ベトナムでは、スーパーマーケットやショッピングモール、電子商取引(EC)の普及により、伝統市場の来客数減少が続いている。こうした状況を受け、各地の市場では施設の改修や販促活動に加え、観光資源としての価値向上やデジタル化を進め、新たな集客モデルの構築を模索している。
創業100周年を機に販促強化
ホーチミン市のタンディン市場では、創業100周年を記念した消費刺激キャンペーンの一環として、7月20日から27日にかけて全店舗で5〜10%の値引きを実施した。各店舗にはベトナム語と英語で割引案内が掲示され、国内外の来訪者へのアピールを強化した。
20年以上にわたり布地を販売する商人によると、市場の改修工事や100周年記念イベントの効果により、以前より客足は回復傾向にあるという。特にマレーシア、インド、日本からの旅行者が増えており、日本人客は品質や商品選びに時間をかける傾向があるため、仕立て職人を紹介し、短期間で縫製・配送まで行うサービスも提供している。
観光資源として注目高まる
タンディン市場は建築芸術遺産として認定されたこともあり、観光地としての認知度が上昇している。ホーチミン市中心部のベンタイン市場から「より手頃な価格で買い物ができる市場」として紹介されるケースも増え、日本人旅行者向けガイドブックにも掲載されるようになったという。
一方で、商人らは来客数の回復が売上の安定には直結していないと話す。売上が期待を上回る日もある一方で、数十万ドン程度しか売れない日も少なくない。市場関係者からは、継続的な販促イベントや新たな企画を実施し、リピーターを増やすことが重要との声が上がっている。
また、市場内の通路が狭く混雑時の移動が不便であることも課題として挙げられているが、観光客への情報発信を強化することで今後さらなる集客が期待できるとの見方を示している。
「誠実な商売」が市場の強み
タンディン市場管理委員会によると、今回のキャンペーンには全商店が参加し、割引販売を実施したほか、期間中は商人がアオザイや南部伝統衣装「アオババ」を着用し、市場ならではの雰囲気づくりにも取り組んだ。
市場では価格表示を徹底しており、誠実な商売や親しみやすい接客が長年にわたり市場のブランド価値を支えてきたとしている。
政府も市場改革を後押し
こうした動きはタンディン市場に限らない。ベンタイン市場やアンドン市場など主要な伝統市場でも施設改修やサービス拡充、観光との連携が進められている。
背景には、商工省が意見募集を進めている新たな市場管理政令案がある。政府は伝統市場が現在も国内流通量の約35〜40%を担う重要な流通チャネルであると位置付ける一方、スーパーやショッピングモール、ECの拡大により競争環境が厳しくなっていると分析している。
さらに、多くの市場が小規模で旧来型の営業形態にとどまり、施設の老朽化や投資不足、不適切な市場配置、違法な路上市場の存在なども課題として指摘している。
デジタル化と「市場の物語」が鍵
新政令案では、市場のデジタル化や近代化、運営の専門化を推進する方針を打ち出している。市場を単なる商取引の場ではなく、文化や観光の拠点として位置付けるほか、国境地域や山岳地帯、少数民族地域などでは国の予算を活用した市場整備も進める考えだ。
専門家は、伝統市場がECと正面から価格競争を行うのではなく、「市場でしか味わえない体験」を提供することが重要だと指摘する。
具体的には、生鮮食品や地域特産品、対面販売ならではの接客に加え、オンライン販売を組み合わせたハイブリッド型への転換を提案している。
さらに、タンディン市場(100年)、ベンタイン市場(110年以上)、ハノイのドンスアン市場(約140年)など、長い歴史を持つ市場には、それぞれの歴史や文化を観光客へ伝える「物語」が必要だと強調している。
市場の歴史そのものを観光資源として活用することで、ECでは代替できない価値を創出し、伝統市場の持続的な発展につなげられるとの見方を示した。



















