食品、飲料、日用消費財、医薬品などの生産増を受けて、これらのパッケージを作る包装業界が成長を続けている。一方で自動化や高品質化、環境への配慮も少しずつ始まった。パッケージ業界に起きていることとは?
食品機械は必ず伸びる
ベトナム人技術者で付加価値
自動倉庫内の搬送機、食品の製造機と包装機、工場の自動化を事業の柱とする、機械メーカーのキョウワ。リーマンショックでの受注減からベトナムに活路を探し、現地調査をすると溶接技術が低いとわかった。自社の精度の高い溶接力が武器になると、2012年にキョウワベトナムを設立した。
2つ目の事業は食品機械の販売に決めた。食材が豊富なベトナムで、今後は食品分野が伸びると確信したからだ。パック飯の自動製造機などに一部機器をOEM供給している実績もあった。
ただ、食品の製造機や包装機には各メーカーのノウハウが詰まっており、すぐに自社で完成品は作れない。そこで、日本のメーカーから購入してベトナムで販売することにした。
「弊社は2007年から高度外国人材として、大卒などのベトナム人を採用し、技術者として育成しています。外国人技能実習生でないのは、事業戦略としての計画採用だからです」
機械の輸入販売では同業他社もあり、付加価値として顧客のオペレーターへの教育と機械のメンテナンスを提供しようと考えた。その役目を担ったのが、優秀な技術者に育っていた彼らだ。日本で自動機の操作を覚えて、現地支社の社員となる。メンテナンスだけでなく、日系の顧客には日本語で説明できる。
彼らが普通にベトナムの企業で働いても、日本と同等の給与を得るのは難しい。ベトナム人技術者に実力を発揮できる場と、日本と遜色のない報酬を与えることも目的だった。
2015年から食品機械を販売するが、中国製の価格は半分以下で、安い台湾製も多かった。3年間で1台も売れなかったが、必ず売れると信じていた。なぜなら、中国製や台湾製を購入した企業はその後で必ず、「良く止まるんだ」、「能力が十分出ない」などとこぼしていたからだ。メンテナンスやアフターサービスにもやって来ない。
2017年にはホーチミン市近郊に販売のための営業所を開設。この年に初めて2台が売れた。2番目に自動包装機を購入したのは地場大手ベーカリーのPhuc An Bakery。この社長が新たな顧客を紹介してくれて販売ルートが広がったが、その中で気付いたのは、包装機より製造機の需要が高いことだった。
まずは製造機、次が包装機
顧客は日越の大手メーカー
同社は肉まんなどを作る包餡機を販売したことがある。餡を皮で包む作業に約30人が必要だったのが機械1台で済むので、画期的な導入事例だ。しかし日本なら、それを蒸して包装するまでを自動化と呼んでいる。逆に言えばベトナムは、単体機での自動化も一般的ではなかったのだ。
「まずは製造機と思いました。ただ、製造が自動化されると手作業の包装では生産が追い付かない。製造から始めて、その前後の工程も機械化するのが次のステップです。単体機と単体機をつなげる自動機を作れるのも弊社の強みですから」
実際、綿棒の自動包装機は設計から自社で作っている。綿棒を円柱形のケースに入れて、バーコードを貼って、段ボールに箱詰めするまでを自動で行う。こうした技術力があるからこそ、ベトナム人スタッフが複雑な自動機に対応できる。
ベトナムの取引先は日越の大手企業ばかり。日本と違って大手と直接交渉できるのがうれしいと臼田氏は語る。業種は食品メーカーが多く、売上ベースで6割がベトナム企業。手作業の機械化や古い機械のリプレースもあり、現在は包装機の需要に追い付かず製造機の販売が多い。
販売するのは、ピロー包装機、包餡機、餃子製造機、トレー洗浄機、菓子製造機などで約10社から購入。同じタイプの機械で企業を競合させず、1社の代理店となっている。最初から企業選択を慎重にしているのと、製造機メーカーとのつながりが濃くなるからだ。こうしたメーカーとの折衝も、現地の顧客開拓も、ゼロからのスタートだった。
