ハノイの国営企業で働くトゥー・ハンさんは、毎年3月8日には女性社員たちがアオザイを着て記念写真を撮り、50万ドンの入った封筒を受け取って、パーティーがおこなわれるが、あまりうれしいと感じたことがない。
「それは表面上の男女平等に過ぎません」とトゥー・ハンさん(33歳)は、話す。
トゥー・ハンさんは、政府機関や国営企業の中には依然として多くの男女不平等が存在していると指摘する。一番わかりやすいのは3月8日のパーティーの準備で、何処で何を食べるかや後片付けは女性に任せられている。ハンさんの部署には男性が10人、女性が2人いるが、毎年3月8日が来るといつもより余計に疲れる。
名前もないような雑用がトゥーさんと女性同僚に与えられる。毎日、二人は12人分のお茶の世話をしたり、様々な会議の議事録をとったりしなければならない。「オフィスに来ても、自宅と同じような雑用ばかり押し付けられます」とハンさんは話す。「このような仕事は時間をとられますが給与も支払われず、高い評価も受けません」
2年前、ハンさんは、もっと仕事を学びたいとして上司に総務部門からプロジェクトチームへ移動したいと願い出た。「でも、上司は夫や子供の面倒を見る時間が必要との理由で、総務部を続けるように勧めてきました」とハンさんは話す。
ハノイ市ハドン区にあるビック・ゴックさんのアパートの同じ階の住人たちは予定通り3月8日のパーティーを開催することにした。これは夫たちが母親と妻を祝福する会だ。「パーティーはお互いの家族の結びつきをより強くするでしょう。でも、一方では女たちは少し食事をし、男たちは大いに飲むという機会でもあるんです」とゴックさん(43歳)は話す。
ゴックさんが奇妙に感じるのは、普段は”ほうきにも触らない”男たちが3月8日になると急にはしゃぎだすことだ。例えば同じフロアの40歳以上で3歳と5か月の2人の子供がいる男性は、普段の家事や育児は全て妻と妻の両親に任せている。しかし、3月8日のパーティーになると毎回のこの男性は立ち上がって「お金の管理が上手く、子育てや家事も素晴らしい」と女性たちに感謝を述べ、3月8日と10月20日だけは進んで皿洗いをする。
「彼は年に2回だけ皿を洗い、それを平等だと思ってるみたいです」とゴックさんは話す。
ベトナムには男女平等に関する法律や政策があり、周辺諸国と比べても大きな進歩を遂げている。世界経済フォーラムが公表した2023年の世界男女格差報告書では、ベトナムの男女平等指数ランキングは146ヶ国中72位で前年から11ランクもアップした。
しかし、男女不平等の構造は一見してわからないほど根深く、グローバル化が進むにつれて職場での男女差別はますます複雑化しているため、男女平等への道のりはまだほど遠いと言わざるを得ない。
2023年にECEUが160社のベトナムに所在する企業に対して実施した調査では、ジェンダー全般、特に職場におけるジェンダーの知識が以前として不足していることが明らかになった。3月8日の国際女性の日、10月20日のベトナム女性の日などの活動は、商業化されている。
「国際女性の日に花を贈ったり、美容院に行くために休暇を与えたり、料理コンテストやフラワーアレンジメントコンテストを企画したりすることは、潜在的に女性の責任を固定観念化している顕れともいえます」と調査メンバーのレ・クアン・ビン氏は指摘する。
職場では、依然として女性がお茶くみや郵送手配などの業務を負担させられ、キャリアのための時間とエネルギーを消費させられている。多くの場合女性は、総務部門、人事部門、サービス部門に配属される。家庭での女性の負担が長年にわたり議論されてきたが、未だにほとんど何も変わっていない。
社会発展研究所(ISDS)のクアット・トゥー・ホン所長も同様の意見で、多くの政府機関や企業では男女平等が形骸化しており、主に3月8日と10月20日のイベントに集中している。「女性は常に美しくありながら家事を上手くこなし、夫と子供達を幸せにすることが求められています」とホン所長は話し、これを微妙な男女不平等または、実質的な男女不平等と呼んでいる。
ホン所長は以前、「頻繁にトイレに行く」という理由で給与が差し引かれた女性労働者の話を聞いたことがある。実際には、その女性は生理の出血が多く、生理用ナプキンの交換のために頻繁にトイレに行く必要があったのだ。
ホン所長は、これは多くの雇用主のジェンダーに対する無知を示すものだと考えている。雇用主は、女性の生理学的特性を理解して、女性労働者にとって適切な労働環境を作り出そうとする意思がないのだ。
ECUEの調査によれば、経営者は男女平等について正しく理解できておらず、依然として多くの無意識のジェンダーバイアスを抱えているので、男女不平等の固定概念が深まり続けている。多くの企業経営者は、採用条件に男女の性別を記載しておらず、昇進においても男女差を区別していないとして、自分たちの会社は男女平等を実現していると考えている。
「このような考えは、女性の生理学的特性や介護負担が考慮されておらず形式的な男女平等に過ぎません。このような現実が、女性が職場で男性と公平な競争の場を持つことを妨げているのです」とビン氏は話す。
人材採用の専門家であるグエン・フーン・マイ氏によれば、ベトナムの採用傾向は年々グローバル化しているが、依然として潜在的な不平等が存在している。
「多くの経営者は産休への懸念から女性の雇用を躊躇しており、IT、石油、製造、建設などの業界は女性よりも男性が適していると考えています。その結果、多くの経営者は最初から応募者のCVを無意識に選別するか、意識的にスクリーニングして採用をおこなっているのです」とマイ氏は話す。
専門家たちは、真の男女平等を実現するためには労働者と企業が、男性が出来る仕事は何で、女性が出来る仕事は何かではなく、女性の家庭での労働量と女性の生理学的特性を踏まえた上で、女性が最もパフォーマンスを発揮できるための条件を整えて、女性に対する業務を割当て報酬を支払う必要があると強調する。
「女性は職場で働くことに加えて家族、子供、年老いた両親に対しても大きな責任を負っています。これは社会に対する女性の責任でもあり、女性の労働に含めるべきです」とホンさんは話す。
専門家によれば当初から根強く残っている一番の問題は、女性の労働時間が男性の労働時間よりも長いという点だ。国際労働機関による2021年のベトナムのジェンダーと労働市場に関する調査では、女性の週平均労働時間が59時間なのに対して男性は50時間で、そのうち家事労働時間だけを見ると女性は男性の2倍以上という結果だった。
第二に女性のリーダーシップ能力に対する固定観念も依然として非常に根深いものがある。多くの人は未だに男性の方が決断力と才能があり、長期的な視野に立てると考えている。一方で、女性は感情的で目先の仕事にとらわれ家族を優先すると考えられており、プレッシャーのかかる仕事には向かないとされている。実際、現在でも教育機関、医療機関、履物製造、縫製業などの分野では労働力の70%以上を女性が占めている一方で、女性幹部の割合は約20%に過ぎない。
第三に家族と子供の世話をするのが女性の”当然の義務”であり、”天職”だと考え、女性の役割を強調する風潮がある。このような概念は、男性にも女性にも女性に適した仕事は家族の世話をすることであり、他の誰も変わりは出来ないと信じ込ませている。
「これらの3つの点は、伝統的な考え方が女性をいかに不利な立場に追いやっているかを示しています。女性は、耳障りの良い話に耳を傾けるのではなく、より強く自信をもって自らの権利を強く主張することが求められるのです」とホン所長は話す。
出典:2024/03/08 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載