看板も出さずに42年間も営業しているタムさんのフォー屋には、フォーを食べるために番号札を求める行列が今も続いている。
ハノイ市ドンダー区ホアンカウ湖沿いのマイアイントゥアン通り52番にあるチャン・ティ・タムさん(67歳)のフォー屋には、午前6時半ごろから行列ができはじめ、午前7頃にピークを迎える。行列は8人ずつ並び、数人が番号札を受け取ると次の人たちが列に入る。
タムさんは元々料理が大好きで料理学校に通ったこともある。1981年にタムさんはホアンキエム区のハンノン通り78番に店をオープンすることを決め、その後今の場所に移った。タムさんはこれまで42年間にわたってフォーを売ってきた。番号をもらう順番待ちの行列は、混乱を避け、順番通りに提供してお客さんにフォーを楽しんでもらうためにタムさんが考え出したシステムだ。
店の近くに住む常連客のグエン・バン・ダットさんは、毎朝出来るここの行列は、配給時代を思い出させると話してくれた。
目立った看板もないタムさんの店には、フォーの麺を入れたかごと牛肉を入れたガラスケース、ネギときれいに洗ってある丼が置かれているだけだ。スープは別の場所に置かれている。タムさんは牛骨を14時間煮込み、シナモン、八角、生姜、玉ねぎを加えて香りを出す。調理台は店の前に置かれている。この店にはタムさんの他に10人の従業員がおり、番号を記録したり、フォーの麺、スープ、牛肉を入れたり後片付けをしたりする。
タムさんのフォー屋の営業時間は午前6時から午前9時までの3時間で、スープがなくなり次第閉店する。客は店の向かい側の歩道に並び、スタッフがマッチ箱ほどの大きさの薄いアルミ板に番号が書かれたものを渡す。客は、お金を前払いして番号札を受け取り、テーブルに座ってフォーが出てくるのを待つ。
タムさんのフォー屋では、客用スペースが2か所ある。タムさんが座るカウンターの近くには、家の中に向かって5つのプラスチックテーブルが並べられている。家の中には30㎡程度の部屋が2つあり、1部屋は扇風機が、もう1部屋はクーラーが設置されている。もう一つの客用スペースはタムさんのカウンターから5mほど離れたところにある30㎡ほどの場所で、同時に25~30人が食事をとれる。
午前6時半から8時まで来客が多かったのでタムさんはほとんど手を休める暇がなかった。タムさんの近くには2人の従業員が立っており、一人がフォーの麺を準備して、もう一人がスープを注ぐ。フォーの麺は、提供する前に湯通し、タムさんが薄切りにした牛肉とねぎをのせ、みじん切りにしたコリアンダーを入れてからスタッフに渡し、スタッフがスープを注ぐと別のスタッフが客のところまで運んでいく。このようなやり方のお蔭で客は長時間待つ必要がなくなり、どんなに混雑していても約10分で出来立てのフォーが届く。
この店のメニューは一般的な牛肉のフォーで、価格は一杯4万から6万VNDだ。
ハノイの秋は早朝は冷え込むので、多くの人が朝食に牛肉のフォーを選ぶ。ほかの店のフォーと同様タムさんの店のフォーにも薄切りの牛肉がのせられ、牛肉の赤とネギとコリアンダーの緑がスープに浮き立つ。その下には、柔らかく滑らかなフォーの白い麺が控えている。
店に来た客に話を聞くと、タムさんのフォーはスープに甘みとコクがあると好評だ。牛肉のスライスも薄すぎず、口に入れると肉の噛み応えがしっかりとある。店の左側ではスタッフが座って新鮮な牛肉をスライスしているのが見え、牛肉の品質が良いことが分かる。
タムさんは、客が自分の好みに合わせて味付けできるようにフォーのスープを他の店より薄くしている。テーブルの上には、ニョクマム、レモン、ニンニクの酢漬け、チリソース、スライスした唐辛子が置かれている。タムさんの店では、牛肉にこだわっている。「牛肉の価格が高くて利益は少ないですが、よい牛肉をお客さんに提供したいと思ってやっています」とタムさんは話す。ただし、タムさんはこの店で1日何杯のフォーが売れているかについては、教えてくれなかった。
タムさんは、味はもちろん、食の安全と衛生を守ることが最も重要だと話す。「美味しくても安全でなければ意味がありません。うちのフォーは何も特別な点はありませんが、家族に提供するのと同じくらい丁寧に作ってます」とタムさんは話してくれた。
マイアイントゥアン通りに住むダン・バン・チョンさんは、「行列に並ばなければいけないのは少し不便ですが、もう慣れました。料理の提供は速くて座って5~10分もすれば出てきます」と話す。チョンさんは、タムさんの店の牛肉のフォーは、特別な味がするわけではないが、タムさんが丁寧に作ってくれて、スタッフの対応も良いので、よくこの店に来ると話す。
チョンさんのような常連客以外にも行列を見かけて試しに入ってくるお客さんもいるが、数はそれほど多くないとスタッフは言う。この店はSNSで宣伝もしていないので旅行客は少なく、殆どがこの店の近くで働いたり住んでいる人たちだ。
ホアンカウ湖沿いの細い道の中にあるので、朝は交通量が多く店の前の道路を渡るのには苦労する。朝の通勤時間の3時間だけしか営業していないので、営業中はいつも混んでいる。番号札を受け取ったら客は、指定されたテーブルに座ってスタッフから番号が呼ばれるのを待つ。
番号札を求めて列に並び前払いするという形式のため、タムさんのフォー屋は、配給時代のような雰囲気がある。恐らくそれがこの店が昔の苦しかった時代を懐かしむ中年客たちを惹きつけている理由だろう。
出典:25/08/2023 VNEXPRESS
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