縫製やアパレル資材の大型展示会「SaigonTex 2022」が、ホーチミン市7区のSECCで3年ぶりに開催された。期間は7月27~30日。17の国と地域から280社を超える出展企業が集まり、新型コロナ前の賑わいが戻ってきた。
展示会で、モッ、ハイ、バー?
SaigonTex 2022はSECCのA1とA2会場で開催された。出展企業で多いのはベトナムを除けば中国と台湾。出展リストによれば中国は約100社、台湾は50社を超えている。
中国企業は大型マシンから小ブースでの出展と様々、台湾企業はA2中央にパビリオンを作り、ブース上にカラフルな「TAIWAN」のロゴを並べてアピール。色とりどりのサンプルが飾られた生地のブースが多かった。
会場で最も目立っていたのは韓国のTAE GWANG。好立地な場所に2階建ての特大ブースを作り、ミシンや縫製設備を多数揃えただけでなく、商談スペースをふんだんに確保。オレンジ色のポロシャツを着た20人以上のスタッフが忙しく動いていた。
驚いたのは商談のテーブルに酒や料理が置かれ、宴会が行われていたこと。展示会で「モッ、ハイ、バー、ヨー!」の掛け声を聞くとは思わなかった。
SaigonTexに出かけたのは開催3日目となる金曜日。屋外にもテント会場を用意した前回と比べて規模は小さくなったが、来場者は多くて全体的に盛況だった。
ミシンの展示に人が殺到
Brother International (Vietnam)は用途の異なる数多くの工業用ミシンを出展。立地が来場者の動線に当たるせいもあってか、見学者が常に鈴なりだった。
「お客様と話すとベトナム全土から来ている印象です。2年間開催されてなかったので待ち望んでいたのではないでしょうか」
縫製工場で最も良く使用される本縫いミシンでは新しい機種も展示。IoTでのデータ連携ができる機種で、スタッフも熱心に説明する。ほかには靴用やカバン用の大型のミシンも展示していた。
主な顧客は地場の縫製工場。中国の都市が新型コロナでロックダウンしたこともあり、縫製のオーダーが中国からベトナムに流れていると感じている。同社への来場は1日当たり250社ほどと好調で、今後の商談も期待できそうだ。
新型コロナで売上は落ちたが現在は上昇しており、「市場が開いた」と見る。2年の中断で既存や新規の顧客にコンタクトできなかったため、アピールの意味でも出展した。来場者からは「こういう用途のミシンがほしい」、「新しく工場を作るのでミシンのアドバイスがほしい」などの相談を受けている。
「初日から今まで来場者が途切れません。目標とした数字より引合いや問合せが多く、今回の出展は成功と言えます」
イタリア製の靴下編み機
繊維機械の専門商社であるユニオン工業は、ベトナム現地法人のUNION ASIA PACIFIC (VIETNAM)と出展。イタリアの大手靴下編み機メーカーLONATIグループの総代理店をしており、日本やベトナムを含めた東南アジアで販売している。
会場では靴下編み機や足の甲を覆う靴の素材であるシューズアッパーの編み機などを展示。前者はつま先の部分まできれいに縫えることが特徴で、後者は縫製のスピードがアップしているとのことだ。
「最初の2日間はお客様への対応が忙しく、満足に食事も取れませんでした。新型コロナで2年中断しましたが、2015年から毎年出展しています」
生地店、問屋、縫製工場などの来場者は面白いと言ってくれるが、靴下編み機で想定している顧客は靴下メーカー。日本ほど多くはないが、ベトナムに靴下メーカーは少なくないそうだ。
一方、異なる業界で興味を持ってくれる人もいて、チャンスにつながる場合もある。展示会は新製品を紹介して、靴下や靴を作りたい人に興味を持ってもらう機会でもあると考えている。
「前回より規模は小さくなっても、弊社への来場者は増えている気がします。既存のお客様だけでなく新規の方との商談も生まれています」
乳幼児を傷付けないホック
アパレル資材などを製造するカジテックは日本からの出展で、ホーチミン市に支社を持つ。ベビー服や子供服に使うプラスチックホック(ボタン)と、ホックを生地に取り付けるマシンを展示。ベトナムの安全意識の高まりを商機ととらえた。
日本ではプラスチックホックが主流だが、ベトナムでは金属製がまだ多いため、ボタンを止める爪が取れると生地だけでなく乳幼児の肌も傷付けてしまう。プラスチック製ならその危険は格段に減るとアピールする。
