景気が減退して倒産やリストラも多かった2023年、GDP成長率は5.05%と前年より約3%低下した。この状況でベトナム人の労働環境はどう変わったのか。関連する各種データから実態が浮かび上がった。
就業状況
リストラは続いたが希望は見える
2023年のベトナムの就業はどうだったのか。Navigos Groupが全国の企業555社と労働者4000人を調査した「Salary and Labor Market Report 2024」によれば、人員を削減した企業は56%だった。業種別では衣料、履物、証券、金融などで20~50%が解雇され、建設、不動産、コンサルティングサービスは50~75%に達した。
労働者への調査では、約70%が就業を維持できたが、約20%が失業し、そのうち6.5%は再就職できたものの11%以上が求職中。今後も厳しい状況が続くと考える労働者は多く、55%は言語スキルと分析スキルを高めると回答した。
労働者が最も重視するのは給与だ。新しい仕事を探す際の最優先事項として80%以上が給与を挙げ、退職の決断に最も影響を与える要素も70%が給与と答えた。ただ、35%以上は退職の理由に「ワークライフバランスが取れないこと」を挙げている。
環境の改善を予感させるデータもある。企業の59%が今後1年間で従業員を25%増員すると回答し、企業の15%が25~50%、1%以上が50~75%以上の増員と答えた。
一方、ベトナム統計総局(GSO)によると、2023年の労働力人口の失業率は前年とほぼ変わらず2.28%。都市部が2.73%、農村部が2%。15~24歳の失業率は7.63%で、都市部が9.91%と高く、農村部は6.46%だった。
ホーチミン市人材需要予測・労働市場情報センター(FALMI)によれば、ホーチミン市の3万2300人以上の求職者のうち77%が大学の学位を取得しており、高学歴者でも就職が難しい状況だ。雇用の回復には時間がかかりそうだ。
平均月収
調査内容で異なり、収入格差も
GSOによれば、2023年の労働者の平均月給は710万VND。男性は810万VNDで女性は600万VND、都市部は870万VNDで農村部は620万VNDと差が開いている。
2023年第3四半期の平均月給も710VNDだった。地域別では前年比で9.7%増加したハノイがトップで990VND、2位がホーチミン市で同0.6%増の930VND、3位がドンナイ省で同1.8%増の870万VND。
ちなみに、2024年7月から実施予定の最低賃金は、第1地域(ハノイ市やホーチミン市など)が496万VND、第2地域(ダナンやカントーなど)で441万VND、第3地域(ハナム省やロンアン省など)で386万VND、その他の第4地域は345万VNDとなった。
別の調査結果もある。GSOが全国約4万7000世帯を対象とした国民生活水準調査によると、2022年の全国平均収入は月額467VNDで、都市部は595VND、農村部は385VNDと上記の平均月給よりかなり少ない。
地域別ではビンズン省がトップで808万VND、2位がハノイで642万VND、3位がホーチミン市で639万VND、4位がドンナイ省で635VND、5位がハイフォンで590VNDと大都市が並んだ。
また、最も所得の高い上位20%のグループの平均月収は1023万VNDで、所得の低い下位20%のグループの7.6倍だった。一方、平均的な1ヶ月の支出額は280万VND。高所得者層の支出は平均410万VND、低所得者層は130万VNDと、ここでも3.2倍の差がある。
ただ、収入は増えている。2023年の平均月給710万VNDは前年比6.9%増、2022年の世帯の平均月収467万VNDは2020年比(2021年は未調査)で11.1%増。最低賃金の平均増加率である6%を上回っていることが安心材料だ。
労働生産性
生産性が低い?これから巻き返す!