「最初はベトナムのスーパーに行って、商品の裏にある電話番号をメモって、片っ端から営業電話をさせました。でも、あまり効果がなくて(笑)。Phuc An Bakeryの社長との出会ったのは『PROPAK』の展示会でした。メーカーさんとも初めての取引なので、当時は全額を前払いしていましたね」
包装機への期待も高まる
人材確保で共に成長したい
風向きが変わってきた理由には、ベトナム経済の好調、所得の上昇、輸出の増加などもあるという。生産規模が増加し、良い顧客を得れば、品質への要求も上がる。機械が止まって生産が遅れれば、輸出できない事態にもなりかねない。「また止まった」では済まなくなり、日本製品が注目されるようになった。
「ベトナムの菓子パンの袋が風船みたいに膨らんでいるのは、賞味期限を延ばす窒素ガスが入っているから。中国製の包装機では輸送時に空気が抜けることもあり、包装にも精度とスピードが求められてきています。今後はパッケージで使う包材の質も向上するでしょう」
日系はもちろん、これからはベトナム企業に積極的にアプローチしていく。既に候補はあり、最近では企業からの連絡も増えた。キョウワベトナムのWebサイトからの問合せや、地場食品メーカーの会合などで話題になることもあるようだ。
「製造機から包装機へ、ベトナムで食品自動機は確実に伸びます。弊社はその成長の土俵に上がったところで、技術力の高い人材を確保し続ければ伴走できると思います。基本方針は変えずに、将来的にはベトナム人に運営を任せる方向もあります」
細かな工夫で高品質を実現
ベトナム企業も差別化に着手
高品質かつ高い技術力に定評のあるタキガワ・コーポレーション。手がけるパッケージは大手企業やグローバル企業の商品が多く、食品を中心にペットフード、園芸・農薬、コーヒー、化粧品など扱う商品も幅広い。
ベトナムには2011年に進出し、ビンズン省に工場を持つ。EPE企業として欧米、オセアニア、東南アジアなど各国に輸出するほか、ベトナム企業のコーヒー豆や食品のパッケージも制作している。規格サイズは特になく、すべてがオリジナルのオーダーメイドだ。
「パッケージにある程度の予算があり、品質ファーストのお客様がターゲットです。素材やサイズに仕様がある場合と、弊社で提案する場合があります」
パッケージには保護機能、利便機能、情報機能の大きく3つがあるという。保護機能とは酸素や湿度を防ぐバリア性で、防臭性や遮光性なども含まれる。しかし、これらは高品質のフィルムを使えば可能であり、同社の強みは利便機能と情報機能のイノベーションにある。
前者ではまず流通上での利便性で、例えばパレタイズや輸送時の荷崩れを防ぐために、パッケージ表面にノースリップの性能を持たせる。さらに、空気が袋内に残ると荷崩れが起きやすくなることから、エアーベント機能も持たせている。そのためには袋に小さな穴を開ける必要があるが、空気穴の上にフィルターを付けることで、虫などの異物混入を防いでいる。
また、取っ手を付けて注ぎやすさや運びやすさを向上させたり、使用用途によって異なるジッパーも提案している。大型の袋では幅広いジッパーで閉めやすくするなど、ユーザーフレンドリーな利便機能も得意だ。
情報機能ではアイキャッチ性や商品アピール性にも力を注いでいる。微細な濃淡が表現できるグラビア印刷を利用して、きれいな印刷を行う。アイキャッチ性が高まることから、ベトナムにおいてもマット印刷が増えているそうだ。
「弊社のベトナムの商品にもマット印刷をしています。マット感の維持や輸送時などに傷が付かないように、スクラッチ性や密着性を良くする工夫もしています。通常よりコストは高くなりますが、それでも高付加価値を望むお客様からのご要望です」
素材や形状で高級感を演出
環境対応は2つの方向性
コストを上げてもパッケージをアップグレードするベトナム企業はまだ少数派だが、2012年の操業時に比べると品質と機能の両面で要求が高まっており、問合せ件数も増えているそうだ。
例えばカシューナッツ。ベトナムのカシューナッツ生産量は世界トップで、輸出の目玉でもある。ブランド価値を高める目的と、輸出相手の要望や輸出国の品質基準に応える意味でも、パッケージに高い品質を求めている。