「『メイド・イン・ジャパンはさすがだ』と驚く人がいたり、初めて見る専用マシンに興味を持つ人が多いですね」
プラスチックホックはアウトドアウェアにも良く使われ、ブースにはこうしたジャケットやベビー服、ホックのサンプルなども展示。顧客は縫製工場やアパレルブランドで、ロット数は様々だが数万、数百万単位もあるそうだ。
日本では少子化や出生率の低下でベビー用品市場は縮小しており、海外に目を向けた。商材のメインがこのプラスチックホックで、欧米やアフリカへも輸出しており、ベトナムは現地支社に送った後での国内販売が基本だ。新型コロナが落ち着いてから引き合いが増えている。
「最初の2日間で約130社とコンタクトできました。北部と南部に機械のメンテナンススタッフもおりますので、ベトナムでの事業を拡大させたいです」
新作のファスナーが並ぶ
明るくセンスの良いブースで様々なファスナーを展示していたのがYKK VIETNAM。来場者にはバイヤーよりもベトナムのメーカーが多く、中国・上海の展示会で多かった欧米系のバイヤーは少ないという。
来場者からは相談を受けることも多いが、時間が限られているので基礎的な内容を説明し、興味のある商品については展示会終了後にメールや電話でやり取りしている。
「新商品の展示もしています。お客さんと直接コミュニケーションを取れるのが展示会の魅力ですね」
環境意識の高まりからか、最近はリサイクル商品に興味を持つ来場者が目立つそうだ。ファスナーだけでなく服や生地も同様なので、アパレル全体の傾向だろうと語る。
「縫製業や関連する業界のバイヤーが多い国は、リサイクルへの興味が強いと思います」
機能性商品への注目度も高い。求める機能は事前にわかっているので、それを求めて展示会に来るが、来場者はそれ以外のインスピレーションも求めているという。
「この3日間を通じて感じたのは1年早かったということ。新型コロナ前の出展者数と来場者数には戻っていないので、来年に期待したいですね」
商品力を上げる大型プリンター
ブラザーの代理店として主にガーメントプリンターを取り扱うVJC TECHNOLOGY。Tシャツなどに直接印刷できる大型のプリンターで、前回は1台だったが今回は2台を展示して、Tシャツやバッグへの印刷デモを繰り返していた。
「見学する方が多すぎて、1台だったら対応できず、潜在顧客を逃していたと思います。印刷するTシャツが足りなくて毎日買いに行ってます」
顧客はオリジナルTシャツの制作ショップなどで、新型コロナ禍であってもプリントした商品をEC販売できたため、売上はあまり落ちなかったそうだ。ローカルアパレルブランドも顧客だ。レース生地に微細な絵柄を印刷して層を重ね、ホログラムのような女性服を作った。付加価値の高さからか値札は200万VND以上だ。
ガーメントプリンターは購入してもすぐには使えないため、即売はしていない。まずデザイナーに来てもらい、プリントした色やデザインの実際を確認。次はプリントの担当者で、操作を教えてTシャツなどの自社商品をプリントしてもらう。その後で販売となる。
今回はエコ系の展示が増えている。3年前の前回も出展企業はあったが、さほど注目されていなかったそうだ。
「アパレル業界全体の動き、顧客企業や関連会社の意識変化もあって、熱心に見ている人が多いのだと思います」
アパレル資材商社がメーカーに
SHIMADA SHOJI (VIETNAM)は初めての出展。親会社の島田商事はアパレル資材の商社だが、ベトナムでは昨年自社工場を竣工し、紐、生地、テープ、ストッパーなど多彩なアパレル資材を生産している。
「商品の種類は数えきれないですね。昨年は新商品で100種類以上を発売したと思います」
来場者の反応は上々で、サンプルを見た人からの引合いもあり、「これ、送っておいて」などと声をかけられている。
顧客は縫製工場やアパレルメーカーで、ベトナムのサプライチェーンにネットワークがある。アパレルの生産は中国からのベトナムシフトが始まっており、、商社ではなくメーカーとの取引きを望む企業が増えてきたことから工場を作った。
「品質には自信があります。販路が開けると思って自社生産を始めましたが、現実にそのようになっています」