GSOが2023年に発表した2011~2020年のベトナム労働生産性報告書によると、労働者1人当たりの平均国内総生産(GDP)に基づく2020年の労働生産性は1億5010万VND(約88万円)で、2011~2020年の年平均成長率は5.3%となった。
この成長率はASEAN平均より高いのだが、購買力平価(PPP)ベースのGDPで比較するとベトナムの労働生産性は約1万8400USD(約260万円)で、他国よりもかなり低い。シンガポールの11.3%、韓国の23%、日本の24.4%、マレーシアの33.1%、タイの59.1%、中国の60.3%。数値が近い国でもインドネシアの77%、フィリピンの86.5%だ。
国際労働機関(ILO)のデータでも、2019年のベトナムの労働生産性はシンガポールの8.7%、ブルネイの10.3%、マレーシアの23.2%、タイの41.2%、インドネシアの56.6%、フィリピンの63.3%で、ASEAN10ヶ国中8位となっている。
こうした結果にベトナム政府は、国家計画として労働生産性向上を進めている。2021~2030年の年平均成長率を6.5%以上、成長率でASEAN上位3ヶ国入りを目指し、技術革新分野への就業者数の伸び率を2025年までに15%、2030年までに20%を目標とした。
その原動力として第4次産業革命(インダストリー4.0)を活用し、人材の質の向上、地域の連結強化、科学技術やデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進していく。
近年の成長率は2021年が4.6%、2022年は4.8%と伸び悩んでいるものの、製造・加工業は6.5~7%、農林水産業やサービス業は7~7.5%と高い。ベトナムの取組みはこの先も続く。
人気企業
外資系企業で働きたいなら…
地場大手人材コンサル会社のAnphabeと市場調査会社のIntageは共同で、「2023年にベトナムで最も働きやすい場所」を発表した。今回で10年目となる。
1位は常に上位にランクインするNestle Vietnamで、持続可能な発展と継続的革新のできる企業として評価。以下ベスト10は順不同でAbbott Laboratories、Acecook Vietnam、Coca-Cola Vietnam、FPT、Pfizer (Vietnam)、SAMSUNG VINA、Suntory PepsiCo Vietnam、Vietcombank、Viettel Group。
一方、大手監査法人のKPMGはベトナムの「Customer Experience Excellence」2023年版を発表した。パーソナライズ、期待の充足、利便性、誠実性、問題解決力、親密性に基づく顧客体験からの企業評価で、1位はNike、2位はViettel Group、3位はadidas。以下、Vietcombank、Lock & Lock、Highlands Coffee、Be Group、Biti’s、Gofood、Trung Nguyen Groupと続く。
2つの調査結果を見てわかるのは、勤め先としても消費者としても外資系企業が人気であること。これらの企業で働くとして、ベトナム人の英語力はどれほどだろうか。スイスの国際的教育機関であるEF Education Firstは、「EF英語能力指数2023」を発表している。
2022年に英語能力試験EF SETに参加した成人220万人の結果を分析すると、ベトナムは800ポイント中505ポイントで、非英語圏113ヶ国・地域中で58位だった。前年から2ランクアップ。
都市別で英語力が最も高かったのはハノイの538ポイント、2位がホーチミン市で519ポイント、3位はハイフォンとニャチャンの516ポイントだった。
それでは、日本人の英語力は……457ポイントで87位。前年より7ランクダウン。ベトナムは「標準的」グループだが、日本は下から2番目の「低い」グループ。がっくり!
メンタルヘルス
職場でストレスに悩む人が4割
2023年に発表されたILOと世界保健機関(WHO)の統計によると、ベトナムの労働者の約42%が頻繁にストレスを感じており、職場のストレスの主な原因は私生活と家庭生活だと22%が回答している。特に問題はメンタルヘルスで、調査では不安とうつ病を強調した。
Anphabeの2022年の調査でも、ベトナム人労働者の42%がストレスを頻繁、または非常に頻繁に経験している。515社の従業員約5万8000人から回答を集めた。
調査では経験2~5年の従業員が45%と多く、2年未満で40%、5年以上で38%と、仕事を覚えてこれからという人ほどストレスを感じている。職位別ではマネジャーが47%、スーパーバイザーが44%、取締役は41%、一般スタッフは39%と中間管理職の割合が高い。
また、職種別で最もストレスの多い仕事は品質管理(50%)。以下、戦略管理(48%)、医師・看護師・薬剤師(47%)、販売・貿易マーケティング(46%)、顧客サポート(43%)と続く。
一方、ベトナムを評価する調査もある。投資会社のLetterOneが2019年に発表した「Global Wellness Index」では、ベトナムは世界151ヶ国中11位となった。
この健康ランキングは血圧、血糖値、肥満、うつ病、アルコール摂取、喫煙、幸福度、運動、健康寿命などに基づいており、1位のカナダを除けば、2位オマーン、3位アイスランド、4位フィリピン、5位モルディブと小国ばかり。先進国ではイギリスが15位で、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリアなどは25位以下だ。
ベトナム人は健康or不健康?