は販売数が多く選べる状態であり、割安感もあります。ただ、最近では120USD/㎡という価格も出始め、新型コロナ収束後には一気に値上がりすると見ています」
 一方、近年増えているレンタル工場は北部に6ヶ所、南部に16ヶ所あるそうだ。初期投資を抑えたい中小企業などは南部のほうが選択肢が多い。

郊外にも揃う魅力的な物件
アフターコロナは投資が加速

 土地の値上がりや空き物件の減少から、郊外の工業団地を選ぶ企業も増えている。北部ならハナム省やゲアン省、南部ならミトーやカントーなどで、土地価格はミトーやカントーであればホーチミン市の1/3~1/4程度という。
 その他、クアンガイ省やクアンチー省など郊外に新設されていく工業団地もあり、新規進出だけでなく工場の増設や、レンタル工場契約終了後の新設といったニーズにも応えている。

「ホーチミン市とハノイの2大都市以外でも、外資系デベロッパーがインフラなどをしっかり整備しています。特にハイフォンは大型のホテル、スーパー、レジデンスなど外国人向けの住環境が整備されつつあり、2021年も伸びると思います」
 外資系デベロッパーの参入も盛んだが、ビングループの工業団地投資なども積極的に計画しており、2021年以降に開業する工業団地も多い。近年増えている入居企業は、流通やECのニーズ増から物流や倉庫、スマホ用などの電子部品系だという。
 アメリカ新大統領の方針にもよるが、中国依存リスクから脱却する世界的なサプライチェーンの再構築は進むとみられる。そうすれば、2021年以降は中国からの工場移転も本格化し、様々なFTAが始まり、国内の消費も給与も上がっていくだろうと宮本氏。
「2020年は視察ができなかったこともあり、海外からの工業団地への投資は減りました。アフターコロナの2021年以降は、渡航制限解除が前提とはなりますが、減少分を大きく超える投資額になると思います」