文具・事務用品、オフィス家具メーカーのプラスが、ベトナム進出30周年を迎えた。事業拡大の要因、ぺんてるとの協業、世界戦略、スマートファクトリーや環境対応まで、来越した今泉忠久社長が熱く語った。
ぺんてるとの融合が加速
世界に広がるシナジー
「30年前とは、多くの日本の製造業が中国に進出し、ベトナムは『まだ早すぎる』と言われた時代です。あえてそこに踏み出したのは、後追いではトップに立てないからです」
プラスが掲げる「ユニークなモノづくり」をしっかり理解して、日本の品質やブランドを維持できる国か。冒険ではあったが、勤勉で親日、日本式にも柔軟に対応するベトナム人が支えた。

ドンナイ省に第1工場を設立後は2010年に第2工場を竣工し、2003年からは国内販売をスタート。PLUS VIETNAM INDUSTRIAL(PVI)は今やベトナムを超え、ASEAN戦略の要となっている。
「私たちもメーカーとして手探りをしながら一緒に成長してきた国。ベトナムには感謝の気持ちで一杯です」
近年はグローバル戦略をさらに加速させている。2022年には老舗の筆記具メーカーであるぺんてるを子会社化し、そのシナジー効果が徐々に生まれている。
「ぺんてるの販路は欧州、北米、中南米に強く、我々はアジア、特にASEANに強い。製品カテゴリーも重複がほぼなく、まさに補完関係にあります」
プラスはステープラー(ホッチキス)やはさみ、修正テープ、ファイルなど幅広い文具・事務用品を主力とし、ぺんてるはボールペンやシャープペンシルなど筆記具が主力商品で、被っているのは「消しゴムぐらい」。この関係性を活かし、両社は販売チャネルの相互乗入れやOEM供給など、地域ごとの強みを掛け合わせる戦略を始めている。
例えばシンガポールでは広い販路を持つぺんてるが販売代理店を担当し、ベトナムでは今年9月からプラス(PVI)がぺんてる製品の代理販売店の一つとなる予定だ。
また、ぺんてるブランドでプラス製品を販売するOEM事業も始動しており、南米でのぺんてるの知名度の高さを活かして、ベトナム製の修正テープなどを展開している。
「プラスのブランドを未開拓の国に浸透させるには何十年もかかります。しかし、ぺんてるのブランド力を活用すれば圧倒的に早くプラスの製品を流通させられる。自社ブランドの浸透にこだわるエリアと、そうでないエリアがあり、どちらが良いかは常に熟慮していきたい」
また、将来的にはベトナム工場でぺんてるの製品を生産し、販売していくことも検討していきたい。

スマートファクトリー構想
製品と工場で環境対応
現在プラスは、ベトナム工場でスマートファクトリーを推進している。これは単なる自動化ではなく、IoTやAIを活用した情報の見える化によって、生産性と対応力を同時に高めている。
工場には大型モニターが設置され、すべてのラインの生産状況がリアルタイムで表示される。基準値を100とした際、どのラインが90なのか110なのか、どこがボトルネックでヘルプが必要かといった情報が瞬時に把握できる。
「以前は1日単位でしか生産の進捗がわかりませんでしたが、今は現場ですぐに判断できます。しかも、日本からも遠隔で監視や指示ができるようになっています」
生産効率の向上によるコスト削減や生産スピードアップがスマートファクトリー構想の第一弾のゴールとすれば、将来的にビッグデータ解析などによる需要予測やマーケティングに生かし、売上アップを実現することが次のゴールになる。どの地域で、どの商品の、どの色が、どんなパッケージで売れているのかまでを把握し、最適な商品を最適な数だけ、タイムリーに提供していきたい。
もう一つの注力分野が環境対応だ。ひとつは製品の包装資材の変更で、日本と台湾の市場で実施している。
「商品を包む透明なブリスターパックを減らし、紙パッケージに切り替えるなど、商品パッケージの見直しを進めています」
紙パッケージに切り替えたのは日本と台湾で、台湾人は若年層を中心に、その環境意識は高いようだ。日本での開発会議で今泉氏が強度や見栄えについてダメ出ししたところ、「社長、台湾でプラスチックパッケージなんて売れません」と説得されたとか。
さらに、生産工程で発生するプラスチック端材の再利用も進行中だ。色替え時などのロス材や規格外品の再利用はしていたが、最終的に利用できなくなったものは廃棄していた。現在はそれを黒いシート状に加工して他のメーカーに販売しており、工場内のゴミ箱のフタなどに使われている。
「部品製造からの一貫した生産体制だからできたことでしょう。環境対策だけでなく収益化にもつながっています」

プラスベトナムを
ASEAN戦略の中核へ
今後の戦略は大きく3つある。1つ目はプラスの文具事業に占めるベトナム国内の売上比率を伸ばすこと。現在は売上全体の約15%だが、これを5~10年で最高30%程度まで引き上げたい。
「ベトナムは人口が1億人を超え、その内、文具を最も利用する層である生産年齢人口の比率が7割と聞きます。極めて成長性の高いマーケットなのです」
そのため、目の前のニーズをとらえることを最優先に、PVIに専任の営業部隊を新設した。地場市場への深耕を図っており、再利用のシートの販売先も彼らが獲得したそうだ。プラスブランドがある程度の信頼を勝ち得れば、次はベトナム市場の創造だ。マーケティングによるベトナム向けオリジナル商品の開発も見えてくる。
2つ目はプラスのもうひとつの柱であるオフィス家具事業のベトナムでの展開である。同社は2020年、中国浙江省杭州市に中国文具大手のDELIと合弁会社を設立し、「deli-PLUS」ブランドで中国でのオフィス家具の生産と販売を始めている。今後、ベトナムでの家具の販売はもとより、将来的には国内での生産も選択肢の一つであると言う。
3つ目はぺんてるとの世界展開を強化するためにも、PVIがベトナムでASEAN諸国へのハブになっていくこと。既にその役割を担いつつあるが、今後は生産拠点としての位置付けに限らず「何でもあり」の柔軟性を持たせる。
「PVIのI(INDUSTRIAL)を取って、社名を『PLUS VIETNAM』に変えるのも良いと考えています。製造に加えて販売、戦略、開発までを担うASEANの統括拠点と示すためです」
プラスがベトナムに注いできた30年の情熱は、単なる海外進出にとどまらない。現地との相互信頼を築きながら共に成長するパートナーとして歩み、今後はASEANへ、世界へとその歩みを広げていく。