「輸出品やプレミアム商品などは高級感を持たせるため、パッケージをアップグレードし、差別化を図りたいとのご希望が多いですね。バリア性に関してはクリアしていないと採用されませんから、最低条件です」
フィルムの材質だけでなく、パッケージの形状も重視される。例えば、同社の国内コーヒー豆のパッケージは、自立性に優れるフラットボトムと呼ばれる形状だ。同じく自立性のあるスタンドパウチとは異なり、サイドにガゼット(マチ)があるので内容量を増やせる。また、印刷面はスタンドパウチが3面のところフラットボトムでは5面となり、よりこだわった印刷デザインが可能だ。
「ベトナムコーヒー業界のトレンドです。価格はスタンドパウチよりも高いのですが、日本より普及するスピードが速いと感じます」
ベトナムというよりパッケージ業界での一番のトピックは、環境対応型と語る。一般的にパッケージのフィルムは複数の異なる素材を貼り合わせているため、リサイクルが難しい。欧米諸国はリサイクルのために単一素材を使う方向にあり、日本は素材をバイオマス原料や生分解性プラスチックに変えて二酸化炭素を減らす方向にあるという。同社ではリサイクル可能な単一素材の開発を終え、ヨーロッパと北米に既に輸出を始めた。
「フィルムの使用枚数や折込み回数が多く、複雑な形状であるフラットボトム形状での開発を進めてきました。現在、内容量4kgまでは落下試験を含めて問題なく製品化できました。バリア性を持たせることも可能となります」
一部企業で高まる環境意識
購入を左右するパッケージ
ベトナムにはまだリサイクル化のシステムがなく、2030年までにプラスチック製包装材をすべて再生利用可能なものとする欧州連合(EU)とは事情が異なる。しかし、環境対応への問合せも増えており、リサイクルか二酸化炭素削減かは別にして、業界を問わず「サスティナブル」を考えているようだ。
大手企業や輸出企業が顕著であり、世界的なトレンドに乗り遅れたくない、マーケテイングとして利用したい思いもありそうだ。それ以外に品質面での相談もある。
「弊社が世界市場を基準にしているので、期待されているのだと思います。これからのベトナム企業はグローバル企業が競合になり、パッケージへの要求も先進国並みに向上するでしょう。また、収入の増加で消費者の高級志向が高まると、チープなパッケージの商品は手に取られにくくなるのではないでしょうか」
リサイクル包材用の新素材は従来品と同様の加工適正がないため、同社では環境対応型のパッケージを機能性、生産性、価格において改善していく予定だ。また、危険物にもなりうる商品は子どもに開封しにくくする、チャイルドレジスタンス包装も考えている。日本や北米では普及し出したが、子どもを大切にするベトナムでニーズを先取りしたい考えだ。
輸出はもちろん、今後も国内市場の開拓を続ける。
計量機から包装機、検査機へ
1000台以上をベトナムに納入
1893年(明治26年)創業のイシダは大手計量機メーカー。創業当時の天秤ばかりから自動計量機へと進め、1973年に世界初の組み合わせ計量機を開発した。複数のはかりを搭載してそれぞれに乗せた重量を計算し、定量に対して最適な組合せを瞬時に出して、判断したはかりの商品を落下させるマシンである。
きっかけは農協(当時)からの依頼。1袋に4~5個入ったピーマンの袋詰めは当時手作業だった。総重量は100gなどと決まっているため、一つ一つをはかりに乗せてその和が100gとなるよう人が選んでいた。その自動化を依頼されて完成させたのが組み合わせ計量機であり、同社はグローバル企業への道を進む。現在、自動計量機の日本シェアはトップという。
その後、計量の後工程となる自動包装機、商品の異物を調べる異物検査装置も開発。対象とする商品は約9割が食品や食品加工品で、工業製品や医薬品へと分野を広げ、工場のライン構築のアドバイスも行っている。
日系企業や外資系企業の食品工場が増えるベトナムへの進出を決め、2010年に駐在員事務所、2012年に現地法人を設立。現在では計量機、包装機、異物検査装置などを累計1000台以上納入している。
