【観光】外国人客は過去最多でも、観光企業は“空振り”続く

ベトナムの観光産業は、2025年1月から11月までに 外国人客が1,900万人超と新たな記録を樹立した。
しかし、訪問者数が増加する一方で、観光企業は依然として収益難に直面しており、大衆的な旅行商品では需要に応えきれず、個人旅行の台頭が打撃となっている。

外国人客は「個人旅行」を選好

Kiwi Travelのファム・クイ・フイ社長によれば、近年、団体旅行、とりわけMICE（会議・報奨・展示会を伴う旅行）市場が明らかに縮小しているという。
MICEは大規模イベント開催や高級ホテル、クルーズなど高付加価値のサービス利用を通じ、観光業全体に大きな収益をもたらす重要な市場であった。

「以前は100〜200人規模のMICE団体が多数あったが、今は100人規模の団体を獲得できれば“相当いい方”というレベルであり、非常に稀である」とフイ氏は述べる。

これと対照的に、ベトナムを訪れる 個人旅行（FIT）志向の外国人観光客が急増している。
この層は、旅行会社のサービスをほとんど利用しない傾向がある。

• 便利になったビザ政策
• Traveloka、Agoda、Booking.comなど外国系プラットフォームを通じた航空券・ホテルの自己手配
• 独自の旅程づくり

これらを背景に、旅行会社のツアーを利用しない旅行が一般化している。

フイ氏は「外国人客数は増えているが、業界全体が潤っているわけではない。特に“バックパッカー化”“個人旅行化”の流れにより、収益に影響を受ける企業が少なくない」と述べる。

“定番ツアー離れ”が収益悪化を招く

Golden Smile Travelのトニー・フン・チャン氏によると、多くの外国人客が「新鮮味に欠ける」「行程が固定的」として従来型ツアーを敬遠し、自主手配の自由度を選ぶ傾向が強まっているという。
経済環境の不透明感も重なり、観光客はより慎重に出費し、小さな値上げ（1〜2ドル）でも予約が流れる事態が発生している。

企業がコスト削減に取り組んでも、値下げ競争の圧力は増すばかりであり、極端な低価格競争はサービス品質低下や、目的地としてのブランド価値を損なうリスクがあると懸念が示されている。

変化への対応：自由度の高い商品開発へ

BenThanh Tourist個人旅行センターのティ・クオック・ズイ所長は、SNSやデジタルプラットフォームの普及により、情報収集と旅行計画が容易になったことで「個人旅行の急拡大はもはや不可逆」と指摘する。

そのため企業は、以下のような柔軟な商品開発を進めている。

● Free & Easy、柔軟商品への転換

• 個人旅行者向けに航空券＋ホテルのシンプルなパッケージを拡充
• 従来型ツアーも併存させ、選択肢を広げる

ズイ氏によれば、BenThanh Touristはインバウンド市場への注力により、ホーチミン市への外国人客が前年比で100％以上増加し、収益と利益もそれに応じて伸びたという。
欧州、インド、中国語圏など新市場にも進出し、欧州周遊ツアーも展開している。

“体験型”が鍵：ローカル文化と季節商品が人気

今年の成長を牽引したのは次の2点である。

① 差別化されたローカル体験の強化

• ホイアンのチャークエ村での農作業体験
• ホイアンの郷土料理づくり
• 北部山岳地帯でのホームステイ体験
  など、「本物の体験」を求める外国人客に応える商品開発が進んでいる。

② 季節性を活かしたテーマツアー

• 北西部の花鑑賞ツアー
• 中部のビーチリゾート
• 秋の自然景観ルート
  など、多様な季節商品も投入されている。

一方で、航空会社・ホテル・現地運送業者との連携強化、早期のツアー計画により、価格と品質の安定化にも努めている。

旅行会社の生き残り戦略：少人数・柔軟性・連携強化

旅行企業各社は、個人旅行と小規模ツアーの台頭を踏まえ、以下のような対応を進めている。

• 1〜2人の超少人数にも対応
• 参加者1人でも出発する “シェアツアー” の導入
• オンライン旅行プラットフォームとの連携強化
• 現地サプライヤーとの協業拡大
• 予算や好みに応じてカスタマイズできる柔軟商品へ移行

トニー氏は「全てを含んだ“固定型ツアー”から、予算とニーズに合わせて選べる“柔軟ツアー”へのシフトが主流になっている」と述べている。