「私が赴任した2016年当時、お客様のおよそ7割が外資系企業、残りがベトナム企業でしたが、現在はベトナム企業が増えて半々です。外資系企業の約半分が日系企業です」
イシダは日本、韓国、中国、イギリス、ブラジルに生産工場を持ち、もうすぐインドにも完成。アジア諸国は通常、日本や中国生産の設備だが、ベトナムはほぼ日本から。ベトナム人が日本製を好むことも理由だそうだ。
多様なパッケージと包装機
少しずつ始まる環境対応
イシダの包装機は「縦型ピロー包装機」が主体だ。計量機から落下する食品を袋詰めするタイプで、ポテトチップスなどのスナック類によく使われる。一方、例えばインスタントラーメンの袋麺ではラインの構成上、横ピロー包装機が使われる。
ナッツ類などの袋詰めに使われるのは「給袋包装機」だ。消費者の目を引くデザイン性を重視したスタンドパウチタイプの容器を使い、ジッパーを搭載することで、長期間鮮度を保つ包装品を生産できるのが特徴だ。
「最近ではスタンドパウチ型のパッケージが増えてきました。日本では一般的ですが、ベトナムでもスーパーマーケットやコンビニでの購買が増えており、スナック・菓子メーカー様の商品の差別化が要因と考えられます」
ベトナムではまだ目にすることが少ない包装形態が「トレー包装」。底の深いトレー容器にサラダなどの生鮮食品を入れ、窒素ガス・酸素を容器内に充填し、容器上面をトップシールする。これでガス置換包装や真空密着包装が可能となる。細菌の増殖を抑えて、品質保持期間の延長に効果があるため、近年では欧米諸国での展開が顕著である。
「弊社では主流のプラスチック包装材と、環境負荷が低い紙材の両方に対応した、縦型ピロー包装機の開発を進めています。マイクロプラスチックによる海洋汚染の深刻化を踏まえ、身近な包装材を紙に変更できるようにして、脱プラスチックを後押ししたいと考えています」
高速自動機に設備投資
経済成長に合わせて進化
自動包装機の引き合いと導入実績は年々増えており、最近のトレンドは高速化。ベトナムはタイやマレーシアなどに比べても人件費が安いため、手作業での包装が未だ見受けられる。しかし、人件費の上昇と生産規模の拡大、ラインの効率化や衛生面や安全性などの向上を目的に、ベトナム企業でもラインの自動化・省人化と同時に、高速化の需要も増加している、設備投資が活発になり始めたようだ。
イシダの包装機ビジネスにおける今後の課題として、川添氏は価格面を挙げる。日本製の良さはやはり性能で、生産キャパシティの向上と同時に不良率を低く抑えられる。特に食品では安全性や衛生面も重要視されるため、消費者へ安心を届けることが絶対だ。しかし、中国製などに比べると高額だ。
「中国を筆頭に、競合包装機メーカーの進出と技術力の向上が目立ってきています。『安かろう悪かろう』というイメージが『安くても問題なく使える』に変わりつつあると感じます。100%日本製のビジネスから、中国製やインド製の製品提案も視野に入れ、幅広い対応ができる体制作りが重要です」
自動包装機ではないが、ベトナムの食品市場で近年注目されているのが異物検査装置だ。菓子類だけでなく生鮮食品や食肉・水産加工品向けもあり、ベトナムからの輸出が顕著に伸びているのも理由だ。
「特に出荷前には金属検出機やX線検査装置を使用しての異物検査が必須となってきており、導入台数も激増しています」
今後はイシダが得意とする計量と包装の分野と併せることで、計量、包装、検査の一貫したライン提案が求められるかもしれない。
「完成した商品の『美しさ』も大切な商品の品質の一部です。計量機で正確に自動計量された商品を、縦型ピロー包装機で美しく包装します。金属検出機やX線検査装置で異物混入を防ぎます。自動化が実現できれば、最低限の人員で高品質な商品を安定供給する体制が整うと考えております。今後はベトナム企業への顧客割合を7割程度までに増やして、安全・安心で豊かなベトナム社会の創造と経済の発展に貢献していきたいです」